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嫌な事実

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

そこで口を開いたのは、しばらく黙って話を聞いていた大和だった。

『なるほど、それでアレイグレファーとフィールファントは隠れているのだな』

スクレイドは途中まで記憶の中の光景をたどっていたが、大和の意味深な言葉に耳を疑った。

「アレイとフィールが…なんだって!?」

『二人はベルの手には落ちていない…ただあの二人は魂を持たないので今は身を潜め力を蓄えているのだろう、さて俺の方も少しは記憶が繋がったようだ…後は俺から聞くがいい』


その途端その場の空気感が変わり、急に押し出された俺は気まずさからどちらの顔も見れずに俯いた。

「汚物が自分から変わるなんて…大和なのか?」


「えーっと、大和だが…あのな、アレイグレファーとフィールファントは肉体を持たない存在だったらしい、プレーシアを見守っていた二人は思念体…といえば伝わるか?」

「二人が思念体…」

スクレイドはアレイグレファーとフィールファントを思い出し、今の自分と同じように力はあるものの出し切れていないという印象があった為に納得したようだ。


「ヤマトくん、なぜ君や汚物がそんなことを知っている?どういうことだい?君は前にもアレイグレファーの名を口にしたねぇ」

スクレイドはあの日、最初に17歳の俺とアストーキンで話をしていた時にその名前が出たのを覚えていたらしく、その時にベルの影を疑ったことを吐露した。

しかしその瞬間までは怪しいと思うところはなかった為に改めて俺という人物を知ろうとしたのだが、思わぬ拒絶にあったせいで地が出てしまったと言う。


俺もちょうどその時の事を思い出していた。


ステータスを見せようとした時のスクレイドの言葉、“俺の目に写してはいけない”と言われた理由。


そして属性をいじられるのだとばかり思い込んでいたせいで、スクレイドの打って変わってステータスを見せろという言葉に"お前の目的を知っている"と言ってしまったこと。

まさかそんな事で疑われているとは露ほども知らずに、今考えてみれば疑心暗鬼に陥っていたスクレイドの素のヤンチャすぎる一面が顔を出していただけだったのだろう。


しかしその時の俺にはスクレイド事情もわからず、様子が激変したことで殺されたのだと思っていた。

「それから…俺がお前たちと王都を離れた頃から異世界人が…いや、他にもいるのかもしれないが大量の者が無くなっている」

そう言うとスクレイドは頷いた。


やはりセリの集落で感じたものはスクレイドが経験したという、悪意の塊―行き場のない魂だったのか。

あの時絶対に阻止しなくてはいけないと思ったのは間違いではなかった。


スクレイドは思い詰めたような顔をして、ルカはスクレイドの過去に感情が追いつかずに二人のやり取りを黙って聞いているだけだ。

「ご、ごめんなスクレイド…俺もさっき歌声と戦いながらいくつかの記憶を掴んできたんだが…」

「歌声と戦う?何を言ってるんだい?」

ああ、それは歌声などと言われても意味がわからないのも当然だろう。


俺はアイツに聞き役を任せてフライハイトの歌声に混ざる記憶を、名前を思い出した時と同じように頭のおかしくなりそうな嵐の中から必死に探り、白く光る記憶を掴んでは離さないように集めることを繰り返していた。

そしてまだ嵐の影響でぼんやりする頭をかいた。


自分でも信じられないが、その断片的な記憶たちは一つの恐ろしい事実へと俺をいざなった。

「俺の魂がその白の王のものかもしれないんだが…」

「「はあぁあ!?」」

こんな事を突然言われて冷静でいろという方が無理だろう、スクレイドとルカが声を揃えて叫んでいる。


「俺も信じられない、というより実感がわかないが所々思い出してきた」

「ヤマトくんが、白の王?」

スクレイドは呆然と俺を見つめてブツブツと病的に独り言を呟き始めた。

「そうか…精霊の息吹を知ってて…ベルの監視を解いた力?…え?」

「スクレイド落ち着け!俺じゃない!魂が同じらしいんだと言ってるだろう!?俺自体は関係ない!俺だが俺ではなくてだなあ!!」

「白の王…ヤマトくん…いえ、貴方が…?」

「違うと言ってるだろう!俺だが俺とは関係ない俺かもしれない!」

白い顔からさらに血の気の引いたスクレイドが混乱を極めて問い、俺もなんとかこの事実を回避するべく奇妙な事を口走ってしまう。


「二人とも落ち着いて、それが本当だとしてさっき言ってた思念体で眠ってるって何?」

一人話の筋を戻そうとするルカに助けられ、スクレイドと俺はハッとして一度深呼吸をした。

「そう、その二人の人間だが…とにかく回復を待ち眠っている、一人はもう見つけた」

俺は片手で顔を隠しながら指さした。


指をさされたルカは自分の後ろを見てから、指を避けるように少し横に移動した。

動くルカを再び指さし、ルカは次第に嫌そうな顔になりその指から逃げようとする。

「オレぇ…?」

「ルカくん!?いや、フィール!そこにいるのかい!?」

スクレイドはルカの両肩を掴み全力でガクガクと揺らして呼びかけた。

「ルカじゃない、ユキの中にフィールが眠ってる…彼女は今で言う魔術師だったからか、魔力を集めやすいようにより自然に近い生き物を移動しているようだ」

「ユッキー!?」

「ルカくんユキを今すぐ出してくれないかい!!」

やはり肩を掴まれガクガクと揺らされるルカは、何度もユキを呼ぼうと試みたがこの空間では術式が発動しなかった。


俺は会ったことのない人物を知っているように話す自分に違和感しかない。

それにしてもまだまだ記憶はピースの足りないパズルのように穴だらけだ。

おかしいのはそこまで共に過ごしたという英雄王の記憶がなかったことだ、白く光るものはなるべく集めたと思ったのだが零してきたかどこかでその記憶だけ引っかかったような気がする。


