ルカと酒盛り
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
その後、なぜか匙を投げたはずのセリとクリフト、そして勝手ばかり言っていたルカとスクレイドは、剣術の稽古をする時は誰かが持ち回りで付き添うことを決めたらしい。
これは健気な少女のやる気に触発されて、成長に携わりたくなったということなのだろう。
やはりアメリアには人を変える不思議な力があるようだ。
そこで日が暮れてきたのに気づき、疲れた様子のルカに促され俺は森の家に、ルカは朧月に戻った。
そういえばとルカにもらったフルーツスムージーを少し口に含み、吐き気が起こらないのを確認してから味わうように飲み始めた。
「美味いな」
そして大量のソウルプロウドを一つにまとめ、さらに強力なプロウドを造るためにラングヴァイエから得た記憶を元に魔力を注いでいく。
そして他にも一つ残しておいたソウルプロウドに術式を組み込んでみる。
自然を元とする魔力で造りだした結晶と、自然をねじ伏せる術式は一見相反すると思われたが、予想通り成功した。
俺の場合は自然から力を借りるのではなく魂を対価に力に変える自給自足。
それならばと仮説を立てたのだが無事にそれが証明された。
さらに最近会得した【念写】でスキルを何枚もの紙にリストアップしては紙とにらめっこを始めた。
「多すぎるだろう…無理だ。俺には把握どころか使いきれん」
…力を分け与える、か。
白の王が、汚物がそうしていたように、俺にも出来るはずだ。
そして俺自身もっと強くならなければ。
《──傲慢な…力を与えたら人は変わる》
すると汚物ではないどれかの俺が呆れたように言った。
俺はお前のように慕うものに無責任な希望を持たせ理想だけを追い求めたりしない。
自分の想いを押し付けてスクレイドたちを縛るような真似をしたことを許さない。
目的のために力が必要ならば見極めた者に分け与える事だって必要だ、お前のように現実を見ずに全てを救おうとする偽善者にはならない。
俺は力を欲する、それは手の届く者だけを守るだけがあればそれでいいんだ。
《──世界に平穏を望むのは間違っていたと言うのか》
そんなことは俺は知らない。
少なくともこれだけは言える、俺とお前の望むものは違う。
お前は強大な力に翻弄されて多くを見失った。
例え魂が同じだろうと俺は俺だ!
《──いいだろう、お前の考えが過ちだと気づき後悔する様を見届けよう》
せいぜいそこで高みの見物をしていればいいさ。
俺はお前と違うやり方ですべき事を成し遂げてみせる!
何より俺にはどんなにすごいスキルや力があっても使い方が思いつかないんだから翻弄されるも何も無いんだよ。
《──それはどう返したらいい…》
そこで奴の声は聞こえなくなり、眠気に抗いながらステータス画面を確認すると、気になったのは魂のマークの色。
「緑に、戻ってる…?なんでだ?」
これは俺の心の色ではないのか。
どこまでも訳のわからない魂マーク。
こちらも色々考える必要がありそうだが、フライハイトかラングヴァイエの記憶、もしくはフィールかアレイと話せる時が来たら聞いてみるか。
いくつかのプロウドを創り、置き場所用に新しい空間を作ろうかと思った時、ふと考えた。
ベルは自らに同じ魂を分かつスクレイドの作り出したプロウドを取り込み力を得た。
そして俺が造ったプロウドは反する意志のせいか、魔力の相性が悪いのか。
もしくはベルがルクレマールと通じることで魔王とやらの力まで扱うことができると仮定して上書きされたとしたならば使えないことはないはず。
ならばやはり残りの二択、意思に反するか相性。
魔力の相性が合えば使えるならば、人間の身体に魔力の塊である術式を施したらどうなるのか。
プロウドにしてから体内に入れるのがまずいのか?俺の治癒魔法は相性に関わらず誰にでも使えている。
魔力自体は問題がないのなら、いつかのサキのように術式を強化するために人に施したら…
「大和」
声をかけられハッとすると目の前にルカがいた。
「どうした?」
「仕事も終わったし、昼間皆でいたぶん一人は寂しいかと思ってさ、俺の部屋いかない?」
両手には大量の酒の入った袋を持って、悪い顔をしている。
「ルカにしては外れたな、忙しくて感慨にふける暇もないんだ」
「じゃあこれは要らなかったね」
少しも残念そうではないルカの持つ袋を掴んだ。
「どうしてもと言うなら飲む、風呂に入ってから行く」
「どうしてもどうしても、待ってるよ」
俺はとりあえず結晶をマントの空間にしまい、飲み終わったジュースのグラスを洗ってから軽く風呂に入り、ルカの部屋に移動した。
「そういやこれ、美味かったご馳走様」
洗ったグラスを返すとルカは満面の笑みになった。
「飲めた?」
「それどころか止まらなくて久々に腹いっぱいになったな」
「それは良かった。酒飲むんだから耐性切ってさ、今日くらいいいじゃん」
