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カルビア3 衝突

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

だがやはり俺と聡一にはどこまでいっても罪の意識で忠犬のようになってしまう。

俺が呼べばどんな時にもどこへでもついてくる、それもこちらが気を遣わないよう気持ち程度の嫌味や文句をそれらしく混ぜてみせるのだ。


そんなルカが計算ではなく喜怒哀楽を出しているところを見ると、悪い傾向では無いように思える。

今回のように俺が一人になる為にクリフトと相部屋になれと言ったのに対して、ハッキリと拒否をする事も珍しく、何より年下のクリフト相手に抑えながらも噛み付く場面は王都では決して見られなかった姿だろう。

俺がまいた種でいさかいが起こっているとはいえ、もう少し様子を見るのも悪くない。


──三分後、そんな保護者面を気取った自分に後悔をしたのは言うまでもなく。


「セリに相手にされないからって絡むなよ、まじただの八つ当たりだろ?」

「なっ!?セリは関係ない!ルカ様こそ!そこのクロウとじゃなく!もっと健全な遊び方を覚えたらいいんじゃないですか!?」


部屋に入るなり無視を決め込む態度の悪いクリフトに突っかかっていったのはルカの方だった。

関わらないというのは本当にどこにいったのか。


「妬くなよ、セリに今の君の関係ないという言葉を言ってみようか」

「待ってください!?関係ないとは言ったけどなあ、関係ないこともなくて…、ん?それよりセリを呼び捨てにするな!」

「敬語かタメ口かどっちかにしろよ、聞いてるこっちが混乱するだろ。じゃあセリちゃんと呼べばいいか?」


【混乱】のスキル持ちが何か言っている。

わかるぞクリフト、俺も英雄祭で初めて長く会話をした時は、その素直さと思考についていけずにルカのペースだったからな。


「ちゃん…!?それもなんかいやらしいから却下だっ!じゃあ敬語は使わないことにするぞ!」

「わがまますぎ、呼び方なんて何でもいいじゃん?ああ。そのまま喋ればいいだろ」

セリを中心にした言い合いと同時に、別の話も並行していつの間にかタメ口になるとは器用な…、仲が良くて結構な事だ。


しかし。

「この街は暇すぎるんじゃないか?ルカは以前来た時はどう過ごした」

そう聞くとルカはクリフトの相手を中断し、思い出しながら嫌な話をはじめた。

「オレって勇者様じゃん?しかも奴のお使いで来たわけだよ」

「お、おお」

「そうなると日がな一日部屋は商人が列をなす、商品を見てくださいってね」

なるほど、赤いハチマキの男が身分を隠すように言ったのはそこを踏まえてだったのか。


「そんな貴族の遊びのような真似をさせられて…」

俺は少し哀れんだように言うと、ルカはまだまだ序の口とばかりに首を振った。


「その商人の行列は街の外まで続くんだよ、警護に雇われた者の宿泊場を超えて、集まった人が人を呼び、通りがかりの街に入れない行商人まで出待ちをするんだ、想像つく?伝わってる?この黒歴史」

「うっ、本当に大変だったんだな…、伝わったから落ち着け」

語気強めにこれでも足りないと言わんばかりのルカの話は、俺だけでなくクリフトを震え上がらせた。


「ところで、スクレイド様でもダメだったのに、なんでこの街に入れたんだ?」

クリフトはそういえばと適当に疑問を口にした。

「なんでスクレイドが出てくる?」

ルカも首を傾げて聞き返す。


そこで俺はため息をついてから、あくまでルカだけに話すように大きな声で説明をした。


「わかっているかもしれないが勇者様ってのは、王都から離れた土地の者にその権力は無いに等しい、何故なら恩恵も受けず会ったこともない人間からしたら現実感のない存在だからだ」

「まあそうだろうね、王都の庶民すらそんなものだからね」

「だから、王都から離れればそれだけお前の勇者としての立場も、俺がこの街に入った決め手の!法官としての権力も地位も、恩恵もなければ価値も知らん者には関係がないということだ」

「ほ、法官!?クロウが!?」

ここまででこの街に入ったカラクリと一般人には知る由もないであろう法官という権力を持っていることを明かし、ルカは頷きそれを聞いたクリフトは叫びながら血の気の引いた顔で俺を見ている。


