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診断

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「ラングヴァイエは白の王のことをなんでも知ってるのか?」

「私は世界と共に始まった者、全てに注して興を求める者」

「…すごく物知りで野次馬根性…知的好奇心が旺盛なことはわかった」

「そなたにも聞きたいと私は思うよ」

こいつの方から質問?俺の全てを知っているはずなのに、何を聞くことがあるというのか。


「そなたはなぜ欠けているのかと私は不思議に思う」

「それは、どういう意味だ?」

「魂を拒む理由を私は知りたいと思う」

魂を拒む?

欠けている…

「俺の白の王の記憶が足りないのは、魂が足りてないってことか!?知能ではなくてか!?」


なんだそれは?

クロウシスからは魂が揃ったから神コースという選択肢もあるという話だった、でも記憶が足りないことに加えて“欠けている”それはアイツら…俺の脳内会議でもよく聞く言葉だ。


なら俺はまだ魂が完全に融合していない?


それではラングヴァイエの言う拒むという意味は俺のどれかが、魂が融合するのを拒否しているということか?


「そなたは相変わらず私が楽しむことを言うと思うよ!そなたは不完全でも楽しいと私は思う!」

「あっ、待て!まだ聞きたい事が…」

すっかりご機嫌の治ったラングヴァイエの嵐はいっそう勢いを取り戻し、空間の全てが飲まれていった。

だが俺の心は不思議と持ち直していた。

俺が嫌がるような黒歴史の塊みたいな記憶を持った魂がどこかにある…。

それを掴めば脳内会議での“俺”の発言権も強くなるんじゃないか!?

「やってやる!!ラングヴァイエから記憶を掴んでお前ら全員黙らせてやるから待ってろよな!!はははははは!!!」


閉ざされた世界の外でルカやスクレイドがどれほど心配しているのか、記憶が曖昧で知る由もない俺は高揚感に高笑いをしながら嵐の中に飛び込んで行った。




「大和くん!ハナエさんは…!」

飛び起きた聡一は手が空を切り、自分のその手を見つめてから靄がかかったような頭で意識を辿った。

「僕は…」

「おはよう、今は君がヤマトくんに襲われてから四日目の昼だよ」

聞こえたのはベッドの隣で読んでいた本を閉じながら、ダルそうにするスクレイドの声だった。

「…君は、以前も会ったことがあったが、プレーシアの巫女であるスクレイドくんだね?」

スクレイドは眉尻をピクリと上げ、自分の立場をどこまで知っているのかと警戒した。



「さて、ヤマトくんと何があったのか話してもらいたいんだけどねぇ」

「大和くんと…」

そう言うと、聡一の顔色は真っ青になった。

「ハナエさん!!」

慌てる聡一を押さえ、スクレイドはげんなりとして言った。

「あの場でハナエちゃんの名前が出ていたからねぇ、あの子も王の許可をもらってここに連れてきているから安心するんだよ、ただあの子の身の保証は君の話次第…わかるかなぁ?ルカくんも時期に来るよ」


穏やかな口調や態度とは裏腹にスクレイドから何とも言えないプレッシャーを感じ、聡一は自身の記憶を整理してからあの日あの時、大和が来て話した事を全てそのまま話した。


「国医殿が召喚者…」

その話にショックを隠しきれず、目眩を起こしたのはルカだった。

「それは、君を慕っていたヤマトくんからしたら汚物スイッチも入るわけだねぇ」

スクレイドはルカを支えて座らせてから、納得して向かいのベッドに力なくドサリと倒れ込んだ。


聡一はルカの様子に何も言えず、またスクレイドもその関係に口を挟むことはない。

そうしてどうにもならない二人はそのままに、スクレイドは一度その場を離れ、しばらくするとハナエを連れて部屋に戻った。


「今、スクレイド様からお話はお聞きしました」

ハナエは落ち着いた様子で部屋に入り、スクレイドに勧められるまま椅子に座った。

「私のスキルのせいで長く聡一さんを縛ってきたこと、その結果望まない召喚でこの世界に来た…」

そこでルカをちらりと見てから、一度だけきつく目を瞑り首を振ってから話を続けた。


「ルカさんだけではなく、異世界人の皆様にも辛い思いをさせてしまいましわね」

「君には何一つ責任はない…」


悔しそうに呟いた医者を見つめ、ハナエはしっかりとした口調で言った。

「この身可愛さに能力を使った私に責任が無いわけはないのですよ、聡一さん今まで本当にありがとうございました」


ルカはそんなやりとりに、やり場のない感情を持て余し、昔の自分と大和に重ねていた。

復讐を望み、憎むべき相手が目の前に居るのに、その人たちは自分ではどうしようも無いほどに多くを抱えている。


そして何より自分はこの二人が好きな事を自覚している。

知らなかった頃に恩を感じていただけではなく、どこまでも表面的なものだったとしても交わした会話にかけられた言葉、心に温かさをくれた事を今更無かったことには出来ない。

