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ガントリィとクルフル2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

するとクルフルは首を振った。

「そうではない、此方も聞かねばならぬことがあったのよ、よく死なずにいてくれた」

「聞きたいこと…?」

気絶したガントリィを回収し、辺りの木々に生命力を注いでいるとクルフルは気だるげに頷いて続けた。

「娘、エルフと行動を共にしておらぬか?」


なぜこいつがスクレイドのことを?

「いいや?エルフに知り合いはいないが、それがどうした?」

「ふむ、半信半疑、娘の魔力の後をそこな犬ころが辿ったところ、エルフの匂いもすると言うてな、そのエルフを探しておるのよ」


追われていたのはスクレイドの方だったのか、俺のあからさまな嘘はどこまで通じるものか。

それにしてもルクレマールの者が中立のエルフを探している?

ルクレマールにエルフ、嫌なキーワードだ。


「エルフは知らないが興味がある、探してどうする?」

「知らぬなら用はない、犬ころ共々灰と散れ」


クルフルはもう話をする気はないらしく、またも大量の術式を展開し始めた。

仕方なくガントリィをスクレイドのいる木の下に放り、ガントリィを守るフリをして一帯に防御結界の術式を展開した。


「クルフルは話の出来る美人なお姉様かと思ったんだがな、残念だ」

「嬉しいことを、来世は虫程度には可愛がってあげようね、なるべく楽に屠ってやりましょう」

お立てと嫌味の境目に緊張感が走る。

俺はフードを深く被った。


「笑止千万、その程度で防いだつもりとは、錯乱もここまで行くとかわゆいのう」


俺がこれから何をするのか知らずに、その高みから油断して笑っているといい。

俺の指先に集まった魔力の光は青、そのまま術式を紡ぐと最後に黄色の魔力で中心に点をつけ、クルフルの頭上に五つの術式を展開した。

その術式からは雨が降り、大地に燃え盛る炎は煙を上げて僅かに勢いを落とした。

「無知蒙昧、炎に巻かれ水が蒸発していきよる…森の火を消す前に己の身を守れば良いものを…ふふっ、ただの阿呆であったのう」

「クルフル、そういう自分はどうだ?」

「この煙の中まだ喋れるか、どう、とは?」

「自分には水耐性を強化してないのか?」


クルフルはその言葉に自らを見た。

髪も服もぐっしょりと濡れ、足からは水が滴り落ちた。

「此方が濡れている…?水属性耐性はしておるのに…そんな事よりも何を…」


その直後、頭上の術式の中央からクルフル目掛けて一閃の雷が落ちた。

「ぎゃああああああああああああああぁぁぁ!!!」

耳を劈くような悲鳴と落雷音、焼け焦げた塊が地上に落ちてクルフルの展開した術式と共に炎が消えた。



「おいクルフル、息はあるか?」

落下してきた塊に声をかけるが返事はない、念の為生命力を全て吸収し息の根を止めた。


「それにしても火属性なのに炭になって死ぬとは残念な奴だな」

フードを取ると、水色に金のグラデーションになった髪を元の色に戻して腰を叩いた。

[お疲れ様、この子はどうするの?]

[忘れていた]

スクレイドが未だに木の下で伸びているガントリィに木の葉を落としながら言った。


「起きろガントリィ!」

犬耳を持ち上げ耳元でそう叫ぶと、ガントリィはビクッとしてから目を覚ました。

「なんだッ!?どうした!?火事は!?ヤンのかゴラァーー!!」

「黙れ」

「あっ!?うわっ痛ってえぇえええーーーーー!?」

起きた途端にうるさくなるガントリィの頭をぺちりと叩きこちらを向かせると、俺の顔を見るなり襲いかかろうとして、やっと手足の自由がないことに気づいたらしい。

「術式で俺を縛ってどうする気だァ!!クルフル!!クルフル!!」

そして探すのは相方だったが。

「クルフルならあそこで焦げてるぞ」

俺が指をさすとガントリィは口をパクパクとさせ、恐る恐るこちらを見た。

「お前がやったのか…!?そんな事したら誰が火を消すんだよ!馬鹿野郎!!」

「手の込んだものならいざ知らず、即興で作ったものなんてのは術者の魔力が途切れれば消える」

「じゃあ火は消えたんだな!?」


相方の死よりも火の心配とは、どれだけ火が怖いのか?獣かとツッコミたくなる。

「ああ、そこでだな、また二つ質問だ」

「なんだよ!?」

こちらがにこやかに接しているというのに、犬耳少年は怯えながら目に涙を溜めた。

「はあ…、とりあえず一つ目。最近亡命した異世界人はどこにいる?行くあてに心当たりはないか?」

「知らねぇ!本当に興味なくて知らねえんだよ!」

とうとう涙が零れたが、こいつは犬じゃない、無差別に人間を殺そうとした敵だ。

そう自分に言い聞かせ質問を続ける。


「じゃあ最後の質問だ、なぜエルフを探してる?」

「それは…言えない!!」

[それは俺が直接聞こうかな]

ガントリィが首を激しく振っていると、スクレイドが楽しそうに木から降りてきて、俺とガントリィの間に割って入るように立った。


[急にどうした?]