「スクレイド、少し杖に触れてもいいか?」

「はい」

なぜ突然敬語なのか、スクレイドは杖を取り出すと両手を添えて手渡した。

俺は杖から魔力の流れを読みながら得た記憶に顔を引きつらせた。

「何かお分かりに?」

だからなぜスクレイドは真面目な顔をして敬語なんだ気持ちが悪い、そしてそんなスクレイドに残念なお知らせだ。

「これは怒ったフィールにアレイが吹き飛ばされてぶち当たった樹木が倒れて…もったいないから削って作ったやつだ…」

「えっ、薄…」

ルカがポツリと呟き、俺も気まずいながらも頷いた。


そして一瞬固まったスクレイドは声を絞り出した。

「し、神聖な木とかなのでは…」

「全然そんな事ない木だな」

「ならヤマトく…ではなく、王が力を注いで特別に作られたのでは…」

「力を注いだといえば注いだような…アレイに短剣を借りて形を整えて、トゲが無くなるまで黙々と革で磨いたな」

なんだこの思い出は。

白の王は暇だったのか?


スクレイドはそんな…と一言漏らすと放心状態になった。

「だけどなほら!あの土地が枯れていた時代に木と呼べるまでに成長したんだ、なっ?すごい生命力じゃないか…」

「あの時代と言われてもねぇ…」

そんな俺の必死なフォローにスクレイドは白目になりかけ、ルカが今はやめておけと首を振った。

「俺自身、こうして話しているよりアイツと交代して奥にいる時の方が記憶があるようなんだが、いざそこを出てしまうとこちらに持ってこれる記憶が制限されているような感覚なんだ」


そこでルカが手を叩いた。

「なるほど、エルフに精霊の息吹とかって力なら、人間に遺された術がスキルとなってオレたちに与えられるのか。白の王本人なら元々の持ち主であるヤマトがスキルを大量に保有してるのも理解できるね」

「…あー!!そう言う事だったのか!あ、いやよく気づいたなルカ」

俺は一瞬間を開けてから、上から目線でルカを褒めた。

「え?ヤマトまじで?今の話で気が付かなかったの?」

ルカは本気で俺をバカにするように言って、スクレイドも汗を流しながら言った。

「ふ、普通これだけの情報がそろったらわかるよねぇ…ね!」

そう言えば、スクレイドは最初からスキルの相談をした時に遺された力だのと言っていた。

しかし今の様子ではその答えにたどり着いたのはルカだけのようだ。


そしてルカは俺たちに手のひらを突き出した。

「ヤマトもスクレイドも頭が…じゃなくて、混乱がひどい。それぞれ整理してからまた話をしよう」


さすがルカだ。

なんと冷静な判断なのだろうか。

俺とスクレイドは己のポンコツぶりにガッカリしながらルカの言葉に従った。

「っと、そういえばこの空間は術式じゃないっぽいよね?一体何したの?」

「ああ、これはな、フ…ぅおおぉおうっ!!」

「大和!?どうしたらそうなった!?」

俺は言いかけて全身に怖気が走り鳥肌が立ち気持ちの悪い声を上げてしまい、二人はその様子にドン引きして後ろに下がった。

《──言うなということだろう、ヤツらの名前すら他の生物には毒になる、本当に厄介だ》

アイツの言葉に激しく同意して俺は首を何度も縦に振ってから言葉を選んだ。

「なんでもない…協力者が作った空間なんだが、その人?は他に知らせるなと。とにかく解散だ解散!俺は目を開けるぞ!」


無理矢理話を切り上げると、目に映るのは元いたフライハイトの作り出した森だ。

暴走さえさせなければ周囲に変化はないらしい。


二人もすぐに目を開き、ルカはさっそくユキを呼んだ。

「にゃあ」

「ユッキー休んでた?ごめんね、ユッキーはフィールって人に寄生?違うかな…取り憑かれてるの?」

ルカは悪意なくそんな事を言うと、その言葉を聞いてスクレイドが悲しそうな目で見つめた。

スクレイドに起こった出来事を聞いた後で寄生やら取り憑くという言い方はいくら無神経な俺でも出てこないだろう。

やはりさすがルカだが、やめてやってくれ。

「にゃー?」

気配を確かめるためにユキをじっとりと見つめると、ルカが俺の顔の前に近づいた。

「なんだ?ユキが見えないんだが…」

「いやユッキーを見る目つきがいやらしくて視線がくどいからつい」

お前こそ俺をどんな目で見ているんだ。

「やはり気配はあるようだが反応がない、しばらく休ませておこう」


そして解散すると俺は森の家でごちゃごちゃとした記憶の整理を始めた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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