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大和の剣術指南2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


ブックマークや評価、ありがとうございます。

セリに尋ねられ、クリフトは複雑そうに笑った。

「まあー、自分の身体だからどの程度の怪我でどこまでやれるか、万が一に対処できるように考えはてるつもりだけど」

「私はお前を甘く見ていたようだ、すまない。今後は見習わせてもらわなければな」

「いいって!セリとオレじゃ戦闘スタイルが全然違うんだから、な!?」

クリフトは謝るセリに慌ててフォローをした。

これで赤面して滝のような汗を流していなければ格好がついたものを…。


「でもなクリフト」

「なんだ?ヤマト」

「俺ならお前の腹なんて一太刀で真っ二つだ」

「え」

それにはセリも頷いた。

「クリフトが前に自分で言っていたではないか、いくら首を落とすのだって一太刀では余程の技量がいると」

そう言った自分を思い出したのか、クリフトは今更自分の腹を押さえて青ざめた。


「セリはクリフトの踏み込む気合いを、クリフトはセリの慎重さを勉強するべきだな、連携の練習も合わせて、お互いに遠慮なくアドバイスし合えばもっと強くなるんじゃないか?」

二人は顔を見合わせてから、明るい表情で返事をした。

「ヤマトの言う通りだな、ありがとう!」

「疑って変な態度をとって悪かった」


すると、いつの間にか大勢の人集りができ拍手喝采の嵐になっていた。

この村にはこんなに人がいただろうか。

そしてなぜ拍手をするのか?


ルカを見ると穏やかにこちらを見守り、アメリアは目を輝かせて拍手している。


そして人集りも散りクリフトとセリが模擬戦をしたりアメリアの稽古をつけていると、ルカが近づいてきて耳打ちをした。

「やっぱり君はこの三人といると楽しそうだよ」

「セリ!今度は踏み込みすぎだ!難しいと思うがいきなりスタイルを変えすぎると危ない、クリフト!それは慎重じゃなくてただの逃げ腰だ!」

目に飛び込んだ練習に思わず口を出してしまったが、セリもクリフトも嫌な顔一つせず礼を言ってくる。


そして俺はルカを見ずに言った。

「それが問題なんだ」


その時、アメリアが剣を抱えてこちらに走ってきた。

「ヤマト様!」

「どうした?」

「術式だけでなく剣も教えて頂けないでしょうか!それで、あの…たまに引き分けていただけませんか?」

俺は思わず目を丸くし、ルカはその意味がわかずらず首を傾げた。


「俺はそんなことを君に言ってたな、懐かしい…」

「今は…誰かを傷つけるのではなく、助ける為に剣を学びたいんです」

「俺もだよ、本当はこの力を守るために使いたかった…」

「ちょうどいいから教えてあげたらいいんじゃないかなぁ」

「ん?」

後ろを見ると突然現れたスクレイドは他人事のように軽く言い、ルカも頷いている。


「待て、俺が教えなくてもセリが…」

「セリさんがヤマト様に教えて頂いた方がいいと…」

アメリアは申し訳なさそうにセリを見て、俺と目が合ったセリは顔に陰りを見せた。

「…私ではアメリアの才能を伸ばしてやるには力不足だ…」


つまりそれは匙を投げたのか?

アメリアはそこまで動けないようには見えなかったのだが…?

そう思いクリフトの方を見るが視線をそらして頭をかいた。

「俺も力加減が難しくって…」


「じゃあやっぱりヤマトくんがいいんじゃないかなぁ」

「大和教えてあげたら?」

やはり報連相コンビは俺の意思を無視して好き勝手なことを言っている。

「なぜ俺が…」

「あの、でもヤマト様もお忙しいですよね、無理を言ってしまってすみませんでした!」


気まずそうに謝るアメリア、そしてその場の全員の視線が俺に集まった。

「…そ、それは…」

「ヤマト、俺の態度が悪くて嫌な思いをさせて本当にすまなかった、だけどアメリアには前みたいにしてやってくれないか?」

「なっ…」

クリフトは自分のせいだと思い込み辛そうに謝ってきた。

「ルカも、俺は自分の事ばっかりでひどいことを言って悪かった、どうかしてた…ごめんな」


ルカもこのタイミングで謝られるとは思っていなかったらしく驚いてクリフトを見た。

「…オレもクリフトには大人気ない態度をとったしさ、お互い様ってことにしないか?」

少し困ったようにしてから優しく微笑み、クリフトの肩を数回軽く小突いた。

「あんなに傷つけちまったのにそんなふうに言ってもらえるとは思わなかった…ルカは良い奴だな」


そんなやり取りを見ていたセリは再び俺を見た。

「そういう訳だ、ヤマトから見てアメリアに才能がないと思ったのなら、今のうちに諦めさせてやってくれないか?」


なんだと?

どういう訳だ…いつの間に俺が教えるか、剣の道を断念させるかの二択になっていたんだ?


