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懐かしいテンポ

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


そう言われて我慢していた感情が、不満や疑問が溢れてくる。

「そうだな…、卑怯で無責任なんだ俺は」

「ヤマトくん?」

「だったらお前はなんなんだ?異世界人の扱いを知っていたな!なのに俺を王都に送ろうとした!」

こいつがますますわからないのは、クロウを俺だと思っていた時にも、王と貸し借りのある中だと平気で言い放った。


それが異世界人である俺にとって、召喚は誘拐だと言った事がある俺に、どんな意味を持つのか分からないほどの馬鹿ではないだろう。

なぜ王と繋がりがある事を明かした!?


「それはヤマトくんなら心配ないと思って…」

「俺なら?」

「誤解があるようだけどね、俺は王と知り合いなんだ、だからおたくの身柄を保証してもらう事ができると思って…」

「なら初めからそう言えばよかっただろ!隠してたのはなんなんだ?」

話していると苛立ちは増すばかりだ。

「本当にエルフは嘘がつけない?どうやったら信じられるんだ」


敵側のお前の事なんて。


「証明する術がない、おたくにそんな事を言われるとは思わなかった…」

「勝手なこと言うな…お前が俺をどんな人間だと思ってたのかは知らないけどな、もうお前の知ってる俺はいない!」

その時、軽い破裂音とわずかな衝撃が頬を走った。

「あ…」

「何すんだよ…」

スクレイド本人も無自覚だったのか、俺の頬を叩いた手がそのままの形でとまり、驚いたような顔をしている。

「叩いたな?」

「ごっ、ごめんねぇ!?あれ!?つい、なんかすごくイラッとしてしまったよ!?」

「しまったよ!?じゃねえ!!俺のせいか!?痛みはないが不愉快だ!!」

まさかこいつに叩かれる日が来ようとは!

「ごめんって言ってるじゃないか!」

俺が拳を構えながらジリジリと近づくと、スクレイドはその分逃げるように下がった。

「ごめんで済んだら処刑人はいらないんだよっ!!」

「どういう意味かなぁ!?そんな怖い言葉聞いたことがないんだけどねぇ!?」

「自分で考えろ!いいか!?お前とはもう二度と会わない!!」


そう言って一発のデコピンをお見舞すると、その勢いでスクレイドは高速で吹っ飛んで図書館の壁に激突した。

「ええ!?お前っ、防御くらいしろよ!!」

思わず駆け寄って様子を見るが、スクレイドはぐらつく頭を押さえて起き上がることが出来ないでいる。

「嘘だろう…?弱っ…」

「うっ、反省の気持ちを表すために甘んじて受けたのにひどいねぇ!?」

「知るか、よかった、傷になってないな?」

図書室の壁に傷がないかを確認していると、情けないことを涙目で偉そうにほざく横たわったエルフがいた。

「俺の心配じゃないのかい!?というかヤマトくん!」

「今度はなんだ」

「おたくが術式を解いたのを俺のやった事にしろって言うから!今俺が何も言えなくて王都に足止めされてるんだからねぇ!?困ってるんだけど!」

「それは悪いな!?」

なんだこのやり取りは。

不毛だ…、そして懐かしい…。


「見知らぬ人に助けてもらったとか言っとけ!」

「嘘がつけないって何回言わせるのかなあ!?」

「じゃあそのまんま言えないって言っとけ!!」

「そんなんで済むはずないでしょうが!!この子は全く!」

だからなぜ少しの怒りだとオカン口調なんだ。


「じゃあ俺にどうしろって!?」

「だからねぇ!ヤマトくんには王に会わないでほしいんだけど、術式を解いた者の存在を言わないと俺も身動き出来ないんだよ!」

「放浪癖が治ってよかったじゃないか!」

「そんな病的な理由であちこち歩き回ってるんじゃないからねぇ!?心外にも程があるよ!一応人助けとかしてるからねぇ!?」

「セリがいないと自分でフォローしなきゃいけないのか!聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」


どこまでも平行線な話に息を切らし、お互いに一度席につく。


「…ちょっと待て」

「…なにかな?」

「王には会うなと言ったか?」

「うん、言ったねぇ」

どういう事だ?

