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カルビア2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

[アメリア…心配かけてごめんな、俺はもうその世界にいないんだ、元の世界に戻ったんだよ]

話してはいけないと自分でそう決めたのに、もう少しこの声を聞いていたい、せめてきちんと別れだけでも言わなくては。

[いいんです!ヤマト様が元気で過ごしていてくださればそれで、…ただ]

[…うん]

[お礼が言いたかったんです]

[お礼?]

[熱を出した時に助けてくださってありがとうございました、頂いた水晶は大切に持っています]

あの時の事がバレている!?誰かが話したのか!?


そんなはずはない、だってそれならなぜアメリアはこの旅でそれを言ってこなかった?

[なんで、俺は何もしてない、アメリアに会ってないよ、違うんだ…]

そうだ、わかるはずがない。

スクレイドだってあの襲撃さえなければ、あのまま騙せていたはずなのだから。

[ふふっ、ごめんなさいヤマト様。わかるんです…あの時と同じ温かい光が今も水晶を通して私を守ってくれているんです]


あの時…初めて会った時に治癒魔法を使った時のことを言っているのか?


[アメリア…本当に違うんだ…]

[ヤマト様、元気がないみたいです、私にできることはないですか?]

[…え?]

[ヤマト様は私を何度も助けてくれました、だから、今度は私がヤマト様の力になりたい…]

以前にも同じような事を言われたのを思い出す、俺が自分を治癒できないなら治癒魔法を覚えたいと。

あの時は嬉しかったのに、今はその言葉を聞くのが苦しい。


[俺は大丈夫だから、ありがとう]

[ヤマト様?]

[もう会えないけど俺のことは忘れて元気で、さようならアメリア]

[ヤマト様!!私…]

念話はアメリアが何かを言いかけ、そこで途切れた。

俺が何かをした訳ではなく、今までも練習していたと言っていたから、まだ不安定なんだろう。

一緒に行動を共にしていても俺のわがままで避けて、まともに話すこともなかった。


それでも思いがけずに聞こえた声は昔と変わらず優しく強い。

この子を変えたくない、きっといつか否応なしに何かが突然変わる日はくるだろう、この世界はいつだって優しい者から傷ついていく、だけどそこに俺が関わるのは許されない、守れないならせめて手放さなくてはいけない。


願わくば、俺の事なんて忘れて幸せになってほしい。


ん?

忘れて?念話?

「思い出さなきゃ良かった」

そのキーワードで大事なことを思い出して、遮断していた回線を解除した。

その時。

[ヤマトくん!!ヤマトくん!?聞こえないのかい!?ねぇ!?]

けたたましく頭に鳴り響いたのはスクレイドの声だった。

シャルトゥームの宿屋から放り出して遮断してから、念話が通じないことをそのまま忘れていた。


[ああ、スクレイド!朝からどうした?]

[どうしたじゃないでしょ!?後処理を押し付けて先に行っちゃって!!何度も話しかけたのに返事もないってひどくないかい!?]

[お前の日頃の行いが悪いからいけない]

[俺のせいだって言うのかい!?ちょっとそこのところを詳しく!!]

[ぷっ、ははっ…相変わらずうるさいな]

[…ヤマトくん?]

[本当に悪かったって、それで今どうしてるんだ?]

[え、いや、おたくらこそどこにいるのかなぁ?]

[カルビアの宿屋だ]

[カルビア!?なんでおたく入れて…ああ!?優特法官の身分を使ったのかい!?]


そう、俺がこの街に入れたのはボルダインの商人仲間の手形と身元を約束する書状、そしてキラカード…もとい優特法官の階級証の力だ。

そのどれが欠けてもこの街に入ることは出来なかっただろう。


ボルダインの情報網で俺が法官になったと知っていたのも話が早くて助かった。

要らないと思っていたが、一国の法のトップの地位というのも中々使えるものだ。


[当たり、そっちも用が済んだら早く来いよ、まってるからな]

クリフトが。

そう、クリフトがすごくお前を待っている。


[ヤマトくん?なんか…]

[なんだ?]

[…いや、うん、明日にはそっちに行けると思うから、ちゃんと待ってるんだよ?置いていかないようにね!?]

[わかったわかった、じゃあな]


