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アイツと大和と

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

するとスクレイドもテーブルに置かれた大量の水晶を見つめて呟いた。

「ルカ…、俺のせいであの子が消えたってのか?」

「そうだ!君が…っ!!あの人に会えなくなったら、俺は君を許せない!!」

ルカは元来た通路へと走り出した。

「…俺は何をやってたんだろうなぁ!ちくしょう!!」

スクレイドも己を責めるように言ってから額に手を当て、テーブルに雑に置かれた結晶を持つとマントに仕舞い、誰とも目を合わせることなく屋敷を出ていった。


セリは殺気と緊張感から解放され、膝から崩れた。

「…どういう事だ?何が起きてる?あんな…スクレイド様は…知らない…」

クリフトも部屋の入口を見つめたまま硬直して不安感に押しつぶされそうになっていた。

しかし、アメリアは一人ゆっくりと席から立ち上がった。

「行かなきゃ」


アストーキンの近くの森で、草むらに寝転んで空を見てから目を瞑った。

『ああ、やはり今の俺じゃ会う気がないのか…』

そんな独り言を呟き、再び目を開けた。


《──残念だが、望み通りにはならないだろうな》

そんな事はない、俺の力にはあいつらは勝てない。

《──もう俺は何も出来ないけど、何か懐かしい光と希望を感じるんだ》

そんなものは有りはしない。

それでも俺を止めさせようとは、あの二人の命が惜しくないのか?


《──終わらせてくれるならあの二人に権利があるだろう、…そしてあの二人を終わらせることになるなら俺でなければいけない》

そう、俺がそう望むから奴らにチャンスを与えた。

《──どこまでも偉そうだな、本当に呆れる…だけど俺は諦めていない…》

無駄な希望は持たないことだ。

《──わからないか?あの光が近づいているのが》

光?なんの事だ?


太陽を遮り何かが頭上を通り、一瞬陰りができたあとに再び辺りが明るくなった。

「クロウさん!…いえ、ヤマト様」

そこに現れ、黒いペガルスから降りたのはアメリアだった。

『アメリアが来たのか』

大和は少し驚いて、状態を起こした。


アメリアは微笑んだ。

「そんなに存在を薄めたら、スクレイドさんもルカさんも見つけられませんよ」

『…ああ、ついクセで…それでもアメリアは俺を見つけたというのか』

大和は屋敷を出てから存在を果てしなく薄めていた事を思い出した。

それなのにごく普通にそこに居るものとして、こちらに語りかける少女に再び驚かされた。


「もうヤマト様を見失ったりしません」

『それで、お前に何ができるんだ?俺はお前のことは聞いていない』

アメリアはクスクスと笑い、ペガルスを空に逃がした。

「聞いていないなんて、まるで別の人のことみたいに言うんですね」

そして少しずつ、確実に歩み寄った。

『近寄ることがどんな意味を持つかわからないのか?お前は弱い。こちらに来るな』

そう言われたアメリアは目を細めて微笑んだ。

『どうした?』

「やっぱり大和様は優しいです、心配をしてくれるなんて…」


心配?そんなものはした覚えがないと大和は眉間にシワを寄せて、動かずに少女の動向を探った。

なぜ少女は笑うことができるのか。


何も出来ない無力な者がなぜわざわざここに来たのか全く理解ができない。

『 死にたいのか?』

「ヤマト様の力になりたいです」

『お前に何が出来るというんだ?』


「ヤマト様の望みはなんですか?」

ふと聞かれ、大和はぼんやりと少女を見つめた。

望みは全てを無に返すこと、ただそう答えればいいだけなのだが、なぜか言葉につまる。

大きな澄んだ瞳に穏やかに見据えられると、何かを思い出しそうになる。


『…この世界は、優しい者から傷つき報われない、そうだろう?』

「はい」

思いがけず出た言葉は少女に確かめるように問いかけ、少女もその言葉に冷静に同意した。

『そんな世界は誰の為にあるというんだ?』

「世界は何もしてくれません」

その言葉を聞き頭の中に視界にノイズが走り、やはり何かを思い出しかけてもその記憶は上手く辿れず届かない。

『何もしてくれない…そんな価値のない世界を守る必要があると思うか?』


こんな話を力無き少女にして何になるのか、それは大和にもわからなかったが、少女に聞かずにはいられない。


「世界に何かを望んだことはありません、ただ…」

『ただ?』

「私のせいで大切な人を亡くしました、それは世界ではなく同じ人間の仕業です」


そうだ人は弱く醜い。

人の作るものこそが世界なのだから、その世界を終わらせる為に人を滅ぼし全てを無に帰す。

それでいいはずだ。

もう間違えたりしない為に。


「でも、救ってくれた人もたくさんいました」

『それがなんだというんだ?失ったものは返らない』

少女は悲しそうに俯いて、それでもまた大和の元へ歩き出した。

「失わずに済めばそれが一番嬉しいです、でも失っても進まなければいけなくて…上手く言えないんですが…」


その通りだ、俺は失っても失ってもひたすら進んだ。

希望を求め、光を求め、そして最後にそんな心を裏切るような絶望を知った。


『進まなければいけない…?』

《──そうだ、アメリアが諦めずに進んで、俺を見つけてくれて、前を歩いてくれたからあの暗い夜の森を進むことができた》

「あの時ヤマト様に助けて頂いて、私はまた前に進みたいと思えたんです」

『その先に絶望しかなかったとしても、か?』

「絶望してもまた希望をもってしまうんです、ヤマト様の言う通り、私にはなんの力もなくて弱いです」

《──そんなことはない、君が強いことは俺がよく知っている》

「だけど、誰かの力になれる日が来るかもしれないという希望は捨てたくありません」


なぜだ、希望は絶望に変わるのがなぜわからない?

