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拒絶返し

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「ルカ、朧月の仕事は休みか?」

「朝一度行ってきたよ?でもハナエさんに帰された」

女将さんに?

怒らせるようなことでもしたのか、それとも人手が足りていたのか?

ルカはミルクティーを俺の前に出して、そのやり取りを思い出すように上を見た。

「なんかさ、大和が泊まりに来て寝てるって言ったら、帰ってあげてって…意味わかる?」

なるほど、俺のせいか。


女将さんは俺が人の気配があると眠れないことを知っている、その俺がっ、ルカの家で眠っていることが伝わったわけだ!

なんてことを言ってくれたんだ恥ずかしい。

口止めをしなかった俺が悪いのだろうが、なんとも気まずいことだ。


「ところで…」

ルカに指さされて見ると、借りた着替えはくろこには大きかったようで、いつの間にやら紐の緩かったズボンがなくなっている。

言わゆる彼シャツ状態だ。


「このままクロウにもどると気持ち悪いことになると思うが、どうする?」

「大和が気にならなきゃどっちでもいいんじゃない?」

「そうか」

やはりこの反応の薄さが心地よい。


それでも目の前には洗って乾燥し終え、綺麗に畳まれた昨日着ていた俺の服が用意してあるあたり、無関心を装いながらもどこまでも気遣いのできる奴だ。


「ルカ」

「なに?」

「ありがとう」

「どういたしまして?」

そこにはほのぼのとした空気が流れた。


「またたまに、ルカの邪魔にならない時でいいから泊まりに来てもいいか?」

と、その時。

キッチンに向かう途中のルカが、ユキの食べ終えた餌の皿をガシャーンと大きな音を立てて落とした。

「ん?大丈夫か?」


首だけでそちらを向き、声をかけるとルカはギシギシと奇妙な動きでこちらを向いた。

「いやっ、いつでもいいよ!邪魔なわけないっしょ?鍵も預けてあるじゃん、その前に鍵もなく入ってくる時もあるけど、大和なら全然おっけー」

そう言ったルカの顔は心無しか困っているようで、慌てて皿を拾って片付ける姿は違和感の塊だ。


「…え、本当に無理してないか?俺のいびきか?寝相か?人がいると休まらないのか?俺たちにどんな事情があろうとも、そんなところで気を遣われるのは流石に気が引けるぞ」

「んー、だから、大丈夫…だと思うよ」

「思うってなんだ?」

ルカに近づき、腕を組み仁王立ちで問い詰めるようにジリジリと迫ると、ルカは動揺を隠すようにいつもの穏やかな笑顔になり、これ以上の会話を拒絶した。

「わかった、無理をいってすまなかったな、でも本当に休めて助かった、ありがとう」

それ以上話ができるとは思えず、畳まれた着替えを持ってティーカップを流しに置くと俺は森の家に飛んだ。


「待って…大和!」

最後にそんな声が聞こえたが、今は距離をおいてまた今まで通りに話せたらと思うのは身勝手だろうか。

【変態】を解除して着替えてから王都の様子を見て回った。

損壊した建物はまだ完全には修理されておらず、所々襲撃の跡が残る。

そんな中いつもよりも兵が多く見回り、どこも人の通りが多い。


起きたてはあんなに清々しい気分だったが、拒絶されるとはこういう事なのだとまるで自分のした事が返ってきているようで心が重くなる。

朧月には行きにくく、あのあともスクレイドたちからの接触がないのも気味が悪い。

仕事がない時の過ごし方といえば…、自然に足が向かったのは図書館だ。

確か階級証で閲覧図書が増えたと言っていたので、試しにいくつか引き出してみると見たことの無い種類や辞書のように分厚い本が送られてきた。


「ルクレマール関係と、術式、これは初めて読むな、権力も悪くない」

それにはルクレマールの歴史が大雑把に記されていた。

ルクレマール:人と獣の血を持つ獣人の国。

なんと、この世界には獣人もいるのか!それが例のやばい国…。

これは後で読もう。


そして、こちらの分厚い本が?