王に会われるとなにか不都合でもあるということか。

「スクレイド、一度だけ、これで最後だ」

「なんだい?」

「お前の事情を、王との関係を教えてくれ」


そう聞くとスクレイドは口元に手をあて、しばし考え込んだ。

「おい、考えると言うことは、隠すことと言うことを選んでるな…?」

「そうだよ、俺にも言えないことや言いたくないことだってあるんだからね」

「そりゃそうだろうな…エロフだもんな」

「犯罪的な意味ではないけどね!?なんでそんなに突っかかってくるのかなぁ?ねえ、ヤマトくん」

「なんだよ」

「いなくなってしまったと思ってたおたくとの再会を喜んでいるのは俺だけ?」

「スクレイド…」


突然真面目な口調でそんな事を言いながら…

「どこ見てる?」

「不可抗力だよねぇ」

エロフの視線は俺のスカートの三角ゾーンに釘付けだ。

「帰る」

「話は終わってないんだけど!」

「黙れ、気持ち悪い」

「またそれを言うのかい!?だからどこが…、待って」

ふと何かに気づいたように、目を瞑って眉間にシワを寄せた。

「どうした?」

「うん、俺が居ないことで騒ぎになってる」

それは王宮でという事なのだろう。

どことなく嫌気のさした様子でスクレイドは、やれやれと気だるそうに立ち上がった。

「今日は行かないといけないみたいだねぇ、おたくの事は言わないけど、俺も動けるようにはなりたいから困ったねぇ」


こんな話をした後でもまだ俺の言ったことを守ろうとするのは、正直物分りが良すぎて気味が悪い。

「言わないのか?」

「おたくはバレたくないんでしょ?本当によくわからない子だよ」

その言葉はそっくりそのまま返したいところだが。

「スクレイドさっきの続きだ、最後に一つ、王をどう思う?」

そう聞かれてスクレイドは首をかしげた。


これで終わりにしたいんだ、覚悟を決めさせてくれ。

お前と話して楽しいと思ってしまう、この感情を捨てるために隠していることがあってもいい。

《お前を殺す理由を俺にくれ》

スクレイドは軽く肩を竦め、それからハッキリと言った。

「君を王に会わせないと言ったね」

「ああ」

「それは俺が王を嫌いだから、おたくの為じゃない」

「なんで…」

「会いたかったのならごめんよ、でも王が望むなら邪魔をしたい、それほどにあの王は困った人なんだよねぇ」

「ケンカでもしたのか…?」

「あの王とケンカかい?そんな面倒なこと頼まれてもごめんだよ、また念話をするから無視はしないでね?」


その答えに戸惑う俺を知ってか知らずか、またねと軽く手を振ってからスクレイドは図書室を後にした。

スクレイドにかけておいた【認識阻害】を解除して、俺も朧月に戻ろうとした、のだが。


「どうしよう?」

「何が?」

「何も話が進まなかった」

森の家でユキとたわむれるルカに愚痴をこぼした。

「あの例のエルフ?」

「そう、アイツが話を脱線しまくる脱線事故連発エロフだってことをすっかり忘れてた」

「ごめん大和、全然話が見えない」

ルカには一応、大和としての俺を知っている者がいる事、俺が会いたくない事だけを話してあるが、そんな適当な説明ではそれは話も通じるはずもなく。


「で、トールからの呼び出しはどうするの?」

「そっちもあったな」

本当はすぐにでも女将に報告しようと思ったのだが、帰り際にルカから念話が届き、朧月にクロウを呼び出す使者が来たことを教えられた俺は、急いで普段の姿に戻り家に戻った。


いくら襲撃による騒ぎで仕事が無いとはいえ、四日も眠って連絡がつかない事はさすがにトールの怒りに触れたようだ。

「行くしかないだろう」

「そうだ、遅くなっちゃったけど、今じゃ優特法官でトールと同じくらいの権力があるらしいじゃん、おめでとう?」

そんなルカの言葉で、俺はすっかり頭から消え去っていた階級の昇進という重大事項を思い出した。

「何だろうその顔、もしかして忘れてたか?」

「そんな役職与えられて、一時間しないうちに術式解いて回って、疲れて四日も寝てたんだぞ?いまだにその階級で何ができるのか知らないんだ…」


図星を突かれてこれみよがしに被害者ぶってみせると、ルカはユキを愛でる手を止めて紙に項目を書き出した。

「そんな事だろうと思って、国医殿に聞いておいたよ」

「ルカ…あの時始末しなくて良かった」

「その冗談はブラックすぎてツッコミようがないから止めて?」

なんと頼りになる男なのか、口ではそんな事を言いながらも笑って紙を見せながら説明をしてくれる。

「まず、法官…というのはトールと同じ立場だ」

「ふむ」

「そして国の法律に則って裁判、刑の執行を取り仕切るんだけど、今トールがしてるのは盤面で手駒を動かす程度で、実際の事件には兵士達が捜査して作った資料から適当に判決を振り分けてるだけ」

「だろうな」

「で、大事なのがトールの力が及ぶのがこの法律に関してまでってところだね」

そう、奴が法官ならば、優特法官の俺との違いとは一体どこにあるというのか。


「違いだけ簡単に説明するね、法官は月に一度王に謁見して法に関しての報告をする義務がある。優特法官には義務は無く、自由に王に謁見の申請ができる権利があるらしい」

「ほう、どう違うと思う?」

謁見、という事は直接話ができるわけだが、それが義務で月イチと、叶うかわからない申請を出せるだけ。

どう考えても俺に得はないと思うが、その疑問をルカに丸投げにした。

「んー、オレも最初は違いがわからなかったんだけど、裏門の…ほら、ベナンとよく一緒にいる…なんだっけ?」

「バーチスか?」

「そう、彼が言うには申請ができる君の方が王に近いって」

「なんでアイツがそんな事を?」

「階級証を貰った時の君の反応が薄すぎたから心配してるみたいで、ユッキーのご飯取りに来たら、どれだけ凄いか語られた」

「それはすまん」

世話焼きのバーチスに捕まってしまって、それを使命感から内容をしっかり聞くルカの光景が目に浮かんだ。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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