出発
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
頭から煙を出しながらあーでもない、こうでもないとスマホでテケテケ打ち込んでいるので、消し忘れなどの文が多く残っているかもしれません。
無責任ではありますが、軽く流し読みをして下さるとありがたいです。
「ご馳走になりました。私たちのペガルスは北門前に待機させてある、そろそろ出発しようか」
食器を下げてセリが立ち上がり、それに続くように全員で宿屋を出る。
「じゃあ俺はブティシークに乗せてもらえるかい?」
「はい!スクレイド様が窮屈でなかったらぜひ!」
「え?スクレイドは飛ばないの?」
俺の何気ない一言に、光栄とばかりに輝いていたクリフトの表情がみるみる怪訝なものへと変わっていく。
「ヤマト、お前鬼か?」
そんなにひどいこと言った?
「いくら飛行魔法が使えるからって、魔法を使い続けるのは相当な疲労になるだろ?ましてや長距離の旅でそれは余りにも酷だと思うのですが」
そしてセリもスクレイドに気遣いながら俺に諭すように話す。
「勇者様、ペガルスは本気で走ると本当に速いのです。いくら森人様でも追いつくのは難しいことかと思います」
え?
二人は知らないの?
本気のルンナの空中走りに俺を引っ張りながら余裕で追いつくどころか追い越して、怖がる俺を見て空中で笑い転げていた、このいたずらエルフの絶叫飛行魔法の力。
アメリアも二人の言葉にキョトンとしながらも、口を挟まないように黙っている。
「ヤマトくんは俺を好きすぎていじめたいらしいよ、まあ俺としても女性ならレモニアちゃんだけど、男ならヤマトくんもアリだよね」
にこにこしながら気色の悪いこと言うな!エロフが!
「…ヤマト?」
クリフトは本気にして後ずさるんじゃない!
ああああああ!!もう!!
この二人はアホだ!!
そこでここぞとばかりにニヤニヤと俺の肩を肘で突いてきたのはガイルだった。
「スクレイドさん、ヤマト様も満更でもないんじゃないんじゃないですかね?二人は昨日会ったばかりなのに息も合って良いコンビになりそうじゃねえですか」
ガイル!お前はスクレイドを俺に擦りつけてレモニアから遠ざけたいだけだろうが!!
そしてセリはやはり口元に手をやり、真剣な表情で言う。
「お二人共、私にはそういった偏見はありませんが、道中は二人きりではありませんし、少女もおりますので見えないところでお願い致したく存じます」
ヤダもうこのお姉さんは!!
真面目なアホだった!!
「えっと、ヤマト様はルンナに乗って私と一緒に行きましょう」
アメリアが助け舟を出す。
心のオアシスだよこの子は…。
くだらない話でそうこうしてるうちに北門にたどり着いた。
待っていたのは興奮して首と尻尾をぶんぶん振るブティシーク、そして見たことのないセリの真っ白なペガルス。
その佇まいはしゃんとしていて、素人目にも毛並みが良く大切に手入れされているのがわかる。
しかも俺が近づいても落ち着いている。
「格好良いペガルスだなあ!」
ルンナも見た目は漆黒のペガサスと言ったところは中二心をくすぐられて格好良いんだが、興奮するとお顔が残念になる。
「ありがとうございます、ラファエルも喜んでいるようです」
名前も合ってる!
天使の名を持つ白馬に乗った女剣士ってセリに似合いすぎて、どこのアニメのヒロイン?
「それでは行ってきます」
アメリアはガイルとレモニアに頭を下げるとルンナに飛び乗った。
「必ず無事に帰って来い」
「色々な物を見て、勉強しておいでね」
二人は思い思いにアメリアに声をかけている。
そして俺は困ったことに気づく。
昨日まではアメリアの腹に手を回し、抱っこするみたいに掴まっていた。
しかし外見だけでなく、歳を知ってしまった今アメリアさんのどこに掴まればいいのか…
とりあえず見送りムードも最高潮なので早めに乗り込まねば。
昨日覚えた要領でルンナに飛び乗り、アメリアの後に座る。
するとアメリアが手前から両側に先が輪になった二本の綱を伸ばして俺に渡して持つように言う。
「これは?」
「ルンナの胴着に付いている後方用の持ち手です」
そんな便利な物があったのか!
