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空中で動く練習

少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。

「うん、この辺りでいいかもしれないねぇ」

 村からだいぶ離れた草原に降りると、スクレイドは木陰を見つけて寝転びはじめた。

 一体何をしにきたのか。


 いつもの事なのか、アメリアはそんな男の行動を全く気にしていないらしく、俺がルンナから降りるのを確認して少し離れた空中で待っている。

「ヤマト様、無理はしないでくださいね」

 アメリアに頷き、昨日は出来たのだと自分に言い聞かせながら浮き上がる。


「あれ?」

 景色が逆さま…じゃなくて俺が逆さまなのか、頭に血が登りそうだ。

 じたばたと手足をばたつかせてバランスを取ろうと試みるも、もがけばもがくほど身体に力が入らなくなる。

「アメリアさん、助けて」

 ああ、良いところを見せたかった。


 俺の救助要請を受けてアメリアがルンナで近くに来て手を伸ばしてくるが、なぜか反発するかのように俺の身体は意志に反してアメリアから離れていく。

「ヤマト様?」

 心配そうにアメリアが近づけば近づくほど一定の距離を保ち引き離される。

「アメリア、ごめん!なんでかわからないけど近づけない!」

 焦って空中で平泳ぎのように動いてみるが距離が縮まることはない。

 なぜだ、一旦降りるか?


「ぶはっ!あはははは、ごめんごめん」

 その時、木陰で昼寝をしていたはずのスクレイドが笑いながらこちらにやってくる。

「スクレイド?」

「おたくの動きが面白くて、気になって寝れないんだよねぇ」

 そうは言われてもこっちはいたって大真面目だ。

「ルンナ、おいで」

 頭上のルンナに声をかけるとルンナは言葉がわかるかのように地上に降り立ちスクレイドの隣に付いた。

「少し仕掛けをしちゃったんだよね」

「仕掛け、ですか?」

 アメリアが不思議そうにたずねると、スクレイドは出がけに三つ編みにしていたルンナのたてがみを解くとそれを指して笑う。

「ここに、一度君がルンナから降りたら次から反発するまじないをかけておいたんだよねぇ」

 ええ?何してくれてんの?


「練習って聞いたからねぇ、あまり頼ると癖がついて上達しないかなってことでさ」

 なんだかそれらしい事を言って、俺にも降りるよう指示を出す。

 言われた通りに降りるとスクレイドは俺の目の前に立ち、頭から足の先まで値踏みするかのように見てから頷いた。

「うん、やっぱり多すぎるかなぁ」

「何が?」

「ヤマトくんは魔法を使う時詠唱をしないって?」

 たしかに、視界に表示されるスキルや頭に浮かぶ魔法を、使いたいと強く念じることで発動できることは確認している。


「出来るならそれでもいいんだろうけどねぇ」

「どういうことだ?」

「例えばねぇ、呪文はなんの為にあると思う?」

 聞かれて考えてみるが、それらしい答えが出ない。

「普通はこれから魔法を使うと宣言することで、この世界の大地に、大気に、全てのものに存在する魔力を借りて、初めて己を依り代に魔法を発動するものなんだよねぇ」

 魔力を借りる?

「そこでヤマトくんの話に戻るけど、おたく自身の魔力が膨大すぎて他の物に力を借りる必要が無いから、呪文の詠唱もいらないということになるんだよねぇ」

 そう言いながらマントの内側から小さい水晶のついた革紐のネックレスを渡してくる。

「その分必要以上に放出された力は制御が難しくなって、あまつさえ垂れ流しになってるってことなんだけどね?」

 ぐっ、それはあまりにも身に覚えのある言葉だった。


「気づいているかなあ?」

「なにが?」

「来た時より草が伸びてるんだよ」

 言われて周りを見渡すと、足首ほどまでの長さだった草は膝まで生い茂り、スクレイドが休んでた木は心無しか、いや、確実に成長して大木になっている。

「え!?これ俺がやったの!?」

「そうなっちゃうんだよねぇ」

アメリアも気づいていなかったのか、ポカーンと景色を見つめ絶句している。


「ヤマトくん、魔力を使うってことは魂を削るってことなんだよ?」

 それは元の世界で経験して、クロウシスに言われて嫌というほど身に染みている。

 だからといってどうすることができるのか。


「そこでそれを使うといいんじゃない?」

 先程の水晶のついたネックレスを身につけるように言われる。

「これは?」

「レイムプロウドっていう魔晶石でね、溢れた魔力を吸い取って出力を抑えてくれたり、魔力を貯めておくことが出来る、つまり過不足調整の手伝いをしてくれると思えばいいかナー」

 なんという便利アイテム!

「レイムプロウド!?」

 驚きの声を上げたのはアメリアだった。

「知ってる?」

「実物は見たことはありませんが…とても希少なもので、国によっては国宝に指定されていると旅の人から聞いたことがあります」

 国宝!?

