聡一
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
「とにかく、その白の王に出来た事を真似してお前ら二人を強化したい訳だ」
「オレたち?」
「紛い物の魂に効果はあるのかなぁ」
それぞれの反応は置いておくとして、俺はある事を思い出していた。
「ルカにプロウドの魔力を吸収してもらった時、ステータスの上限が上がったのを覚えているか?」
「もちろん覚えてるよ、かなり焦ったから」
「それがすでに力を分け与えることの基本だったらしい」
俺の生命の力は他人の生命力≒魔力を上げる力があるという。
ルカと酒を飲んだ翌日、再びフライハイトの記憶を取りに行ってわかったことだった。
その為元の姿は新しい傷があり、痛いのでくろこのまま過ごしている。
姿を変えて挑んでもあの空間では元の姿に戻ってしまうことも判明し、半泣きで頑張っていたのだ。
「ということは、やはり紛い物には効果はないね、おたくのプロウドを使ってステータスが上がったことはないからねぇ」
確かにスクレイドの言う通り、これまでスクレイドのステータスに変化があったことは無いのもわかっている。
「だからこそスクレイドには術式でその力を補うんだ、それからスクレイドもだがルカにも汚物がしたように、飛行や瞬間移動の能力を増やせればと思っている」
「そんな事ができるのか!?」
「詳細は省く…と言っても俺も造りがまだ理解出来ていないんだが、まだ試しの段階だからこそ二人には協力してもらいたいわけなんだが」
これは確かに自分で言っていて化け物感がでているかもしれない。
「そこでスクレイドにもう一つを試してもらいたい、ステータスの確認をしながらな」
さらに出したのは一つ目と同じサイズのプロウドだ。
「えぇ…これはなんだか苦手な感じがするよ?少し触りにくいんだけどねぇ…」
「チッ、本能的に悟ったか」
「今なにか言ったかい!?やっぱりこれは触りたくないんだけどねぇ!!」
つべこべ言うスクレイドに手をデコピンの形にして見せると肩を落としながら、恐る恐るプロウドを手にして魔力を吸収した。
「あれぇ!?ステータスが上がって…!倍くらいに増えたんだけど何かなぁ!?」
以前…本物の魂の時のステータスがどのくらいなのかは想像もつかないが、少し力が戻ったと喜ぶスクレイドを見て俺は心底喜びとやりがいを感じていた。
なぜなら。
「それはリゼイド式と黒魔術式を組み合わせて、さらに俺の血を使ったものだ」
「「血!?」」
本当に、痛みに耐えた甲斐があったというものだ。
過去のトラウマで黒魔術式を嫌悪するスクレイドと、痛みに弱いことを知っているルカは同時に声を上げた。
「黒魔術式の本来の力を引き出すのに血が必要だったからな、聡一に頼んだら注射器の針が全部折れて粉々になって…仕方ないから注射器を何本ももらって自分で血管から採ったんだが…失敗しすぎて腕が内出血起こしてるけど見るか?」
「「いらない」」
二人は生暖かい目でこちらを見てから首を振った。
「術式を組み合わせるなんてねぇ…」
「頭おかしいよね、やっぱり」
思っていた反応と違うのはなぜだ?
望んでいるわけではないが、ここはいつもみたいに俺のチート感にビックリと、痛みに弱い俺が頑丈さゆえに、自らでなければ不可能な血を採ったことに感動するところじゃないのか?
俺がズレているのかこの二人がズレているのか、もうわからなくなってきた。
「という訳でとりあえずの成果と報告は終わりだ、ここからは嫌な情報になる」
そう言うと二人は一変して真剣な表情になり、自然と俺を注視した。
「ルクレマールが警戒体制に入った」
「…どういうこと?」
ルカが尋ねるとスクレイドはうんざりした顔をして言った。
「やはりねぇ…プレーシアからもリゼイドからも国境付近に近づいてみたけど、ルクレマールの術式が濃くなってるんだよねぇ」
「それはそうか、あれだけ大掛かりな襲撃を三度も防がれて、偵察の仲間が二人も死んだんだから策を講じないわけない」
二人の言葉に俺もその通りだと同意した。
「問題なのが俺どころか、協力者にも探りにくいほど国の気配はおろか情報のほとんどが隠されたことだ」
「ヤマトくんでも手が出せないってことかい?」
「そうだ。本当は早くに行けば良かったんだが…、いや返り討ちにあっていた可能性も否定できない。なんせあちらは捨て身だからな」
「大和に無理なら余程の力だってわかるけど、その協力者は大和よりすごいの?」
「すごいなんてものじゃない、汚物たちが嫌がるくらいには強力だ」
「「汚物が!!」」
またも声がかさなり、場の空気が重くなったところでスクレイドからプロウドを三つ回収して立ち上がった。
「その為にお前たちの強化というわけだ、すぐにとはいかなくなってしまったが今はルクレマールも何かを準備しているだろう、出来れば先手を打ちたいが向こうの様子を見る必要もある…他に二人から何かあるか?」
するとスクレイドがそれならばと話を切り出した。
「リゼイドの王のことなんだけどねぇ…」
英雄王、未だに俺にその一切の記憶が蘇らない白の王の一番弟子とやらか。
「おかしいことを言い出したんだよねぇ」
「おかしい?俺があった時は、まあそこそこ普通の会話はできてただろう?」
「魔王を復活させなくては、と…一度だけなんだけど確かにそう呟いたんだ」
どうしてそこに魔王が出てきて復活を望む流れになるんだ!?