「あの、大丈夫です、本当に無理を言ってしまってすみませんでした!」

アメリアは心底申し訳なさそうにお時期をしたまま顔をあげられずにいる。


よりによって本人の前でその二択を迫ってくるとは、ここまでくると全員グルかと疑いたくもなる。

しかし…。

「アメリア、剣は楽しいか?」


声をかけられたアメリアはおずおずとこちらを見た。

「はい、難しいけど楽しいです…」


俺だって最初は何も知らず、素振りでさえ動きがおかしいとアキトに笑われていた。

それが今ここまで戦えるようになったのはアキトが見限らず、俺自身もその気持ちに応えたくて諦めなかったからだ。


何よりアメリアの手にはマメがたくさんあり、アザや水ぶくれになっているのを知っている。

合わない剣でどれほど練習をしたのか、努力をする事まで断ち切るのは違うんじゃないだろうか。


「…俺は、何事も出来る出来ないだけじゃないと思っている」

「ヤマト様?」

「どのくらいまで上達するかはわからないが、努力した時間は無駄にはならない、経験しておいて悪いことなんてない」

「…はい」

まとまらず遠まわしな言い方に、諦めるよう言われていると思ったのかアメリアはまた俯いた。

「アメリア、剣の道は吐き気との戦いだ、最悪ペーストにして全てを流し込む、一番の敵は食事と言っても過言ではないが、やれるだけやってみるか?」

「「「「は?」」」」

「ヤマト様…!はい!」

アメリアは顔を上げ期待と覚悟を込めて力強く頷いた。


良い眼だ、真剣に腕を磨きたいという想いが伝わってくる。


「鍛錬は腕が上がらなく、いや…身体が動かなくなってからが本番だ、そこまでがウォーミングアップだと思えばいいんだよ」

「「「「んん!?」」」」

「はい!頑張ります!!」

やはりアメリアは素直だ、そしてやる気に満ち溢れている。


「俺に剣を教えてくれた人の言葉を気構え程度に教えておくよ」

「ヤマト様のお師匠様の言葉ですか!」


俺はアキトの楽しそうな顔を思い出して、自然と笑みが零れた。

「“目なんて一つくらいくれてやる”そんな気持ちが大事なんだそうだ、ははは」

「は、はい!」

「「「「はああ!?!?」」」」


それにしても。

「おい、外野。さっきからやかましいぞ」


クリフトとセリは顔をひきつらせて、スクレイドとルカは信じられないバカを見るような目で俺を見つめている。


そしてセリはアメリアに目線を合わせかがんでいた俺の腕を掴み、叱るように言った。

「ヤマト!諦めさせるにも言い方というものがある、そんな剣の指導は聞いたこともない!」

続いてクリフトも俺に顔を寄せてデカい声で内緒話のように言う。

「そんな脅しみたいな真似で止めるように仕向けるのは良くないぞ!」


こいつらは、一体なんの話をしているのか。


「諦めさせる?やめるように?…俺は真面目にアメリアに剣術を教えるつもりだと言っているんだが」

そもそもお前たちがそう仕向けたのではないのか。


「大和…?今のは本気で言ってたのか?」

「ルカまで何なんだ、俺はそうやってここまで来たんだ。アメリアには弱体化の術式罠など使わないから安心しろ」

「「「「弱体化の罠ぁ!?」」」」

そう言うと俺とアメリアを除く全員が輪になって何かを話し始めた。


「ルカくん、ヤマトくんはどうしちゃったのかなぁ!?俺から見てもあれは本気なんだけどねぇ!?」

「確かに剣術の稽古は厳しかったって話は聞いたことがあるけど、まさかアメリアちゃんに言ってるのって全部実体験!?」

「アメリア相手には厳しくできないと思っていたのだが…ヤマトに何があったのだ!?」

「…俺はヤマトが強い理由がわかったような気がする」


そして送られる哀れみと不安な視線。

「ヤマト様!私、頑張ります!」

「うん、剣術に治癒魔法は一切持ち込めないが、アメリアなら大丈夫だと信じてるよ」


最早二人の世界に四人の視線も声も届かなかった。


「とりあえず初歩的な筋トレと基本の形を紙に書いておくから、俺がいない時はそれをこなしてみてくれるかな」

マントから紙を取り出し、懐かしい動作の流れとそれを繰り出すための身体作りのメニューを書いていく。


すると、後ろから覗き込んでいた四人は悲鳴のようなものを上げ、スクレイドがその紙を奪い取ってルカが硬い笑顔で言いにくそうにした。

「大和、オレたちが悪かったからさ、あの…初めはもっと穏やかに…そう、ゆっくり!ゆっくりやらないか?」


ゆっくり…?

ルカに言われ少し考えてみると、一番の大きな間違いに気がついた。

「そうか…そうだな、別に剣を持ったことも無いような奴が、二ヶ月余りの期限つきでいきなり剣神と戦って勝てるように仕上げなきゃいけない訳でもないんだよな、ルカ、気づかせてくれて助かった、俺はまた間違えるところだった」

「や、大和…君そんな状況だったのか…?」


「アメリア、君の剣の道はまだ始まったばかりだ、弱音や泣き言だって辛かったらいくらでも吐いてもいいんだ」

そう、俺だって毎日叫んで抗議して泣き言を言って、時には逃げ出そうとして捕まると避ける訓練という事で武器を没収され、鍛錬のメニューを増やされていたのだから。

「良かった、いつもの君だ」

ルカは胸を撫で下ろした。


「そんな時は喋るだけでHPが減るくらい鍛錬すれば泣き言も出てこないから大丈夫だよ、頑張ろうな」

「「「「微笑んで言うことじゃない!!」」」」

「はい!それだけ剣術は厳しいんですね!よろしくお願いします!」

「わかってくれるか、やはりアメリアは強いな」

外野は置いておいて、アメリアのハツラツとした笑顔と気持ちのいい返事に心が洗われるようだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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