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魔法講座

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「あの、ヤマト様から力をお借りして足を治してあげることは出来ないでしょうか」

 地面に着地すると、アメリアは期待に満ちた目でスクレイドに尋ねる。


「ん~?そりゃあ無理だよ」

 スクレイドはそんな少女の言葉をにこやかに否定し、アメリアも即答されて肩を落としているが、気持ちだけでも嬉しい。

「力を分けて飛べるならそれもアリなんじゃないのか?」

「何か勘違いしてるみたいだねぇ、この世界の者が治癒の魔法をほとんど使えないことは知ってるかなあ?」

「それは、なんとなく聞いたけど…」

 何か悪いことを言ってしまったのだろうか、スクレイドの口調が心無しか厳しくなった気がする。

「魔法というのは素質で魔力の量と威力が変わり、体内に存在する魔力回路の構造で属性が決まる、魔法の術式は魂に刻まれているものや既存のもの、新しく生み出すことも可能なんだよね」

突然始まった真面目な話に対して、アメリアは真剣に聞き入っては頷いている。


「魔法は世界から魔力を借りると言ったよねぇ?治癒の魔法に使う力はそのまま強大な生命のエネルギーなんだ、大地から生命力を奪ったらどうなると思う?ましてや身に余る借り物の力で反動を受けるのは嬢ちゃんだ」

 現実を突きつけるように近くに咲いている花を一輪手折って手から落とす。

「俺は魔力が多くて、なおかつ自給自足だから使えるってことか?」

「そうだねぇ、そもそも生命の力は理から外れた力」

 そう言ってフードを深く被り直し、アメリアに聞こえないように俺の耳元でスクレイドが囁く。

「君は自分が魔物に何をしたか、わかってるかい?」


 フードから少しだけ覗く眼は全てを見透かすようにこちらを見据える。


 魔物になにをした…

 そうだ。深く考えないようにしていたがあの魔法はきっと、魔物の生命力を奪ったのだ。比喩ではなく抵抗を許さず命を刈り取るその力。

 どこかでわかっていた。だから人にはかからないよう離れるように注意した。


 手に吸い込まれたものは確かに生命の光だったのだ。

 俺には他の生き物の命を簡単に奪う力がある…?

背中に嫌な汗が流れる。


「なにか知ってるのか?」

 スクレイドの肩に手をかけるがやんわりと払いのけられる。

「まあ、おたくがその力をどう使おうと自由だけどねぇ」

 軽くあしらうように言い放つとアメリアに向き直る。

「嬢ちゃんいいもの持ってるねえ」

 真面目な空気はどこへやら、軽い調子に戻ると目線の先にはガイルに持たされた弁当の入ったバスケットがある。


 アメリアの腹からきゅーっと可愛い音が鳴る。

「お、お昼にしましょうか」

 恥ずかしそうに草を避けて座り込むと、バスケットの中身を広げはじめる。

 ちょうど三人分持たせてくれたのか、中には野菜と薄切りの肉がたっぷりと詰まったバゲットが三つに、唐揚げのようなおかずが入っていた。

 見た目も美味そうだが食欲をそそる香りに俺も思わず腹が鳴る。

「いただきます」

 ルンナは近くで草をむしゃむしゃとほうばっている。

 のどかな草原で三人で美味い弁当を食べていると、まるでピクニックのようで楽しくなる。


 スクレイドも掴みどころはないが悪い奴ではなさそうだ。

 けっして高価な魔宝石をもらったからではないという事だけは言っておきたい。

 なんだか俺に魔法のことを教えるためについてきたような、そんな印象を受ける。

「スクレイド、また色々聞いてもいいか?」

「あー、まあ…それは気が向いたらってことでねぇ」

 素っ気ない返事とは裏腹に、優しい笑みを向けてくる。


 腹がいっぱいになってから練習を再開しようとすると、珍しく疲れた様子のアメリアを見てスクレイドが制止する。

「明日も早いんじゃなかったかい?もう帰ろうか」

「わかった」

 魔宝石のおかげでかなり自由に動けるようになった。

 大収穫だ。


「うん!じゃあ帰りは本気のペガルスについていく練習をしがてらにしようか!」

「え?」

「はい!ルンナ!いっぱい走るのは久しぶりね」

アメリアはルンナの手綱をしっかり握って前傾姿勢になる。

本気のペガルスって?

そういえばペガルスに直接乗って走れば王都にもかなり早くつくとは言ってたけど。

途端に勢いよく疾走するルンナ。

「えええええええ!!」

早い!!

馬が地上を走り抜けるように空を駆けるルンナはどんどん加速していく。

追いつけない!そのルンナに涼しい顔して並んで飛ぶスクレイドは本当に何者なんだ!


