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セリの集落に襲撃

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「完成前…今ならなんとかなるかなぁ?」

スクレイドがそう言った時、地上から女の叫ぶ声がした。

「皆!一箇所に集まってくれ!守りきれない!!」

必死に周りの逃げ惑う人々を誘導して叫んでいるのはセリだ。

いつの間にかあちこちに召喚術式が現れ、そこからは大量の骸骨のようなアンデッドが這い出てきた。


俺の術式のせいか、集落には入り込めずにいるアンデッド達は、見えない壁のようなものに群がり言葉にならない不快な声を上げている。

スクレイドが術式の上からさらに白い結界を張り、それに触れたアンデッドの体は崩れ、再生を繰り返す。

「スクレイド様!?ルカ殿、クロウ殿!!」

俺たちに気づいたセリが地上から声を上げると、混乱していた集落の人々は森人様の出現に安堵したのか、徐々に落ち着きを取り戻したが、敵の術式からは続々とアンデッドが這い出てくる。


「ヤマトくん、これはどうしようか?」

「また嫌な相手だな、生命力が無いモノに吸収しても崩れるだけだ」

その会話はルカには理解できず、地上に降りてユキと共に白い結界に群がる魔物を倒してはキリがないとボヤいている。


「アンデッドだからねぇ、俺の出番かな?ヒルフェ・ヴァイス!」

スクレイドが杖を取り出し、呪文と共に杖を天高く掲げると輝く白い球体が空中に現れた。

球体からは白い光が広範囲に降り注ぎ、その光に触れたアンデッドは塵になって消えていく。


それを見た結界の中の人々は歓声をあげた。


「汚物に感謝、かなぁ?今なら少しだけ力が使えると思うよ」

「汚物と呼ぶのはやめろ、使えるからと言ってあまり…お前の好きにしろ」

しかし召喚術式からは途切れることなくアンデッドが出てくる、とにかく術式をなんとかしなければ。

「俺はまず地上の術式を解いてくる」


時間稼ぎの封印術式を作り、アンデッドの出現を抑えると敵の術式を解いていく。

そうこうしている間にも上空では巨大な術式が完成しようとしている。

そこからはこれまでに感じたどれよりも悪意と狂気のこもった嫌な魔力が漂い、肌がピリピリとする。


すると、スクレイドの顔色が変わった。

「また…アレをしているのか!?なんでっ…」

「スクレイド!?アレを知ってるのか!?」

「ダメだ…アレは絶対に顕現させるわけにはいかない!ヤマト!俺は持てる全ての力を使う!!それでもどうにかなる保証はねえけどなあッ!!」


スクレイドに先程までの余裕はなく乱暴な口調には怒りと憎しみが滲み出て、悔しさを込めた目で術式を睨んだ。

「スクレイド!?」

この状態のスクレイドは…昔見た事のある。

《──間に合わなくなるぞ》

わかってる!あの術式から出てくるモノが何者なのか知らないが、絶対に出してはいけない!

《──俺ノ力を使エ》


「スクレイド落ち着け!なんとかする!!」

だめだ、スクレイドは術式に手出しができない…精霊の息吹を使えば術式を弱めることは可能かもしれないがそれでは遅い、アレは出てきてからじゃ手遅れになる!

「バカ言うんじゃねえ!アレは…」

「わかっているっ!!」

焦るスクレイドに怒鳴り、俺は心を落ち着かせて自分に言い聞かせるよう強く念じた。


お前の力は使いたくなかった、でも仕方ない、そんな事は言っていられないな、一瞬だ。

《──次ニ目覚めたらドノ俺がいるのダロウナ…》


周囲の召喚術式と空中で今にも完成しそうな術式を頭の中に捉え、それらを対象にして心の中で呪文を唱える。

ツェアレーゲンシュバルツ。


その瞬間、空に蒼黒く光る魔力が赤黒い術式を覆い、周囲の術式は全て分解され俺のかざした手の中に収まっていく。

術式から漂っていた邪悪な気配も立ち消えた。


そして俺に残るのは込み上げる黒い感情、憎悪、悲哀、忌諱、絶望…"コイツ"の力だけは使いたくなかった…。

魂が深い蒼から蒼みがかった黒へと染まっていく。

目の前が暗くなり、意識が遠のきそうになる。

「おたく…その力は一体…」


スクレイドがこちらを見て何かを言いかけた時。


「クロウさん!!」

遠くで聞こえたのはアメリアの声。

近くの村から武装した男たちが駆けつけ、その中にはアメリアとクリフトがいた。

集落から出てきたセリも最後に会ったあの日の俺を記憶し、不安そうにこちらを見た。


その声に朧気ながらも意識を取り戻し、声のする方を見た。

《──もう遅イ》

『クリフト!なぜアメリアを連れてきた!!」

力任せにそう怒鳴ると、クリフトは困ったように言った。

「…いち早く異変に気づいたのがアメリアだからだ」


そんな理由で!?憎しみが湧いてくる、感情を抑えることが出来ずクリフトに走りより胸ぐらを掴んだ。

『だからといってこんな危険な場所に!!」

「クロウ殿!やめてくれ!」

セリが後ろで叫んでいるがそんなの知ったことではない、よくもアメリアを危険にさらすような真似を…!


