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防衛とエロフの暴挙

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

しかし、やはりそう簡単には解かせてくれないらしい。

「おい、ふざけるな…なんだこれは」

周囲には目測で五十を超える数の直径1メートル程の円形の術式が点在している。

自動修復の次は数で攻めてきたということか。

間に合うのだろうか、違うな、間に合わせなければいけない。

「チッ、嫌な方法ばかり取りやがって!」


一つ目の術式に目を凝らすが、王都で見たものよりも複雑で緻密だ。

赤黒いモヤのようなものが術式の模様を隠すように漂っている。


「やりにくいな…」

いくら魔力を吸収しても術式が消えることはなく、見えた部分から解読し書き換えては消していくが、王都の時のように自動修復する様子はない。

しかしこれでは時間がかかりすぎる…。


シャルトゥームのことを思い出せば、キメラを倒した時に召喚術式も消えたのだから、バジリスク本体を倒せれば一番早いのだが。

それでも魔法陣から溢れる魔力は尽きる様子もない。


一つ、二つ、と術式を解いていき、残りが半分以下になった頃、次の術式に取り掛かったところでスクレイドから念話が届いた。

[二十分経った!そろそろ限界かなぁ、おたくも戻って町での戦闘に切り替えるかい?]


もうそんなに時間が経ったのか!?

せっかくスクレイドが想定以上に持たせてくれてるというのに…!

こんな膨大な魔力どこから…、そんなものはこの術式からだろうが、バカか俺は!

バジリスクは魔力の塊で術式と繋がっている、本体の術式を解く以外に方法はない…、待てよ…?

術式と繋がっている?

その時、俺の頭に一つの可能性が浮かんだ。

[スクレイド!今そちらに行く、街で戦うのはまだ待ってくれ]

[だけどねぇ、この二頭、クリフトくんとセリちゃんより連携がとれてるんじゃないかな?]

[二人と比べてどうする…]


スキルでバジリスクのいる場所に移動すると、前線は街の防壁まで押され、白い結界は所々消えかけ、スクレイドの放つ魔法もダメージは与えているが致命傷にはなっていない。

周囲の草木は石化された跡があり、街を背に守りながら攻撃をするスクレイドもギリギリでブレスを躱している。


避けているところを見ると、どうやら自分の防御はせず、その分の魔力を結界と攻撃に使ってなんとか凌いでいる状態だ。


まだ残っているとはいえ、半分以上術式を解除したというのに、バジリスクはさらに大きくなっている。

この大きさが俺の予想通りなら…。

「ヤマトくん!」

「お前が術式を消しきる前に教えてくれて助かった、よく頑張ったな!」

「頑張っ…えっと、どうするつもりなのかなぁ?」

「吸いきれないなら、こうしてみるか」

二頭に向かって手をかざすと、全力で生命力を注ぎ込んだ。

すると二頭の傷はたちまち癒え魔力は増していく。


「ヤマトくん!?回復させてどうするんだい!?」

そしてどんどん大きくなり、そのうちに歪に膨れ上がり始めた。

バジリスクの身体からは赤黒い魔力が漏れだし始め、それは術式の方向へと流れていった。


「なあ、魔力や生命力は与えすぎるとどうなるんだろうな?」

「…まさか!」


スクレイドの白い結界が今にも消えかけたその時、バジリスクが金切り声で鳴き、身体からメキメキと歪な音を立てたかと思うと、二頭が周囲に血肉を撒き散らし破裂した。

「よし!…けど気持ち悪いな、アメリアを連れてこなくて正解だった」


その瞬間、同時に逆流した魔力が術式を乱し、残りの術式の反応も消えた。

「すごいねぇ、ヤマトくんにしか出来ない芸当じゃないかな?」

「だろ…?スクレイドも防御もしないで…本当に頑張っ…」

「ヤマトくん?」

全身の力が抜け、スキルが弱まり落下しそうになってスクレイドに受け止められた。


身体の感覚が無くなっていく、ああ、またクロウシスの所に行くのか?

