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ルカの重さ

お久しぶりです。

前回投稿から1ヶ月ほど経ってしまいました。

年四回の繁忙期の波が去り、少しずつですが続きが進みました!

読んでくださる方、お待ちくださった方に感謝致します。


少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「ルカがそうしたいならかまわないが、好意を寄せてくれるなら俺は足の引っ張り合いはごめんだな」

一応はルカの様子を見ながら、俺にばかり付き合わなくてもいいといったのだが。

「昔バイタリティに溢れて各地を奔走して遠距離恋愛してた元カノに似たような事を言われたわ」

そんなん知らんがな。

ルカは爽やかで誰にも平等に見えて実は情熱的、というよりクリフトの件で確信したことだが、本気で向き合っている人間に対しては激情型でねちっこい。

ということは、だ。


「ルカくんの気持ちは嬉しいけど重い、私じゃルカくんの想いには応えられないよ」

とか言ってみる。


そしてルカを見ると、手で顔を覆って明らかにへこんでいる。

「…言われたことがあるんだな?」

「頭の中を覗いたのか!?見たのか!?」

「それも出来るけど、やるまでもなくわかる」

「出来るのか…やらないでくれよ?」

「誰がやるか」

当たり前だろう。

スキルの発動としての情報取得はそんなに時間はかからないが、俺の中ではドラマをリアルタイムに見るようなものだ。

そんな過去の恋愛だのを音声付きで鮮明にドラマのようにダラダラ見るなんて、頼まれてもごめんだ。

━━━に付き合わされてダラダラと恋愛ドラマのダメ出しを聞き続けた俺の俯瞰的な恋愛感覚をなめるなよ?

…あれ?

━━━…、誰だ?誰が俺にそんなことを言った?あの時隣にいた者が思い出せない。

「大和?」

「やっちまった、向こうの世界での記憶を取られたまま置いてきた」

「え?それは、何かを忘れたってことか!?」

俺は頭を押さえながら頷いた。


「何をどこまで忘れたのかすら忘れた」

「…他の記憶は!?」

「確かめる術がない、まあもう少し回復したらまた行って取り戻してくる」

「また危険なことばかりして君は…あ、いや…」


いや、ってなんだ?

普段のように穏やかに威圧的な有無を言わせぬ正論と過保護の合わせ技で説教が始まると思ったのだが、ルカは口ごもって何かわかりやすく悩んでいる。


黙られると逆に怖いんだが。

…ここまでの迷惑をかけすぎた俺も悪いがこの頃のこいつはなんだかおかしい気がする。

何かルカには分かりやすく明確な、忠犬が安心する指示を出す必要がありそうだな。


「今は不便はないし回復が優先だからやらないが、必要になったら俺は行くぞ?だからルカ」

「え?」

「それまでにまた治癒の術式のレベルアップ頼む」

「…うん」

なぜ今度は悲しそうな顔をする?

まさか術式がそこまで嫌なのか…俺に言われたら逆らえないのは相変わらずなのか?

少しは自分の意志を見せるようになったと思っていたのに、忠犬どころか迷犬はどうかと思うぞ。


「寝る」

「うん、君が眠ったら俺も少し出てくるよ」

「いつも悪い」

「寝かしつけなきゃ寝ないとか子供か君は」

「寝顔を見てささやかな幸せを噛み締めるような、純でねちっこい恋愛しかした事のないお前に言われたくない」

「やっぱり見たのか!?」

やはりこのノリは悪くない、頼むから笑っててくれ…。


俺が寝息を立てるとルカはすぐにスクレイドを部屋に呼び、失った記憶があることを引き継いだ。

「記憶はその場その場じゃないとわかりようがないねぇ、それで、ルカくんは何をそんなに落ち込んでいるのかなぁ?」

ルカはスクレイドに聞かれ、元気の無い声で言った。

「大和にやるべき事を考えろと言われたのに」

「うん?」

「オレは大和の力になりたいと思ってたのにまたやらかした。記憶を無くしたらそれは取り戻せるなら取り戻したいもんだよね…」

「それは俺も方法があるなら、なんとしても取り戻したいからわかるけどねぇ、それが?」

スクレイドは自らの記憶の欠如にあてはめ、俺の気持ちを理解しているようだった。


「また責めて止めようとしたんだ、そしたら治癒の術式を頼むって…」

「ええ?そんなに術式が嫌なのかい?君は飲み込みもいいのに」

やはり術式問題は指導者が原因だったらしいルカは、スクレイドにとっていい生徒だという事が判明した。


「違う、本来なら自分でやるべきことを見つけなきゃいけなかったのに…大和はオレに出来ることを教えてくれた、また気遣わせた」

そう聞いたスクレイドはなるほど、とルカの何かしらの気持ちを察したらしく、肩を叩いて後でまた術式を教えるからと励ましながらルカを部屋から出し、こちらを見た。


「で、おたくは寝たフリで盗み聞きとはどういうつもりかなぁ?」

「…ちっ、バレていたか」

そう、俺は寝てはいなかった。

ルカは騙せてもスクレイドには気づかれていたようだった。

「最近ルカの雰囲気がおかしい時があったからな、あと俺が寝てからいつもどのくらい居るのか確かめたかったのもある」

「…いつもはかなり長いねぇ」

やはり…寝顔を見ていたいタイプか。


「さっきのルカの言葉は勘違いなんだがな」

「どういうことかなぁ?」

「未だに元凶の俺に罪悪感を持ちすぎなんだ、だから全てを好意的に捉えすぎて自分を責めるんだろう、あいつはよく気もつくし落ち着いて物事を見られるのにそこが脆いところだ」

