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ユキの役

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

実行したのか?してしまったのか?

出発前にルカから提案されたがうやむやになったあの手段を?


スクレイドは嘘だと気づいたとして、クリフトとセリは確実に真に受けたに違いない。


なぜならバカだからだ。

ならばアメリアも俺をそういった目で見ることになるのは容易に想像がつく。

なぜならバカに囲まれているからだ。


「待て、クリフトにルカの言う通りと言ってしまったじゃないか!それに俺は一度女将さんと付き合っているようなフリをした事があるんだぞ!?」

「まじで?遊び人を極めたって感じじゃん」

そういう問題ではないと言いかけたが集合の時間が迫り、もう全てがどうでもよくなってきた。

「ルカ…行こう」

「ちなみにユッキーはオレらの子供的な位置ね」

「頼むからそれ以上喋ってくれるな」


ユキには遠出を体験させるだけでなく、飛ぶ手段のないルカが移動する為に連れ出したというのに、そこまでの配役は重すぎるだろう。


俺はため息をついてルカを引きはがし、今までに経験したことがないほど重く感じる扉を開いて部屋を出た。

「おはようございます!クロウさん、まだ顔色が良くなさそうです、大丈夫ですか?」

会うなり心配そうに駆け寄ったアメリアだったが、ルカに阻まれ俺に近づくことが出来ずにいる。

「アメリアちゃんありがとね、でもオレがついてるからこっちのことは何も気にしないで?」

「あ、はい…」

「アメリア、こちらに来るんだ、ルカ殿が大丈夫だと言うならクロウ殿は大丈夫なんだ」

誤解したセリは気をつかってアメリアの手を引いて遠く離れた。


クリフトはペガルスたちを連れてきたあともまだ元気がないまま、そしてスクレイドはすねている。


「帰りたい…」

思わずそう呟くとルカはニッコリ笑った。

「そうだね、早く用事を済ませて帰って二人きりになりたいね」

「あ、ああ…」

その会話にツッコミを入れる者はいない。

門を通り過ぎ、シャルトゥームの街を後にして全員が空に飛び立った。


ルカは空中で胡座をかいた状態でユキの魔力によって引っ張られるように飛行して、そういえばと右手で作った拳を左手にポンとついた。


「昨日の店の術式さ、一応朝方にハナエさんに連絡の兵を出しておいたから心配ないよ」

「忘れてた、…ありがとう」

「おたくが言い出したのに忘れてたのかい?」

真後ろにはすねたスクレイドが張り付くように飛び、自然と会話に入ってくる。


「お前…宿屋から放り出したのを根に持っているのが?」

「べつにぃ?ドアの外までは想定内だったけど、まさか外に捨てられるとは思わなかっただけだよねぇ、さらに念話まで無視されて、貴重な体験をしたってだけのことだよねぇ」

「それを根に持つと言うんだ、そして関わるな…」


言いかけて突如背筋が凍るような悪寒が走って辺りを見回した。

《──来タ》

「スクレイド、シャルトゥームに戻るぞ」

「何があったんだい?」

「…気がかり?オレも行くよ」

嫌な気配、この感覚は二人にはわからないのか?

「クリフト!セリとアメリアを連れて先に行け!何か胸騒ぎがする!」

「…わかった!進路は変えずに進むから…必ず無事に追いついてきてくれよな!」

クリフトもただ事ではない緊張感にいつもの調子を取り戻し、セリが先頭にを進みアメリアを護るようにクリフトが警戒しながら最後に走り、俺たちと入れ違いに南に向かって加速した。


「スクレイド、以前渡したプロウドは持ってるな?」

「あるけど、どうしたっていうんだい?」

「シャルトゥームの上空に強い魔力を感じる」

「まさか、またルクレマールの襲撃かい?」

「わからないが…」

空路を引き返したどり着いた頃には目の前のシャルトゥームの街は木のミキに覆われ、どこまでも伸びる枝やツタは逃げ惑う人々に次々と巻き付き、身動きの取れなくなった者はパニックを起こし助けを求めて叫んでいる。


「なんだあれは、人の身体から…巻きついた枝に生命力が吸われていってる!」

「本当に困ったことになってるなぁ、おたくには生命力の流れが見えるんだよね、ということはアレは食人樹のはずなんだけどねぇ…」

スクレイドは何か解せないと顎に手を置いた。


「はずって、どういうことだ?」

「あそこを見てくれないかい?」

言われて街の上部、見張り台の一つを見ると、上半身は女、下半身から樹になっている巨大な魔物が見える。

「あんなヒトに似た部分は見たことないんだよねぇ、歪んだ魔力の流れと形だけ見ると…」

「キメラ、ということか?」

「これはまずいかなぁ、こんな人里に食人樹が現れるだけでもありえないというのに…ブレッヒェンヴァイス!」


キメラとは人為的に造られたモノ、それは以前の王都襲撃を彷彿とさせる。

これもルクレマールの奴らの仕業なのだろうか。

スクレイドは頷いて持っていた杖を空中であるはずの無い足元をとんとんと数回叩き、人間に接触していない枝を粉々にしていったが、次から次へと伸びてはうねる枝に効果は見られない。