俺は次はこの世界のいつのどこかに飛ばされるのか…。


そんな事を考えていると、スクレイドの呼び声がきこえる。

まだなんとか意識はあるが自分で動くことが出来ない。

「使い…すぎ、た…」

「喋らなくていい!とにかく町に行くからね!」


俺はこの宿場町と相性が悪いんじゃないだろうか、ここに来る度にリセットをされていたのじゃたまったものではない。


…──くそ…


「バグったステージかよ!!!!」

「なんて!?」

「…え?」

ぼんやりと声の方を見ると、今にも泣きそうな顔のスクレイドがいた。

「スクレイド…?」

「よかった!目が覚めたんだね!?」


重い頭と身体、目だけで辺りを見ると、そこは以前と同じ宿屋の貴賓室だった。


「俺は…」

「吸って!!」

言いかけると、スクレイドが突然の暴挙、もとい俺の唇を奪った。

しかし自らの意思とは関係なく、スクレイドの魔力を吸収している自分がいる。


渇ききった身体に水が染み渡るように、少しずつ力が入り始め、なんとかスクレイドを止めた。

「ダメだ…これ以上は…お前が死ぬ…」

「それでも!」

「違う、バカか…いいから…石…寄越せ」


そう言うとスクレイドはハッとして、昔まだ俺が大和として行動を共にしていた時に魔力を貯めた六つのレイムプロウドを取り出した。


受け取ると一つずつ空になるまで魔力を吸収して、なんとか力が入るようになり、上半身を起こそうとした時。

「クロウさん!!無理をしては駄目です!!」

俺に抱きついて叫んだのはアメリアだった。

「…アメ…リア…?」

アメリアの暖かい涙が俺の頬に触れ、冷えきった身体に体温が戻っていくのがわかる。

「うっ、ああ…っ!良かっ…クロウさん、クロウさん!!」

力を振り絞って泣きじゃくるアメリアを片手で抱きしめる。

「大丈夫、俺は大丈夫だから、泣かないでくれ」

「クロウさん、大丈夫なんかじゃないです…っ!」

「…うん、ごめんな…」


そして辺りを見回すとルカ、そしてクリフト、セリ、アストーキンの町長であるフラウがこちらを心配そうに見ていた。

「そうだ!クロウ殿、まだ寝てるんだ!」

「死んだかと思った…クロウ!!」

セリは涙をためて怒鳴り、クリフトは顔面を液体でぐしゃぐしゃにしてへたり混んでいる。


なんだこれは、どんな状況なんだ?


頭が働かずにボケーッとしていると、フラウがベッドに近づいて端に座った。

「クロウ様、街を救ってくださってありがとうございました、あなた様はバジリスクを倒した後に倒れ、五日ほど眠っていたのです」

「五日…」

また俺はそんなに眠っていたのか?

「オレがわかるか…?」

「ルカだろう?」

「俺はわかるかっ!?」

「クリフト…」


なぜか一人づつ確認をされ、意識がハッキリしてきた。

「私はっ!」

「セリ」

「あのっ、私は…」

「わかっているよ、アメリア」

「クロウくん!俺がわかるかい?」

「変態」

「ひどいね!?」


そのやり取りを見てフラウはほっと一息ついて、微笑んだ。

「まだ予断は許さない状態です、ゆっくりお休みになってくださいませね」

「ああ…」

「皆!部屋から出ますよ!」

町長が手を叩くと、不安そうなアメリアから手を放して大丈夫だと頭を撫でて見送り、ルカとスクレイドは頑として残ると言い張って他の全員が部屋を出た。


「またヤマトくんを失うかと思った…」

スクレイドはその場にへたりこんだ。

「俺ももうダメかと思ったがな…お前…」

「何か必要かい!?」

「アメリアの…全員の前で吸ってはないだろう…」

「急を要する事態だったでしょうが!意識が無きゃプロウドから吸収出来なかったんだからね!?」


するとスクレイドはベッドに突っ伏して、深いため息をついた。


そこでスクレイドを押しのけて俺に次に抱きついたのはルカだった。

「大和…!やばかったならオレを呼んでくれよ!どれだけオレが…!!」

「心配かけて悪い…、ルカも、スクレイドも」

「まあ、おたくがいなきゃどうなってたかねぇ」

こちらを見てスクレイドが微笑んだ。


「スクレイド…どこでもいいから森に連れてってくれ」

「何言ってるのかわかってるのかい!?まだ寝てないとダメじゃないか!」

スクレイドは本当はかなり頭が悪いのだろうか、寝ていて回復を待つ?誰に言っているんだ?


その辺りから手っ取り早く生命力を吸収すれば、その分早く回復できるということを、生命の力を知るくせに本気で忘れているのだろうか。

「森に行かないと本当に死ぬだろうが」

「え?あ!!すぐ行こうね」

「なっ、大和!?」

「回復の為に必要なことだ、ルカ、大丈夫だから皆と待っていてくれ」

心配して声を荒げるルカを宥めると、スクレイドは俺を抱きかかえて窓から飛んだ。



そこをちょうど宿屋から出た四人に目撃され、大騒ぎになるのだが、それはまた後の話だ。



──死の森に着くと草むらに寝かせてもらい、ゆっくりと、少しずつ森全体の草木から生命力を吸収した。


一時間ほどして、俺が起き上がるとスクレイドがこちらを見た。

「よし、それなりに身体も動くようになった」

「喜ばしいことだけどねぇ、本当になんでもアリなんだねぇ」

「スクレイドは大丈夫だったのか?」

「俺はソウルプロウドがあったからね、ただソウルプロウドの方は魔力が空になっちゃったねぇ」


王都で渡した分と合わせて全てのソウルプロウドを返され、魔力を探ると確かに全てが空になっていた。

「気にするな、お前が有効に使えたならそれでいい」

俺は立ち上がり、伸びをしてからスクレイドを見た。


「それで…なぜ寝起きに唇を奪われなきゃならなかったのか説明してもらおうか、レイムプロウドはあったんだろう?」

俺は手をデコピンの形にして、スクレイドの額に迫った。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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