同じく訳の分からないルカも訝しげに聞いた。
「英雄王は魔王を倒した人物なんだろ?そして俺たちを召喚しているのはその魔王や魔物から国を守る為の戦力としてだったはずだ!」
ルカが声を荒らげるとスクレイドはルカに申し訳なさそうに言った。
「英雄王が召喚していたのは…他の世界に生まれ変わった白の王の魂を呼び戻すためだったんだよねぇ、それだけじゃないと思ってもいるんだけど…」
特定の、白の王の魂を探していた?
…探す為にはどうする…。
「じゃあオレは…!」
ルカは言いかけてハッとしたように口を噤んだが、俺はルカの代わりに続けた。
「他の異世界人は俺の持つ白の王の魂を探す為の巻き添いにあったというわけだ」
「大和のせいじゃない…!!」
ルカはなんとか声を絞り出してそう言ったが、俺はやはりこんな時こそ怒りより、憎しみより無駄に頭が冴える自分が嫌になった。
「ルカ、悪いが俺はそれを気にしない、こんな事態を引き起こしたのも引きずってるのも1000年以上前の人物たちだ…それより」
そう、そんなことよりも。
召喚の目的を知っていたのか?聡一。
「ルカ、聡一には近づくな、スクレイドは出来る限りでいい、国医の勇者と呼ばれる聡一に警戒して、会うことがあれば王からでも危険のない範囲で情報を引き出して欲しい」
「大和…?なんでここで国医殿が?」
「あの皆で会った時の頭のいい子だよねぇ?あの子の話は王から聞いたことも、王宮で見かけたこともないけど…」
「聡一は召喚の真の目的を知っていた、そうとしか思えないことを聞いたことがある」
あの時、気づくべきだった。
「とにかく二人は聡一に警戒を、ルカは女将さんにも余計なことは話さず今まで通りにしてくれ」
「ハナエさんまで…君がそういうならそうするよ、だけど大和はどうする?」
「ああ、聡一に会って直接確かめてくる。この事実を隠すようなら確実に敵と判断していいだろう」
「敵って大和…国医殿のことは前にも聞いてはいたけど、オレたちは何と闘ってるんだ?俺はトールや召喚した者を、君はアトスの仇が目的だろ!?なぜ国医殿が敵ということになるんだよ、君はそれで本当にいいのか…?」
ルカの声は掠れるように小さくなった。
「ああ、聡一とはそういう協定関係だと言ったはずだが?だから本人から聞きたい、ごめんなルカ。じゃあ他になければベルの監視もある事だし解散するか…スクレイド!また試作品には付き合ってもらうぞ」
そこで解散してからもその日、俺はすぐには聡一の元には行かず一人で家にこもって作業を続けていた。
「…はあ、なんで気づいちまったかな」
いくつかの試作品ができた頃、ようやく重い腰をあげて向かったのは朧月だ。
「あら!大和さん、ずいぶんお久しぶりですわね、本当にお怪我は大丈夫でしたの?」
女将はくろこの俺に見慣れたようで、店に入るとすぐにいつもの個室に通された。
「聡一が大袈裟なんだ、ルカからも聞いてるだろう?」
「程度の問題じゃないのですよ?心配なものは心配なんです」
「すみません」
「ふふっ、今日はお酒は要ります?」
いつも通り優しい女将と目があわせられずにいると、女将が俺の額に手を伸ばした。
「なんだ?」
「少し元気がないようでしたので、お熱でもあるのかと…大和さん?」
俺は女将の顔が見えないように抱きしめた。
「少しだけこうして、女将さんを確かめさせてもらえるか?」
「あら、そんな言い方照れてしまいますわ、お疲れなんですね」
女将は背に手を回し抱き締め返して、まるで子供をあやす様に穏やかに静かに、俺が離れるまで動かずにいてくれた。
「女将さん、マイアは元気か?」
「大和さん?私を抱きながら他の女性の話ですの?」
「す、すみません…」
女将はおどけて意地悪そうにそう言ってから、大丈夫ですよと答えた。
「それでさ、サキさんも元気か?」
「また、次から次へと罪作りな方ですこと」
「悪い悪い、つい思い出しちゃって、今も元気にここで働いてるか?」
「ええ、とてもいい子で助かってますわ」
「そうか女将さん、ありがとう」
「もう離れてしまいますの?」
俺が離れると女将は悪戯っぽくすねてみせた。
「色々分かったことがあるからな、ちょっとこの後聡一にも用があるんだ。行ってくるよ」
「またいつでもいらして下さいね」
店から出る時、女将はいつもの様に俺を見送ってくれた。
「女将さん、ごめんな」
「大和さん?」
その足で聡一のいる仮眠室に飛び、やはりそこにはベッドで眠る聡一の姿があった。
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