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カルビア6 セリ3 謎の2人組

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「いいじゃねえか!これは"当たり"かもしれねえぜ!?あの術式を一瞬で消し去ってキメラまで倒しちまった奴、それもエルフときた!」

女は軽く頷き、指先に赤黒い魔力を込めると術式を作り出した。


「それにしても神出鬼没、王都にかような町、以前は辺境…追跡困難」

「てめぇの術式で発見が遅くなるくらいだ、そんで俺の可愛いキメラを瞬殺とあっちゃ期待出来るんじゃねえか!?」

「過度な期待は厳禁…とはいえ可能性はありそうよのう」

女は作り出した術式を赤黒い無数の蝶に変え、四方へ飛ばせた。

「精度は落ちよるが、範囲を広げて捜索続行」

「よっしゃあ!次こそは術式の転送なんて待たずに駆けつけりゃいい!」

男は高笑いをし、女はため息をついた。

「返す言葉も見つからぬ、術式の見直しが必要不可欠、お主も早まらずに来たるべくに備えるがいい」

「言われなくてもわかってるっての!このババア!帰るぜ!」

「短絡思考…しかし気ぃもわからんではない」


奇妙な二人はボヤきながらその場をあとにした。



—「それで?この状況と部屋割りは何かなぁ?」

引き気味にそうに言ったのは、遅れて合流したスクレイドだ。


「スクレイド様っ!明日になるって言ってたのにっ、心から嬉しいです!!本当にオレはスクレイド様を待ってたんですよ!!」

クリフトはそんな事を延々と言いながら、後ろからガッチリとスクレイドに抱きついている。


セリはただスクレイドの無事の合流を喜び、アメリアは話が見えずにクリフトを大きな丸い目で困ったように見つめ、ルカは俺と四人の間を線引きするように立って距離をキープした。

「お前こそな、じきに合流できそうだと連絡を寄越して、30分もしないうちに来るとは思わないだろう」

俺は額に手を当て、呆れてスクレイドに抗議した。


「急いだからねぇ?それで、クリフトくんはどうしたんだい?おたく、いじめたりしてないかい?」

俺はうんざりだとこれみよがしに大きなため息を吐いてからスクレイドをじろりと見て言った。

「だから、最初に連絡を受けた時に待っていると言っただろう、クリフトが」

「ん!?おたくが待ってるって言ったよねぇ!?」

「俺がとは一言も言ってないだろう、それよりいじめとは心外だ、一人は嫌だと駄々をこねるクリフトと同じ部屋にしたのにな」


あの後、クリフトがしばらく部屋に戻らず様子を見に行こうとした時、聞こえたのはスクレイドからの念話だった。

予定より早く、じきに解放されそうだ、今日中には合流できると。

今度はその事をクリフトに伝えてやろうと再び重い腰を上げ宿屋を出ようとしたのだが、またも頭に響いたのはスクレイドの声だった。


内容は誤解に満ちた気色の悪いものだ。


待ってると言われたからには急ぐからいい子にしているように。だの、ちゃんと待っているか、寂しくはないか。と何度も声をかけられ、仕方なくベッドに座り直して会話の相手をしてやっていたが、まさかと思って気配をたどった時にはもう街の入口。

手遅れだった。

今度はけたたましく街に入れないとクレームを言われ、クリフトより先にスクレイドを引取りに行くはめになったのだ。

その街の入り口での騒ぎを聞きつけたクリフトは自力で戻ってきてからずっとこの調子で、スクレイドから離れようとしない。


「どうせ気配で俺の場所なんてわかるでしょ!?それともおたく…!まさか気配を探ろうともしなかったのかい!?」

「明日合流するとわかっていてわざわざお前の行動範囲を知ろうとは思わない、…お前の事を街に入れるよう頼むのは忘れていただけだ」

「ひど…」

「ひどくないよスクレイド、ねえ?クリフト。旅には予定が重要だって言ってたよね?この場合はどうするのかな?へぇ、早まるのはアリなんだ?」

スクレイドの言葉を遮り、嫌味たっぷりにルカはクリフトに毒づいた。


宿屋に招き入れてからのスクレイドのテンションは確かに鬱陶しい限りを尽くしていたので、気持ちはわからなくもない。

それに加えて俺を責めるような言葉にクリフトの被害者ぶった態度、どれも一度おさまったルカの怒りを呼び起こすのには十分だった。

「待てルカ、話がややこしくなる、セリ!」

「なんだ?私?」

突然呼ばれてキョトンとしたセリは、ルカに少しだけ近づいた。

「一時だけでいい、そこの顔面グシャ男の面倒を頼む」

「ふっ、ぐしゃおっ…了解したよ、クリフト!話が出来ないからこちらに来い、アメリアも行こう」

意図を察してセリはテキパキとクリフトを回収し、アメリアの手を引いて俺たちの部屋を出た。


そして何を考えたのか、スクレイドは満面の笑みでこちらに両手を広げた。

「ほら!ヤマトくん!じゃなくて、クロウくん!!」

「…なんだそれは」


冷めた目で見ながら聞くも、スクレイドはその体勢のままジリジリと近寄ってくる。

「本当は俺に後始末を全部押し付けて申し訳ないなぁ!とか早く会いたいなぁ!とか思ってたんじゃないかい?でもあの三人の前じゃ素直に甘えられなかったんだよねぇ!おいで!」

