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酒の席と恥と

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「以前もそんなことを言ってたが何の話だ?お前らこそ俺の何を見ている?俺の力に何を求めてる」

「力…?大和こそ何の話だよ」

俺はうんざりしながらそう吐き捨てるように言った。

優しいなんてことはアキトに言われたのは嫌ではなかった。

しかし今の俺を知っていながら聡一も女将もこいつも俺をどこまでも理解していない。


「俺に好意を抱いてくれるという気持ちまでは否定しない、だがもし俺を優しいと言うならそれはお前の罪悪感や同情から生まれた勘違いだ」

「本気で言ってるのか…?」


淡々と現実を知らしめようとする俺に対し、ルカの顔は陰りを見せた。

「聡一も女将さんも哀れみや励ましのために俺を優しいと言ってくるのかもしれない、だけどその言葉は俺にとって重いんだ」

ルカは意味がわからないというふうに黙ってこちらを見つめるばかりだ。


「それは優しい者になれと言われているか、俺を優しいと思い込むことでなんとか関係を繋ごうと自分に言い聞かせているように見える、現実を見るべきはお前たちだ。期待には添えない」


こんなことは聞きたくなかった、勝手かもしれないがルカのことを同類だと思いたかった。


何も喋らなくなったルカを見て、ため息をついてからまた酒を飲んだ。

「こんな話は終わりだ、酒が不味くなる」

「告白も、無かったことにされるのか?」

やっと口を開いたと思ったらその話に戻るのか。


「その答えにどこまで望むのかによるな」

「どういうこと?」

俺が言ったことにルカは眉間にシワを寄せてこちらをじっと見つめた。


「特別視しろというならお前は俺にとって既にある種の特別な存在だ。お前と同じ気持ちになる事を期待するなら無駄だろうな」

「そう…なんだ」

「身体の関係は応相談だ」

「なに?」

複雑そうに相槌をうっていたルカが顔を引きつらせて聞き返した。


「どんな事でも俺には耐性があるからダメージはない」

「そんな事を、平気で言えるのか…君は」

途端にルカの口調は強くなった。

こんな事で怒るのだから俺の事なんて分かってないと言っているんだ。


「朧月と同じことだろう?それともお前は彼女たちの仕事を見下してるのか?」

「全然違うだろっ!?仕事!?なんだよそれ!!無神経にも程があるんじゃないか!?大和がどれだけ経験してるかなんて知りたくもない!けどオレは真剣なのにそんなふうに軽々しく言われたくなかった!」

ルカの目には薄らと涙が滲み、怒りに顔は赤くなっている。

「まて、ルカ…経験だと!?」


こいつはまた何を勘違いしているんだ!?

恋は盲目に加えて酒の力はこんなにも冷静さを失わせるものなのか?


「ああ!偏見もない君なら相手なんていくらでもいるんだろ!?」


相手がいくらでも!?

「やめろォ!!俺はなんっにもしたことが無い!スクレイドのは治療だ!だからどうしても数えろと言うなら…マイア!そう!マイアが初でさっきのお前が二回目だ!!無神経はどっちだ!!」

「そうだろうと思っ…」

お互いにヒートアップし、ルカは言いかけて固まり俺は酒の勢いで暴露したことで大ダメージを受けた。


「嘘だろ…大和は」

「やめろっつってんだろォー!」

「だってあそこまで冷静に言われたらそんなことわかるわけないじゃん!!やっぱり大和は頭がおかしいんじゃないか!?」


なぜ恥を晒したうえにここまで罵られなければいけないんだ!

「俺はそれでお前の気が済むならと思って!出来ることと出来ないことをハッキリ言っただけだ!もういい!来い!」


俺は唖然とするルカを抱えて寝室のベッドに放り投げて、その隣にどっかりと座った。

「老若男女どれがいい!耐性は全て使用するから気兼ねなく来い!!」

「ひどすぎる…」

ルカはベッドで力なく呟いた。

やめろ、ベッドで目を潤ませ呆然としながらそんなことを言われたら、俺が何かしたみたいじゃないか。


「お前こそ昔は遊んでたのを知ってるんだぞ?男もいけるとは知らなかったけどな!ほら!初心者マークの俺で事故ればいいだろうが!」

「むっ、昔の話は無しだろ!?」

「お前が経験だのなんだの言い出したんだろう!クソめんどくさい!!試して後悔したら記憶を消してやるから安心しろ!」

「そんなヤバいこと普通に言うなってば!」

ルカはガバッと起き上がって俺を睨んだ。


確かに今の俺の行動がおかしいのもわかっている。

だがこいつが何にそんなにこだわって、何を望むのか全くわからない。

「本当にいいんだな…?」

「お、おう」

ルカは恨めしそうに俺を見て言った。


その気迫に押されて俺は今更ながら少したじろいでしまったが、後には引けない勢いというものがある。

何より本当に色々な事を考えるのが面倒になってしまったのだ。

魂の存在と俺自身、アメリアたちのこと、スクレイドの話に、一つも進まない復讐。

「少し疲れた…お前は結局どうしたいんだ、できることならすると言ってるだろう」

「大和、二度目だ…ごめん」

ふとルカが困り顔で謝ってくる。

「何がだ?」

「寝ている君に、口にキスをした事がある」


いつだ?

