成長
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
気づいてない?
「あ!疲労回復の魔法ですか!?」
そういう事は本人の為にならないということか?
それは確かに俺が勝手にやったことなのだから言い訳のしようもなく、教育方針を知らなかったとはいえ、余計なことをして甘やかしたと思われたのかもしれない。
「旅に出るのにあまり疲れてても可哀想だと思ったんですけど、つい、すみません」
「は?ヤマト様…アンタ…」
思い切りバカを見るような目で見られる。
えっ!?それじゃないの?
「あ!じゃあさっきアメリアに変って言った事ですか!?」
「そんなこと言ったのかい!?」
それも違うのか!?
レモニアは深いため息をついて俺とスクレイドを並ばせる。
そしてその前にアメリアを立たせてさらに押し出す。
「ちょ、アメリア?どうしたの?」
こそっとアメリアに問いかける。
「あの、それが…私もさっき着替えようとして気づいたんですが」
「なんの騒ぎだ」
その時、起きてきたガイルがアメリアを見て固まり、驚愕のあまり腰を抜かした。
「ア、アメリア!?その姿はどうしたってんだ!?」
「「なにが!?」」
俺とエルフにはさっぱり理解できない事態だ。
「嘘だろ、わかんねえのか?アンタら…」
ガイルにまで呆れたような顔をされる。
「アメリアっ、一体なんなんだ?」
埒が明かないので本人に尋ねると恥ずかしそうに答える。
「背が、伸びました…十五センチほど」
え?
「起きた時視線が高いし、感覚がおかしくてあちこちぶつけたり、つまずくから変だなとは思ったんですが、鏡を見たらびっくりしました」
「えええええええ!?十五センチ!?それだ!!違和感の正体!!」
そうだ!目線の高さがおかしかった!
ワンピースのようなパジャマから出ている手足が長かった、気がする!
いや、毛布に隠れててほとんど見えてなかった!
言われてみると俺の胸くらいまでだった身長は肩と並ぶ程になっている!?
「本当に気づいてなかったのかい!?」
驚きながらレモニアが突っ込む。
「毛布で見えなかったし、見えたとしてもありえなさすぎて脳が認めるのを拒否したんですよ!違和感はあったんですよ!?」
「そうか!!抱っこすれば気づいたかもしれない!」
「そこですか!?」
アメリアにまで突っ込まれた。
「あのねぇ、俺にわかれってのは無理な話だからね?」
突然スクレイドは偉そうに話に割って入る。
「君たちは他の動物の成長や老化を細かく見分けられるのかい?」
え?エルフから見た人間ってそういう事なの?
「それに嬢ちゃんだってファーレン夫妻が連れてきてから十五年と少し…正確な歳はわからないけど十五、六歳のはずなんだからねぇ?今までが不自然だったんだよねぇ」
…はい?
十六歳?
何かの間違いじゃなくて?
幼女寄りの少女と思って一緒に寝てしまった…、隙あらば抱っこして歩いてしまったじゃないか!頭が追いつかない。
「この世界の人達は成長期が極端なんですね…」
「そんなわけがねえからこうして慌ててるんだろうが!」
俺の混乱を極めた呟きはガイルにまで突っ込まれた!!これはショックだ。
「もし嬢ちゃんが急激に成長したってことの原因なら心当たりはあるけどねぇ」
「なにが原因なんですかい!?」
「魔力に多く触れたからだよ」
魔力?俺のせいってこと!?
「カン違いしないでほしいなぁ、ヤマトくんのせいじゃない」
スクレイドはやはり考えを読んだように注意する。
「嬢ちゃん、背丈に合う服があるなら着替えておいで」
「はい、さっきレモニアさんが用意してくれたので…」
アメリアが食堂から出たのを確認するとスクレイドは話を続ける。
「嬢ちゃんが純粋な人間種じゃないのは知っているよねぇ?彼女の成長が遅いのはなんらかの他種族の血が混じっているからだと推測している」
アメリアが人間じゃない?
そしてそれを二人は知っているらしく、不安そうな表情で頷いて聞いている。
「他種族といっても俺にも判別がつかない。こんなことは滅多にはないんだけど、おそらく魔法の得意な種族とのハーフ、もしくはハーフどころか全くの未知の種族の可能性もある」
ここにきて急にファンタジックになってきたが、このことをアメリア本人は知らないのか?
