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大和ともう1羽の蝶

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


「いや!超焦った!!スキル使っても見えてるし話しかけてくるだろ!?」

「あ、ちび虎のまま本当にやったんだ」

「お前が言ったんだろ?そうそう!許されないから今後は側でとめるって言ってくれてな!?まじ癒される何この子天使か!って思った!!でも…」

「相変わらずギャップが酷い…。でも?」

「今の俺に復讐以上に重要な事なんてないから…何も言えなかったんだ」

そうか…そうだ!それで俺はあんなに焦っていたんだ!

「復讐も果たせてなければ俺みたいなのがアメリアと居る資格もない、そんでアイツらが出てきたりしたら危険に晒すことになるよな!?」

何も焦ることなんてなかったのだ。


「…汚物は心配いらないと思うけど」

ルカはやはり何かを考えながらそんなことを呑気に言う。

俺はユキから降りてルカに忠告をした。

「確かに弱みを握ったとは言ったけどな、アイツも気まぐれなんだぞ?汚物だからな?何度も同じ手を使ってたらそのうちキレるかもしれないぞ」

「…尚更アメリアちゃんにいてもらったら?」

なんだ?アイツを汚物呼ばわりまでして毛嫌いするルカにしては、アメリアが危険だと知っているのに意外な反応だ。


「…というわけでな、アメリアの村の作業も終わったことだ、もう完全に別れを済ませて二度と合わないほうが良い」

「もう戻ったの?姿まで…」

「スクレイドにはいつもの報連相でもなんでも勝手にしてくれ」

立ち上がり帰ろうとするとルカはキッチンに向かった。

食事ならば余計に早く帰らねばと思った時、冷蔵庫からグラスに入った飲み物を出してきた。

「良かったら飲んでみない?」

「これは?」

「ポポンと数種類のフルーツスムージー、レモニアさんに教わったやつ」

いつの間にレモニアとまで打ち解けて…。

「家でもらってもいいか?」

「?飲んでいけばいいじゃん」

「途中の作業があってな」

そう言うとルカに別れを告げ家に戻り、再びプロウドに魔力を送り続けた。



「足りない…」

ソウルプロウドをいくつも造り、気がつくと部屋の中は結晶で溢れかえっていた。

魔力が足りなくなるとフライハイトの森に行き生命力を補い岩を集め、また結晶を造ることを繰り返した。


「知識も力も足りない…」

そして結晶を一旦しまうと今度はフライハイトの森の天高くに飛び上がり目を閉じた。

やはり暗い中に白い蝶が周りを飛び、こちらを認識すると肩に止まった。

「久しいな、こちらに戻ってきたというのに会いに来るのが遅くはないかとわたしは思う」

フライハイトではないその蝶は少し拗ねたように言った。


「初めましてだがな、まあそう言わないでくれ、魂に宿る記憶を自覚をしたのがつい先日の事なんだ」

「ほう…それは楽しい話かと私は興味を持つ」

「そんな事より新しいおもちゃを作りたいんだが知恵を貸してくれないか?」

すると蝶は俺の周りを何度も不規則に舞った。

「それは悪くない!わたしは協力する!さあ!わたしはそなたの魂が名を呼ぶのを待っている!」

俺は深呼吸してから覚悟をきめた。

「ラングヴァイエ、俺はお前を必要とする…!」

「私はまつろわぬ者!そなたに興を期待する者ラングヴァイエ!私はそなたに知恵を貸そう!」

ラングヴァイエが楽しそうに高らかに叫び、その声は次第に大きく弾むようにこだました。

すると頭の中に色とりどりに光る嵐が荒れ狂って襲いくる。

《──また厄介なものを…》


その嵐の渦は気を抜くと意識どころか今の記憶さえ飲み込まれそうになり、目の回る嵐の中でアイツのボヤキが聞こえたが今はそれどころではない。

白い光や虹色の光に手を伸ばし掴もうとすると、光は触れると明滅し薄れていく。

飛びそうになる意識をなんとか保ちながら何度も何度も光を追いかけるが手には何も残らない。

そんな俺をラングヴァイエが楽しんでいるのがわかる。

《──惑わされず、欲張らず、迷わずに己を貫くのだ》

遠ざかる意識の中で聞こえたのは明らかに汚物とは異なる戒めるような厳しくも力強い声。

「欲張るな!?偉そうに!!」

焦って多くを掴もうとしたのが馬鹿だったなんてことは自分が一番わかってる!

「待ってろよ…お前もそのうちに必ず引きずり出してやるからな!」

そう叫んで以前と同じように気を引き締めるために自らの右頬を殴りつけ、口の端から流れる血を拭い改めて光を注視した。

多く望むから手が届かない、今必要なものを見極めるんだ!


