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来訪者

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「おはよう!」


 異世界三日目、部屋のドアが勢いよく開いた。

「えっ!?えっ!?」

 何事かと起き上がろうとしてベッドから落ち、壁際に転がった俺を見て声の主は近づいて手を差し伸べる。

 長いマントについたフードを深く被り、皮の服に腰には剣を下げた若い男だ。

「おたくが勇者様かなぁ?」

 細身な外見からは予想もつかない力で俺を引きあげて立たせると、そのままフードから覗くタレ目で品定めでもするかのように上から下までジロジロと見回してくる。

フードからは左の横髪だけ三つ編みにした、長く淡い金色のお下げが揺れている。


 ベッドを見るとアメリアの姿がない。

「勇者ではないけど、ここにいた女の子はどうした?」

 警戒しながら一歩引いて尋ねると、男は陽気な口調で答えた。

「アメリアの嬢ちゃんならとっくに起きてレモニアちゃんたちの手伝いをしてるよ」

 嬢ちゃん?知り合いなのか?

「そんなに警戒しなくてもナー。こっちは朝からおたくに会うために待ってたんだよ?」

「朝からって」

「もう昼過ぎなんだけどねぇ」

「えっ、うそ!」

「ホントホント」

 男は肩を竦めて答える。

 口調のせいで軽い印象を受け、なんだか信用できない感じの男だ。


「とにかく下に行こうか」

 男に警戒しつつも後をついて階段を降り、食堂に行くと出迎えたのはレモニアだった。


「おはよう、よく休めたかい?」

 食堂には客が数人いたが、作業の手を止めて明るく声をかけてくれる。

「おはようございます、お陰様で休めました。アメリアは?」

「朝は準備を手伝ってくれてたんだけど、今はルンナの世話に行ってるよ、なんでも今日ヤマト様と出かけるんだって張り切ってたねえ」

 寝る前の約束を覚えててくれたのか。

 寝坊してしまって申し訳ない気持ちになる。

「お話の途中でごめんね」

 フードの男が話に割って入ってくる。

「ああ悪いね、忘れていたよ」

 レモニアがケラケラ笑うとフードの男は問題は無いといったふうに手をぱたぱたと振る。

「ヤマト様、こちらは森人のスクレイドさんだよ」

 レモニアの知り合いらしく、男を紹介すると忙しそうに仕事に戻って行った。

「ご紹介に預かりましたスクレイドという者だよ、よろしくね」

 こちらに向き直りスクレイドが自己紹介を始める。

「あ、どうも、津田大和です」

「明日リーゼンブルグに行くって聞いたから、俺も同行しようと思って来たんだけどね」

「そうなんですか、よろしくお願いします」

 その挨拶の為にわざわざ朝から待っていたのか?


「うーん、ホントに黒いんだねぇ、生まれつき?」

 そう言うと勝手に俺の髪を一束掴んでは離しを繰り返す。

 染めたこともない日本人だからな。

「髪の色がなにか?」

「なんだろうねぇ」

 一人で納得して頷きにこにこと笑いながら離れていく。

 なんだったんだ?

「ヤマト様!宿を出て右に曲がれば裏にルンナのペガルス舎がある、早く顔洗って行ってやんな」

 カウンター裏のガイルはどやしながら取っ手のついたバスケットを突き出す。

「これは?」

「弁当だ、アメリアと食いな」

 そう言うとまた調理に戻るガイルを見て、俺が唖然としていると遠くにいたレモニアがウインクをしてくる。

 二人で出かけることに反対はしたものの、レモニアに説得でもされたのか不機嫌そうだ。

「ありがとうございます」

 お礼を言ってから急いで顔を洗い、もらった服に着替えて店を出る。


 昨日のこともあったが、被害がなかったためか村には活気があり、それぞれいつも通りと思われる生活を営んでいるようで安心した。

それを横目に見ながら教えてもらった場所に向かう。


 やがて小さい小屋が見えてくると、小屋の小窓はすべて開いていて中からは少女の鼻歌が聞こえてくる。

「アメリア!遅くなってごめん」

 小屋を覗くとルンナにブラシをかけるアメリアがいた。

「ヤマト様!おはようございます」

「嬢ちゃんはペガルスの扱いが上手だねぇ」

俺に気づき目が合うと花が咲いたような笑顔で元気に挨拶をしてくれる、そのアメリアの声と同時に耳のすぐ後ろから声がして驚いて振り返ると、スクレイドが気配もなく立っていた。

「うわっ」

 いつの間に後ろに!?心臓が止まるかと思った!!