「そこで嬢ちゃんは魔法がかなり得意な種族だと仮定すると辻褄が合うんだよね、今までは魔力にあまり触れていなかったせいで、成長が遅れていたのかなぁって」
「魔法に?」
ガイルとレモニアはその話を真剣に考えながら聞いている。
「嬢ちゃんの魔力回路を覗くとかなりの魔法の素質がある、なのに魔法を使ったことがなかったから魔力回路が閉ざされたままだったんだろうねぇ、もしかしたら使っても気づいていないだけかもしれないけどね、とにかく使用量が嬢ちゃんの成長と合ってなかったのか確かではないけどねぇ」
「なるほど…」
ガイルは納得したように頷く。
訳がわかってないのは俺だけのようだ。
さらにそれを見透かしたようにスクレイドは例える。
「成長期に適切な運動量とバランスのいい栄養をとらないと身体はどうなるかなぁ?魔法を操る種族にとって運動が魔法の使用、栄養は魔力だよ」
「あっ、わかりやすい!ありがとう」
「話を続けるよ、話に聞いたところ命に関わる傷を負って回復してもらったらしいからねぇ、そこに魔力をわけてもらって自分で魔法を使うことで、やっと本来の姿になってきたという事だろうねぇ」
「それは身体には害はないので?」
ガイルは心配そうに聞くがスクレイドは穏やかに笑う。
「むしろ今までが不自然だったんだから、心配はないんじゃないかなぁ」
「それなら良かった…」
少し寂しそうにしながらもガイルは安心したようだ。
「手遅れにならなくて良かった!」
軽く放たれたエルフの言葉に三人で固まる。
「「「はい?」」」
「だからね、成長が遅いだけだと思いこんで放っておいたら魔力が暴走して何が起こったか予測も出来なかったかなぁ」
おいおいおいおい!!
このエルフさらっと恐ろしいことを言ってるんですけど!?
「だから直接会わずともこうしてしょっちゅう様子を見に来てたんだけどね」
「ありがとうございます!」
予想に反して感謝を述べたのはガイルだった。
「森人が一つの村にここまでこまめに定期的に足を運んでくれるのは滅多にないことなんだよ」
レモニアが教えてくれた。
それはレモニアが目当てというだけではなかったらしい。
しかし謎なのはどうもこの事をアメリア本人には知られないようにしている事だ。
「なぜアメリアに言わないんだ?」
この際空気が読めないと思われようが構わない。
俺が知っておかなければ口を滑らせてアメリアにとって良くない状況になりかねない。
「嬢ちゃんが人間ではないと自覚するのがまずいのさ」
今まで見たこともないような真剣な様子でスクレイドが答える。
「なぜ?」
「出自を知りたがるだろうね、種族によってはハーフを穢れた血だと許さない者もいる、もう少し嬢ちゃんの事がわかってから話をするべきだと思うよ」
アメリアは実の親を知らない?それを知ろうとすると危害が及ぶと。
まあ今はここまでしか言えないね、とスクレイドが肩をすくめて申し訳なさそうに付け足すと、レモニアがアメリアの様子を見に行った。
「わかった、俺も迂闊な事を言わないように気をつけるよ」
アメリアと居られるのは王都に着くまで。
そんな俺が深く首を突っ込んでいい話ではないのかもしれない。
ガイルが朝食の準備を済ませた頃、クリフトとセリが店にやって来た。
「おはようございます」
昨日の言葉通りしっかりと休んだのか、クリフトは元気に挨拶をする。
「おう、お前らの朝飯もあるから食ってけ」
「これはガイル殿、お気遣いありがとうございます」
セリも不調はなさそうだ。
その時カウンター裏からレモニアと少女が出てきた。
「皆さん、おはようございます」
クリフトとセリに挨拶をしてから俺の元にやってくる。
「準備した着替えや装備が合わなかったのでレモニアさんが以前使っていた物をお借りして詰め直してきました、遅くなってしまい申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げる。
しかし俺は身なりを整えた姿を見るとやはり美少女だと再確認する。
髪がボサボサだったのは成長に伴って伸びていたせいだったらしく、レモニアに切りそろえてもらったと教えてくれた。
「今のままでも可愛いと思っていたけど、もっと成長したらすごい美人になりそうだ」
口説いているわけではない。
嘘はつかずに女性を褒めろ、それは女性優位の家庭で叩き込まれたことだった。
それがまたも自然に出てしまったのだが、ガイルはこれみよがしに舌打ちをしている。
「そ、そ、そんなっ」
真っ赤になって俯いているアメリアから言葉にならない声が聞こえる。
「ガイルさん?このお嬢さんは誰ですか?」
そんな中クリフトは空気を読まずに悪気なく紹介を求める。
するとセリが驚きを隠しきれないといった表情でクリフトの肩に手を置いて制止し、首を振る。
「彼女はアメリアだ」
「え!?」
顔を赤くしながら肩に置かれた手と、アメリアと呼ばれる少女を交互に見てわかりやすく混乱している。
わかる!そうなるよね!
そして口をパクパクさせながらスクレイドを見る。
するとスクレイドはニッと笑いかけ、
「成長期の女性の変化には目を見張るものがあるよねぇっ」
と、念を押すように語気強めに二人に声をかける。
「え、ええ?」
うろたえるクリフトを他所にセリはアメリアの前に行くと頭を撫でて頷く。
「美しくなったな。この手の大きさと身長なら今まで習いたがっていた剣の稽古もできるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
アメリアは少し照れながら素直に喜んでいる。
「私に出来ることなら力になろう、気兼ねなどせずなんでも言ってくれ」
「はいっ!よろしくお願いします!」
ヤダ!!
かっ、格好良いー!!!
ナチュラルかつスマートに容姿を褒め、さらには剣技の可能性まで示唆して急成長の不安を払拭するとは!!
クリフトは事態を把握出来ないらしく、放心状態のまま朝食を食べていた。
そしてアメリアを除く全員は心底思っていた。
セリが同行してくれる事になっていて助かったと。
ここまで読んでくださってありがとうございます。