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エルフとは2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

スクレイドはクスクスと笑った。

「いいもなにもねぇ、そういうモノなのだから…せいぜい清廉であることに努めるしかないんだよねぇ、だからといって特に悪い事をしたい訳ではないしねぇ」

「そういうモノ…か」

しかしこいつは大量の人を殺したと言っていなかったか?

いやその前に王にエルフの姿で術式を解いたと言ってしまったじゃないか。

まあ、怪しまれているならあの場で捕まっていたか。

俺はそんな事を考えながら、ぼんやりとスクレイドの話を聞いた。


そして自然と出てくる言葉。

『王は愚かにも世界の全てが清廉であることを望んだ。しかし心という脆く危ういものがある限りそれはただの理想に過ぎない』

「心が脆いのは、生きていれば仕方ないと思うんだよねぇ」


スクレイドはやはり空を見ながらそう言ったが。

『その通りだ、心を失くす事は生きているとは言えなかった、ならば心に制約を持つことで何かが変わると信じたんだ』

「ヤマトくん…?」


先程までとは全くの別人かと思えるほどの異様な雰囲気、抑揚のない口調とは裏腹に怒りとも哀しみともつかない何かを孕んで放たれる言葉にスクレイドは思わず名前を呼び、様子を伺った。


『お前たちは今も魂まで縛られているのか…、何者もが清廉であることを世界に切望し、身勝手にも絶望した王こそ誰より欲にまみれ罪深い、そんな傲慢な王の矛盾だらけの身勝手に、まだ…』


それは聞き捨てならないと思わず眉をひそめたスクレイドは、さっきまで見知っていたはずの人物の知ったふうな言い様に、撤回を求めるように聞き返した。

「王が傲慢?清廉であることに希望をもつのはいけないことかなぁ?」

『少なくとも王は間違えた。それが事実であり全てだ。それは同じく過ちをおかしたお前が誰より知っているはずだ、スクレイド』

スクレイドは焦りを感じた、否定したいのに言葉に詰まる。


目の前の人物は答えを待つように、慈愛とも憐れみともとれる暖かい眼差しを向けてくる。


それは考えても仕方の無い心という存在、清廉であり善良でなければいけない、しかし溢れ出た矛盾は葛藤をもたらす。

なぜ善良でなくてはいけないのか、それはそういうものだからとしか説明がつかない。


はるか昔にそれを考えてみては闇を抱いたことさえあった。

『なあ、スクレイド、善良であることは時に悪よりタチが悪い、善の名のもとにどれだけの犠牲を払ったか』

「ヤマトくん、自分が何を言っているのかわかっているのかなぁ?」

『もちろんだ、善と悪は表裏一体、光あればこそ影が出来るように、また影がなくては光の中であることがわからない』

「…善と悪が同じであるはずがないよねぇ」

『同じであってはいけないと思うか?どちらも存在してこその心、それを誰が責められるというんだ?』

絞り出した些細な反抗、だがそう言われてスクレイドは黙り込み、しばらくの沈黙が流れた。


「とにかく、お前がその制限で術式がろくに使えないことはわかった」


スクレイドはハッとして隣を見ると、それはいつもの知っている人物に間違いはなく、面倒そうに立ち上がって草をまとめる姿に思わず確かめずにはいられない。

「おたくヤマトくん、だよねぇ?」

「クロウだけどな、もう面倒だ。好きに呼んだらいい、ただアメリアにだけは明かすなよ」


それにしても何度同じ事を聞いてくるつもりだとウンザリして家の中に入ると、スクレイドも後に続いてきたが、俺を見る怪訝な視線はなんだというのか。

「あの村にいつ行けばいい」


そう聞くとスクレイドの顔はパッと明るくなった。

「いいのかい?」

「お前の事だ、どうせ王に手廻しして勝手に俺の派遣を決めてあるんだろう?」

「バレちゃったねぇ~!それで…あの、出発の日と、メンバーなんだけど…」

「メンバーだと?」

悪びれることもなくヘラヘラするところに腹が立つ、だがそれよりも珍しく言い淀むところに嫌な予感がする。



「なんだってぇ!?」

聡一の叫び声がこだまする中、心配そうに俺を見るのは女将さんとルカだ。


スクレイドとの話の後、自ら正体をあいつらにバラしてしまった気まずさから、しばらく来るつもりが無かったはずの朧月の一室で、聡一の予定に合わせて集まってもらった三人に俺は頭を下げる。