「ルンナは手がかからないので」

 アメリアもスクレイドを知っているのか、褒められて照れながらそのまま会話をしている。

「ヤマト様、もう出かけますか?」

 アメリアは手入れ道具を手際よく片付けると、駆け寄ってきて期待した目で俺を見つめた。

「行こうか、寝坊してごめんね」

「とんでもありません!」

 アメリアが今日も興奮気味のルンナを引いて小屋から出てくる。

 するとルンナをじっと見ていたスクレイドが突然気持ちを代弁したとばかりに俺に言い放つ。

「うん、うん、ルンナはヤマトくんを乗せたいらしいよ?」

「はい?」

 いや、あんな興奮したルンナに乗りたくないし、そもそも届かないから乗れない、そしてスクレイドがうさんくさい。

「ルンナ、そうだったの」

 そんなスクレイドの言葉を受け、アメリアが嬉しそうにルンナを見る。

 ほら、適当言うから純粋な少女が信じちゃった。

「あのー、スクレイドさん?悪いけど俺はルンナには乗れないので…」


「スクレイドでかまわないよ、なら俺が手を貸してあげようか」

 言うなり俺の手を引きルンナの横につける。

 ここからがよじ登れないんですよ。

「飛行魔法が使えるみたいだけど、使わないのかい?」

飛行魔法?

「あっ」

 【方向操作】のスキルの事か!

 調節すればルンナに届くとは考えていなかった。

 スクレイドの肩に手をかけるように言われ、その通りに勢いを殺しながら上に上がるように【方向操作】を使う。

「乗れた!」

 自分で飛ぶのとはまた違った目線の高さに恐怖はあるものの、ルンナも暴れる様子はなくしっぽをバサバサと振っている。

「ほら、喜んでいるでしょ」

 スクレイドはルンナの首の辺りを掻くように撫でて、少し微笑んでいるように見える。

「ヤマト様、乗れましたね!」

 アメリアも喜んでくれる。

 

 ちょっと待てよ?なぜ俺が飛べることを知っているんだ?

「昨日その魔法で大活躍したって聞いたんだよね、それなら乗れるんじゃないかと思っただけだよ」

 まるで俺の考えを読んだかのようにスクレイドはにっこり笑って答えた。

聞いた?村の人にか?

「ヤマト様、スクレイドさんは森人なんですよ!」

 もりびと、さっきもそんな事を言っていたが、一体何なのだろう?

「森人っていうのは人間が勝手にそう呼び始めたんだよね、人間同士のイザコザや魔物には興味はないけど、面白そうな話があるとこうして里に下りてくるんだよ」

 そう言ってフードを取ったスクレイドの耳は長く尖っていた。

「えっ、スクレイドってエルフ!?」

「おお、ヤマトくんはエルフを知っているのかい?」

 眠そうなタレ目を少し開いて驚いたようにしている。

せっかく出会えた異世界初のエルフが男かー。

そんな残念そうな俺の意思を読み取ったのか、それとも顔に出ていたのかスクレイドはにやにやと笑みを浮かべている。


「俺みたいに森に住んで人里をふらつくエルフを森人と呼ぶらしいよ、ちなみに女性の仲間は今はいないかな」

 黙った俺を満足そうに見てからアメリアに耳打ちをしている。

 アメリアは少し返答に困ったように俺を見つめる。

「あの、スクレイドさんもこれから一緒に行きたいって言ってます」

「そう、俺もぜひ遊びに行きたいんだけどねぇ、邪魔かな?」


「なんだか食えない奴だけど、アメリアはこいつをどう思う?」

 初めてのエルフということを除いても、この見透かすような視線に苦手意識が働き、一人では判断に困りアメリアに放り投げる。

「ヤマトくんは正直なんだねぇ」

 怒るでもなくスクレイドはルンナのたてがみを三つ編みにし始める。

「えっと、スクレイドさんは森人ですし、すごい人ですし、ガイルさんとレモニアさんが小さい頃からのお知り合いと言ってたので、信用できる人ですよ?」

「そうか、ガイルさんが小さい頃からなら信用…今いくつ!?」

 スクレイドの年齢は俺と同じか少し上くらいに見える。背は俺より少し高いが、どう見てもガイルたちと同年代には見えない!


 さすがエルフ!この世界でもエルフは長生きなのだろうか!

「スクレイド…さん?」

 不自然に呼び方を変えてみる。

「はいはい、スクレイドでいいって言ったよねぇ、俺の歳はもう確かじゃないけど人間よりは長生きみたいなんだよねぇ」

 軽い調子で言うとアメリアを抱き上げルンナの背に乗せる。

 アメリアが俺の前に乗り手綱を握ると、スクレイドは何かの呪文を唱え浮き上がった。

「飛んでる!」

「おたくも飛べるでしょ?」

 思わず指をさして叫ぶとスクレイドに冷めた目で見られた。


「日が暮れる前に遊びに行こうね」

 そう言うとルンナがスクレイドに合わせるように飛び上がると、いつの間にか先頭を行くエルフに引き連れられる形で出発していた。

 俺はよくわからない展開とルンナの乗り心地の悪さに現実逃避気味に弁当の量の心配をしていた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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