そして考えたのはやはり大和の事だった。

自分より長い時間の中で築いたであろう関係性。

あの時仮眠室に割って入った時に大和から出た言葉も、今になれば憎しみではなく二人の為に殺す意志を固めていたようだった。


「さてと、皆の会話は把握しておきたいけどねぇ、俺も少し眠るから」

そこでスクレイドは窓辺に立つと指笛を鳴らし、鳥を呼び寄せた。

「代わりにこの子たちに同席してもらって後で聞こうかなぁ、おやすみ」

口を閉ざしていた異世界人三人は今度はその軽さとファンタジー感に空いた口が塞がらなかった。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「痛っ…」

満身創痍の俺が目覚めて一番に目に入ったのは見覚えのあるようなないような部屋。

不安を覚えそのまま森の家へと自分の身体を転送し、慣れたソファに仰向けに身体を沈めた。

今が何時なのかはわからないが、この家に帰ることが出来た。

このソファの擦り切れ具合、間違いなく自分が使い続けたものだった事にも安心した。


そこまでの確認をしたところで息が止まりそうな程の激痛に襲われた。

「うあっ!!」

《──骨まで…これでは俺まで動けないだろう、どこまでも愚かな》

痛みに叫べば身体が悲鳴をあげ、またその痛みに声が出て、頭に響いた声に悪態をつく気力もなく気絶した。


意識を失ってすぐに俺の居ないことに気がつき、宝石の術式で追いかけてきていたルカの速やかな報連相により再び宿屋に運びこまれることになった。


「おたくは帰巣本能でもあるのかい?こんな重症で!俺のことを放浪癖なんて二度と言わせないからねぇ?聞こえてるかい!?」

「スクレイドくん落ち着いて、回復しようとしたり痛み止めが効けば眠気も出るものなのだよ!少しは効いているという証拠なのだから、いいことじゃないかね!」


「聡一…?お前ら大丈夫か!?痛っ…」

「大丈夫かじゃないでしょうに!!」

「スクレイドくん…」

何度目かの目覚めでやっと意識がハッキリした俺は、ボロい宿屋の一室に見慣れた点滴を発見し、その先を目でたどり自分の腕に繋がっていることに驚いた。

「これ…」

その疑問を察したらしく、聡一は疲れたような顔をして答えた。

「スクレイドくんが強化と加工をしたプロウドで創った針に、ルカくんが君に渡されたプロウドで自らを強化して何とか刺したのだよ」


なんという壮大でいてこの二人にしか出来ない能力の無駄遣いをさせて迷惑をかけたのだろう。

俺の身体に刺さるモノを創り出したスクレイドもすごいのだが、頑丈さを超えて血管に正確に針を通したルカもすごすぎやしないだろうか。


「オレが元獣医学部で良かったね」

ぞわっと悪寒が走り、聡一の隣を見るとにこにことしているが、どこか殺気立ったルカがいる!

このスクレイドとルカが揃えば俺をなんとかできるということが証明された後にこの状態のルカと対面するのは怖いんだが!?

「獣医学部だったのか、じゃなくて、あ、ありがとう…?」

「分かったことがある、大和が眠る時に無防備なのはほとんどの力を防御に全振りしてたからなんだ?手首折れるかと思った。心配とか返して?」


にっこりと笑顔は浮かべているが、怒っているらしいルカはとてつもない無茶を言い、聡一に宥められ下がると、スクレイドの隣に立ったままこちらを見ている。

「そ、聡一…」

思わず助けを求めると、聡一は顔面蒼白になって叫んだ。

「ええ!?泣きそうじゃないかね!しかしこんな怯えた大和くんは見たことがないのだがね!?」

「ヤマトくんが泣くことなんてあるのかい!?」

「嘘…あの大和が!?そんなに責めたつもりは…」


泣くことがるのか?あの大和?どういう意味だ…。

そう言われ、俺を確認してから動揺した二人はすごすごと部屋を出ていった。


「聡一ごめん。もう、何から謝ったらいいのかわからないけど…」

「大和くん、【視覚投影】でここからの話をさっきの二人にも共有出来るかね?」

「えっ、うん、スクレイドを一度呼んでくれ、ある事をしないと見せられない事がある」

そしてスクレイドを呼びベルの監視を一時解除し、部屋から出した。


俺はスキルを発動させて聡一からの次の言葉をまつ。

「肋骨は二本が粉砕骨折、八か所のヒビ」

「え」

「鎖骨と左肩、右大腿も同じく骨折と細かいヒビ」

「え」

「内出血と裂傷による腫れと、出血による貧血」

「ひぇ…」

「こちらは治りかけているようだがね、目の付近に衝撃を与えたかね?眼底打撲もある…下手をすれば網膜剥離なのだが」

「ひっ…」

それは…最初のフライハイトの時のやつか?


「スクレイドくんに教えてもらいルカくんが必死に治療の術式を描いてくれたのだよ、その魔法陣の効果で順調どころか物凄い速さで回復してきているがね」


俺はこちらの世界ではもちろん、元の世界でもそんな重症を負ったことなどなく、自覚すると痛みが増した。

「俺は風邪をひいて熱を計ると体調が悪くなるタイプなんだ…気が付かなきゃ元気なんだから勘弁してください…」

わからないでもない、と聡一は呆れながら頷いて、医者らしく一通りの状態を説明して近くの椅子に腰掛けた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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