エロフのフォローと安住の地
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
「待って!?またその話かい?…あのねぇ、おたく以外は普通魔力も生命力も与えたり吸収したりできないんだよ、プロウドは使う意思がないと無理なんだよねぇ」
「だからといって口は無いだろう!」
「俺だって他にわからなかったんだからねぇ!?」
「他に方法がないのか…?」
「術式はあるけど、作るまでにどのくらいかかるかは術者次第だよ」
「なら仕方ない…ペガルスに噛まれたと思って忘れてやる」
「そこまで…助けたのにこの扱いなのかい?」
そう言うとスクレイドが近づいてきた。
「なんだ?」
「本当に…元気になってよかった」
それは何故か、微笑んでいるのに泣きそうに見えた。
「ああ、怖い思いをさせたな、悪い悪い」
「あはは、子供みたいに、俺にそんなことを言うのはおたくだけだよ?」
「そうだろうな、お前は森人様なんだろう?しかたない」
「…そうなんだけどねぇ」
「戻るか」
「そうしようか、でも俺が連れてくからまだ自分の力を使わないようにするんだよ?」
「ああ、頼む」
そうして宿屋の部屋の窓を開けると、額に青スジを浮かべ、宿屋を出たはずの町長とセリが待っていた。
「…なんで二人がここにいるんだ?」
怖々聞くと、町長が目を見開きセリが睨んだ。
「スクレイドっ!!まだ予断は許さないと言ったわよね!?何故連れ出したのです!!」
「スクレイド様!!クロウ殿は死にかけたのですよ!?目が覚めた時も感極まったのはわかります!しかし唇を奪うとは!!何を考えておられるのですか!?」
「そうよ!!スクレイド!!ちょっとそこにお座りなさい!貴方の感情表現は独特にして身勝手ですよ!!お相手の事も考えて差し上げなさい!!」
な、なんという迫力だ!
スクレイドは困ったように笑った。
「…俺が悪いのかなぁ?」
存在感を消して部屋の隅の椅子に座るルカを見ると、心底疲れたように燃え尽きている。
この状態の二人に何を言われたのか、それでも俺の言葉を信じて部屋で待ち続けるとは、本当に可哀想なことをしてしまったようだ。
そしてスクレイドは苦笑いをして弁解している。
「寝起きのは治療の一種なんだけどねぇ…」
「そう!貴方は嘘がつけないからそう言うなら本当にそう思ったのですわね!!ならば教えて差し上げますわよ!!そんな貴方だけに都合のいい治療なんてありません!!」
「スクレイド様…!そう言えば…以前クロウ殿に共に生きようと言ってみせたり、ルカ殿と仲良くしている姿を見てご自分は拒まれた事があると…そう言っておられましたね…!?クロウ殿が衰弱している状態で、まさか愛の力で救おうなどと本気でお思いになられたのですか!?その認識を今すぐ改めてください!!」
なんということだ、日頃の行いが悪すぎて森人様なのに、これ以上無いほどに叱られている。
あのセリが、スクレイドを殺すことになるかもしれないと言った時、ならば俺に刃を向けて一矢報いるだけだと覚悟を見せたあのセリが!?スクレイドをここまで責めるとは俺はすごいものを見ているのかもしれない。
するとスクレイドが助けを求めるようにこちらを見たが、俺は目を逸らした。
悪いが生命の力にはあまり触れられたくない。
アメリアの村で使ったことがあったのだから知られてはいると思うが、あの危険で得体の知れないものを詳しく話す気にはなれないのだ。
せいぜい叱られて日頃の行いを悔い改めることだ。
その後、俺はルカにベッドに寝かされ、スクレイドは二人に連れていかれた。
それにしても恐ろしい。
「ああ、バジリスクの肉片をどうするか…」
「大丈夫、それは街の人達がなんとかしてるよ」
ルカは俺に布団をかけ、枕元に座って穏やかに教えた。
「大和の目が覚めて、本当に良かった」
「お前たちも無事にこの街にたどり着けたんだな、ルカ、色々すまない…な…」
「いいって、どうかしたの?」
「んー?眠気がひどくてな、少しだけ…寝るまででいい、ついていてもらえないか…?」
そう聞くと、ルカはベッドから立ち上がって椅子を隣に用意した。
「大丈夫、何かあったら起こすから休みなよ」
「…ごめん、な…」
そして俺はぐっすりと眠った。
──翌朝、二人の他にクリフトも加わり非難轟々、こってり絞られたスクレイドがげっそりとしながら部屋に入ってきた。
ルカが同情して椅子を引いて座らせてやるほどにスクレイドは弱っていた。
「体調はどうかなぁ?」
「その状態で俺の心配とは…さすがの俺も悪い気がしてくるな」
「大丈夫かい?」
「あ、ああ、お前こそ大丈夫か?」
「ヤマトくんにわかるかい?ものすごい歳下の子供たちに、誤解をされたまま本気のお説教をされた俺の気持ちが…」
「それは、本当に悪かった…」
スクレイドの心は完全に折れていた。
「とにかく町に被害が出なくてよかった、スクレイドも頑張ったな」