「ルカ、そんな兵も勇者も見捨てた王都から遠い地方はどうなると思う?」

「…まあ、想像はつくよ」

「それを救って回ってるのがスクレイドだ、森人様などと呼ばれているのはその存在ではなく、確かな実績と感謝が伴ってこそ、…だそうだ」


そう言うと今度はクリフトが何度も頷き、ルカは目を丸くした。

「あのチャラ…いや、軽そうなエルフって、そんなに良い奴なのか…?」

「いい奴かどうかは知らないが、時に人間より人間を思いやる心を持っているのは確かだ、まあ信じ難いとは思うがな」

「まじかよ…アレで?」

「アレで、だ。そういう事情があって王都から遠い者は森人様を敬っている、王都での勇者の扱いの比ではないほどだ」


とりあえず二人の疑問に答え、スクレイドをバカにされたことで怒るクリフトを無視して、俺は再び会話から外れた。


「とにかく!クロウとルカが偉い方だってことはわかった!だけど俺たちにとってはそんな肩書きも地位も関係ないんだよ!」

先程その肩書きに萎縮していたのはどこのどいつか、誰であろうクリフトである。

しかしその時──、とうとうクリフトは口にしてはならない事を口にした。


「勇者なんて、俺たち田舎者がどんなに命の危機にあって要請しても取りあっても助けてもくれないくせに!王都ではチヤホヤされてさぞいい暮らしをおくってたんだろうな!」


俺はマズいと反射的に身体を起こしたが遅かった。

ルカの顔色は変わり、重い空気と苦々しそうな表情。

「勇者が…なんだって?助けてくれなかった?いい暮らしを…してた?」

怒りに震える拳はギリギリの理性で抑えられているが、独り言のような呟きはだんだんと大きくなっていく。


「だっ…て、そうだろ?俺たちの村の周りにはその日食うのも困る奴だっている、しかも周りは賊や魔物に囲まれていつ何が起こって死ぬかもわからず怯えて暮らしてんだぜ!」

「…その全てを解決できない、オレたち異世界人のせいだって言いたいのか…?」

「そんなこと言ってないだろ!けど衣食住が保証された勇者様にはわからないんだろうな!」

クリフトもルカの異変には気づいているのだろうが、熱くなって自分を止められなくなってしまっている。


「二人ともやめ…」

「俺たちは物か!?勝手にこの世界に連れてこられて自由なんか何一つ無い!!毎日用済みになる事を恐れて…こんな訳も分からない野蛮な奴らの為にまだこの上自分を犠牲にして、お前らの為に命を賭けろって言うのか!?」

俺の制止を遮って叫んだその様子にクリフトは驚き後ずさった。


さすがに自分には知りえない何かを踏んでしまったのだと気づいたようで、クリフトは怯えだけではなくその顔からはやってしまったという悲壮感が漂っている。


「勇者なんか関係ないと言うくせに、都合のいい時だけ引き合いに出してオレたちを逆恨みして…!!」

「ルカ…こっちを向け」


俺が肩に手を置いて名前を呼ぶが、ルカは身体を強ばらせたままこちらを見ずに、ずっと溜まっていたものを心から叫んだ。

「オレだってこんな世界!!来たくて来たわけじゃない!!術式の中で毎日どれだけ死を望んだかっ…!!」

「ルカ、俺の方を見ろ、何も知らない者が言うことだ」

「知らなければ、許される訳じゃないだろ!?」

「…その通りだな」


その言葉には自分をも責める意味が込められ、声には涙が滲む。

そんなルカを力づくでこちらを向かせて、顔を隠すように抱きしめた。


「もうお前は帰るんだ、ルカ」

「嫌だ!!こんな世界に、君を独りにしたくない!!」


その言葉は自分も独りになりたくないとも聞こえ、肩に顔を埋めながら震える身体は過去に囚われ苦しみ、まるで怯えた子供のようだ。

俺はため息を押し殺してクリフトを見た。


「クリフトもすまない…こちらにはこちらの事情もある、お前たちは誰にも保証されない治安の悪い暮らしの中で兄を失い、その憤りも少しはわかるつもりだ、だがそれを勇者に…異世界人に求めるのは違うんだ」

「ヤマト…ルカも、俺は…」

クリフトは気まずそうに額に手をやったまま言葉が出ず俯いた。

そうだ、こいつだって数週間前に兄を亡くしたばかりなんだ。

昔の俺ではわからなかった大切な者を亡くす気持ちが今なら少しは理解できるというのに…、どれだけ明るく振舞って見せようがそれはアメリアが自責の念を持たないようにという気遣いだったはずだ。

あの惨劇のあとに出会った俺は元々のクリフトなんて知らなかった…年上の良い奴だと思って甘えきって。

本当はその明るさの裏で心に何を抱いていたのか考え配慮するべきだった。


俺は自分を守ることばかり考えて何をしていたんだ。


「…俺はどちらかの言うことだけなんて信じない、分かり合えとも言わない、だけどその分かり合えるかもしれない機会だけは無くしたくない…そう言ったよな?クリフト」


そう言うとクリフトは目に涙を溜めて俺を見た。

「…聞いた、俺は、“お前から”そう聞いたよ!」

「クリフトから見て俺やルカが信用のならない奴だったなら仕方ない、だけどその理由が俺だけにあるなら、これ以上ルカもお前自身も傷つけないでくれ」


わかっている、つもりだった。

俺が遠ざけることで摩擦が生じる事も、わがままに振り回して結局皆を傷つけているのは俺一人なのに、どの口が偉そうにそんな事を言えるのか。


それでも言わずにはいられない。


「クリフト、昔の言葉を撤回させてくれ、俺たちは本来行き交うことの無い存在だったんだ、分かり合う機会なんて元々なかった」

「ヤマト…昔なんて、そんなふうに言うなよ!今は分かり合えなくてもいいって、そのチャンスも与えてくれないのか?」

「そうだな、少なくとも俺はお前の知る“ヤマト”では無いんだ」

「そんな…」

その言葉を最後に、クリフトはフラフラと部屋を出ていった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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