「ヤマトくん、明日はルンナに乗せてもらうことをおすすめするよ」

えらく先の方からスクレイドの笑いを含んだ声が聞こえる。

「練習すれば追いつけるようになるか!?」

俺は意外と負けず嫌いなのだ。

それを聞いてスクレイドは瞬く間に戻ってきて、俺の手を引っぱり楽しそうに答える。

「おやぁ?嫌いじゃないなぁ、そのやる気!感覚さえ掴めばおたくに出来ないことはないだろうねぇ」

やっぱりこいつは楽しんでいるだけかもしれない…そんなことが脳裏をよぎるが、今まで体感したことのない猛スピードにその意味を考える余裕もなく絶叫と共に村に帰還した。



「ヤマト!?」

村の中心部にはクリフトとセリを始めとした四、五人の武装した村人が集まっていた。

吐き気を抑えながらクリフトに何事かと尋ねる。


「何かあったのか…?うぷ…」

「何かじゃないぜ!どデカい魔力の塊と、周辺に響き渡る魔物の雄叫びのようなものが村に近づいてくるって気づいた者がいて、警戒してたんだ」

「絶叫は俺だ…お騒がせしました…」

「ヤマトだったのか?」

そんな一大事になってるなんて、恥ずか死にそうだ…

「そうだ!クリフト聞いてくれよ!」

俺の後ろで空気のように気配を消して素知らぬ顔をしているエルフの腕をつかんで引っ張りだす。

「スクレイドが無茶してすっげー怖い思いしたんだぞ!?あほみたいな魔力だってきっとコイツのだよ!」


俺が訴えると集まった村人がざわつき始める。

こりゃ信じてもらえてない?


その時。

「「スクレイド様!?」」

クリフトとセリが大声でハモる。

「いらしてたんですか!?」

二人は嬉しそうに近寄り片膝をついてかしずいている。

「ご無沙汰しております、ご健勝そうでなによりです!」

クリフトはキャラ違くない?

スクレイドはセリに手を貸し立たせてから、クリフトに楽にするよう軽く手を振り、周囲の人間に頷いてみせると、

「久しぶりだね、ここより南の方ではいくつか村が無くなってたからどうしたかなぁと思ってたけど皆は元気そうで良かったよ」

そう言ったスクレイドの声は二重人格を疑うほどに柔らかく、周りを取り囲むように集まってきた村人の中には拝んでいる者までいる。

「勿体ないお言葉を…っ!」

「ご心配痛み入ります」

スクレイドってクリフト達にとってなんなんだ?

というか、皆スクレイドが村に来ていることを知らなかったらしい。


「それで、今日はどうされたんですか?もしよろしかったら村長の家にお越しください」

クリフトがエスコートしようとするが、スクレイドはやはり軽い様子で断る。

「今日はヤマトくんと遊ぶために来たんだよね、ガイルくんのところに泊めてもらうことになってるから気にしないでくれると助かるかなぁ」

そう言って俺を見て、手を振る。

「ヤマトと遊びに!?」

クリフト、その反応はよくわかる。

俺にもこいつの考えている事はさっぱりだからな。


「クリフトー、なんかこのエルフ朝からいるらしいんだよ。明日からもついてくるって言ってたけど、そんな堅苦しい調子でもつのか?」

「なっ、え!?スクレイド様もご同行頂けるんですか!?」

あれ?知らなかったのか?

「ちょっと待てヤマト、いくら異世界人とはいえ、このエルフとは失礼だぞ!?」

悪ふざけの被害を受けた俺としては解せないが、どうやら村の連中にとってはスクレイドは何か特別な存在らしい。

「いいのいいの、ヤマトくんは友達だから、ねぇ?ヤマトくん」

そう言うと周りからさらにどよめきがおこる。

「スクレイド様に認められるとは、さすが勇者様!」

「やはり人智を超えた方にしかわからない通じるものがあるのか…」

などと好き放題言われている。


アメリアがルンナを小屋に連れていってる時で良かった。

「スクレイド、一つ言っておくぞ?お前は悪い奴ではないのかもしれないが、信用はしてないし友達になった覚えもない」

「ええ、つれないなぁ」

「なんならクリフトの方がよっぽど信頼できる」

バッサリと言ってから刺さるような視線に気づく。


「ヤマト!俺を引き合いに出すな!」

視線の主はクリフトだった。

なぜ怒られているのかはわからないが、事実を言ったまでなのに。

「やっぱりヤマトくんはおもしろいねぇ」

その様子を見て渦中のスクレイドは人事のように楽しんでいる。

やっぱり食えないやつだ。

ここまで読んで下さって、ありがとうございます。

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