そしてこの少女は有難いことにどこまでも用意が良い。
俺が両側の綱を握るとそれを確認したセリがラファエルで先に飛び立ち、ルンナも後を追って勢い良く飛び上がり空を駆け出した。
最後はクリフトとスクレイドを乗せたブティシークが後ろを護るように出立した。
「バッファヴァイス」
スクレイドが呪文を唱えながら、右手の人差し指で宙に何かの文字を書くような動作をすると三頭のペガルスが白く輝き出した。
「スクレイド様、一体なにを…」
クリフトが尋ね終わる前にペガルスたちが加速し始めた。
「ちょっとした魔法をね」
にっと笑うエロフ。
元々ペガルスは全速力で時速六十キロほどの速さだったが、今は体感で百キロは出ているんじゃないだろうか。
「こっ、これじゃ風圧で息が…って、あれ?」
焦るクリフトだったが言いかけて深呼吸をして目をぱちくりさせる。
「全く苦しくない!それどころか先程まで身体に感じていた圧も無くなり、とても快適になりました!」
違いのわからない俺は大袈裟な反応にスクレイド相手だから気を使っているのかと思ったら、本気で感動しているらしいクリフトに聞こえるように全力の声量で声をかける。
「よかったな!楽な旅になりそうだ!」
するとクリフトとセリが片手で耳を塞ぐ。
「ヤマト声デカいな!?」
「俺がかけた魔法が空気を調整するものだからね、普通の声で会話も出来るよ」
それは素直にすごいし助かる、だけど最初に教えといてくれないと、アメリアが俺の声で肩を竦めて苦しんでるじゃないか。
「ではラファエルたちが加速したのは一体…?」
テリスは今まで体感したことの無いほどの自分のペガルスの速さに戸惑っている。
「それも同じ、空気抵抗が減って走りやすくなったんだろうね」
「なるほど、ペガルスの負担も軽減しつつ速度を上げ、私たちも快適なばかりか意思疎通が出来るとは…流石です」
セリは感心してラファエルを手繰る。
「だってねー、長距離の移動でずっと無言なんて、暇なんだよねぇ」
最後の呟きが全てを台無しにしたと感じたのは俺だけだろうか。
天候に恵まれ、スクレイドの魔法のおかげでちょうどいい風と順調なスピード。
「この条件だと本当に五日ほどで王都につけるかもな」
クリフトは予定を確認する。
「そういえば、王都ってどんなところなんだ?」
「ヤマトはこの世界が三つの国で出来てることは知ってるか?」
「三つ?それは地図で見たけど、たしか六つあったと思ったんだけど?今から行くところも含めて詳しくはわからない」
事前に見た地図では大小六つの国があることはわかった。
そして今から行くのはアメリアたちの村が属するリゼイドという国の王都リーゼンブルグ。
「六つには変わりないが、実質三つみたいなもんだ」
意味がわからない。
国の数が三と六ではかなり違うと思うんだけど。
「まあ王都って言ってもヤマトの国ときっとそんなに変わらないぜ」
「王都なんて行ったことないぞ?」
「は?」
そう言うとクリフトは田舎者を見るような目で俺を見つめた。
「俺のいた世界では王様のいるような絶対王制っていうのか?それは数える程しかないんだよ」
確かそうだったよな?
日本から出たこともなく、現実の海外より異世界ファンタジーに興味深々なお年頃だった俺は、世界情勢や一般常識に疎いのだ。
「数える程?」
なるほど、国の数からして違うだろうし概念がそもそも異なるらしい。
「俺の世界には二百弱の国があってな」
「「「二百弱!?」」」
三人で同時に大声を張り上げる。
「それは、強い王のいる国がないという事なのか?」
「きっと血で血を洗う激戦の日々なのではないか?」
クリフトが絶対王者の不在に不安の色を覗かせ、テリスはとても恐ろしい想像をしているようだ。
どっちも違う。
「おかしいな、ヤマトくんからは平和の匂いがしたんだけど、それにしては魔法も体術も…いや待てよ?この世界とは理が違う?うーん…」
「ヤマト様…」
スクレイドは真剣に悩み、アメリアは哀れみの目を向けてくる。
「全部違う、地球の話はいいや。今はリーゼンブルグについて教えてくれ」
「チキュ?えーっと、じゃあまずはリゼイドの国力と地位についてだ」
クリフトが代表して話してくれるようだ。
「リゼイドはこの世界で四番目に国土が大きい。そして軍事力と経済力を併せるなら世界で二番目の強国と言ってもいい」
「二番目?それってすごい、んだよな?」
「ああ、もちろんだ。だがやはりエルフとドワーフ、妖精と精霊が住む妖精の国には国土も経済力も及ばない」
人間とその他の種族で棲み分けが出来ているということなのか、なによりクリフトの説明には自国を過剰に持ち上げているようなところは無さそうだ。
エルフであるスクレイドがどこに属しているのか、いまいちわからないが彼も話を聞きながら頷いている。
「妖精の国はプレーシアという。軍事力について話さなかったのは妖精たちに戦う意思が無く、また彼の国に攻め入る国もここ数百年存在しないため、誰もその王の姿も実態も知らないから比べようもないんだ」
なるほど、プレーシアは中立国のような扱いなのか。
「だからここからはプレーシアを除く五つの国に限定して話す訳だが」
と、前置きをしてからため息混じりに話を続ける。
「リゼイドを含む四つの国が不可侵の協定を結んでいる。国土こそ小さいが豊富な資源と技術者が集まり、経済力で一番の商人の国ハザーム、軍事力においておそらくリゼイドと並ぶであろうタルタクス、協定を結ぶ四つの国の血縁者が多く嫁いでいる小国のラディスフルト」
「お、おう」
もう覚えられそうもない。
ここまで読んでくださってありがとうございます。