「姿を変えるのも忘れて目の前で力を使ったせいで、全て無駄にしてしまった。心配して協力してくれたのに申し訳ないと思ってる」

そう言うとフォローしたのは女将さんだった。


「いいんですよ!アメリアさんの危機だと聞いて大和さんが何もしなかったら、それこそ悲しいですもの、まさか治癒魔法が使えることには驚きましたけど…」

「そうだよ!そんな事気にしなくていいのだとも!それより…なぜわざわざあの四人と行動を共にしなければいけないのかね?」

そう聞いたのは聡一だった。


そして女将もそれに同調して頷いた。

俺としてもまさかの事の成り行きに納得がいかない。


正体を知られたからといって俺があいつらと会いたくない事には変わりはなく、その理由をよく知る聡一と女将はどうしても一緒に行かなければいけないのかと憤った。


「逃げ出さないように見張り付き…、うーん、そのスクレイドってのがよくわからないな、それでさ」

そんな中で冷静に口を開いたルカは別の気がかりがあるらしい。


「オレも行ってもいいかな?」

「「「え?」」」

想定もしていなかった疑問に、思わず俺と聡一、女将が声を揃えてルカを見た。


すると普段の穏やかさとチャラついた雰囲気はなく、女将の方を向いてルカは言った。

「ハナエさんには最初にお話したと思いますが、オレの処遇は全権大和にあるんです、オレの罪を知った上で働かせてくださったうえ、優しくしてくださったことに深い感謝もしています」


「そ、それはお聞きしましたけど、そんなにかしこまって言われる程のことは私…、むしろ本当に助かっていますのよ?」

そして戸惑う女将の次に聡一の方を向いた。


「もちろん、弟さんであるアトスを手にかけたオレに温情をかけてくださった国医殿にも、相応の償いをしなければと思っています」

「それは…本当に君だけの責任ではないのだし、今の君に償いなどと思うところはないのだが…」


聡一とルカ、どちらもあえて触れずにいたであろう話を切り出し、気まずい空気が流れるが改めてこちらを見るルカ。

「しかしオレがしなければいけないのは、大和の力になる事です」

「なぜ俺が出てくるんだ?」

いつものこいつからは想像もつかない真面目な話ぶりに、全権預りの俺から思わずアホな質問をしてしまう。


しかしそんなことを気にもとめずにルカは続けた。

「大和、気を悪くしないで聞いて欲しい」

「なんだ?」

「君は少し頭がおかしい、能力もステータスもおかしいけど!変わってるなんてもんじゃない」


俺はこの流れからの突然の罵りに驚き、空いた口がふさがらず聡一と女将に視線を移すと、二人は何故か目を合わせないように顔を逸らした。


そしてルカは逃がさないように前に座り直して、俺の両肩を掴んだ。

「常識もないしさ、それだけの問題じゃなくって決定的にズレてる!何より異常なほど自分を顧みないじゃん」

「ズレ…!?そんなことは無い、それに俺はワガママだし、自分の事で手一杯だぞ?」

自覚するところの自分とルカの言う自分のあまりの相違、そして不本意すぎる認識に当然のごとく否定した。


こいつは人が良すぎて俺を恩人と思いこみ、度が過ぎて何か勘違いしているんじゃないだろうか。


「聡一、女将さん、ルカは何を言っているんだ?」

仲間を求めて再び二人を見ると二人もうんうんと何度も頷いているところで更に確認をする。

「だよな?今日のルカは変だよな?」

すると、二人から返ってきたのはまさかのルカに対しての援護だった。


「私にはそこまで言えませんが、…正直ルカさんが一番大和さんをご存知なんですわね」

女将がそう言うと聡一も力強く前のめり言った。

「うむ、確かに大和くんはもっと自分を大切にすべきだと僕も思っていたのだよ!ルカくん、他に思うところは無いのかね!?」


なん、だと?

ルカの言葉を肯定するだけでは物足りず、他に何を言わせようと言うんだ?

「あ、じゃあ許可も降りたし言わせてもらうわ」

誰の話で誰から許可が降りたって?

「ユッキーとオレに対して何か思わない?」

「はい?」

「だから、オレとユッキーは今君の目の前にいるわけ」

「ユキはいないぞ?」

部屋の中を見渡しても当然ユキの姿は見当たらない。

「そういう事じゃないって、君にはオレたちが目に入ってるか?」

「どういうことだかサッパリだ」

ルカとは週に一度は手合わせの練習をしてもらっているし、いくら仕事の間は任せることが多いと言ってもユキの面倒も躾も基本は俺がしている。

それなのにこの言われようはあんまりではないだろうか。


そう考えた時。

「今、十分相手してるのにって思ったろ」

「えっ…」

頭の中を見透かされたような指摘にドキッとしてつい力が入ると、そんな俺を横目にルカは聡一と女将に手を向けた。

「国医殿とハナエさんのことは?どう思ってるの?」

「そりゃ、助けてもらってばかりで何一つ役にも立ててないがありがたいと…」

「はーーーーーあ、これだよ」

俺の言葉を遮るようにルカは大きなため息をついた。


そして女将は額に手を当て、聡一は俯いている。

「ルカさん、お店は気にせず大和さんをお願い致しますわね」

「大和くん、今回の出向にはルカくんにも行ってもらおうじゃないか、そうでないと僕も不安で行かせることは出来ない」


なぜ今の話からそんな事になったのか、皆目見当もつかないが、理解していないのは俺だけのようで、三人は頷きあっている。

これがこの国に長くいる人間との感覚のちがいなのか。

ここまで読んでくだりありがとうございます。

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