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王都襲撃2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

防壁の外に人を逃がそうと転送を試みるが、結界に阻まれて簡単にはさせてくれないらしい。

今集中を途切れさせたら術式の結界はすぐに修復するだろうが…仕方ない。

ゴブリンとキメラに向かって手をかざすと、魔物たちの身体から緑の光が放出され、吸い込まれた緑の光…生命力は俺の手の中に渦巻いて消えた。


ゴブリンたちはその場で動かなくなり、キメラの死体は大きな音を立て建物をなぎ倒して倒れ込んだ。

そして魔物を片付けると再構築を続ける結界に再び魔力を吸収し続けた、しかし結界の魔力が尽きる気配はない。

[大和!何が起こってる!?王都に入れないんだ]

[ルカ!]

頭に直接聞こえてきたのは念話を通したルカの声だ。

そういえば今日は防壁の外で情報収集のために出かけていると言っていた。

俺の知る限りで一番実力が高い者が近くに居ないことが痛手だ。

[外からなんとかならないか?]

[無理だ、異変に気が付いてからずっと念話をしていたのに、これもやっとなんだ]

気がつかなかった。

念話まで遮るほどの強力なものという事か…。


[念話まで、そうかユキも無理そうか?]

[うん、ユッキーの魔法で時々術式が薄くなる部分があるけど、そこに俺の攻撃をしてもすぐに塞がって追いつかない]

やはりこの術式は外からでも同じように自動的に再生をしてしまう。

[朧月は無事か?]

[あの辺りに魔物がぶっ倒れた!だが人は空間術式に避難してるはずだ]

[そうか、そっちに…君のところに行けないのがもどかしいよ…]

[無理せず魔力を温存しておいてくれ]

[…わかった、ユッキーも止めておくよ]


心底悔しそうなルカを宥め、集中するために念話を切った。

その時、近くにスクレイドの気配がして北の方角を見ると、空中で白い光の魔法で攻撃をしては修復する結界の術式に苦戦していた。


そして恐れていたことが…

あらゆる所に設置された召喚術式から、先程と同じキメラが無数に姿を現し、大軍で王宮の方面と人々を集めた北に向かっていく。


あちらにはアメリアもいるはずだ!

手段は選んでいられない。

手持ちのソウルプロウドにありったけの魔力を注いで、目を瞑ると王都を取り囲む結界に集中した。

《──こんな国を護るのか?》

守ろうなんて思ってやしない。

《──放っておけば俺を苦しめた全てが無になる》

そうだろうな。

《──結局は俺は関わった者を捨て置けない、惰弱な精神だったという事だ》

そう思うか?