「黒、魔術式?」

ふと目についたのは初めて見る中でも特に分厚い装丁に何重にも術式がほどこされた本だ。

しかしこの本に載っている模様、文字式に配列、この国では見かけないそれは、あのルクレマールの襲撃の際に空を覆った術式に酷似している。


手に力が入り、数ページ読んでみるが召喚、修復、防御、全ての構造があの時見たものだった。

「なんだこれ…?俺はこんなもの知らないはず…だが」

しかしどこか懐かしく、見覚えのある箇所がある。

「ヤマトくん」

「なんだ、…って、お前がいるのに」

振り返るとそこにはご機嫌のスクレイドが立っていた。

しかし手元の秘書庫の本が消えていないところを見るに、こいつの閲覧権限は俺と同等かもっと上らしい事がわかるとなぜか腹が立つ。

「勉強中?」

「…アメリアはどうだ?」

「今はすっかり落ちついて、体調も良さそうだよ」

「それは良かったな」

「ところでその本」

スクレイドは読みかけのページを見ると、ほうほうと頷いて肩をすくめた。

わかるのかわからないのかどっちなのか。


「黒魔術式って知ってるか?」

「この国が設立するまでは世界中で一般的に使われていた術式だね」

「それでは今主流になっている術式は建国後に編み出されたものということか、ならどちらの精度が上だと思う?」

気軽にそう問いかけて、スクレイドも隣の席から椅子を近づけて座ると、こめかみに人差し指をあてて何かを思い出しながら考えた。


「結局は術者次第、なんだけどねぇ…うん、どちらかというと黒が戦闘に特化していて、リジェイド術式は文明の発展に大きく貢献しているかなぁ」

英雄王によって多くの国が統一される前は争いを目的とし、国が安定してからは繁栄のために切り替わっていった、そんなところだろうか。


「なるほど、この召喚術に見覚えはないか?」

あるページを指さすとスクレイドは覗き込んでから即答した。

「この間の召喚式だねぇ」

「やはりそう、だよな」

「ルクレマールの術式は未だに黒魔術式が主流、というよりも、ルクレマールにはリジェイドの術式は浸透していないかもしれないねぇ」

「なぜだ?」


「一応術式というのは、発明した者がいて、それに賛同するものに知識が分け与えられるものだからね」

なんということだ。

この野蛮な世界にも知的財産権か特許のような物があったのだと知ると、それはそれで驚きだ。


「お前のマントにも簡単だが術式があるな、昔はそれで驚いたのが懐かしいものだ」

「そうだねえ、あの時の君の反応が面白くて、ついつい…って、ヤマトくん」

「なんだ?」

「認めるのかい?その姿で」

スクレイドの言うその姿とは、俺本来のクロウと呼ばれる姿のことなのだろう。


「もういい、昨日はどうかしてた」

「見た目を変える余裕もなかったわけだ?」

それに否定することなく本を読み続けていると、となりからつまんないとボヤキが聞こえてくる。

「今日は何の用だ?」

「お礼をね、言いに来たんだよねぇ」

仕方なく本を閉じ、これみよがしにため息をついてから外にある二つの気配の元に向かった。


図書館を出るとクリフトとセリが落ち着かない様子で待ち構えていた。

「クロウ様、いや、ヤマト…なんだよな?」

明るいバカの筆頭であるクリフトが真剣な面持ちで近づいてくる。

「…アメリアは無事に回復に向かっていると聞いた、良かったな」

「ああ!ありがとうな!」

アメリアの話題を振るとすぐに笑顔になり、今までの距離感が嘘のように縮まった。

流石はバカが月と太陽のように顔を出す男。


「確かにアメリアの事は感謝している、しかしなぜクロウ殿がヤマトということになるんだ?」

すると真面目なおバカ代表のセリが最もな疑問を口にするが、俺はため息をついた。

「俺が聞きたいくらいだな、用件がそれだけなら本の続きを読みに行ってもいいか?」

「待ってくれ!見た目だけじゃない、そんなに変わって…どうしたっていうんだよ」

去ろうとする俺のマントをクリフトが掴み、続いてセリが前に回り込み立ちはだかる。


「セリも休めたか?昨日は看病と心配で疲れた顔をしていたが、今は少し血色が良くなって安心した」

「あ、え?ああ、私はそれほどのことはないんだが…」

「アメリアに付いててやってくれ、同じ女性であるセリが頼りだろう、頼んだぞ」

「それはもちろんだ!任せておけ」


そうして軽くセリの隣を素通りし、まだ後ろに違和感を覚えて振り向いた。

「おい、離してくれ」

軽く首だけ向けて見ると、行かせまいとクリフトに続きスクレイドも一緒になりマントを掴んでいる。

「これ以上邪魔をするなら…デコピンされても文句は無いな?」


少し声のトーンを低くしてそう言うと、威力を知るスクレイドは即座にマントから手を離し、残ったクリフトが叫び声を上げて数メートル後ろに吹っ飛んだ。

「痛っってぇぇえええ!!俺生きてる!?生きてるか!?頭に穴開いてないか!?」

「クリフト!大丈夫か!?傷は浅いぞ!」

額から煙を出しながらじたばたと痛がるクリフトにセリが駆け寄ると、一瞬ピタリと止まったクリフトは勢いよく飛び起きた。


「こっ、こんなデコピンくらいっ…いてぇ、大丈夫だぜっ!!くあぁ~っ!!」

素晴らしいな、俺のデコピンの痛みよりも好きな女にいい所を見せたい気持ちが勝るとは…。

と、そんな事に感心している暇はない。

今は術式が気になって仕方がない。


「俺は図書館に戻るが、ついてくるならスクレイドだけだ」

権限を持たないものにうろつかれ、本が書庫に戻ってしまってはなんの意味もないのだから。

「えぇ?ご指名かい?」

ヘラヘラとついてこようとするところを見て思い出したが、こいつはバカとバカを足して煮詰めて鍋のそこに焦げ付いたバカを純粋培養して濃縮還元したようなバカだったのだ。

「やはりお前もくるな。クリフト、セリ、アメリアをよろしくな」

そう言い残して図書館に戻ると、再び本を取り寄せて読み始めたが、手元から本が消えたことで後ろを振り返ると、まだ納得のいかないクリフトが立っている。

ここまで読んでくだりありがとうございます。

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