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気を取り直して出発

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

準備をしようとしても、そのたびにギシギシと痛む腹を押さえ、嫌な汗をかく。

そして心配をしていたルカの目は哀れみに変わっていた。

「そんなに長く笑ってなかったんだ…」

そんな言葉が聞こえたが今の俺にはどうでもいいことだった。


よりによって出発の日にこんな事態に陥るとは、自分の愚かさを呪いながらぎこちなく動く。

痛みにほんの少し慣れた頃、自然とルカに支えられながら精算を済ませ、来た時と同じように兵士からユキの手綱を受け取り四人が待つ街の入口に向かった。


「おはよう…どうしたんだい!?」

俺を見たスクレイドは慌てて駆け寄ってきた。

しかし、ルカにはこの事を人には言わない方がいいと言われた。


そうでなくとも昨夜の話に結びついてしまいそうな話題は俺としても避けたいのだから、言うはずもないのだが。

「大丈夫だ…気にするな」

「クロウさん、お加減が悪いんですか?」

アメリアもスクレイドの後ろからではあるが、心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫だ、気にしないでくれ」

「は、はい…でも何かあったら教えてくださいね!」

その気遣いに頷いて返すと、アメリアの表情はパッと明るくなり、大人しくセリの元に戻って行った。


そうして全員が揃ったことで空に飛び立ち、次の街を目指したのだが。

やはり筋肉痛は俺にとって嫌な感覚だ。

「ごめんね」

余程辛そうに見えるのか、ルカが申し訳なさそうに謝った。

「大丈夫だ、気にするな」

「うわ、朝からそればっかりじゃん…俺が無理させたから…」

「無理などしていない、ただ少し回復には時間がかかるとは思うがな…」

「回復?おたく、やっぱりどこか悪いのかい?」

会話が耳に入ったらしいスクレイドは近くに飛んできて、やはり不安そうに俺を見た。

「大丈夫だ、気にするな」

「俺が夜にやりすぎちゃって…負担をかけすぎたらしいんだ」

ルカは俺がなるべく喋りたくないのを察して、代わりにスクレイドに自分のせいだと言ったが、詳しく話す気は無いようでそれには安心だ。


「ルカだけのせいじゃない…俺も楽しんだんだ…いてぇ…」

「ん!?ルカくんがやりすぎて、二人で夜に楽しんで…?」

スクレイドは何かに驚いて声を荒らげた。


「ちょっとね、恥ずかしいって嫌がってたのに俺が無理を言って…」

「ルカその話は……うぐっ…」

「そうだった、ごめん!無理しないで、責任は取るから」

ルカは宣言通りユキに俺を乗せ、隣に付いて俺の背中や腰をさすった。


「責任って、おたくら…え?本当にそうなのかい!?」

戸惑うスクレイドは少しショックを受けて距離をとった。

ユキにへばりついた俺を見て、やはり会話が聞こえたクリフトとセリは無言で俺とルカを交互に見た。

そして、ルカはスクレイドに言った。


「とにかく俺のせいだし、少し照れてるみたいだから触れないでやってくれる?」

昨夜の話に触れないという約束をしたはずなのに、突っつき回しているのはルカの方ではないのか、そう責めたいのだが長く喋るのは億劫だ。


「言わない約束だろう、お前だから見せたんだ、もう黙れ」

「ごめんごめん…でも可愛かったよ」

それは17歳の姿をいっているのだろうか、それはあれだけ小さいだの子供みたいだと言われたのにまだイジるというのか。


「恥ずかしい事を、いてっ、言うな」

その会話は二人だけの世界を作り出し、痛みで余裕がなく周囲に誤解を与えたことに気づいていない俺は、ピンクの空気が醸し出されている事など気にも止めていなかった。


俺はユキに顔を埋めてぐったりとした。


「おたくら…本当にそういう関係なのかい?」

「スクレイド、最初に話したよね、だから本当に邪魔しないでくれる?クロウを心配してくれてありがとう」

ルカはこうなる事を計算してわざと誤解を招く言葉をえらび、尚且つ嘘はつかずに優位と余裕を見せつけ微笑むとスクレイドを牽制した。


しかし今の俺にはその会話は聞こえていない。


「そうなんだねぇ…俺の事は拒んだのに、クロウくんは罪作りな子だなぁ…」

スクレイドはどこまでどう想像したのか、そのボヤキにクリフトはショックを受け、セリは両手で顔を覆った。

アメリアは「お二人は本当に仲良しなんですね!」と、詳しい内容も知らず好意的に受け止めた。


俺はまた変に衝突してはいないかと心配になり、ルカを呼び寄せた。

「側にいろ」

その言葉が決め手になり、スクレイドはしょげた様子でブティシークの背に戻った。


そんな珍道中はしばらく続き、ルカの話では次の街に着くのはやはり深夜になりそうだという事だった。

「この辺で休憩にしよう」

昼時になり、林を見つけたスクレイドは全員に降りるように合図をした。


林の中は木の枝が揺れ心地いい木陰をつくり、池が木漏れ日を反射してキラキラと輝いた。

三人はペガルスの手入れや装備の確認をし、スクレイドは適当な木を見つけると寄りかかって休み始めた。

