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同志以上

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


この辺りからギャグもシリアスも含む、同性の、いわゆるBL要素の表現が強くなってきます。


それが全てになるわけではありません。

大和の成長に欠かせない要素だとおもっていますが、同性同士や男性同士が苦手な方は自己防衛をお願い致します。


欲を言ってしまうと、読んでくださったらとても嬉しいです。


冷えた指先に震える手、何かがのどに張り付いたような感覚が邪魔をして上手く喋ることもできない。

ルカはようやく状態を起こして、ベッドに手をかけて座り込むと深い深呼吸をしてから微笑んだ。

「げほっ、…っ、よかっ、た、気がついた…?」


そんな状態で、掠れる声で咳を押し殺し、それでも俺の心配をするのか?

「まだ、体調が…悪い?」

違う、そうじゃない。

「うなされてたから、声を…ごほっ、かけてごめん」

俺はまたアイツに…違う、自分の意思でルカを殺そうとした?


「大和?」

(やめろ、俺はお前に心配される資格はない)

ルカは俺に負い目がある、だからどこかで仲間だと思いたかった、でも決定的に違うことがあるじゃないか。

こいつは知らずに犯した罪を必死に償おうとしている、俺はわかったフリで罪を犯して逃げ続けている。


《──優しい者から傷ついていく》

「ねえ、本当にヤバかったら国医殿に…」

差し伸べられた手は払いのけられ、ルカの表情が暗くなった。


(俺にかまうな、一人にしてくれ…)

「…ごめん、熱でもあるのかと思って…余計なことしちゃったな…」

《──このまま弱みにつけ込んで利用し続けるのか?》

そんな事は望んでいない…

《──大切な者を殺されたのに、その実行犯である者を生かしておく理由はなんだ?》

こいつは、騙されていただけだから…

《──違うな、本当は怖いんだろう》

何を怖がるっていうんだ?

《──復讐の名のもとに人を殺すのが楽しいんだ、この者を始末したら、次はどうする?》

人殺しを楽しいなんて思ったことはない!

《──トール、王、何かを隠し王と取引をしているエルフ、どんな者も俺には敵わない。俺には全てを終わらせる力があるのにそうしないのは、人を殺す理由が欲しいからだ》

違う…

《──進むことも戻ることも出来ないならば、その場に留まり続けるといい。代わりに俺が終わらせてやる》

「違う!!」


思い切り叫んで、その声に自分自身で驚いて目の前のルカを見た。

「ルカ…ごめん、ごめんな、首は大丈夫、か?」

「…うん」


ルカは怖々と頷き、向かいのベッドに座って探るような視線を向けてくる。

「お前はもう同行しなくていい、帰ってくれ」

「そんな君を残して?冗談だろ」

「わかってるよな?俺は今お前を殺そうとした」

「…そうだね」

「抵抗する気もないお前を殺そうとした」

「うん」

ルカは真っ直ぐこちらを見て抑揚のない声で頷くばかりだ。


埒が明かずに立ち上がろうとしても、力が入らずに言うことを聞かない身体が崩れそうになる。

「…俺はまた倒れたのか」

「そうだけど、皆は解散させたから何も気にする事ないよ」

「そうか…」

「うん」


ルカはほっとしたように息を軽く吐いて、おもむろに立ち上がると俺の隣に座り直した。

そしてこちらを向くことなく目を瞑って壁に背を預け、余計なことは喋らず、何も聞かず、ただ寄り添う。

「王都に帰らないのか?」

「うん」

帰れという言葉とは真逆に、俺はいつの間にかルカの肩に寄りかかり、うとうとしていた。

やっと動いたルカは俺を横にならせると、自分も隣に寝転んで言った。

「くろこちゃんになれる?オレベッドから落ちそう」

「ん…」


言われて変身すると、ルカは布団を掛け直して優しく言い聞かせるように囁いた。

「朝方には起こすから、そしたら一度君の家に戻ってから皆とまた出かけよう、おっけー?」

「…わかった、ごめんな…ルカ」

「大丈夫大丈夫」

暖かい言葉と隣にルカのいる安心感。


やはり何故だかわからないが、ルカだけは側にいても気分が悪くなることは無い。

次に無意識に伸ばした手は傷つけるためではなく、温もりを求めてルカを抱き寄せ眠った。

「アキト…」


—ルカは今は自分の腕の中で落ちついて小さな寝息をたて、時に不安定に別人のような顔を覗かせる人を見つめた。

力になりたい、償い方がわからない。

朧月の女将であるハナエから、その人眠る時に何者も寄せ付けることが出来ないと聞いた。

その理由は閉ざされた二階の部屋といつもソファに眠るところを見て、なんとなく察しがついた。


だからこそ店に来ていると知っても顔を出すような事は避けてきた、ただ必要とされ声がかかるのを待っている。

それなのにそんな状態を作った原因ともいえる自分の隣で眠ると言い出した事には驚いた。

そして複雑ながらも何より嬉しかった。

赦されないことは承知のうえであり信頼など求めてはいない、ただ考える時間と償う機会を与えてくれたこの人の為になにかしたいと思っていた、せめて寄り添うことが許されるなら、そう思ったのだが。


