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不可抗力

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「ただ一人だけ望みがあるとすればクロウくんなんだ」

クロウ!?今ここでその名前が出てくるのか?

「真実の断罪者になんの関係が?」

「知ってるみたいだね、あの子は異世界人でもないし、この騒ぎで処刑がしばらく無いから頼めるとしたらあの子だけなんだよねぇ」


これは、カマをかけているのか脅しているのか。

「…処刑人なんて連れて行ってなんの役に立つんだ?」

「実はね!」


そこでスクレイドはとっておきと言わんばかりに嬉しそうに人差し指を突き出した。

「クロウくんはあの英雄祭の現在の覇者、黒の騎士と呼ばれるシスと同一人物らしいんだよねぇ!クリフトくんがすごく楽しみにしていたのに、中止になったのは可哀想かなぁ」

…なんと、そこはまだ知らなかったのか、そんな事を自慢げに言われても、本人としてはどう返したものか。

「驚いたかい!?」

「知ってる」

「うそ!?もしかしておたくも慕う会に…?」

「なんだそれは」


冷めた反応に不満そうに口を尖らせたが、スクレイドはすぐに話を戻した。

「魔法も使えて腕も立つ、しばらく仕事もないとなれば何とかクロウくんに来てもらうしかないよねぇ」

「そうか、目的も果たした事だし疲れたから帰る」

「そうかい?受理されなくても一応は派兵の審査期間になってるから王都にはもうしばらく滞在するけど、また会えるかい?」

「もう会いたくないと言っただろう」


それだけ言うと、疲れきった足は自然と朧月へ向かっていた。


「クロウくんを!?」

同じく疲れきったように頭を抱えたのは聡一だ。

「ああ、やはり助けになんて行くんじゃなかったな」

元の姿に戻り、一応の成功を知らせに来て、次から次へと押し寄せる問題に聡一も女将も俺もうんざりしていた。

「ルカに頼もうと思ったりもしたんだがな…」

「うむ!彼さえ良ければ国の管轄から外れている今適任ではないかね?」

そこで女将さんが俺と聡一をじろりと一瞥した。


「ほらっ、あの、ルカには朧月の仕事もあるしな、ユキの世話もいつも任せ切りだから、これ以上迷惑はかけられないしな!」

慌ててその気がない事を訴えると、女将はにっこり微笑んでから頷いた。


しかしそれとは別にルカに頼むのを断念した理由がある。

ルカには術式を教えてみたのだが、あまり得意ではないらしく、本人も努力をして勉強しているのだが成果はあがらない。

もし代わりに行ってもらえたとしても、その都度見回って賊や魔物を討伐することになればキリがないうえに、いつ帰って来れるかもわからない。

さすがにそこまでの事を頼むのは俺でもできなかったのだ。


今にして考えてみれば、裁判所にスクレイドが来た時に自由にしておきたいと言ったのはこの為だったのかと思い出した。


──「助けてあげないの?」

「お前までそんな事言わないでくれ」

「僕のせいでクロウが大好きな人達に会えないのは、悲しすぎるよ」

「違う、アキトのせいなんかじゃない、これは俺が勝手にやってきた事の結果だ」

「クロウ…ううん、大和、君の手は汚れてなんかいないよ」

やめろ…

アキトを都合よく使うのはやめろ!

《──なぜだ?許すという言葉、これが望むことではないのか?》

そんな事は望んでいない、それこそいまさらだろう?

《──村を救いたいんだろう?》

当たり前じゃないか、でも出来ない。

《──その力があるのにも関わらず、己の都合で見て見ぬふりをするのか》

どういう風の吹き回しだ?助けろと言いたいのか?

《──代わってやろうと言っているんだ》

代わる?

《──俺なら村を、アメリアを救うことができる、弱いお前と違ってな》

…本当に、救えるのか?

《──ああ、それは俺が一番よくわかってるはずだろう》

そうだ、俺に出来ない事でも…



[ヤマトくん!嬢ちゃんが大変なんだ!]

スクレイド!?


嫌な汗をかいて目が覚めると、そこは家のソファだった。

朧月から帰ってまたうたた寝をしてしまっていたらしく、突然のスクレイドからの念話で飛び起きたが状況が理解出来ずに辺りを見回した。

[ヤマトくん!聞こえてるかい?…声がおかしいみたいだけど、どうかしたのかい?]

「寝てたからな…」


夢ではないその声は必死に呼びかけて応答を待っている。

[それで、アメリアに何があった…]

[高熱が引かないんだ…衰弱がひどい]

[医者には診せたのか!?]

[もちろん病院に来ているんだけどねぇ、医者も呼んだし、魔術師にも診せたよ]

[この国の奴らはどこまで使えないんだ!]

[落ち着いて聞いてくれるかい?クリフトくんが言うには、少し前にもこんな状態になったと…]


以前も高熱で…もしかして俺と出会った時に言っていた症状か?

[それが関係あるのか!?]

[俺が見た限りこれは魔力回路の暴走のように思うんだ]

[どういう事だ?]