「自分の酒癖を把握してないからな…」
少し考えて、こいつの前ならどうにかなるかと思い直しアルコール関連の耐性を切った。
「ユキは?」
「寝ちゃってる、ところで女の子のままなんだ?」
「痛いのは嫌だからな」
グラスに酒をついで、ちびちびと飲みながらフィールと話をしたことを伝えた。
「確かにスクレイドの見たものがそのままベルに通じてるのは困ったね」
業務連絡のようにそんな話をし、ルカはグラスを置いて俺をじっと見つめた。
「アメリアちゃんと会えるのは良いことだと思うよ」
「…正直まだ接触したくないし会いたくない気持ちは変わらないんだけどな、お前とスクレイドが何を考えているのかわからない」
なぜ二人がアメリアのことをそこまで気にするのか。
「今さらだけど、ルカには聞きたいことがあったんだ」
「なに?」
「なぜあの時、トールと話す映像で俺と聡一を信じてくれたんだ?」
それはずっと引っかかっていた疑問だった。
術式の部屋に閉じ込めれていた時にトールに救い出されたと思っていたのなら、あのままトールの元に向かって事実を確認しに行ってもよかった。
それによって最悪処分されていた可能性も否定はできないが。
あの短時間であの時のルカにとっての恩人よりも、こちらの話に傾いたこと、それがどうしてもわからなかった。
ルカはグラスに入った酒を一気に飲み干してから、自分の両頬をバシバシと叩いた。
「オレだって最初は信じたくなかった。だけど混乱した中でトールの言葉と君たちの言葉を比べたんだ」
空いたグラスを見つめたままルカはぽつりぽつりと言った。
「トールはオレには優しかった、それからこの世界でオレを害するものはもう無いと、幸せになる権利がある、期待しているとそんな言葉をかけられてきた」
「奴がそんなことを?想像もつかないな」
ルカは苦笑いした。
「その言葉はオレにあまりに都合がよくて、安心できたし信じたかった」
弱っている心に救いの言葉、そして地獄の日々から救い出され突然の高待遇ならばそれは当然のことだろう、だからこそ尚更なぜ俺たちの方を?
「でも君たちはオレにとって辛く苦しく都合が悪いことを突きつけた、だから信じるしかなかった」
「どういうことだ?」
ルカは自分のグラスと少しだけ減った俺のグラスに酒を足して、こちらを見てから諦めたように言った。
「オレは奴を信じたいと思いながらも、本当はこの世界がそんなに甘いものじゃ無いことはわかってたんだ、あの日の君たちの態度や言葉で今まで考えないようにしていた事実を認めざるを得なかった」
そこまで話すとルカはさらに酒をあおってため息をついた。
「こんなとりとめもない言葉で答えになったかな」
「…わかった気がする、嫌な話をさせて悪かった」
「むしろ話を聞いてもらて少し気が楽になったよ」
話し終わると少し酔っているのか、ルカはもっと呑めと酒を勧めた。
「大和こそなぜオレを殺さなかったのか、聞いてもいいか?」
「あれは逃げただけだ、それから…いくら憎しみや怒りを感じてもしても、その感情が何かにかき消されるような感覚なんだ。それに結局アキトを殺したのは元をたどれば俺だった、そんな奴が偉そうにお前に何をすることができる」
ルカは何も言わずグラスを見ている。
「でも今はお前に助けられてる…俺は人が居ると眠れないはずだったんだがお前がいると眠れる、なぜかわからないけどな」
「知ってたよ」
「…そうか」
「オレは君に敬愛や恩人以上の感情を抱いてる」
こちらを向いたと思ったら、ルカは唐突にそんな事を言った。
今までそんな素振りはなく何一つ気が付かなかったがその眼差しが茶化している訳では無いことを証明している。
急な話の展開に少し戸惑って酒を飲み、少しの間が空いてから一応の確認を取る。
「それは、告白と受け取ったらいいのか?」
「そうなるね、同性で、しかもオレの立場を考えたら気持ちが悪いよな、軽蔑した?」
「ルカ?」
自分を貶めるように言って、こちらの反応を伺いながらルカにしては珍しく自信なさげに困ったような、自分に呆れたような苦笑いをして距離を詰めると顔を近づけ軽く口にキスをした。
「…酔ってるのか?」
「嫌だった?」
俺も酔っているのか、その行動は嫌ではないのが本当のところだ。
「別に嫌ということも無いし軽蔑もしない、今は女の姿だが俺なんかのどこを見たらそうなるのか理解はできないけどな」
その言葉を聞きすがるような目でこちらを見て、悲しそうに呟いた。
「やっぱり君には俺たちが見えないんだね」
それは王都を離れる前にも聞いたが、どういう事なのか。
今目の前にいて一緒に酒を飲んで話をしている、それなのにその話に戻るのか。
「他人事のようにしているつもりはないが?」
「わかってるよ、きちんと考えてくれてることも君が優しいのも」
優しい…またその言葉か。
ここまで読んでくださりありがとうございます。