しかしあの泊まった時も今もその口からは、かつて自分が奪ってしまった大切な者の名が漏れた。

聞いてしまったのが悪いような気がして、それでも自分を側に置いてくれるなら聞かなかった事にしようと思っていた。


だが止められない感情に自然と身体が動き、あの日自分でも思いもよらずに無防備に眠る恩人に口付けをした。


気づかれなかっただろうか。

それとも気がついていても隣にいてくれるのか、しかしそんな事はどちらでも良かった。

いつかこの人に殺される時が来るまでに、何かを成さねばならない。


「ほら、早く乾かして」

「このままでいい…」

約束通り朝方にルカに起こされて、森の家でシャワーを浴びてから適当に髪を拭き、ユキの世話が一通り終わると何事も無かったかのように接するルカに対し、俺は昨夜の自分の行いについては触れられずにいたが、それでも一応忠告の意を込めてボソッと呟いた。

「…お前はこのまま残ってもいいんだぞ?」

「あはは、大和しつけぇ~」

ルカに珍しく反抗され…というより雑に笑い飛ばされ、これ以上は無駄と悟り再び宿屋の一室に戻った。


「次からベッドはダブル以上にしてもらおっか」

ルカは鼻歌を歌っていたかと思うと、俺の罪悪感を他所に呑気な事を言う。

じろりと見ると、にっこりと笑い返されて毒気が抜ける。


と、それぞれのベッドで適当にくつろいでいると部屋の扉をノックする音がして、ルカが迎え入れたのはスクレイドとクリフトだった。

スクレイドは勝手に俺のベッドに座り、相変わらずマイペースに喋りだした。

「おはよう二人とも、クロウくん昨日は大丈夫だったかい?」

「ああ、食事中に騒がせて悪かった」

「今日は素直だねぇ、それでなんだけど、ねっ、クリフトくんほら」


部屋には入ったものの、気まずそうに入り口に立ったままのクリフトは突然呼ばれ反射的に姿勢を正した。

「あのっ、ヤマ…じゃなくて、クロウ様…」

「クロウでいい」

「じゃあ、クロウ…昨日はすまなかった、体調が悪いとは知らなくて…ちょっとやりすぎちまった」

しどろもどろとしてはいるが、どうやら倒れたのが自分のせいだと思ったのか謝りに来たらしい。


しかしルカがクリフトを見る目は冷ややかなものだった。

そしてクリフトの隣に立ち、穏やかな口調のまま言った。

「クリフト、昨日オレが言ったこと覚えてる?」

「はい」


昨日、知る限りでは二人で話していたような場面はなかったはずだが、俺が倒れたあとに何かを話したということか?

状況が分からずに二人の会話を黙って聞いていると、クリフトが口を開いた。

「この旅でクロウとルカ様には極力関わらないようにします」

「そうそう!ちゃんと覚えてたじゃん、エラいエラい。オレたちと君たちでは立場も目的も違う、そこをはき違えないように、ね。わきまえてくれよ?」

部屋の温度が下がり、ルカの迫力にクリフトが小さく頷き、まるで捕食者と獲物のようだ。


それにしても誰に対しても軽く、スマートなルカがここまで攻撃的になるとは珍しい。


確かにその約束は願ってもないことなのだが、この二人はさすがに見ていられない。

「ルカ、ありがたいがその辺にしてくれ…クリフトに悪気はなかったんだ」

「あ、そう?じゃあ君に任せるよ」

「…ヤ、じゃなくて!クロウ…!」

ルカは自分のベッドに戻りそこからは関係ないというように寝転び、クリフトは顔を上げて何かを期待するようにこちらを見た。


しかし俺はスクレイドをベッドから蹴り落として続けた。


「いたっ!蹴った!?今おたく蹴ったよねぇ!?ひどくないかい!?扱いがさぁ!ねぇ!?聞いてる!?」

「だがクリフト、ルカの言う通りできるだけ関わりたくないのは本心だ。全て俺のせいなんだが、もっと早くにハッキリさせるべきだった」

「本当にそうだったのか…わかった、出立は30分後だ、よろしく頼む」

スクレイドの訴えは誰にも届かず、クリフトは必要事項だけ伝えると寂しそうに肩を落として部屋を出ていったが、スクレイドはまだ用があるのか部屋から出ていく気配がない。


そしてスクレイドが何かを言おうとした時。

「おたくさぁ…」

「ルカへるぷ」

「おっけー」

ルカは俺の呼び声に即座に反応すると、足の反動で勢いよく起き上がりスクレイドのマントのフードを掴んで部屋の外に放り出した。

「ウソぉ!?いくら俺でも傷つくんだけどねぇ!?」

扉の向こうが騒がしいのでトドメに【転送】でスクレイドを宿の外に飛ばした。

[ここまでするかい!?]

すぐに念話によるクレームが聞こえたが、その声を遮断してルカに頷いて親指を立てるとルカはクスクスと笑った。


「余計なことした?」

「そんなことないぞ、まあ俺が勝手に負い目を持ってアイツらを傷つけているだけだ、お前にも嫌な役をさせてごめんな」

それを聞いたルカは倒れ込むように抱きついてきた。

「どうした?」

「んー、謝っとこうと思って」


これのどこが謝る姿勢なのかと思いながらも背中を何度か軽く叩くと、ルカは衝撃の事実を発表した。

「四人にはオレたちが付き合ってて、デートを兼ねてるから邪魔するなって言っちゃったわ」

「なるほど、…って、おい本当にか?」

「うん」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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