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クロウ、ボロがでる

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「はい!?上限が上がって…うわっ、どこまで行くの!?」

「お?お前はそんなに上がるのか」

なるほど、伸び代も個人差があるらしい。

「止まった…」


ステータスの上昇にうろたえていたルカはそう呟いて、自身の動きも止まって固まっていた。

さて、気になるのはあの場に残してきてしまったアイツらだが、その気配はもうアメリアの村に居ることがわかる。

気配を読む力が強まったのもアイツの影響か。

ならばスキルを吸収する範囲が増えたのも同じかもしれない。

「アメリアの村に行くぞ」

「あ、ああ」


人に見つからないよう村の入口に飛ぶと、俺は適当に歩き始めた。

「どこに行くの?」

「やっておくことがある、とりあえずお前だけ派遣された勇者として宿屋に挨拶に行ってくれ。あとで俺も行くが、可能ならスクレイドも呼んでおいてくれ。奴は…また王宮にいるな」

「わかった、待ってるよ」


ルカと別れて防壁、─といっても王都や途中にある街を見たあとだとただの囲いなのだが─を眺めた。

門の前に立つ村人は何事かと見知らぬよそ者である俺を遠巻きに見ていたが、俺は気にすることなく作業を開始した。


人差し指に魔力を集め調節すると、指先に細い糸のような光が出現した。

そのまま筆記体のような文字と数式を書くように指で宙をなぞる。

組み込むのは悪意を持つ者からの認識を外すこと、防御力の強化、各種耐性、魔物が近づくと弾く力…


様々な文字と文様を描くと魔力で紡がれたそれらは生き物のようにうねり、踊るように中心に集まると一つの丸い円に収まり術式が完成した。

大きさは手のひらサイズだが、バジリスクの時に数がものを言うこともあるのだと知った俺は、それを所々効果を変えつつひたすら作り続けた。


傍から見たら何も無い空中で指を遊ばせる不審者である。

出来上がった無数の術式を一度天高く飛ばし、上空にいくつか残して、ほかを全て拡散して防壁の至る所に埋め込んだ。

あとは少しずつ増やして範囲を拡大していけば、この辺り一帯は以前よりは安全になるだろう。


そして術式が半永久的に消えないように、死の森から僅かに生命力を魔力に変換して、常に魔力が供給される術式を重ねて展開すれば劣化も防ぐことができる。

我ながら即席にしてはまあまあの出来だ。


「おたくは、この村を王都以上の要塞か何かにでもする気かい?」

後ろから声をかけてきたのはスクレイドだった。

「この程度で冗談だろう?早かったじゃないか」

「早い?ルカくんに呼ばれてから一時間は経ったと思うけどねぇ」

「え?」

言われて辺りを見ると日が沈みきり、空が真っ暗になっていた。

「楽しくて夢中になっていたようだ」

「クロウくん、俺たちも宿屋に行かないかい?」

「そうだな、スクレイド」

「ん?」

「お前の事情に立ち入ってすまなかった、だが俺は未だに内容を知らないし、アイツのやった事だから俺は悪くない」

「おたくねぇ…謝るのか開き直るのかどっちだい?」

呆れたスクレイドと宿屋につくとスクレイドの後ろに隠れ、気配を消すようにひっそりと中に入った。

しかし食堂ではそれどころではなく、異世界人であるルカを歓迎するガイルとレモニアがいた。



スクレイドに続いて席を一つ開けたカウンター席に腰掛けると、ようやくこちらを見たレモニアが俺に気づいた。

「あら、お客さん?気づかなくてごめんよ、何にする?」

「客ではない、俺はこの辺りの治安に関して王都から派兵された者だ」

「「勇者様が二人も!?!?」」


さらに二人は揃って驚きの声を上げたが、俺は首を振った。

「勇者はそこにいるルカだけだ、俺はクロウというしがないこの世界の人間だ」

そう言うと、二人はスクレイドとルカを見た。

「はは、さっきも言ったけど、派遣されたのは彼の方で俺は付き添い程度なんだよ」

まあ、間違いではないのだが。

ガイルとレモニアにしてみれば、一般人が寄越されて、勇者様が付き添いという奇妙な事態は理解が出来なかったようだ。


「ああ、じゃあクロウさん?村をよろしくお願い致します!」

ガイルとレモニアは勇者ではないと知ると、親しそうに挨拶をして頭を軽く下げた。

「ところで今何をしてきたの?」

そんな二人を他所にルカが口を開いた。

「魔法術式の結界を施してきた、村に対して悪意を持つ輩にはこの村は不可視、魔物なら飛竜程度までは近づくことが出来ない、他には各種耐性と…とにかく思いついたものを組み込んでみた。範囲は村から10km程だが効果は半永久的だろう」

