プロウドの認識
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
[それがねっ、プロウドのことなんだけどっ!]
[…ああ、役に立ってるか?]
[てへっ]
その古くさい誤魔化し方はなんだ、嫌な予感しかしない。
[それがねー、貸して貰ったプロウドがどれも黒くなってしまったのよね]
[黒く?…それだと使えないのか?]
プロウドが黒く染まるとはどこかで聞いた話だ、渡してある結晶は元は虹色に輝く透明のはずだったが。
[そうなのよ、せっかくのプロウドをダメにしてしまってごめんなさい、それでまた分けて貰えないかしら]
[それはかまわないが、黒い方は俺が引き取ってまた魔力を注いでみよう]
[あっ、うーん、ありがとう、やっぱりもう少し頑張って色々試してみるわ!弱気になったらダメよね!じゃあねー!]
[おいベル?]
そう言うなり突然忙しそうに念話を切られ、何がなにやらさっぱりだ。
しかしその会話で思い出し、物置小屋に行って大量のソウルプロウドから必要な魔力を吸収すると、残りの全てを回収し、マントやすぐに取り出せる適当な場所に収納した。
[ヤマトくん、今どこだい?]
次に聞こえたのはスクレイドの声だった。
次から次へと。
[王都の家だ、何かあったのか?]
[起きたら皆が妙に優しいんだけど、何かあったのかい?]
それはきっと罪悪感からだろう、と言いかけたが調子に乗りそうなのでやめておいた。
[もう怒っていないんじゃないか?]
[おかしいよねぇ、元々怒られるような事をしていないのに…]
それは本当にもう日頃の行いとしか言いようが無いのだから仕方ない。
[そういえばスクレイド、プロウドが黒くなるって何かわかるか?]
[急にどうしたのかな?]
プロウドという話を切り出した途端にスクレイドは真面目な声になり聞いた。
[王宮にあるプロウドが黒くなってきているという話を聞いたのを思い出してな]
とっさに出たのは多くの人が知る話。
するとそれに納得したのかスクレイドはどこから説明したものかと考えてから説明を始めた。
[可能性は二つあるんだよね、一つ目は相性の問題。使い手がプロウドに認められないか、魔力素が違いすぎて使いこなせない]
[プロウドは無機物のくせに人を選ぶのか?]
[元は造った者の魔力で出来ているから、造り手の意思に反した使い方を繰り返したり、魔力の質が違いすぎると反発して休眠状態に入ることもあるかなぁ]
[それはもう使えないのか?]
[造り手、もしくはそれ以上の魔力の持ち主ならプロウドを目覚めさせることは出来るだろうけどねぇ]
そんな仕組みは聞いたことがないが、原産国の住人であるエルフが言うならそうなのだろう。
[あとは魔力の枯渇で黒くなるか?]
[いいや、そんな話は誰に聞いたのかな?魔力が空になったプロウドが黒くなったのを見たことがあるかい?]
そう言われてみれば、俺のソウルプウドもスクレイドのプロウドも黒くなったところなど見たことは無い。
[もう一つは特定の系統に属する魔力を吸収すると黒くなるねぇ]
ん?
確か前に聡一と女将が説明してくれた話によると、王宮のプロウドが黒くなってきたのは、魔王が復活に必要な魔力を集めていて、プロウドの魔力を吸収している事で黒くなっているのだと言っていた。
「魔力の枯渇ではない?ならなぜ王宮のプロウドは黒くなってるんだ?」
「魔王の復活が近いからなんだろうねえ」
スクレイドの説明でますますわからなくなってしまった。
すると俺が理解出来ていないのを察してスクレイドが補足をする。
[復活と言っても、魔王はもうこの世界にいるらしいんだよねぇ、しかし万全ではないのか、理由は俺にもわからないけど姿を見せずにいる。その魔力の影響を受けてプロウドが黒くなっているんだろうね]
[なら特定の力ってのは…魔王?]
[…そういう事になるねぇ]
聡一に聞いた話と逆だ…、魔王という存在はプロウドから魔力を奪っているのではなく、むしろ魔力を与えて上書きしている?
これは聡一が知らなかっただけなのか。
プロウドの事に関してはエルフであり、王と繋がりのあるスクレイドの言葉に真実味がある。
つまりベルの場合は最初の答え、俺の魔力と彼女の魔力が反発しているということになるのか。
それではいくらベルに俺のプロウドを渡しても無駄だったということか。
スキルで誓約までさせてしまったのに、期待をさせた分少し可哀想なことをしてしまった。
[そうか、わかった、ありがとうスクレイド]
[うん]
[俺は聡一の所に寄ってから帰る、それくらいはいいだろう?]
そう聞くと、スクレイドは申し訳なさそうに言った。
[王に見つからないように細心の注意だけは頼んでいいかい?]
