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聡一の話2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「トールを始めとしてある程度のスキル保持者が揃った頃からは、僕が定期検診と称して細胞を操作することでその命を繋ぎ続けていたが、彼女はある日自ら死を選んだ」

「はい?」

俺は思わず気の抜けた声で聞き返した。


「彼女は他人の血肉では飽き足らず、自傷行為を行っていた、それが行き過ぎた末の死だったのだよ」

なんとも本格的に危ない人だったという初代執行人は、その後聡一や女将、アキトや俺が悩むことも知らず嘘発見スキルと執行人、そして森の家をセットにするという奇妙な風習を残して逝ったらしい。

「それで、今の体系としては聡一と女将さん、トールと真偽を見抜く者…まあ俺にはお声はかからなかった訳だが、他には誰がいる?」

「あとは、短い間だったが剛田くんがいただけさ」

「「剛田?」」

思わず声が揃い、ルカと顔を見合わせて聡一に迫った。


「なんでアイツが!?」

「召喚に関係してたんですか!?国医殿!」

「お、落ち着きたまえ、召喚した中には瞬時に理解しスキルで身を守ろうとした者も居たのだよ!?【無効化】を持っていた剛田くんがその場にいたのは当然の成り行きともいえたのだが…」

「なるほどねぇ、突然強い力を得て召喚という重要な部分に関わり、その子は自分を偉くなったと思い込んでしまっていたと」

スクレイドは呆れたようにため息をつき、可哀想にと呟いた。


「その通りだね、そして勘違いをしたままの奴はこちらに来てすぐの頃に英雄祭の実権を握ることとなり、その慢心はさらにエスカレートしていった」


奴はそれであんなに偉そうにしていたのか。

何も知らなかっただと?被害者…どの口が。

《──殺しておいて良かっただろう?》

本当にな。

剛田は己を選ばれた者だとでも思っていたのか。


「国医殿待ってください!大和ストップ!今汚物の気配しなかったか!?」

「っへぇ!?あ、いてえ…話しかけられたが…なぜわかる」

突然のルカの割り込みで話は中断し、汚物と聞いて医者は固唾を飲み、スクレイドはこちらに厳しい目を向け杖を構え、ルカは何故か俺の頭を撫でた。


「あ、大丈夫そうです。国医殿続きを」

え?本当になぜわかるんだ。

そしてルカの汚物センサーに対する二人の確固たる信頼はなんだ?

聡一と話をしていた時にもルカが気づいて来てくれなければ今頃どうなっていたかと思うと本当に助かったが。

それにしても自分でも気づかないうちにアイツらと会話をしていたとは。

改めて気を引き締めると、聡一はほっとして話を続けた。


「ま、まあともかく今は…」

「聡一、なぜあの時…市場で剛田に絡まれた時に奴はあんたに怯んだ?正体は知らないはずだろう」


その言葉に空気がピリつき、聡一はルカのセンサーを伺いながら言った。

「剛田は…一度召喚をやめさせようとしたのだよ」

「…召喚を?」

「うむ、奴の中ではこの世界で自分より優遇される者は気に入らないと、魂を探すために召喚をしている事を知らなかった為に王に直訴をしたのだ」


そうか、表向きは魔王の復活に備えて国の強化をする為の召喚ということになっていたんだったな。

「自分が居れば大丈夫だと、もしくはこれから先召喚した者は全て自分の配下につかせるようにと」

「あの下卑た奴が言いそうな事だね」

ルカは俺を見ながらため息をついた。


「それで、王は奴になんて?」

「…僕の名を出したのだよ、異世界人の環境については国医に問えと」

「ああ、その子が面倒だったんだねぇ、あの王が言いそうな事だねぇ」

今度はスクレイドがため息をついた。

「そこで奴はこう解釈したわけなのだよ、国医の勇者が異世界人の全ての権限を持つ、とね」

聡一は心底煩わしそうに額にてをやり項垂れた。

「そこで奴の矛先はアキトに向いた、僕が健吾亡き後もあの家に出入りしていたのでね」


直接的には刃向かえない聡一ではなく、聡一が気にかけていたアキトを逆恨みしてあそこまで事実無根の罵詈雑言を吐いてきたのか。

やはりアイツには同情の余地もなかったということだ。


「トールの元にいた時に奴が下品で大嫌いだったけど、オレも一度トールに自分に兵をくれたら軍として使えるようにしてみせると言った事があった…結局同族嫌悪だったってことか…はは」