その時クリフトを掴んでいた俺の手を包むように握ったのは小さな二つの手。

『アメリア…?」

「ごめんなさい、私がどうしてもとお願いしたんです!クリフトさんを怒らないでください」


冷たかった手がアメリアの手の温もりで体温を取り戻し、どす黒く渦巻いた感情が溶けて消えていく。

クリフトから手を離すと身体から力が抜けてその場に座り込んだ。

ああ、“俺”に戻れた。

《──ナゼ…》

「こんな所に来たらダメだろう?アメリアに何かあったらどうするんだ…」

「それでも、あなたに会えると思ったんです」

アメリアはそう言うと俺を抱きしめた。

俺に触れたらこの少女まで傷つけてしまう、早く突き放さなければいけないのに。

アメリアから優しい魔力が大量に流れ込んでくる。

出来ることならこのままずっと…


「ぐえっ!」

その時、俺の服を荒々しく掴みアメリアから引き離したのはスクレイドだった。

「スクレイドさん…?」

アメリアは驚いてスクレイドを見つめた。


駆け寄ってきたセリもクリフトとアメリアを庇うように間に入り、戸惑いながらも礼を言った。

「スクレイド様、クロウ殿、ルカ殿、窮地を救ってくださり感謝致します、クリフトもアメリアもありがとう」

ルカは俺に対して空中に位置し、ユキを地上に降ろしてクリフトを群衆に押し込ませ、渡しておいた結晶を握りしめた。

「礼には及ばないよ、大事に至らず良かったね」

スクレイドはどこか冷めた様子であしらうように言うと俺を抱えて飛び上がり、ルカもそれに続いて空に消えていった。


──死の森の木々が深く生い茂る中。

二人対一人は無言で睨み合った。

「痛みも苦しさもない、だが後ろ首を掴まれて連行されるのは不快だ」

「「どっち!?」」

「…汚物とかじゃない方だ」


その言葉に二人は警戒を解き、安堵の溜息を零した。

「確かに少し危なかったが…」

正直にそう言うとルカが真剣に悩み出した。

「大和の多重人格やばい…」

「少しとかの問題じゃないよねぇ…」

「スクレイドも人のこと言えないだろう…、なんだよあのヤンチャっぷりは」


疲れと緊張感の緩みから三人でその場にだらしなく座り込んだ。

「もうおたくは嬢ちゃんから離れない方がいいんじゃないかい?」

どういう意味だ?

久々の、アストーキン以来のアメリアの抱擁を雑に唐突に引き剥がしておいて、どの口がそれを言うのか。


しかしアメリアを含むあの場にいた人間に危害を加える可能性があった以上、反論もできないのが痛いところだ。

ルカは水晶を仕舞うと俺に冷たい視線を送った。

「二人とも、汚物の気配によく気づいたな…」

そう言うと、スクレイドも冷たい視線を送ってくる。

「俺はなんとなくわかるんだよ」

ルカがそう言い、スクレイドは鋭く指摘した。

「おたくが元々使える手があるなら最初からやってるんじゃないかい?それに…今日は気持ちの悪い魔力を感じたんだよ」


俺はオカン属性二人に説教を受け、現実逃避するようにアメリアの癒しの温もりを思い出していた。

「で、ここからおたくと少し真面目な話がしたいんだけどねぇ」

そう言ってスクレイドはルカをちらりと見た。

俺とルカは顔を見合わせたが、すぐにルカは立ち上がった。

「報連相!それだけはよろしく」

「報連相!わかっているよ、ごめんねぇルカくん」

二人はアイツの件で取り決めたと思われる謎の合言葉を交わし、ルカは俺に一度視線を送ったが俺が頷くと王都に消えた。


「気配は薄めた、話してもいいぞ」

その言葉をきっかけに、スクレイドは杖を回した。

杖から出現したのは白い円の魔法陣。

「汚物がこれを知っていたね、おたくは?」

「今ならわかるな、精霊の息吹と呼ばれる力だろう?」


白い魔法陣を人差し指でつつきながら、俺が適当に答えるとスクレイドは苛立ちを見せた。

「どこまで何を知ってんだ?」

「お前その口調やめろ、ほんっとに俺の事を言えないだろう、お前の中の汚物をしまえっての!そうじゃないと話にならない。そうだろう?」

俺の軽い様子に、スクレイドはため息をついて頭を押さえてから首を振った。

「そうだねぇ…気をつけるよ、それで答えは?」

冷静さを取り戻したスクレイドは白い魔法陣を消した。

「さっきの汚物との入れ替わりで得た、僅かな記憶の共有による認識でよければ」

「それを聞かせてもらえるかい?」

俺はノイズの走る記憶を辿りながら、少しずつ話を始めた。


「精霊の息吹は王が消えた国で、エルフの代表である巫女に受け継がれる力、だな?」

スクレイドは頷いた。

「お前っ、代表で巫女なのか!?」

「ヤマトくん!?話が進まないんだけどねぇ!?」

自分の言葉に驚きながら聞き返すという奇妙な現象を挟みながら、スクレイドに突っ込まれつつさらに記憶をたどる。


「お前には悪意による監視の目が付いていた、それは…汚物が一時的に解除したが」

「その監視の気配を辿ることは出来るかい?」

「巧妙に隠されて霧を掴むような感覚で今の俺ではわからないな、汚物と代わるか?」

「冗談は無しにしてくれないかい?」

またスクレイドに睨まれ、俺は俺の知る限りを絞り出した。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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