「気っっ持ち悪い…」

本気で本音が出ると、スクレイドは真顔で足を止めた。

「おたく…そろそろ本当にどこが気持ち悪いのか聞こうじゃないか、ねぇ?ちょっ…」

「全部、だと思うよ」

にこやかだが、こめかみに薄らと青スジを立てたルカがまたもスクレイドの言葉を遮った。


スクレイドはガックリと肩を落とした。

「ル、ルカ…、“一度部屋に戻って”お前も飯にして来い、反論は受け付けない」

その言葉の意味にルカは何か言いたげだったが、頷いてから部屋を出るとすぐに王都の自分の部屋に飛んだ。


それを確認してからスクレイドに向き直った。

「さて、ここからは真面目な話だ」

「こっちはずっと真面目なんだけどねぇ、そうだなぁ…とりあえず死人は無く、今回もルクレマールの仕業に違いないだろうねぇ」

「とりあえず、か」

「そうだね、手を尽くすようには言ってきたけど、衰弱が酷い者はいたねぇ」


そして俺の視線にやれやれと困ったような顔をしてから話を続けた。

「前回の襲撃時に力を借りたルフのおかげだと言っておいたよ、それでいいかなぁ?」

「ああ、助かる」

そしてスクレイドは迷ってから聞いた。

「昔のおたくなら、すぐに治癒に向かったんじゃないかなぁ?」

「どうだろうな、不満か?」

「いや、俺としてはあまり動かないでもらった方が助かるけどねぇ…それでもヤマトくんならどうしたか知りたかっただけだよ」

これは、呆れられているのだろうか。


助ける力を持っているのに行動しない俺を軽蔑したのか、そんな事は今さらだというのに。


「俺は誰かを救えるような人間じゃないんだよ、この手からこぼれ落ちたものはどうしようもない、ルクレマールの襲撃は二度ともその場に居合わせたから、それだけの事なんだ」

「手からこぼれたもの…ねぇ、本当にままならないことばかりだ」

スクレイドは何かを思いながら、自分の手を見て呟いた。


そしてハッとしてから笑った。

「クリフトくんがおたくにどんな扱いを受けたのか、しっかり聞いてくるとしようかなぁ」

「クリフトが話せばな…」

「なんだい?そんな人に言えないような事をしたのかい!?」

「クリフトとルカがな、どちらも悪くなければ間違ってもいないと俺は思っている、だけど少し近づきすぎたようだ」


全て俺が引き起こしたことなのだから。


それを聞き、スクレイドはルカの態度とクリフトを思い浮かべ、なんとなく立場と状況を察したのか疲労の色を滲ませた。

「最初にも言ったが、クリフトのことはお前がなんとかしてやってくれ」

「うん、俺がいる間は責任を持つよ」


やけに物分りがいいと思ったが、その場にいたのに止めることができなかった俺には、その事に関して言えることはそれ以上無かった。

「ああ、そうだこれをアメリアとセリに渡しておいてくれ」

「うわっ、なんだい?この大量の包み…」


マントから目の前に降って湧いたのは。

「服だ」

「おたくが、なんで?」

「黙れ。俺からだとは言うな」

当然の疑問をピシャリと跳ね除けると、スクレイドはまたそれかとボヤいて部屋を出ていった。

ルカを呼び寄せる前に、とても久しぶりに感じる一人の時間を過ごした。

「一人になりたいのに一人は嫌だ、助けたい命と殺したい命、傷つけたくないのに近づきたい…矛盾なんてもんじゃないな」

俺はクロウシスの役に立つためにこの世界に来たのに、違うな、もっと前はなんだったか。

そうだ、完全な状態の魂の融合を阻止して転生の輪に戻ると言っていたんだ。

それなのに魂は減らない、なぜならどこからでも吸収できるのだから。


もし死んで次に目覚めたらまたいつのどこかも知れないなんて、そんなのはごめんだがどうやっても死ぬ手段が思いつかない。


魂を消耗させようとしたのは神になるほどの質だと聞いて拒否したんだったな。

本当にそんな大層なものなら、なぜ俺はこんなに無力なんだ。

《──欠けているから》

欠けている?何が…知能か?待てよ、それはレベル上げでどうにかなったはずだろう。


しかし、こんなに大量のスキルを持っていても、上手い使い方もわからない。

俺はとことんこの世界に向いていないらしい。

自己対話がとうとう知能をイジり出すとは、末期症状なんじゃないだろうか。


それにしても俺は自分がこんなに根暗だとは知らなかった。

この世界に来なければそんな自分も知らずに、頭の中を花畑に幸せに暮らしていただろうに。

違うな、だから前提が違うんだ、俺は元々あちらの世界で死んだからここにいる、俺はどうしたってこの世界に来なければいけなかったんだ。

あの時は深く考えなかったが、記憶もなくなるのなら神になるのはダメだったのか?

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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