念話を切るとため息が出る。

可愛いアメリアの優しい声に浸る暇もない、スクレイドのせいでアメリアの声がかすみそうだ。

「あーあ、もう朝じゃないか」


それにしても今日はまたこの宿屋に足止めか。

思ったより早く予定がわかったのはいいが、待つ間この街で何をしてすごしたものか。


朝の6時、俺は部屋に戻りその足でまた部屋を出たくなった。

「だから、俺はどうしても一人部屋は嫌だっ!ルカ様は勇者様だからお気になさらないかもしれませんけど!俺は田舎者の庶民なんですよ!」

「昨日のオレたちの邪魔をしないって約束はどうしたんだ?口だけなのか君は、表に出るか?」


この二人が早起きすぎるのを忘れていた。

「ルカ、まあ茶でも飲め」

まずはマントから取り出したいつもの茶葉を使って、部屋に備え付けのティーセットで入れたお茶を勧めてルカを落ち着かせる。

「クリフト、朗報だ。明日にはスクレイドが合流するぞ」

「スクレイド様が!?やったぜ!やっとここを出れるんだな!」

クリフトには今一番頼りたいスクレイドの情報を与えて機嫌を取る。


しかしおさまらない様子のルカはお茶を飲むと俺をベッドに押し倒した。

「君が出ていったのは知ってた、でも待つ方の身にもなって?まじでクリフトと二人部屋にされるとは思わなかった」

もちろんこの程度の力は全く問題ではないのだが、ユキに気軽に触れ合えないうえクリフトとの思わぬ相性の悪さに、ルカのストレスもピークのようだ。


「ルカごめんな、お前だけに押し付けるつもりはなかったんだ」

そう言って頭を撫でるとルカは俺の額に口をつけた。


ルカが壊れた?きっと俺とユキの区別がつかないほど疲れているのか、そう思うと申し訳なくなる。

「どうしたら機嫌が治る?」

「食事には行かない、君といる。それでチャラにしとくよ」

「クリフト聞こえてるんだろ?悪いがどうせスクレイドが来るまで足止めだ、予定も何もない事だからそれでいいか?」

「そ、そうだな…わかった」

引き気味のクリフトは素直に頷き、7時になったら別の部屋にアメリアとセリを呼んで食事をとるということで話がついた。


それにしてもルカのベタベタは止まらない。

時間になるまでクリフトがいるからといって、そこまで見せつける必要はないと思うが。

180センチを超える俺と、それに近い身長のルカ、二人で抱き合ったままベッドでゴロゴロしていると笑えてくる。

「何をしているんだか」

「イチャイチャ?」

「おい、腹をまさぐるな…悪いが俺には耐性があるからくすぐりも効かないぞ」

「ずるいな君は」


そんなやり取りはクリフトの心を無にした。

クリフトは窓辺のイスに座り、ひたすら聞こえないふりをして外を眺めていた。


「さて、もういいぞ」

7時になるとクリフトはさっさと逃げるように部屋を出ていった。

そこでアピール終了の合図をするとルカはサッと離れて伸びをした。


「俺は聡一に用がある、一度家に帰るがお前はどうする?」

「君が帰るならオレも自分の部屋に戻ろうかな、シャワーと着替えもしたいし」

ルカはぼんやりと答えてから、少し考えて小首を傾げて聞いた。


「クリフトが帰ってきた時にいなかったらヤバいかな?」

「アイツも少しなら一人の時間が必要だろう、ここに戻る時は他の部屋に飛べばいい、気にせずに行くとしよう」

「うん」

そうしてそれぞれの家に戻り、俺は着替えを済ませるとすぐに聡一の気配を探り居場所を特定しようと集中した。


しかしやはり術式に阻まれた場所にいるのか、見つけることはできない。


早く知らせたいことがあるのだが、王都を出てからもたまに気配を探ったことで聡一が生きていることはわかっている。

次の機会にはなんとか話をしたいものだが焦っても仕方ない、もう起こってしまったことはどうしようもない。


「カルビアはあまり楽しくないな…」

ソファに寝転びながらブレスレットを握り、俺はボヤいてからその辺の本を取り寄せて読み始めた頃、ルカが降ってきてソファの隣に着地した。

「慣れたもんだな」

「そう見えるなら良かった」

軽口を叩き合ってから宿屋の一室に飛んだ。

そこは朝方に俺が避難した場所で、ビジネスホテルのような作りは余計な物がなく落ち着く。


「こんな部屋もあったんだ、なんだか懐かしいな」

ルカは部屋を見回してそう呟いた。

宿屋の者に案内されたのは、どれも広く豪華すぎる部屋ばかりだった。


店側の配慮だったのだろうが、先にそれをいくつも見せられてしまうと他の部屋を確かめに行く気にもならなかったのだから、当然の感想だろう。

「行くぞ」

「あの部屋に?」

「あいつらの食事も終わってるだろう、クリフトを待たせすぎるのもなんだからな」

「クリフトにはこの部屋を教えてあげよう、それか女の子たちの部屋に押し込もう」

ルカはその笑顔からは想像もつかない怖いことを平気で言う。


「クリフトはもうこの宿屋の値段や造り自体に萎縮してるんだ、今さらどんなに狭くても一人部屋には行かないと思うが?」


ルカは無言のまま微笑んで頷いた。

なるほど、クリフトの心理状態を把握したうえでの嫌がらせか。


俺があいつらと関わらずに済むようガードとして着いてきたと思っていたが、むしろクリフトのバカに引っ張られて言い合いまでするとは。

とは思うが、俺の知るルカは今までひたすら穏やかで人当たりが良く、時折漏れる本音や毒は相手に距離が縮まったと思われ喜ばれる程だ。


ベナンがいい例で、ルカが森に出入りする事が多くなった頃、奴はこっそりと俺に「勇者様に対しての不敬を承知で、ルカ様はスカしてて信用できない」と訴えた事があった。

しかし会う回を重ね、さらにはユキをとどめに二人は、それはもう見ていて微笑ましいほどに仲良くなった。

ベナンが一方的に懐いてるとも言えるが、多くの人にはそう感じさせないのがルカの凄さでもある。


女将さんを始めとする朧月での女たちからの信頼も厚く、潤滑剤としての役割まで求められる程だと聞いた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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