[ああ]
そうして念話を終えると俺はプロウドの事を早めにベルに伝えるべきだと思いながらも、聡一の気配を探ると、いつもの病院の仮眠室にいるのがわかり、聡一の元に飛んだ。
小さなテーブルには資料と食べ散らかしたままのゴミの山、床には毛布が落ちて、簡素なシングルベッドにはだらしない寝相に起こすのも申し訳ないほど幸せそうな寝顔の聡一。
「久しぶりだな、突然で悪い!」
ベッドに寝ている聡一を叩き起こすと、聡一はへらっと笑って独り言を言い始めた。
「ああ、健吾…?違う、大和くんが見える…夢にまで見てしまうなんて…、僕はなんて過保護なのだろう、元気でやっているかね?…ははっ、夢なのに何を言っているのやら」
「…えっと、夢ではないんだが、聡一大丈夫か?」
「うーん、なんて僕に都合のいい夢なんだろうね…ははは」
ダメだ、俺にも覚えがありすぎるが、これはまだ寝ぼけて夢と現実の区別がついていないらしい。
「聡一!!ルクレマールの襲撃だ!!」
そう耳元で叫ぶと、医者は慌てて枕元に手を伸ばした。
「たっ、大変じゃないか!メガネ!ボクのメガネは…!」
「顔にかかってるのはなんだ」
「あっ!メガネ!良かった!…ん!?」
やっと覚醒した聡一はガバッと起き上がり、俺にとって不本意ながら否定もできない言葉を漏らした。
「問題と共にやってきた…!ということは、本物の大和くんなのだね!?」
「…ああ、おはよう聡一」
医者はわけもわからず、とりあえずベッドの上に正座をした。
俺は仮眠室の掃除をしながら話を切り出した。
「と、まあさっきのルクレマールの話は嘘だが、各地の襲撃の話は知ってるな?色々と問題があるのは当たりだが俺が気になるのはここ数日で異世界人が死にすぎてるということだ。何が起きている?」
その言葉を聞いて、医者は首を傾げた。
「どういう事だね?」
「…俺には異世界人が死んだことがわかるスキルがある」
「君が相手だ、疑う気はないが…死にすぎている…だって?」
やっと目が覚めたのか、顎に手を置いて記憶を辿るように唸り出した。
「知らないのか?」
「亡くなっていない、とは言わないよ。だが僕の知る限り君が旅に出てからも、そこまで激変したとは思えないがね」
「…そんな馬鹿な」
「やはり君が気にするということは、今までよりかなり多いという事なのだね?」
英雄祭も延期され、戦争の準備がされているであろうこの時期に、宿場町アストーキンについてから今日までに増えたスキルは数え切れないほど、三桁に上っていた。
「聡一の知らないところで始末されたか?」
そう聞くと、医者は首を振った。
「僕も把握しきれていないのは否定できないがね…断言はできないが、他に異世界人がいる場所があるじゃないか…」
「…ルクレマールへの亡命者!」
片付けの手を止め、医者を見ると医者もこちらを見て頷いた。
「亡命した異世界人の正確な数はわかるか?」
「成功した者だけなら千は下らないと聞いたことはあるが」
「そんなに!?」
「王が建ったのは1500年以上前なのだよ、その間に召喚された数から考えれば…」
しかし医者もおかしい事にはきづいているのだろう、話を途中で止めると再び考え込んだ。
いくら大昔から大量の召喚が行われ、亡命した異世界人が多くいたとしても、その年月を全員が生きているわけはない。
だとすれば最近の亡命者に何か起こったのか、やはり医者も知らない王宮での出来事か。
「…そうか、強い魔力を帯びた血だ」
俺が呟くと聡一が不穏な言葉に反応した。
「どういうことだね?」
「ルクレマールで主流の術式は黒魔術式らしい、それは創り出すことは難しくはないが…本領を発揮するのは術式に人の血を、それも大量に使うんだ」
「…聞いた事はあったのだけどね、本当にそうだとしたら…」
だからこそ俺はその知識を頭に入れながも、部屋で一人で作った術式に足りないものがあり、役に立たないとわかってそれ以上は試すことを断念したのだから。
「それでは最近の襲撃の為に、そんな術式の為にルクレマールで異世界人が殺されているというのかね!?」
「待ってくれ、それでもおかしい、人の血が必要なら殺して血だけ取っておけばいいだろう?今まで死んでいないのが不可解だ」
最近の強力な術式を考えてみれば死者が増えたことは理解できなくもない。
だが、昔からそうして黒魔術式を扱ってきたとすれば、それで犠牲になった者がいるとして、俺がこの世界に来てからもっと定期的に大量のスキルが増えていなければおかしいのだ。
逆を言うと、今までスキルが増えたのは王都で亡くなった異世界人のものに限定されていた…?
なら範囲があると仮定して、その範囲が突然広がったとでもいうのか?
悩む俺に、聡一は何か言いたげにしている。
その視線に気づき、聡一に向き直った。
「聡一、何かあったのか?」
そう聞くと聡一は険しい表情になり、苦々しいというように話を切り出した。
「そちらの件も気になるところではあるのだがね、僕らにとって都合の悪い話がある」
ここまで読んでくださりありがとうございます。




