聡一の話3
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
「巫女とは、知っていたがね…っ、うっ、まさかそのような事があったとは…っ!」
「あのねえぇーー!?そんな事が出来るなら口で止めればいいでしょうに!!なぜ俺がデコピンされなきゃいけないのかなぁ!?」
戻ってきたスクレイドは俺の顔の前ギリギリで止まり、思い切り不満をぶちまける。
「だって、お前ベルの話になるとガラが悪くなるだろう…とにかく長いし」
「ひどくないかい!?」
「ス、スクレイドくんっ、うぅっ!!君がこんなに辛い思いをしていたなんてっ!さぞ苦しかっただろうに!!」
「ソウイチくん!それは過去のことかなぁ!?今の俺の扱いのことかなぁ!?君たちヤマトくんのこの暴力をどう思う!?」
うるさい。
そしていつものスクレイドだ、良かった。
「じゃあお前もやり返したらいい。ほれ来い」
「ケガ人にそんなことできるわけないでしょうに!平常時でもおたく相手に?まさかでしょ!?俺の繊細な指が折れたらどうするんだい!?ルカくん、俺の代わりにヤマトくんをなんとかしてくれないかいかなぁ!?」
「ルカは俺にそんなことしない!残念だったな…う、いてえ…限界かもしれん…」
「スクレイドくん!愛していた者に裏切られ!どれだけショックだったか…!ぐすっ、こんな事があっても頑張って…うぅっ、エルフの双子に巫女とは、運命はどこまで残酷なのかねっ!」
俺は痛みにしばらく悶え、スクレイドがギャーギャー騒ぎ、聡一は嘆きながら涙が止まらず、ルカはいつもの笑顔でにこにこしながら言った。
「時間短縮になってない」
「「「…はい」」」
全員が反省し、スクレイドは改めて話をした。
「俺も王からおかしい事聞いたんだよねぇ。二人には話したけど、王は魔王を復活させなくてはと虚ろげに呟いた」
「魔王をかね!?」
「それが白の王の魂がこの世界に居ると知ってしまった事にどう関係するのか、それは俺にもわからないけど、俺がそう聞いたのはソウイチくんが召喚を止めると聞いた少し後なんだよねぇ」
王の変化が似たような時期に起きた。
それが何を意味するのか。
「もしかして、魔王を復活させ暴れられたら、白の王が人々を救う為に自ら姿を表すことに期待している…そう考えたらどうかね?」
聡一の言葉に全員が唸った。
ありえない話ではない。
「ということは、国医殿やハナエさんがアメリアちゃんの村に長く滞在して居ることが出来たのも、その期間は召喚の必要が無かった為に自由が許されていたということですか?」
「うむ、必要ないと言われた後も時折呼び出されては召喚を行わされていたがね…それにしても」
「何か気がかりかい?」
「自分のことを誰かに話す時が来るとは、夢にも思っていなかったものだが…、今になればもっと多くを調べ知っておくべきだったと公開しているのだよ…」
聡一の様子にスクレイドはかける言葉がないようで、二人につられてルカもどうしたものかと困っている。
召喚が必要ないといいながら、まだ召喚はさせてくる?
保険のようなものなのか、意図は分からないが確実に王に何かが起きている。
「一番の重要な点は、英雄王が白の王の魂がすでにこの世界にあると知っていながら、俺に手を出してこないことだ。まだ俺だと知らない可能性もあるが、ベルには確実に特定されていてもおかしくはないのにな…」
「それの何が重要なのだね?」
聡一は不安そうに聞いた。
「スクレイド、絶対に怒るなよ?」
「…その時はデコピンを甘んじて受けるかなぁ」
デコピンを受ける覚悟まで決めてるなら、怒らない約束と保証をしてほしいのだが。
俺は再び自らの額に拳を当て、三人に記憶を見せた。
それはベルと初めて会った時から実際に話したこと、念話の内容や姿などの全てだった。
「アイツっ!!何考えてんだ!!気持ちの悪ィしゃべり方しやがって!!なにが“クロウちゃ~ん”だッ!!」
「スクレイド落ちついて、デコピンが待ってるし、話が進まない」
やはりスクレイドはヤンチャな一面を抑えきれず、拳に力を込めるとわなわなと怒りに身を震わせた。
そしてルカは慣れたもので、一応庇うように宥めた。
「と、まあ俺はさんざん奴の前で力を使った。白の王の魂を持つ者に気づいたなら、俺だとわかって力を欲するベルが動かないはずがない」
「なるほど…それではよりいっそう君は怪我を治して、万全を期す必要があるということではないのかね」
それには全員で頭を抱えしばらく沈黙が続いたが、俺はふとある事を思い出した。
「スクレイド、そのうちにこの場に呼びたい者がいる」
「誰かなぁ?」
「フィールファントだ」
ルカは意味がわからずにスクレイドを気遣いながら言った。
「ユッキーはこの空間に来れないはずじゃないのか?」
「ユキはな…、あれからフィールファントに魔力を与え少しは回復してきたんだ、そして思念だけなら監視も届かないここでは姿を表すだろう」
そう言うと、スクレイドは戸惑いながらも過去自分が守れなかった者に会えると聞き、喜びと自責の念が複雑に入り交じり言った。
「フィールファントに…会えるのかい?」