「ぶはっ、あはは、だからさぁ、そんな事を俺に言うのは、おたくくらいなものだよねぇ」
「そりゃあ森人様だから仕方ないと言っただろう」
そんな会話をしてからスクレイドは辺りを調べてくると言って出かけて行った。
しかし不思議そうにしたのはルカだった。
「大和、スクレイドって、森人と呼ばれて敬われてるんじゃなかったっけ?」
「…そのはずだがな」
「確かにこの街での俺の普通な扱いもビックリしたけど、スクレイドはどこに行けば救われるんだろ?」
俺が話したスクレイドの扱いと目の前で繰り広げられた光景の差にルカは戸惑い、心底スクレイドを哀れんだ。
「あいつは安住の地を求めて放浪してるのかもな…」
「納得だ…」
奴の言う、ものすごい歳下の子たちにここまで憐れまれているとは知らず、スクレイドは街の周辺の警戒に努め、帰った頃には死んだように眠りについた。
翌日、ルカは街の周辺の整備の手伝いに行くと言って出かけ、俺はとりあえず回復した事を町長に報告に行くことにした。
「あの時は俺も意識が戻ったばかりで、説明する余裕がなかったんだが、スクレイドに予め一度きりの治療術を預けてあったんだ、まさか口とは思わなかったが…」
「あら…そんなものが?」
「という訳でな、スクレイドは、まあ、あんまり悪くはないんだ」
そうフォローをすると、フラウは半信半疑ながら納得したようだ。
「叱ってしまいましたが、あの方は日頃の行いが少々、ね?ほほほ」
フラウは申し訳ないというよりも、全てをスクレイドのせいにして誤解の件をどこかに流した。
あとは…、町長の屋敷に部屋を借りる三人を呼び出した。
「迷惑をかけてすまなかったな、だがスクレイドのおかげでだいぶ調子が戻った」
「クロウ殿!よかった!それではスクレイド様の行動は…」
「いいんだ、助かったのは事実だがアイツは日頃の行いが悪すぎた、自業自得だろう」
「クロウさん!動けるようになったんですね!良かったです!でも昨日の魔物は王都の襲撃と同じだったと聞きました、あまり無理はしないでくださいね」
「ああ、大丈夫だ」
セリとアメリアの誤解もとけ、俺は適当なフォローもして終わろうかとしたが、うろたえた様子のクリフトが両手を顔に当て塞ぎ込んでいた。
「クロウどうしよう俺、スクレイド様をすげえ責めちまった」
「気にするな、相手はスクレイドだからな」
「でも…俺は…」
「気にするな、相手はスクレイドなんだからな」
「お、おう…すごい言い様だな」
「気にするな、相手はスクレイドだと言っているだろう?」
「クロウ、ルカの前でキスされたことを気にしてるのか?」
「そんな訳ないだろう?なぜルカが出てくる?それにあれはキ…じゃない、治療だと言ってるだろう、相手はあんなスクレイドだぞ?」
「クロウ、スクレイド様の使い方がよく分からないことになってるぞ…?」
さて、これで全員のフォローはいいだろう。
「それで、あの、今スクレイドさんはどうしてるんですか?」
アメリアは渦中の人物の姿が見当たらないと、不安そうに聞いた。
「ああ、宿屋の一室を借りて少し眠っているみたいだな、アイツも街を守るために自分の防御を捨ててまで相当魔力を使ったうえに、周辺の様子を見に行ったりとかなり疲れたようだからな」
そう聞いたセリは再び自分を責め始めた。
「そうか…スクレイド様はそこまでして下さったのに、私は夜通し怒ってしまったのか」
「俺もだ…スクレイド様が俺たちの為にどれほどのことをして下さったか、わかっていたのに…」
セリとクリフトはまた沈んで黙ってしまった。
ここまでくると少し鬱陶しいと思ってしまう。
「いいんだ、相手はスクレイドなんだからと言っているだろう!なんならアイツの存在自体忘れてもいいくらいだ」
「…クロウ殿、そこまで言わなくとも…」
「クロウ、キスされたのが本当に嫌だったんだな?」
俺はクリフトにデコピンをして、壁にめり込み額から煙をあげるクリフトを見て固まったセリとアメリアに気にするなと強く念を押し、その場を後にした。
そして【認識阻害】を使って街の様子を見て回ったが、防壁の中では被害が無かったことから以前と変わらない暮らしが営まれ、街の外に出てみるとバジリスクに石化された草原だったものを浄化の魔法術式で囲み、安全が確認できたものから石を削る作業が慌ただしく行われ、人々が忙しそうに行きかっている。
俺は一度王都の家に戻り、寝ていたので実感は無いがおよそ一週間ぶりのソファに寝転んだ。
すると、聞こえてきたのは脳天気な声。
[クロウちゃーん!元気にしてるかしら!]
なぜベルが俺を特定して念話を…、と少しガックリして返事をした。
[ああ、ベルは…元気だろうな]
[どうして勝手に決めつけるのかしら!?まあいいわ!その通りとっても元気なのだから!]
[切るぞ]
[まってちょうだい!念話までそんな扱いなのかしら!?]
[それで、どうした?]
ここまで読んでくださりありがとうございます。