「「はい!?!?」」


またもガイルとレモニアの二人は声を揃えて叫び、ガイルは引きつった顔で聞いた。

「ク、クロウ様は王都にしかおられないっつう、魔術師様なんですかい?」

そのあまりの勢いに驚き、つい言い訳がましく早口になる俺。

「いや悪いが違うんだ、俺は術式専門じゃないものでな、今日はその程度しか出来なかったが、明日から範囲を広げるつもりだ、安心しろ!」

「そ、その程度…?」

「魔術師様ではないのに、かい?」


ガイルとレモニアは口を開けたまま固まっている。

スクレイドは椅子から転げ落ちそうなほど大笑いだ。

「スクレイド、俺は何かまずいことをしたか?」

「違うよ、おたくが凄すぎて二人が驚いてるだけなんだよねぇ、いい加減そのなんでもアリを自覚しようねぇ」

見るとガイルとレモニア、そしてルカが頷いた。

その様子に何かをやらかしたわけではなかったらしいと安心した。


「問題がないのなら俺はこれで失礼する」

「クロウさん!?まさかお帰りになられるんですかい!?」

「いや、さっきも言ったが明日また術式の展開と周囲の偵察で来る、作業は勝手にやらせてもらうから俺はいないものとして生活してくれ」

「そんな…勇者様であるルカ様とクロウさんをおもてなしも出来ないとあっちゃ失礼に!あ、しかしこんな宿では…」

なおもガイルは食い下がるが、泊まっていて食事もとらなければ不自然だろう。

何より肩がこりそうだ。


するとスクレイドが助け舟を出した。

「クロウくんもルカくんもそんな事を気にする子じゃないよ、普通に接してあげてくれないかい?他にも用があるだけなんだよねぇ」

「スクレイドの言う通りだよ、無理のない範囲でかまわないから、普通に接してもらえると嬉しい」

ルカもそう言ってその場を収めると和やかな空気が流れた。

「勇者様ってのは、ヤマト様もそうだったけど俺たちが思ってるよりお高くとまってないんですねぇ」

「アンタ!失礼なこと言ってんじゃないの!きっと心が広いのさ!」


ガイルが頭を掻きながらルカを見て言うと、レモニアが必殺の鉄のトレーを振り下ろした。


「うっわ…え?」

その光景にルカは引き、スクレイドは恋敵が沈んでご満悦だ。


「クロウさん!?それにルカさんも!」

騒ぎを心配して食堂に顔を出したアメリアは俺たちに気がついて嬉しそうに近寄ってお辞儀をした。

そしてその雰囲気は柔らかく、どこか気品がある。


よく見るとアメリアが着ているのは、王都でまとめ買いをした洋服のうち、部屋着にでもと思った動きやすい上下だ。

「アメリアちゃん!あれ?その服…俺に付き合わせて買いに行ったやつか、似合うじゃん!いつの間に渡したの?」

「え?クロウさんが?」

目ざといルカは真っ直ぐ俺を見て聞き、アメリアは頭にはてなマークを浮かべて、ガイルとレモニアも俺を見た。


スクレイドはいつの間にかルカの近くに移動して笑い転げている。

「なんの事だ、ルカ」

[スクレイドから贈ったことにしてあるんだ!!]

[そんな事は先に言っといてくれないと、…俺知らなーい]

俺は焦り、とぼけながらルカに念話をしたが、あっさりと見捨てられた。

「どうしてクロウさんが私たちに服を?」

とうとうアメリアの疑問は俺に向かった。


「たまたま…アレだ。たまたま持っていてな、兵士にルンナの事で絡まれただろう?王都では身なりも防御に必要なステータスになるということを教える為だけのものだ」

「頂いたのはカルビアを出発するまえですが…」

アメリアが素直すぎて逃がしてはもらえない!


「ぶっはーーー!!あはははは!!おたく嬢ちゃんに弱すぎないかい!?ぶははははは!!!」

「はははっ!苦しいっ!腹痛い!あはははは!」

ルカとスクレイドは全くフォローする気がなく、ひたすら焦る俺を見て笑っている。


アメリアの顔が見られずに、苦し紛れに顔を逸らす。

「カルビアまで買ったことすら忘れていたんだ!」

「それでは!やっぱりこれはクロウさんが私たちの為にわざわざ買って下さったんですね!ありがとうございます!」

「うっ」


なんとか話を終わらせようと悪態をついてしまい、それは自ら理由なく買ってまで贈ったと認める言葉になってしまった。

「…サイズが合うなら良かった、そのシンプルなものもいいが、アメリアなら何でも着こなせるだろう」

そしてつい口をついて出たのは、息をするように女性を褒める癖。

嘘はついていないが、言ってからハッとしてアメリアを見た。

「クロウさんっ、あ、ありがとうございます」

アメリアは心なしか顔が赤くなり、気恥ずかしさと喜びで困ったように礼を言った。

「帰る!」


いたたまれなくなった俺は勢いよく村の入口に向かって歩き出すとアメリアが追いかけてきた。

「クロウさん!」

「なんだ?」


反射的に身構えるとアメリアはそれに気づいて足を止め、一瞬切なそうに俯いたが、すぐに顔を上げた。

「あの!明日私もご一緒させてください!」

「は?」

「お仕事を拝見させて頂いたいんです、邪魔になるようならすぐ帰ります!お願いします!」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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