俺は地に足が着くなり適当な草むらに横になると、おやつを咥えたユキを連れたルカが隣に座った。

「枕いる?」

「枕?」

言うなり俺の頭を持ち上げて自分の太ももに乗せ、顔を覗き込んでにっこりと笑顔になった。

高い、そしてこの角度は筋肉痛の箇所に負担がかかる。

顔に陰りが出来て上を見ると、セリがルカの隣にちょこんと立ち膝で座っていた。

「セリどうかした?」

セリはルカと俺に小さな声で話しかけた。


「昨日クリフトが自分が何をしたのかスクレイド様に話していて聞いてしまったよ、二人には…特にルカ殿には嫌な思いをさせて申し訳なかった」


ルカは少し思い出して複雑な顔をしたが、微笑んで首を振った。

「俺も言い過ぎたからね、もういいんだよ」

「そうか、そう言ってもらえると有難い」

そこでルカはセリをしっかりと座らせ、何やら耳打ちをした。

するとセリは吹き出し、ルカと居場所を交代してルカは俺の頭をセリの太ももに乗せてユキと遊びに行った。


「なんでそうなるんだ…」

ひたすらダルい俺はされるがままボヤいた。

「クリフトへの仕返し、だそうだ」

「ルカは何をしているんだか…」

セリは微笑むと俺の頭を撫でた。

「嫌なら私も向こうに行くから言ってくれ」

「それではルカの気が済まないだろう、セリがかまわないなら少し借りる、こんな美人の膝枕を断る男はいないだろう」

「ま、またそのような事を…」

「なんだ?」

フードを被っているので、直接肌に触れることはないが、横を向くと高さも丁度よく快適だ。


相変わらずセリは俺の頭をなでている。

女将さんやアキトの時にも思ったが人は人の頭を撫でたくなるものらしい。

「…セリ」

「なあに?」

「お前は今も昔も俺にとっては十分眩しい綺麗なモノだ、本当は俺なんかが近づくことさえ許されないのにな」

そう言うとセリは困った顔でため息をついた。

「貴方の背負うもので私たちは傷ついたりしない」

「…強いな」

「ああああああああぁぁぁ!?セ、セリ!?何してるんだ!?」

穏やかな会話に割り込まれ、というより言葉が絶叫にかき消され、セリが正面を向くとそこには昼食の準備を整え呼びに来た顔面蒼白のクリフトがこちらを指さしわなわなと震えている。


「クリフト、見てわからないか?私の膝を枕として提供している」

途端に対クリフト用の喋りになったセリを見て俺は思った。

セリは真面目なバカだと思っていたがこれが計算ならば本当に恐ろしい、と。


「見たらわかるっ!うらやま…じゃなくて!なんでセリがクロウにそんな事をしてるんだっ!?」

「静かにしないか、クロウ殿が朝から不調なのは知っているはずだ、そこで私から申し出て少しでも休んでもらおうと言うのに、お前が騒いだら無意味だろう」

「セリ…から?」

開いた口の塞がらないクリフトに、あくまでルカの案だと言う気のないセリは力強く頷き返した。


「ああ、私に出来ることはこのくらいだからな、お前の大腿では枕として不適合だ、高すぎるだろう!」

大腿が不適合?やはり真面目なバカなのか?

計算なのかどっちだ。


「そんな!?そこじゃないんだって!!待てよセリ、クロウにはルカがいるだろう?」

「ルカ殿の大腿も枕として不適合だ!」


俺は腹にダメージのくる笑いを堪えながら、セリがどこまで本気なのかとそのやり取りに寝たフリをしてやり過ごしていたが、薄目で見るとクリフトの後ろで人差し指と親指で丸をつくり、セリに満面の笑みを向けるルカがいた。


そこでセリはとどめを刺しに入った。

「それに、お二人がどんな関係だろうと、まずは不調のクロウ殿が快適に過ごせることを優先するルカ殿は心が広いのだろうな」


相対的にルカの評価が上がり、膝枕で騒いでいた自分に気づいたクリフトは真っ白に燃え尽きた。


[ちょっとねぇ、笑ってしまうからその辺にしといてあげるんだよ、食事も始まらないじゃないか、いいかい?]

クリフトのいたたまれない状況にこっそりと念話で助け舟をだしたのはスクレイドだ。


俺も食事が終わらないことには先へ進めないのは困る、そう思ってルカを見ると腹を抱えて笑いをこらえている。

どうやら満足したらしい。


「セリ、楽になった礼を言う。食事にしてきてくれ」

それを終了の合図と受け取り、それなりに自身も楽しんだらしいセリは俺の頭を優しく降ろして、クリフトを誘いアメリアの待つ食事が広げられたシートに向かった。


「ルカ、お前も食べてくるんだ」

「うん、頂いてくるよ」

すっかりスッキリした顔のルカは素直に皆の輪に入り、セリが席を空けると隣に座って、宿屋で用意された弁当のおかずをアメリアと交換して笑い合っている。

スクレイドも食事をとりつつ、微笑ましそうに見守りながら時折会話に混ざり、本来は穏やかな者たちによる優しい時間が流れた。


なんという平和な空気なのだろうか、クリフトを除いて。

しかし今になってみれば、女子二人にオカン属性二人という組み合わせの中でクリフトの居心地の悪さはわからないでもない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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