それは色々なことを知り、観察眼に長けたスクレイドにだからこそ同意を求めた言葉だったが、スクレイドもどこか沈んだ様子で黙ったままだ。


「スクレイド、お前は思わないか?」

「…何をかなぁ?」

「俺が死んだらルカはどうなると思う?軽いとは言えないが怪我をしたらあの調子だ、何が起こるかわからないこの世界で俺があいつより先に死なない保証もない」

「…そうなんだけどねぇ…うん」

相づちは打つものの、やはりスクレイドはハッキリとはしない。

こいつも最近おかしい。

何がおかしいって、やはり説教もなければふざけた様子もなく、かといって前のように会話の延長で何か助言めいたことを言ってくれる訳でもない。


「もうあいつは散々辛い目にあってきただろう、亡くした者に執着して周りに迷惑をかけるなんて…今の俺みたいにはなって欲しくない」

そこまで言うと、スクレイドは俺に近づいて布団をかけ直し、マントから新しい本を出して渡した。

「ルカくんのことは俺も見ておくから、おたくは休んでいてくれないかい」

「あ?ああ、報連相仲間としてルカのこと頼んだぞ」

「そうだねぇ」

「あ!待て」

やはり返事程度に終わらせて離れようとするスクレイドに、家に戻ったついでに取ってきた物をポケットの空間から出して渡した。


「それからスクレイド、遅くなって悪かった。これは聡一に会いに行く前に造った試作品の…何号だったか忘れたが監視を一時的に解除するものだ、効果は長くないうえに血が足りなくて回数もあまり無い、必要と判断したら使ってくれ」

「おたく…ありがたいけど…はあー…」

そこでスクレイドは結晶を受け取ると、何故かルカのように激しく落ち込み部屋を出ていった。


ルカの話を盗み聞きしたところによると、寝起きの聡一に対する八つ当たりの癇癪や大怪我で迷惑がられているわけではないようだが…。

目覚めてからの周りの対応がそろって気持ち悪すぎる。


気持ち悪いものは気持ち悪いのでもう考えるのはやめておこう。

あまりおかしかったらデコピンすれば済む話だ。

そう思って気持ちを切り替え、スクレイドに渡された読んだことのない本を開こうとした時。


《──失った記憶》

突然どうしたんだ。

お前らの記憶もラングヴァイエに持っていかれたのか?

《──失ったものを教えてやろう》

…どういう風の吹き回しだ?

なんとなくわかる、お前はアストーキンでやらかした汚物だな。

その間に乗っ取りでも考えているのか?

《──失ってはいけないものまで失ったからだ》

…なんの事だ?

《──やはり覚えていないのか》

だからそれが何かと聞いて…


その瞬間、頭に浮かんだのはあちらの世界の生活と死んだ時の記憶、そしてどうやってこの世界に来たのか。

「姉が…いた。さっき思い出せなかったのは姉ちゃんだったのか、魂がそろうと神になるのは覚えていた…が、それを教えてくれたクロウシスの事まで忘れてたなんて…なぜお前が俺に協力する!?」

余りの驚きと戸惑いに思わず声に出してしまった。

《──俺の都合だ》

お前の?

これでラングヴァイエと同調した時に失くした記憶は元通りになったというのか?

《──その認識でかまわないだろう》

どういうことか説明しろ。


あくまで答える気はないのか、その声は消え、それ以上会話は続かなかった。

どんな事情だか知りたくもないが汚物がなぜ俺に協力を?

「汚物まで気持ち悪い…なんだというんだ」


気分を変えようとスクレイドに借りた本を開くと、そこには術式の図柄に種類や考察と、今まで見た専門書のどれより細かく分かりやすいものだった。

「こんなすごい本があったのか」

しばらく読み進めていくと、分かりやすい説明、そして組み合わせた場合の効果の可能性が書かれている。

しかしその全てに違和感を覚えた。


既存のモノに関しての内容はしっかりとしているのだが、組み合わせや新しく考案されたと思しきものは推測の域を超えない。

早い話が結果が載っていないのだ。

俺では思いつかなかったかもしれない術式もある。

そして最初に術式ありきではなく、“こうしたい”“こうすることが出来ないか”といった目標を決めてからの文字は走り書きのようにページの至る所に埋め尽くされていた。

そうか、これは確かに図書館ではお目にかかれないわけだ。


この本を書いたのは、知識を持ちながら術式を試すことの出来ない人物、スクレイドの作ったものだったのだろう。

これは、読み物としてだけではなく術式に知的財産権のようなものがあるとするならば、相当価値のあるものでは無いのか?

…そして、スクレイドがこれを書いたということはベルも把握しているということか。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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