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心の隙

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

ルカは俺の肩を軽く叩き、部屋に行くよう促した。

ベッドが二つに洗面台のある部屋で、鍵を閉めてから俺はその場に座り込んだ。

「大和、大丈夫?」

「世話をかけて悪いな、クリフトも悪いやつじゃないんだ、ただ時々プッツンして空中で俺の足にぶら下がる悪い大男を殺そうとする真っ直ぐすぎるバカなんだ」

「何その状況…フォローになってないって」

ルカは苦笑いをした。


「さて、俺は一度家に戻って風呂に入るが、お前はどうする?」

「そうだね、大浴場で顔を合わせたらまたややこしそうだし、オレも一度部屋に戻るよ」

そうして時間を確認し、30分後に約束をすると王都にあるそれぞれの部屋に戻った。


シャワーを浴びながら朝からあったこと、そしてスクレイドの言葉が頭をよぎるとどうしようも無い感情が込み上げてくる。

「クリフトは間違ってないんだろうな…そんな事はわかってるんだよ!!」

それは苛立ちに変わり、左手のブレスレットを押さえて目を瞑った。


──それから少しして定位置のソファに寝転んでいると約束の時間になりルカが降って湧いた。

「二度目でもこっわ!!」

「なるほど、こんな感じになるのか」

術式を仕込んだ宝石を握ったまま嫌そうな顔をするルカを抱きとめ、自分以外が何も無い場所から突然現れるという体験をした俺はでかいため息をついた。

そしてルカは真顔で宝石を指さし言った。

「改善を要求する」

「善処する」

と、言いながらルカを掴むとそのまま宿屋の部屋に飛んだ。

お疲れ気味のルカはベッドに倒れ込んで呟いた。


「これもう瞬間移動じゃんかよ」

「それもできるぞ?ただそれだと移動できるのは俺だけだ、転送なら指定したモノを一緒に移動させらるから使い所の問題だな、似たような他のスキルはあまり使い道が思いつかない」

「逆にさ、大和は何なら出来ないの…」


その言葉に心臓がチクリと痛んだ。

「大和…?」

「なんでもない」

そこで時計を見ると待ち合わせの時間が迫っていた。


「食事って…君…」

「最初に謝っておく、お前には迷惑をかける」

「うん、わかった」

そう言い合うと宿屋を出て、先に来て入口で待っていた四人と合流した。

そして言葉を交わすことなくぞろぞろと移動し、飯屋に入るとセリが受け付けで人数分の鍵を受け取った。


すると言われた通りの扉をくぐるとそこは広い個室のテーブル席になっている。

「ここも術式か」

王都に近く、栄えた街ならではの造りに感心して壁に手を当てていると嫌な気配がして集中していると、クリフトが早く座るようにと目で訴えた。

全員が席に着いたところでクリフトとセリが相談して料理を注文し、皿で埋まる前にとテーブルに地図を広げた。


「よーく知ってはいると思うけど、俺たちの目的地はここだ」

嫌味を込めて死の森を超えた付近を指さし、途中にある街をいくつか利用すること、そして先行しすぎないようにと注意をされた。

俺は話を聞きながらマントから取り出した紙に図柄などを書いていた。

やはりその様子が気に入らなかったのか、クリフトが席から立ち上がろうとした時、チャイムのような音が鳴り店員が大量の料理の皿を運んできた。


ルカは皿を受け取ると、セリやアメリアと息を合わせて手際よく料理を小皿に取り分けた。

この男は本当にそつがない。

そして俺は店員の去り際に先程書いた紙を手渡し、店主に渡すように言った。

店員はとりあえず紙を受け取ると部屋を後にした。


「さて、ここは俺の奢りだから好きなだけ食べてね!」

ご馳走を前に嬉しそうに言ったのは、見かけによらず大食いのスクレイドだ。

「スクレイド様、ありがたく頂きます」

「ご馳走になります!」

セリとクリフトはスクレイドに礼をして食べ始め、アメリアはなぜか俺を見つめている。

「なんだ?」

「あっ、いえ!ご飯なので…その、マスクを外されないのかなって」


それは極めてもっともな疑問であり、ルカ以外の全員が思っていたらしく小さく頷いているが、もう一つ気になることがあるようでアメリアはさらに続けた。

「あの、クロウさんの分のご飯はどうしたんですか?」

俺の前には飲み物以外の食器も料理も無く、取り分けていたルカが忘れるはずもない、となると俺が食事をしないという意思表示になり、他の四人はあえてそれには触れなかったのだが、アメリアは心底不思議そうに言った。