[俺の事だから、いいよねえ?]

自分が追われている理由ぐらい自分で知りたいものだろう。

そう思いスキルを解除すると、突然目の前に現れたエルフに驚いたガントリィは再び気絶した。


「…お前」

「俺のせいかなあ!?」

そういえば、俺が追われていたのはこいつらの襲撃の邪魔をしたからではなく、スクレイドといたからという事か?

「お前のせいだろう…全部…」

「どうしてそうなるのかなぁ!?」

そう言っている間にスクレイドは杖を出したのを見て、俺は思わずガントリィを守るように立った。

「虐待はだめだろう」

「えっ!?そんな事しないけどねぇ!?さっきおたくクルフルを」

「虐待はだめだ」

「んん!?無茶苦茶だねぇ」

「じゃあその杖をどうするんだ?情報を吐くまで殴るのか?」

「まさか、俺がそんな肉体派な行動に出るわけないでしょうに…」

そう言ってスクレイドはマントからユキのおやつを取り出した。

「なぜ持っている」

「たまに遊んでるからなんだよねぇ、これを杖にぶら下げて話すまでこう、お預けってのはどうだい?」

「ああ、それは少し効果がありそうだな、しかしコイツは耳と尻尾がいけないな」

つい気になってしまう。

「じゃあ何かスキルで耳と尻尾を切り離して考えられないかなぁ」

「出来ないことはないが、それでもそこにあるものはあるだろう」

「どこまでこだわるんだい?」


「お前らっ!!拷問の相談かァ!?この!人でなしいいーーーー!!!」


ガントリィが叫び、そちらを見るとなぜだか涙目になっている。

俺とスクレイドは首を捻った。


「「ええ?」」



──そこで再び気づいたガントリィは、目の前で繰り広げられるやりとりに戦慄した。

「だから話をするまで、こう…」

何かを言いながら全力で杖を振り回す謎のエルフがニヤリと笑い、相方を倒した女は余裕と優位であることを誇示すようにこちらに背を向けている。


「ああ、それは少し効果がありそうだな、しかしコイツは耳と尻尾がいけないな」

「じゃあ…耳と尻尾を切り離して…」


コイツらはなんと恐ろしいことを話しているのか、動けない自分を杖で殴りその上耳と尻尾を切り落とす!?

行動を共にしていたクルフルは倒され炭になって転がっている。

そう、“炭”つまり自分にとってこの世で一番恐ろしい火あぶりにあったのだ。

そう結びつくと一気に恐怖が込み上げて思わず叫んでいた。


「お前らっ!!拷問の相談かァ!?この!人でなしいいーーーー!!!」


「「ええ?」」



──いつの間にか気がついていたらしいガントリィは、俺たちの会話を聞いて鬼気迫る表情で涙声の訴えをした。

「俺をどうするつもりだってンだぁー!!うわああああ!!」

そしてパニックに陥っている。

これはどうしたものかとスクレイドが覗き込むと、全身の毛が逆だって涙ながらに固まった。

「ヤマトくん何をしたのかなぁ?これじゃ話にならないんだけど」

「知ってるだろう?まだ何もしていないんだが」


その言葉に反応し、ガントリィは叫んだ。

「まだ!?」


怯えるガントリィの目に光はなく、焦点の定まらない視点はどちらを捉えているともわからなかった。

「もういい、殺そう」

俺が手を前に出すと、今度はスクレイドがガントリィの前に立ちはだかった。

「どうした?」

「まだ話を聞いてないんだけどねぇ…」

あくまでスクレイドは自分が関係していると思われる話が気になっているようだ。

それだけではなく、ルクレマールからベルの気配がした事が大きいのだろう。


「じゃあ任せる」

「えぇ…」

「俺はこの犬に対して二つの選択肢しか持ち合わせない」

そう言うと、スクレイドが呆れ気味に聞き返した。

「…一応その二択を聞いておくかなぁ」

「殺すか、殺してやるかだ」

「ん?んん??」

スクレイドはボケーッと考えて、心底意味がわからないというふうに頭を抱えた。

「解き放つ選択肢は無いだろう?力づくで吐かせる気が起きないのが難点だが、ここまで見られたのなら喋らずに無駄に死ぬか、喋って俺の役に立って楽になるかだ」

それを聞いたスクレイドはドン引きしてガントリィの頭を撫でた。

「面倒は俺が見るし、散歩にも連れていくかなぁ?」

なぜ言いきらない。


「スクレイド、俺は先に戻るぞ」

「はいはい報連相」

その合言葉はまだ続いていたのか。

とにかくこの様子では埒が明かないと判断し家に戻ろうとした時、ふと森から離れた場所に何か懐かしい魔力の揺らぎを感じた。


惹き付けられるようにその場に向かって飛び続け、行き着いたのは何の変哲もない平原。

地上に降り立ち呼吸を整え、目を瞑ると目の前に白い蝶がひらりと現れた。


「ああ、そなたまた会ったね、今度はしかと思い出したよ」

「お前はシャルトゥームで話した奴か?」

「シャルトゥームとはなんだったか」

「お前に会った場所にあった街の名だ」

蝶は俺に気づくと肩に止まり、少し考え込んだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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