──その後、分厚く敷き詰められた木の葉や生い茂る草の上で動く気力もなく、呆けて空を仰ぐ俺がいた。

いくつかの光を掴んだところで気力が尽き、真下に落下したのを覚えている。

おそらくこの草のベッドは地面への直撃を防ぐためにフライハイトが助けてくれたのだろう。

「助かった…痛っ…ユキ…」

切れた口の端と頬が痛むが、それよりもあまりのダルさに抗えずユキを呼び寄せるとその場で眠りに落ちた。


「大丈夫かね!?大和くんにこんな大怪我を負わせるなんて…!?」

まず目が覚めて一番に向かったのは聡一の所だった。

「いやこれは…あっ、いたっ、いたひ…」

大怪我と言っても頬が腫れ口の端がアザになる程度なのだが、これまでのステータスや耐性による頑丈さを知る聡一は心配しながらも俺に手当の必要な傷を与えた者を想像して怯えた。

薬をつけて頬にひんやりとする湿布らしきものを貼ってもらうと気休め程度に楽になった気がする。


「これ、おれ、じぶんれやった…」

相変わらず痛みに弱い俺は涙目でジェスチャーを交えて自分のやった事だと伝えた。

「何故にかね!?」

いっそう混乱した医者は思いついて紙とペンを寄越した。

「うむ、“協力者が強力で俺も強力になる為に殴った”…?全くわからないのだがね!?」

頭に嵐が起こった後は普段よりも頭が働かず、伝えるべきことが伝わらない。

文字を読んだ聡一は傷跡を見て俺より涙目になっている。

「らいじょーぶ、ありがと、帰る」

昔闘技場で異世界人の足を切り落としても元通りにした聡一の腕に期待して来たのだが、本格的な治療に必要な物は術式で閉ざされた先にあり、怪我の程度や理由などから仮眠室でとりあえずの手当を受けることになったのだ。

「何かあったら必ず言うのだよ!いいかね!?君に効果があるかはわからないが薬は痛む時に飲むのだよ!!…き、き、君に何かあったりしたら…」

聡一が振り切れそうな気配を察知して頭を下げると逃げるように家に戻った。


「いたひ…」

癒しを求めてユキを呼び、抱きかかえてひたすらゴロゴロして過ごしていると突然部屋にルカが現れた。

「怪我は大丈夫か!?」

なぜ知っている。

そしてもう念話やなんの前触れもなく直接部屋に来るほど遠慮がないのかと思ったが、俺も同じ事をしているので何も文句は言えなかった。

「さっきハナエさんの所に国医殿からの緊急の文書を兵士が持ってきて、そしたら君が大怪我で動けないと書かれていたらしいじゃん!それでハナエさんが心配して…オレに様子を…」


青ざめた顔でまくし立てるように喋っていたルカは、床でユキとだらしなく寝そべる俺と目が合って止まった。


「…怪我って」

聞かれて寝転がったまま頬を指さすと、ルカは微笑んでから踏みつけようとしてくる。

「おまっ、いっ…いたひ…」

足は避けたものの抗議しようとして顔の痛みに涙目になって、盾にするようにユキの腹の下に潜り込んだ。

そして念話を使って抗議する。

[怪我人に何をするんだ!本当に痛いんだぞ!?]

[オレがどんだけ心配したと思ってんだよ!?]

[いや…お前は喋れるだろう]

「あっ、そうか」


ルカは深いため息をつくとその場に座り込んでユキを引き剥がした。

旅をしてからのこいつは俺に対して扱いがひどくないだろうか。

まあ、全て俺の言いなりで感情を表に出さず、気を遣われすぎていた頃よりは居心地はいい。


「あのさぁ、変身しても傷や痛みは残るのか?」

なんと。

考えたことも無かった変身の使い方じゃないか。

ルカの魂が白の王の物ならもっとスムーズに事がはこんでいそうなものを…。

試しにくろこに変身してみる。


「これはすごいな、傷が消えて痛みも無い」

そして元の姿に戻ってみると、やはり傷はそのままに痛みもあるようなのでくろこの姿で固定する。

「ルカ、本当にさすがだな」

「どうせなら動物の姿がいいと思うんだ」

「ルカ、本当にブレないな…」

さて、痛みもなくなったのだから、苦労して得た知識を活かすとするか。


「心配をかけて悪かったな、お陰で助かった」

そう声をかけてもルカは帰らない。

「…何か用か?」

「アメリアちゃんに会いに行く約束は?」

「うっ」

それは忘れられるはずもなく、しっかりと覚えていたのだが、どこか気まずく先延ばしにしていたことだった。

「ルカ…すまないんだが…」

言いかけるとルカはハイハイとやる気なく頷いて、一度朧月に行ってから戻ってきた。


「はい、店の子から借りてきた服、それで一緒に行けばいいんでしょ?」

「悪い、助かる」

渡された服に着替え、ルカとアメリアの村に飛んだ。

そして嫌な気配がするが気にしないようにして、仕方なくガイルの宿屋の扉を開けるとやはりそこにはクリフトとセリがカウンター席に座っていた。


ルカに気づいたレモニアはカウンターから出てくると、勇者様と言っていたのはどこへやら、すっかり打ち解けて嬉しそうにジュースの話をし始めた。

「アレ!喜んでもらえたかい?」

「それが…渡せたんだけど、まだ感想は聞いてないんだよ」

「あれまあ?家に呼ぶって言ってたのに…」

そこで俺と目が会うと何か嫌な笑みを浮かべてルカの背中を叩いてカウンターに戻っていった。


「何の話だ?」

「いいのいいの」

そんな話をしているとセリがこちらに来て頭を下げた。

「ルカ殿、先日は本当にありがとう。今日はクロウ殿は一緒ではないのか?」

と、セリは俺を見て握手を求めてきた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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