「この国でも魔王の復活を予知する希石はプロウドだという話です」

 王室御用達…国宝級…

「はい!?そんな高価なもの借りれないよ!」

 国宝級の魔法の石、たしかに効果はすごそうだが何かあったらどうするんだ!素手で触っちゃったじゃないか!

庶民の俺はどこまでも小心者なのだろう、心臓が早くなってきた。


 すぐさま水晶を返そうとするが、たった今まで目の前にいたはずのスクレイドはすでに木陰に戻り、木にもたれてくつろいでいる。

「スクレイド、気持ちは有難いんだけど本当に困るんだって」

「そのレイムプロウドは魔晶石のなかでも純度が高くて安心安全だから使ってみたら?」

 質が良いってか?そんなこと聞いたら余計に持ってるだけで不安になるわ。

 すると、

「ああ、それヤマトくんにあげるよ、それとも足りないかい?」

 などと言って、さらに懐に手を入れて何かを取り出そうとしている。

 だめだ、話が通じない。

 それなら…


「…あとで返せって言っても返さないぞ?代金も払えないし」

 脅すように反応を見るが、スクレイドは少しも動じずに欠伸をしながら頷いている。

「売っちゃうかもしれないぞ?」

「手放せるほど魔力の調整が出来るようになるといいよねぇ」

 そう言われ、スクレイドに疑心の目を向けてしばらく沈黙が走る。

 すると。

「ヤマトくんは生命の力を持っているみたいだからさ」

 やっとこちらを見たと思ったら真面目な口調でぽつりと呟いた。


 生命の力?

 俺が持っているのは治癒の力らしいけど、スキルの事も魔法と呼んでいたから何か誤解があるんだろうか。


 その他の魔法が使えるとしたら、クロウシスから聞いていた魂の結合による副産物のようなものだ。


 しかしこれ以上問答を繰り返してもスクレイドは相手にしないだろう。

 アメリアも理解が追いつかず黙って事の成り行きを見守っている。


「わかった、ありがとう、有難く使わせてもらうよ」

 スクレイドに礼を言ってアメリアの元に戻る。



「待たせてごめんな、またやってみるよ」

「はい!」

 ネックレスを首から下げ、レイムプロウドを握って深く意識を集中する。

 すると今度は立ったままの状態で身体がすんなり浮き上がる。

 先程までの疲労感は無く、まっすぐとアメリアの元へ進むことが出来た。

「すごい…」

 石一つでここまで変わるなんて…

「ヤマト様、好きに飛んでみてください」

 アメリアは俺の飛ぶ後をルンナで追いかける。


 行きたい方向に速度を調節しながら飛ぶことが出来るようになっていた。

 昨日とは比べ物にならない安定感だ。

 魂の残基を見てみるが、やはり変わりはない。

 念の為眼下に広がる草原を確認するが、草木にも変化はない。

 これは念願の垂れ流し問題解消ということになるのだろうか。


「すごいですね、とても気持ちよさそう」

 アメリアは自分の事のように嬉しそうにしている。

 そんな姿を見てイタズラ心が出てしまう。



 アメリアの後ろにまわり、一度ルンナに座ると

「きゃあ!?」

 アメリアを抱きかかえて再度飛び立つ。


 お姫様抱っこのような形でルンナより高く飛び上がると、何が起こったのか理解できないアメリアは目を固くつむり強ばりながら抱きついている。


「ほら!すごくいい眺めだよ」


 恐る恐る目を開けて辺りを見回し息を飲んでから、きらきらと目を輝かせてあちこちを指差しはしゃぎはじめるアメリア。

「ヤマト様!すごい!すごいです!ルンナがすごく下に見えます、あっちには村も見える!」


「ヤマトくん、アメリアちゃんにも魔力を分けてやったらいいんじゃない?」

 下からスクレイドの声がする。

「そんな凄技やったことないですが…」

「おたくは魔力を集める必要はないけど、新しいことに挑戦する時に、発動のきっかけとして何か言葉を決めておくと便利だよ」


 ふむ、原理はわからないが、スクレイドのアドバイス通りアメリアの顔を見つめてしばし考える。

「ア、アメリアの魔力増えろ~」

 考えてこんな言葉しか出てこないのも情けない話だ。


 すると元から軽かった重みが無くなり、アメリアの身体がふわふわと宙に浮きはじめた。

「私まで飛んでます!」

 安定しないアメリアの両手を握り、少しずつ降りながらくるくると回ってみる。

「ふふっ、ダンスみたいですね」

「おや、魔力を分けてもらっただけで飛べるなんて、嬢ちゃんには飛行魔法の素質があるみたいだねぇ」

スクレイドは顎に手をやり、感心したように見上げている。


 時には片手を離し、バランスを取りながらしばらくの浮遊を楽しむと空中で待ち構えていたルンナに背中をどつかれた。

「ルンナは自分の存在意義を奪われたと思ってるみたいだねぇ」

 スクレイドが笑いながら言った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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