「回復が不十分ですぐにとはいかないが、いずれここに来てもらおうと思う。まだ長くは話せないが白の王を知り、ベルを一番側で見ていた者からの意見を聞きたい、そして俺の記憶にない英雄王のことも彼女から話を聞くのが一番だろう」
スクレイドは静かに頷き、聡一とルカはその様子にかけられるら言葉が見つからず、しかしどこかスクレイドの気持ちを考えて喜ばしいことだと思った。
「そういえばユキの事なのだがね、僕もユキの健康診断をした時にはまだ知らなかったのだが…」
「ユキがどうした?何か問題があるのか?」
「そうではなく、大和くんがユキを見つけたことをハナエさんに話したら、その後すぐにハナエさんが王に掛け合ってトールからという事で大和くんに渡ったらしいのだよ」
「女将さんがなぜ?」
「ユッキーに出会えたのはハナエさんのおかげだったのですか!?」
「ルカ落ち着け、いてぇ…」
聡一はその時のハナエの様子を語った。
「大和くんがあの家に一人でいるより何か気が紛れればと…もし生き物を飼うことが合わないようなら、自分で引き取るから様子を見て欲しいと言われたのだよ」
「そうだったのか…」
そういえば、いつだっかハナエは会わせたことの無いユキとの生活を聞いてきた事があった。
どこまで俺を気にかけてくれていたのか。
「…聡一、ある程度の力を使えるようにしておく、どんな些細なことでもいいから、自分と女将さんの身に危険が迫ったら迷わず俺たちを呼んでくれ、他にも三人の魔力を操作させてもう。ステータスの強化の為にプロウドを創るから少し時間をもらいたい、今日はここまでだな…」
そうしてまた聡一の額に手を当て、ルカにしたように飛行と瞬間移動と念話、そして気配を探知できるように力を分け与えた。
さらにスクレイドにも同じく気配の探知を使えるようにした。
「他にあるか?」
そう聞くと三人は顔を合わせ、ルカが代表して言った。
「オレたちは君に隠していることがある、不確かなことが多すぎてまだ話すことが出来ない、もう少し時間をくれないか?」
その真剣な様子に俺はスキルを切った。
「わかった、今はお前たちを信じる、時が来たら話してくれるんだな?」
「必ず約束するよ」
そうしてその場で肉体の目を開き、精霊の空間からフライハイトの森に戻ると、互いの立場や知ってしまった話の整理の為にガイルの宿屋に戻り、疲れ切った俺はベッドに横になって、次にしなくてはいけない事の優先順位を考えた。
術式を組み込んだプロウドを造るのはもちろんのこと、他に同時に出来ることといったら、欠けた魂の捜索の方法、ルクレマールとベルの繋がりや動向、英雄王の存在と思惑、自分の弱さにつけこもうとする自我を持つ魂たちと同調する方法。
「考えることもやることも多すぎるな…」
すると、扉の外にアメリアの気配を感じ、少しの間様子を伺っていたがその場を離れることはなかった。
そして頭に過ぎったのは、スクレイドとルカのアメリアに協力をしてもらえないか、という言葉だった。
「…アメリア、そこにいるのかな?」
「は、はい!起こしてしまいましたか!?」
気まずくなり、つい声をかけるとアメリアは驚いて大きな声で返事をした。
「ぶふっ!起きてたから大丈夫だよ」
「ヤマト様?」
その慌てぶりに思わず吹き出すと不思議そうに返ってくる声に安心する。
しかし今の俺の傷を見られる訳にはいかない。
「剣術教えるって約束したのにごめんな、ちょっと風邪みたいなのをこじらせちゃって、うつしたらいけないから会えないんだけどさ」
「ルカさんから聞きました、私は大丈夫ですから!ヤマト様が早く元気になってくださればそれで…」
「うん、ありがとう。迷惑かけてごめんな」
すると扉の向こうにはまだいるはずなのだが、アメリアからの返事はなくなりしばらくの間が空いた。
「アメリア?どうした?」
「…違います!」
「うん?」
会話になっていないのだが、気のせいかアメリアの言い方には力が入っているような…。
俺はまた何かやらかしたのだろうか、しかし理由も特定できずに謝ることは火に油を注ぐようなものだ。
「えっと、俺は何か変なこと言った?」
「はい」
え、終わりなのか?
その変なことが何か知りたいんですが。
「あの、アメリア?」
「迷惑なんて思ってません、心配していたんです」
「心配…」
「私が勝手に思っていることです、迷惑をかけたと言われるのは…悲しいです」
どういうことだ?
現に俺の勝手な行動により宿屋の部屋はルカと聡一、スクレイドまでもが借り切ってしまっている。
そのせいでガイルやレモニアにも手間をかけさせているうえに、アメリアも手伝いをしているはずだ。
ならば自分の時間もとれなかっただろう。
そしてクリフトとセリまでこの異様な状態を気にかけ、毎日のように来ていたのだから不安だったろうに。
それの何が違うというのか、迷惑以外のなにものでもないはずだが。
「でも本当に迷惑を…」
「迷惑ではなくて心配をしたんです!」
「えっ、はい…ごめんなさい」
アメリアに叱られた…。
そして反射的に謝ってしまった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。