今からではスクレイドの結界は意味をなさない。

「ルカ、王都にこの状況を知らせてくれ」

「わかった、早く片付けてね」

ルカは心配する様子もなく軽い調子で宝石を使い、王都に飛んだ。

「さて、さっさと片付けるか」

「この状況で随分と余裕だねぇ…?」

スクレイドは訝しげに俺を見た。

「少し離れたところに付近の人間全てを収容できる結界を作ってくれるか?」

俺が口の端を上げてそう聞くと、スクレイドはドーム状の白い結界を張った。

そこで俺はその場にいる人間全てを的に指定して、【転送】でドームに移動させた。

枝やツタに締め付けられた人々は一瞬にして白い壁の中、意識のある者は何が起こったのかわからず辺りを見回している。


すると見張り台に根を張っていたキメラがこちらに気づき、獲物を奪われた怒りに超音波のような叫び声を上げた。

「なるほどねぇ、俺を宿屋の外に放り出した能力かい?」

「まあな」


このエロフ…まだ根に持っているのか。


「ユキ!遊んでこい!」

声をかけるとユキは元気よく街の外周を飛びまわり、襲いかかる枝を躱しながら魔力を込めて咆哮した。

「ガアアアアアア!!」


普段とは違い重低音が腹に響くのユキの咆哮と共に、シャルトゥーム全体を閉じ込めるように冷気を含む強烈な突風が巻き起こる。

そして街全体に根を張っていたミキや枝はみるみる凍みていき動きが鈍くなった。

「ユキ、よくやった」

「うにゃあ~!」

俺はすかさず本体と思われる上半身の人型部分に手をかざすと生命力を吸収して、確実に仕留めたのを確信した。

「一応保険であの枝がこれ以上伸びないようにしておくか…ユキ頼む」

「にゃにゃー」

ユキがさらにひと鳴きするとシャルトゥームに雪が振り積もった。

「はい!?」

素っ頓狂な声を上げたのはスクレイドだ。


「ユキの魔法は飛行じゃないのかい!?」

仕事を終えたユキは俺に飛びつき、目一杯撫でて褒めると空中でヘソ天になって甘えている。

「ユキ、助かった!いい子だな」

「ヤマトくん?これはどういうことかなぁ!?」

人がせっかく一番の功労者であるユキを褒めちぎっているというのに、空気の読めないスクレイドは説明を急かした。


「ユキの属性は知らんが、使える魔法は知る限り天候操作だ」

「えぇ、そんなめちゃくちゃな…」

力が抜けて呆れたように呟くスクレイドにさらに説明をした。

「お前なら気づいているだろう?ユキはこの世界の生き物じゃない、異世界人と同じ世界から来たんだ」

「それは薄々とね、思考も読めないからには何かあるとは思っていたけれど…だからといってそんな強力な魔法が使えるなんて思わないよねぇ?」


「異世界から来た人間は魔力もステータスも高いだろう?それが生き物全般に当てはまるとしたら…加えて俺の魔力で上限が上がり続けている」

その時、背後から俺の両肩に手がかかり、恨めしそうな声が聞こえた。

「ユッキーの魔法の特訓と躾はオレも一緒にやったじゃん…」

それは王都に報告を終えたルカだった。


「ルカ、ご苦労さまだったな。何も俺一人の手柄なんて言ってないだろう?そもそも頑張ったのはユキだぞ?」

そう言われてルカは確かにとすぐに納得し、懐から出したおやつをユキに与え、これでもかと褒めちぎっている。


「…と、言うことだ。ところで俺は結界の中の奴らに治癒魔法を使う気は無い、俺は事態が収集したことをアメリアたちに伝えに行くから後処理は任せるぞ」

肩をポンと軽く叩かれたスクレイドはウンザリしたように項垂れてから言った。

「どうせユキの正体も黙ってた方がいいんでしょ?」

「恩に着る。この間のエルフの仕業だとでも伝えてくれ、俺が関わっている以上嘘にはならないはずだ。ユキ、ルカ、アイツらに追いつくぞ」

「またこのパターンかい…?」

ボヤくスクレイドを残し、アメリアたちの元に向かう途中、俺には気がかりなことがあった。


俺が感じた悪意と悪寒、それはあのキメラ程度のものではなかったはずだ。

しかしあの場では術式の痕跡はあったものの、恐らく召喚術のみでキメラの出現と共に消えてしまったようだ。


そこから情報を辿ることができなかった。

「ルカ、俺は少しその辺を見てから合流する、先に行ってくれ」

「気をつけていってらっしゃい、ユッキー行こ」


まだシャルトゥームが見える位置に滞空し、目を瞑り深く集中してあたりの気配を探っていく。

その時、どこからともなく目の前を一羽の白い蝶が舞った。


これは、アキトと暮らしていたころに一度だけ見たことある…。

あれは幻でも夢でもなかったのか!


目を閉じているはずなのに姿が見える不思議な蝶は、俺の周りを舞って肩にとまった。

「わたしを認識できよう者がいるとはね…」

蝶は思念のようなものを送り、それは人の言葉になって俺の頭に響いた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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