焦って聞き返す俺にスクレイドは言った。

[おたくには話したと思うけど嬢ちゃんは純粋な人間種ではないから魔力が安定していないんだ。だから医者には限界がある…他者の魔力の流れを操作できるのは、おそらくおたくの生命の力だけだ]

アメリアを救えるのは俺だけ、そんな事を今の俺に言うのか。

震える手で左手のブレスレットを握りしめ、一度目を閉じて深く深呼吸をする。

[ヤマトくん…!]

[切るぞ]



その頃国立病院の一室でベッドに横たわり苦しそうにしているアメリアと、それを心配そうに見守るクリフトとセリの姿があった。

「こんな大きな病院で、魔術師様にも診ていただいたってのに、どうにもならないのか!」

「落ち着けクリフト、スクレイド様のお力で何とかお呼びした方々だったのだ、手は尽くしてくれたのだろう」

「だけどセリ、原因もわからないなんて…っ、それじゃあ、いつまでもつか…」

そこに入ってきたのは放心状態のスクレイドだった。


「スクレイド様!他に、何か手は見つかりましたか!?」

クリフトが縋るように駆け寄り、ベッドの隣でアメリアの手を握っているセリも厳しい表情で見つめた。

しかしスクレイドは寂しげに小さく首を振った。

「最後の可能性も無くなってしまった…俺たちにできることは何も無いんだよ」

「そんな!?」

クリフトは悔し涙に声を荒らげた。

セリは手を握る力を強め、ただ下唇を噛んでアメリアを見た。

「もう、本当に終わりなのかなぁ…」

「スクレイド様…?そんな、貴方までそんな事を言わないで下さいっ」

病室のベッドから一番遠い壁にもたれて立つスクレイドは、最後の希望であった者をぼんやりと思い出し、その拒絶に心が揺らいでいた。

しかしそんな事を知る由もないクリフトは、諦めの言葉を許さなかった。

「誰でもいい、助けてやってくれよ…」


クリフトが力任せに壁を殴りつけた、その時。



「遅くなった!アメリア!」



聞いた事のある声がして、ベッドの隣に突然現れたのは。

「クロウ様!?」

「クロウ殿が…なぜ?」

クリフトとセリが驚きの余り固まり、スクレイドは一瞬目を丸くしてから額に手を当て深い息を漏らして口の端を上げた。


「セリ、少し離れていろ」

「何を…」

警戒するセリの手を優しく離すと、三人の目の前には見覚えのある温かい魔力を帯びた緑の霧が降り注いだ。

クロウがアメリアの額に触れ、何かを探るようにして言った。

「ああ…これは、最近多く魔力を使ったか?」


聞かれてセリは頷いた。

「魔法の、練習を…」

「いきなり使いすぎたのかもしれないな」


そうして緑の霧はアメリアの身体に吸収されていき、マントから取り出した小さな水晶をアメリアの手に握らせた。

「体力は十分回復させた、過度な魔力はこれに吸収される、じきに安定するはずだ、…そうだろう?スクレイド」

「そうだねぇ」


俺が振り返って見ると、スクレイドはニヤリと笑って頷いた。

それを見てクリフトがハッとして俺とスクレイドを交互に見た。

「アメリアは、助かるんですか!?」

「ああ、もう大丈夫だ」

その言葉は何よりも心強く、アメリアの汗は引き、顔色もよく規則正しい呼吸で眠っていた。


「どうして、クロウ殿が…?いや、この力は…」

セリが疑問を口にすると同時に俺はスクレイドにジリジリと迫った。

「お前、ずるいだろ」

「緊急事態だったんだよねぇ、それよりおたく、やっぱりクロウくんかい?」

「あんな事聞いたら…いや、教えてくれて助かった」

スクレイドは肩を軽く叩かれて、意地悪そうに笑った。

「来ないかと思ったよ」

「お前、またふっ飛ばされたいのか?」


それを聞いた俺は、肩に置いた手に力を込めた。

「可愛い女の子ならまだしも、その姿はさすがに死んじゃうと思うんだけどねぇ!?」

「力は変わらん、デコピンにしといてやる」

「おかしいでしょ?なんで俺が怒られるのかなぁ?」

「さて、帰る」


そう言ってふわりと浮き上がった時、スクレイドがマントの裾を握って苦笑いした。

「さすがに…この状況で残すのは勘弁してくれないかい?」

言われて後ろを向き直すと、涙を流しながら口を開けたままのクリフトと、警戒に警戒を重ねた顔のセリが睨んでこちらを見ていた。

「…呼び出しておいて人払いもしていないお前の責任だろう?二人もいると知ってたら…」

「来なかったかい?」

「よし、デコを出せ」


何が何だかわからない、しかしなぜか懐かしい会話にクリフトとセリはその場にへたりと崩れ落ちた。

「どういう事ですか…」

クリフトが情けない声で説明を求めると、スクレイドは下手すぎる口笛を吹いた。

「クロウ殿…、いや…ヤマト?」


セリはぼんやりと思い当たる人物の名を口にして、立ち上がるとフラフラと近づいた。

「本当に、ヤマトなのか?」

「人違いだ、俺はクロウだ」

「ぶっはーー!!!いまさら苦しすぎるよ!?」

「間違いない!スクレイド様のこの笑いよう!やはりヤマトなのだな!?」


どこで判断しているんだ?

真面目でおバカなセリは確信して詰め寄った。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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