《──その気持ちは俺にはわかるはずだ、俺は覚えていないけど確かにあったはずなんだ、絶望し全てが終わったと思ったその時に知ってしまった、あの孤独な人を救いたいと希望を持ってしまった事があっただろう?》

あの人…


もう遥か遠い昔、孤独なあの人を自由にしたいと思った事があった。

その為には全てを終わらせなければいけない、だから俺は…


「ヤマト様、触れても、いいですか?」

そう言った少女は優しく大和を抱きしめた。

『俺は、全てを救いたかった。しかしそんな事は無理だったんだ、だからせめて…あの人を…孤独から解放したいと望んだんだ』

『はい、…約束を、覚えていてくださったんですね』

その瞬間、アメリアから眩い白い光が放たれ大和を包み込んだ。


《──俺はこの温もりを知っている…》

だから、希望があると言っただろう?

《──俺はあの人をなぜ忘れてしまったんだ、忘れてはいけないのに思い出せない…》

《欠けているからだ。

だがまだ満ちさせる訳にはいかない、俺にはやる事がある。

それがどんなに汚い事だとしても後戻りはしない。

だから、俺がそこに堕ちるまでもう少し眠っていろ、俺の罪は俺のものなのだから》


「大和!!」

ルカは自らの力で探すことは出来ず、もらった宝石ですぐ側にいけることを期待して、やっと術式が発動した時。

降り立ったのは森の中、そして足元に横たわるのは気を失ったアメリアに抱きしめられ、その腕の中で眠る大和だった。

「どういう事だ?…なんでアメリアちゃんが…」

「ルカくん!!」


空から降ってきたスクレイドは、ルカと同じように草むらで意識を失う二人を見て、大きな深い息を吐いた。

「スクレイド、なんでアメリアちゃんが…?」

「わからない、俺もヤマトくんを探していたら、ルンナが飛んできてここに居ると知らせてくれたんだ…」

「ルンナが?」

ルカが空を見上げると、ルンナが滞空して待機していた。


「屋敷を出てからの痕跡が全くなかったから、おそらく大和くんは自らの存在を消していた…なのになぜ嬢ちゃんにはわかったのかなぁ?」

「それより!」

ルカはハッとしてかがみ込んで二人の様子を見た。

「無事…そうだけど…」

「嬢ちゃんも大丈夫そうだねぇ」


そう言ってスクレイドがアメリアを抱き上げ、ルカにそちらは?と目で伺った。

「目が覚めないと…なんとも、とにかく一度大和を王都に連れていく、邪魔はさせない!」

「邪魔なんてしないよ、そうしてあげてくれるかい?俺も少し用事で出かけてくるよ…」


ルカは大和を王都の部屋に連れていき、スクレイドは一度屋敷に戻りアメリアを預けるとどこかへ消えた。


──頭が妙にスッキリとして、身体が軽い。

起き上がると見た事のある部屋のような気もするが、俺はどうしたんだ?

たしか聡一のところに行って…

そうか、トールの事を聞いて心に隙ができてアイツに負けたんだ。

もう自分の力で復讐することも出来ないのか。


そう考えていると部屋をノックする音がして、よく知っている人物、ルカが入ってきた。

「…起きた?」

「ん?ルカということは、ここはお前の寝室か?」

そう言ってルカを見ると、ルカは張り詰めた緊張感をまとって俺を見つめている。

「…俺はまた何かしたのか?」

「大和、大和なんだよな?」

「俺だけど?」


そう聞くとルカはその場にへたり混んだ。

「どうした!?大丈夫か?ルカ!?」

慌ててベッドから降りてルカの元に駆け寄り、顔を覗き込んだ。

しかしルカは喋りもせず、反応もなく逆に俺の様子を観察するように見つめている。

そんなルカを抱えてベッドに放り、再び声をかけた。

「どうした?治癒魔法が必要なら遠慮せず言ってくれ」

その内にルカは涙を流した。


「何があった!?それに、他の奴らはどうした!?」

俺がまた意識を失っている間に襲撃でもあったのだろうか?なぜこの部屋で、他の奴らが見あたらないんだ!?

「ルカっ、しっかり話を…」

ぺちーん!


なんとも軽快な音を立て、ルカの手が俺の頬を叩いていた。

訳は分からないが、さすがにルカの平手は痛みは無くとも俺の顔の向きが変わる程度の威力を発揮した。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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