どの時かわからないが、しっかりと眠ると起きない俺は心当たりが多すぎて怖くて聞けない。

「それは…お前の気も知らないでいつも近すぎた俺にも責任があるからいいとして」

「軽い…」

フォローをしてやったのになんという言われようだ。

ルカ、そういうところだぞ。


「ルカ、大事なのは今どうするかだ」

「ここまで我慢してるのにまだ言うのか?気持ちが伴わない相手にそんなことをする奴だと思われたくない」

やはりルカは頑なに心を求めているが、下心がない訳では無いらしい。


「ちなみに…くろこと大和ならどっちだ?」

「大和。だけど男が好きなわけじゃないから、あと耐性は切らないと無反応とか絶対に嫌だ」


即答なうえにそこは正直なのか。


それを聞いて勝手にクローゼットから衣類を漁り、着替えて元の姿に戻ってみたがルカは深いため息をついて俺を押し倒して言った。

「こんな所に怪我してたらキスもできないだろ」

「だいじょうぶら」

強がって言ってみるが、ルカは余裕そうに少し悪い笑顔になり続けた。


「経験のない大和に教えてあげるか、本気になったら口が触れる程度じゃ済まないからね?」

「え」

そう言うとルカは隣に寝転がって微笑んだ。

「大和のせいで酔いも冷めた。今日は寝よう」

「俺のせいかよ…いたひ…」

「ここまで言われたんだ、怪我が治ったら耐性無しで覚悟しといてくれよな」


耐性無しでだと?

ノーダメージならと言ったのにそれでは意味がないだろう。

そしていつも通り勝手に話をまとめると、ルカは早くも寝落ちしているではないか。

また考えなければいけないことが増えた。

それは俺の暴露したことをルカの記憶から消すかどうかだ。


俺も完全に酔いが冷め、傷が痛むのでくろこに姿を変えて眠ることにした。



──それから三日後の昼過ぎ、酒の席の会話が何事も無かったかのようにしているルカと、そこらを飛び回っていたスクレイドをフライハイトの森に呼び出した。

スクレイドに憑く監視の目を一時解除してから俺は得意げに二人を近くに集めた。

「さて、ここに一つのプロウドがある、スクレイドには種類の見分けがつくか?」

取り出した手のひらサイズの結晶を渡し、それを見たスクレイドは眉をひそめた。

「なんだろうねぇ、見ればわかるはずなのに…全くわからないのはどうしてかなぁ?」


どうやら成功したらしい。

「これはソウルプロウドなんだが、そこに術式を組み込んで情報を隠したものだ」

「また非常識なことをしたものだねぇ」

「俺もそう思ったんだが、自分の魂を対価に魔力を使っていれば自然の力を歪めたことにならないらしい」

言われてスクレイドはなるほどと頷いた。


「それからここにもう一つ…」

取り出したのは二センチ角の四角い結晶。

「ソウルプロウド、だねぇ」

今度は見ただけで特定し、スクレイドは大事そうに受け取ると陽の光にかざしてもう一度よく見た。

「違う…ガイストプロウドかなぁ!?」

俺は舌打ちをした。

「なんだ、わかるのか」


「どういうこと?」

話についていけないルカは二つの結晶を受け取り、交互に見た。

「両方に術式を組み込んだんだが、それぞれ術とプロウドのグレードを違うものにしてみたんだ、要は術式と組み合わせる為の試作品なんだがな」

「目的は?」

ルカが見分けるのを諦めて二つの石をスクレイドに返した。

「三つある、一つ目はスクレイドに憑いたベルの監視を遮断する術式の組み合わせ、二つ目はより強力なプロウドを創り出すこと、そして三つ目は俺の能力を僅かでも他人に分ける為、強化用の媒体としてのプロウドを創ることだ」

スクレイドは考え込み、ルカはさらに疑問を口にした。


「二つまでは必要だと思うけど、最後がわからない。そんな化け物みたいな力を分け与えることが可能なのか、それが成功したとしてそんな化け物みたいな力を持った奴を増やしてどうするつもりなんだよ」


化け物?こいつ今俺の事を化け物と言ったのか?

俺を好きと言った同じ口で?あれは夢だったのか…。


「え、えー、ごほん…スクレイドたちが白の王に創られた魂が元だというのは知ってるな?」

ルカは頷き、スクレイドはまだ他に何かを考えたままだ。


「協力者から得た知識によると、何も魂を一から創った訳ではなく、魔力の高い者に力を分けその者たち同士が子を成して産まれたのがエルフの始まりらしいんだ」

「そうだったのか、てっきり片手間にポンポン魂を創り出したのかと思ってた!」

ルカはスクレイドの話の重さがわかっていないわけではないのだが、なぜかこの三人で集まるといつもの言葉を選ぶ慎重さや気遣いが消える。


考え事をしていたスクレイドも少し残念そうな顔でルカを見ているじゃないか。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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