「食べないんですか?美味しそうですよ!」

「気にするな」


それだけ言うと、何を思ったのかルカが満面の笑みで言った。

「今ダイエット中なんだって」

「そうなんですか?でも少しは食べないと身体に悪いです」

「ねー、まあほっとこう」

素直に信じたアメリアもアメリアだが、その理由はいかがなものか。


微妙に重い空気の中食事は進み、食べ物の匂いで吐き気と目眩が酷くなってきたのに気づき、ルカが俺を連れ出そうと席をたった時。

再びチャイムが鳴って入ってきたのは店主を名乗る男だった。

「? 誰か呼んだのか?」

クリフトは聞きながら周りを見て、全員が首を振った。


「カーニヤと申します。お食事中申し訳ありませんが、このメモを下さったのはどちらのお客様で?」

その手には最初に店員に渡した紙があった。

「…俺だ」

「これはどういった事でしょうかね」

店主のカーニヤは強い口調で、持って見せた紙を反対の手の甲で軽く叩いた。

「ちょうどいい、話なら外でしよう」

そう言って立ち上がるが、店主に押さえられ再び席につかされてしまった。


「客商売としては、こんな話が広まると困るんですよ」

店主のその言葉にスクレイドが訳を聞いた。

「どういうことかなぁ?クロウくん、何を書いたんだい?」

「別に、術式が劣化している事を教えてやったんだ」


個室に通されてすぐ術式を探ると、空間の基礎になる術式が崩れかけていることがわかった。

そしてそれを伝えるために紙を渡したのだが。

「術式の劣化?って、なんですか?」

クリフトがこっそりとスクレイドに尋ねるが、スクレイドは紙を受け取りその内容をしっかりと見て再び紙を手渡して店主に言った。


「この子がそう言うならそうなんだろうねぇ、一度術式の業者に見直しを依頼することをおすすめするよ」

しかしそれを聞いてもなお店主は信じようとしない。

「お前ら、そんなこと言って術式で金をとる気だな?それともどこかの店に頼まれたか!いいか!?うちの店の個室は全て王都の魔術師様の店に注文した確かなものだ!言いがかりなんぞつけて騙そうったってそうはいかないぜ!」

「ちょっと待って、そんな事は…」

「…いい、ルカ」

吐き気と目眩、話の通じない状況にどんどん苛立ちが増し、庇おうとしたルカを静止して店主に向き合った。


「一応聞いておく。空間術式には何が必要か知っているか?」

「術式に…?そんなもん知るか」

あくまで俺を信用などしないとハッキリと態度で表す店主。


「術式には知識と技術だけじゃない、膨大な魔力が要る、種類によっては魔力を供給し続けなければならないものもある」

「それがなんだってんだ?」

「だが空間術式には本来継続的な魔力の供給は不要だ!その為に必要なのが術式を施す時に用いる魔力と精密さ、それが手抜きをされて綻びが生じ劣化していると言っている!」

その怒気がこもった声に店主は驚き、戸惑いに眉尻が下がり次第に少しづつ後ろに下がった。


「いいか!?このまま放置すれば空間が歪み、良くて中の物や人が突然どこともしれない外に吐き出される!最悪中にいる人間ごと閉じ込められ同じ空間には二度と通じなくなるんだ!!」


「ひっ、なっ、…え、そんな…」

余りの勢いと眼光、そして圧倒する雰囲気に飲まれて店主はたじろぎ、まさかと反論しようとして俺の目を見つめ直し信じたくない気持ちは捨てられず、しかし言われた通りの事が真実ならばと力が抜けて紙を握ったまま立ち尽くした。


スクレイドは困ったように腕を組んで哀れな店主を見下ろし、セリとクリフトはまるで自分が怒鳴られているかのように錯覚するほどの怒りの空気に身を強ばらせた。

アメリアはひたすらにじっと俺を見つめている。

やっとのことで喋りだした店主は動揺し、部屋を見回してから頭を抱えた。


「そんな…だって、この術式には高い金を…どうしたらいいんですか…?」

「ルカ、確かな業者の手配に女将さんの連絡先を教えてやってく…れ…」

「そうだね、朧月の術式は君のお墨付きだから心配ない…おい?」

そこまで言うと目眩で立っていられず、ルカの声を最後に目の前が暗転した。


だから食事の席なんて無駄なものは嫌だったんだ。

余計なものは見たくないし知りたくもない、他人の心配なんてしている場合じゃないだろう、放っておけば良かったんだ。

なぜ縛られなくてはいけないんだ?

思うがまま、自由に…


「…と、…大和!」

「…誰だ…」

俺の名前を誰かが読んでる。

違う、俺の名前はクロウだ、ただの人殺しのクロウ、いや同胞殺しのシスか。


「大和ってば!」

薄ぼんやりと開いた視界には見慣れた顔、しかもひどく焦った様子で俺の顔を覗き込んでいる。


こいつは…誰だった?


「気がついた?ここは宿屋だから安心して…」


こいつは…──

《アキトの仇だろう?》

アキトの…そうだ!!


瞬間、無意識に伸ばした手は相手の首を捕らえ、力が入るにつれ意識がハッキリとしてくる。

「!?…や、ま…と…」

気がつくと俺の右手はルカの首を締め、ルカは身体が浮いても抵抗することも無い。

慌てて手を離し、その場に落ちたルカは咳き込みながらなんとか息を整えようとしている。


俺は何をしているんだ!?

回復しなければ、そう思うのに強ばった身体は身動きがとれず、ただ目の前で苦しそうに倒れ込んでいるルカを見ていることしか出来ない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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