突然のルカの言葉になんと返していいのかわからず、全員が変な汗を流し一度静まり返った。


「でもルカは本気でトールの役にたちたいと思ったからそう言ったんだろ?奴とは全然違…」

俺はそう言いかけて、ルカがトールを盲信していた黒歴史の地雷を全力で踏み抜いたことに気がついた。

相変わらずなんて扱いにくい。

そういうところだぞルカ。

「…あ、えっと、何の話をしていたかね?そうそう!と、まあ今は召喚に関わるのは僕の知る限りハナエさんと僕だけなのだがね!トールは逃げてしまったか…ら…」

話の筋を戻そうとした聡一は、同じくトールが逃げた事を思い出して自ら沈んだ。


「君たち、話が進まないんだけどねぇ、それでハナエちゃんと聡一くんは他に何かに関わっていたのかい?」

スクレイドはなんとかその場を立て直し、話の続きを促した。


こういう時にはやはり一人立場の違うスクレイドがいて本当に良かったと思える。


「う、うむ!スクレイドくんありがとう!そして話は遡るのだがね、ある日呼ばれてハナエさんと王の元に行くと、アーツベルという森人を名乗るエルフを紹介されたのだが」

「ベル…?ベルに会ったのか…?おい!アイツがなんだって!?」

「え、ええっ!?スクレイドくんっ、どうしたんだね!?」

スクレイドはあからさまにその名前に反応し、事情を知らない聡一は今までに見たことの無い殺気をまとうスクレイドのヤンチャな口調と雰囲気に怯えた。


ついさっき褒めたのを返せ!!


「話が進まない!聡一!スクレイドはベルを追ってるんだ!ルカはとりあえず自虐ネタやめろ!で!?ベルがどうしたって!?」

俺は自分を棚に上げて叫んだ。


「スクレイドくんがアーツベルさんを?…彼女が言うには制限された中での追いかけっこを楽しんでいるから、もし自分の名を聞いても誰にも言わず邪魔をしないようにと。だから大和くんには申し訳ないと思ったのだがね、彼女の名が出た時にどうしたものかと思ったのだが知らないフリをしたのだよ」

「ああ、それ以外にベルの話は聞いたか?」

「アーツベルさんの話はそれだけだったよ…ここからは本当に真面目な話になるがいいかね?」


聡一は真剣な面持ちで中指でメガネを上げ、身を乗り出した。


[いや制限てねぇ!王の後ろに隠れて俺に見つからないようにしてるだけだよねぇ!?それとも何かい?プロウドに自我が侵食されるまでの時間のことかい!?それともアレか!]

「スクレイド!!真面目な話だって言ってるだろ!念話で悪態をつくな!!」

「おたく!!念話の暴露はマナー違反だろ!!」


ああ、やはりスクレイドはスクレイドだった。

ダメだ、今ここには賢い変態と有能な地雷原と可哀想な医者しかいない。


「えっと、話を続けてもいいかね…?」

聡一はメガネを上げ直してから俺たちの顔を見て、それぞれが姿勢を正して頷いたのを確認してから口を開いた。

「王がおかしな事を言い出したのだよ」

「おかしな事…?それって」

俺とルカはスクレイドを見た。

スクレイドも思い当たる事があり、情報を合わせようと真剣に聞いた。


「王はなんて言ったんだい?」

「召喚はもう必要ない、そう言っていたのを聞いたのだがね」

スクレイドが聞いた魔王を復活させる、ではなく召喚が必要ない…?

「聡一くん、それはいつの話だい?」

「ルクレマールからの最後の大規模な襲撃があった頃…大和くんがあの村についた後くらいだったと記憶しているがね、それ以上は本当に僕は関わっていないからなんとも言えないのだが…」


それを聞いて、スクレイドとルカは俺を見た。

「本当に他には無いらしい、大丈夫だ」

俺のスキルにより嘘や隠し事が無いことを確認し、次はスクレイドが話を始めた。

「これは…ベルにバレている以上、白の王の魂がもうこの世界に居ることが英雄王にもバレたと思っていいねぇ」

スクレイドは自分の目を抑えた。

「ガントリィを始末したのはやはりベルだったんだねぇ」

「おそらくな、以前から接触をしてプロウドを作るところまで見せてしまったんだ、それは俺の落ち度だ」


「さっきからアーツベルさんが何かあるような、どういうことかね?」

「君になら話してもいいかなぁ…かなり昔に遡るんだけどねぇ…あたぁーーー!?」

スクレイドが自身の話をしようとした時。

俺のデコピンによりスクレイドは勢いよく吹き飛び暗闇に消えた。

「スクレイドくーーーーん!?ヤマトくん!?何をしているのかね!?ま、また汚物がでたのかね!?」

いい加減聡一までその言い方はやめてくれ。


「スクレイド大丈夫かあーー!?違います国医殿!大和は正気でスクレイドをデコピンしただけです」

「大丈夫なわけないでしょうがぁーーーーーー」

壁のない空間で遠くなっていくスクレイドの声を聞きながら、二人はスクレイドが消えていった方角に声をかけたが、遠くなっていく元気そうな声に何も見なかったことにした。


俺は自分の額に拳を当てるとそのままその手を聡一の額に当てた。

「な、何かね!?」

俺が聞いた時のスクレイドの話を視た聡一は怯えながら固まった。

そして次の瞬間。

「アーツベルさんが…双子の…弟なのかね!?」

「大和、国医殿に何をしたの?」

「時間短縮の為に俺の知る限りのベルの情報を共有しただけだ、スクレイドの話は長いからな」

ルカはなるほどと頷き、聡一は見せられた巫女としての重責にベルとの悲惨な過去、そして現在の可哀想なスクレイドに涙した。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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