《──お前の判断は己の破滅を招く》

違う。

《──何が違うというんだ、いい加減認めるがいい》

「全く違うだろう!俺はアトスの仇を一人残らずこの手で殺す!その為にこんな事で死なせてやるわけにはいかないんだよ!」



ザワつく心を飲み込んで、スクレイドを【認識阻害】の対象から外した。

その途端、スクレイドは突然隣に現れた俺に驚き身構えた。

「君は…」

「話は後だ!西側に特大の結界を張れ!持ってろ、ソウルプロウドだ!これがあれば足りるだろ?」

ソウルプロウドの一つをスクレイドに渡し、俺はさらに術式に集中した。

「ソウルプロウド!?…任せてくれ」


スクレイドは杖を出すと呪文を唱えた。

「ヴァントヴァイス!」

ソウルプロウドで魔力を増幅させた結界は以前より強力なものとなり、王宮と人々の避難する北側を包み込むように白く巨大なドーム状の壁が出現した。


「いける…」

防御をスクレイドに任せて余裕が生まれたからか、安心からかもしれないが。

突然目の前が明るくなったような感覚になり、魔法術式の構造が手に取るように解る。

そして両手を前に突き出し、全力で魔力を吸収した。

すると檻のように王都を囲んでいた結界は修復も追いつかず、霧が晴れるように徐々に模様が薄れて消えていく。



「まさか…魔法術式の解読、書き換え、魔力の吸収を同時にしてるのかい…!?」

スクレイドは信じられないというように唖然として俺を見つめた。

「そんな事よりスクレイドはキメラを!」

そう叫ぶとスクレイドは後ろ手に杖を回して、キメラ目掛けて再び杖を振るった。

「ブルートヴァイス!」

魔法を受けたキメラは双頭が弾けて倒れ込んだ。

スクレイドは何度か呪文を唱え、地上と空中から白いドームに群がるキメラたちを次々と倒していく。

「キリがないよねえ…」

「よし、こっちは再生が遅れてきた!スクレイド、後は任せろ」

そう言うと片手をキメラ達の方へゆっくりと水平にかざし、生命力吸収で全てのキメラの命を奪い、緑の光を収めた手のひらを握りしめた。


「魔法術式の結界は…!?」

スクレイドが空を見ると、結界は大気にわずかな赤黒い魔力を残し、大半が消えた後だった。

その頃ようやく騎龍隊が空を飛びこちらに向かってくるのが見え、地上では王宮から出てきた魔術師と異世界人らしい者が何十人も武装して待機し始めた。


「ハッ、この国の機動力には頭が下がるな」

憎まれ口を叩き、頭を押さえていると重い視線に気づいた。

「この力は…」

「見なかったことにしてくれ…と言っても無駄なんだろうな」

諦めて観念したように笑いかけると、スクレイドは俺を上から下まで調べるように見て問いかけた。

「ヤマト…くん、なのかい?」

「それは酷いな、男に見えるのか?」

くろこちゃんは黒髪のナイスバディの美人だというのに、失礼な奴だな。


「えぇっ!?でもヤマトくんだよねえ!?ヤマトちゃんなのかい!?何故ここに…その姿…えぇー!?訳が分からないよ!?」

「緊張感のない奴だな、だがお前がいて助かった、っと…兵士にバレるとまずいんでな!俺はこれで引き上げる」

「話はできないかい!?」

「じゃあな、突然の異常事態から王都を救った森人様」


そう言うと【認識阻害】で存在を消して元の姿に戻ってから医者の元に行った。

医者は緊急事態を報せたあと、王宮の入口で空を見つめて立ち尽くしていた。

一部のスキルを解除し、普段通りに調節してから声をかけると、やはりこちらも突然隣に現れた俺に驚き飛び上がった。

「うわあああああ!?」

「落ち着け、俺だよ」

「…へ?クロウくん?」


涙目の医者は俺を見るなり抱きついた。

「無事でよかった!!怪我はないかね!?あれは全て君がやったのかね!?」

「いいや?…すごいお力の森人様がやった事だ…」

とぼけてそう言うと、医者は呆れ笑いをして離れた。

「はあ、そういう事にしておくとするかね、とにかく君が無事でよかった!」

「聡一…ごめん、スクレイドに、バレた…アメリアたちを守る為には、そうするしか…」

「クロウくん?」

「なんか…眠気が酷…くて……」

「クロウくん!?クロウくん!」


意識を失うように倒れた俺は、医者の指示でやってきたバーチスに運ばれ、朧月の部屋で昏昏と眠った。


・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「よく寝た…」

起き上がると眠りにつく前の事を思い出し、憂鬱な気分になりながら壁をノックした。

すると少し間を空けて部屋に入って来たのは女将だった。

「大和さん!お目覚めになったのですね!?」

「また世話をかけて悪い、俺はどのくらい寝てた?」

「四日です」

「…四日!?やばい!!英雄祭が…!」

「英雄祭も処刑もしばらく中止だそうですわ」

「どうしたんだ?」


呑気に聞き返すと女将は不安そうに言った。

「突然何者かの攻撃を受け、王都は今混乱のさ中でそれどころではないという事でしょう」

「…それもそうか、ここは無事だったんだな、被害は?」

「17名亡くなり、負傷者が29名、東の建物の損壊もかなりあります」

「アメリアは!?そうだルカ…ルカとユキも外にいたんだ…」

「聡一さんの話によると皆さんご無事だということでしたわ、ルカさんとユキちゃんも大丈夫ですよ、安心なさってくださいね」


アメリアたちは無事…

その事を聞いて無意識に手が震えだした。

「良かった…今度は、守れた…」

膝を抱えて顔を隠していると、女将は何も見なかったフリをして、お茶と果物を用意するとただ傍に黙って座っていた。


その後落ち着いてから身体を確認し、風呂で汗を流すと部屋に戻った。

「聡一さんは忙しそうで来れないのですが、スクレイド様が…」

「すまない、あの騒動で俺から接触してバレた」

スクレイドの力が必要だったとはいえ、迂闊なことをして二人の協力を無駄にしてしまった、それが女将に申し訳なくて謝罪したのだが。

「あら?バレてしまったのですか?」

女将は頬に手を当てキョトンとした。


「その事じゃないのか?」

「ええ、王都の危機を救ってくださったという事で、いまだに王都にいらっしゃることはいらっしゃるのですが…」

なるほど、スクレイドは俺のことを他には言わなかったらしい。

「それじゃあ奴がどうかしたのか?」

「人を…黒髪の美しい女性を探しているらしいのですよ」

「は?」

「こちらにもそんな方がいないかと訪ねて来られたのですが、私にも心当たりがありませんでしたので、そう言うと元気を無くされてお帰りになりましたよ」


嘘だろう?馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが。

まさか?くろこが俺で、俺がクロウで、クロウがくろこだと気づいていないのか?


「その噂が広まり、スクレイド様が滞在される王宮の離れには連日濃い髪の色の女性が行列を成しておりまして」

「なんだそれは」

「黒髪と言っても私も昔の大和さん以外にはお会いした事もありませんし…」

「女将さん、それは俺だ…」

考え込んでいた女将が俺の方を見ると、一瞬眉間にシワを寄せてから目を見開いて叫んだ。

「きゃあ!?ど、どなたですの!?大和さん、大和さんは…」


マイアの時と違い、怯えながら後ずさる女将。

「俺が大和だ、変身みたいなスキルでな、空の結界を破る時に万一に備えて見られてもいいように見た目も変えておいた、奴にはそのまま会ったんだが…」

「本当に、や、大和さんですの?」

女将は恐る恐る近づいて俺を凝視した。

「俺をそのまま女にするとこうなるらしい、少し調整はしたけどな」

「そんな、声まで変わって…」

女将が壊れた…。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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