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ガイルの嫉妬

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「そうだ、クリフトも勇者様になにか用があって来たのではないか?」

「ああ!そうだった!」

 セリに促され、クリフトは床に落とした大きい麻の袋を拾うと俺に手渡し中身を見るように言う。

「これは?」

「旅の道具一式だ、兄貴のお古だがお前が使ってくれ」

「…いいのか?」

「ああ、ヤマトに必要かわからないが短剣も入っている。手入れは道中で教えてやるから確認しといてくれ」

「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」

 見ると外套や寝袋のようなもの、ゴーグルや手袋などが入っていた。


「勇者様、明日の王都行きには私も同行しますので、よろしくお願いします」

セリが深深と頭を下げる。

「こちらこそお願いします」

 クリフトとセリか。この二人は見ていて面白そうだ。

「あ!アメリアも一緒に行くことになったので、よろしくお願いします」

「なんでヤマト様がそれを言うんだ!?俺のセリフだろう!」

 ガイル、生きていたのか…


「アメリアにもいい気分転換になるだろう、ガイルさんもファーレンさん達のことは残念だった、アメリアが無事だったことが救いだな」

 セリは言葉を選びながら声をかけると、ガイルは自らの拳で胸をどんと叩き意気揚々と答える。

「ああ!アメリアの事はオレが立派に育ててみせらあ」

 まるで俺に聞かせるようにチラチラ見てくる。

「そうか、アメリアは頼りになる叔父がいて幸せ者だな」

 本気でそう思っているらしいセリに褒められ、ガイルは自慢気に俺にアピールをしている。

 なぜ張り合ってくるのか。

 その時寝る支度を済ませたアメリアが戻ってきて俺の袖を掴みくっついてくる。

「ヤマト様…まだお休みにならないんですか?」

「ん?そろそろ寝ようと思うけど」

「だ、だったら、あの、一緒に…」

 アメリア、嬉しいけど今それを言っちゃダメだと思う。


 すかさずガイルが割って入る。

「アメリア!今日はオレも早めに休むから、一緒に寝るか!」

 アメリアの前に膝をついて目線を合わせ、笑顔全開でアピールする。

 するとアメリアは俺をちらりと見たあとガイルの押しに負けたように小さく頷くと、名残惜しそうに袖を離しとことこと再び裏に消えていった。

「すぐに行くから先に寝てろよー!」

 ガイルはアメリアの背中に声をかけるが返事はない。



「ガイルさん、今のは可哀想だろ」

 口を開いたのはしらけた様子のクリフトだった。

「な、何がだ?」

 あさっての方を見ながら誤魔化すように口笛を吹きテーブルに戻って残った酒を飲み干すガイル。

 するとセリも顎に手を置いて少し考えながら、

「ガイルさん、私の思い過ごしなら申し訳ないのだが、アメリアは強い勇者様と安心して眠りたかったのではないだろうか?」

 真顔で言うセリに続いて周りの男達からもここぞとばかりにブーイングが始まった。

「アメリアが可哀想だろ!大人気ないことしてんじゃねーよ」

「そうだぜ、ガイル空気読めよ」

「今のはちょっと、自分もないと思います…」

「アメリアちゃんだって怖い思いしたばっかなんだ、勇者様を頼って安心するならそれでいいじゃねーか」


 トドメはレモニアの「嫌われちまうよ」の一言だった。

 味方のいないガイルは頭をガシガシと掻いてテーブルを叩いた。

「わかったよ!ヤマト様!アメリアを呼んでこい!そんであんたも早く寝ちまいな!」

 半ばやけくそのように逆ギレして俺を追い出すその姿は大人気ないなんてものじゃない。


 アメリアさん、このおっさんの皮を被ったガキをなんとかしてくれ…、とも思ったが正直助かった。

 今日も慣れない事ばかりで疲れ切っていたのだ。

 アメリアを呼ぶと、ぱあっと明るい表情で嬉しそうに枕を持ってついてきてくれる。

 うん、癒される。

 かがんでアメリアを抱き上げると、周りの目もあってか恥ずかしそうにしていたが、頭を撫でたら大人しくなったのでそのまま連れていく。

 ちょうどいい重みで俺の方が馴染んでしまったのだ。

 恨めしそうに見ているガイルとは目を合わせないよう周りに挨拶を済ませ、階段を上がっていく。


 部屋に入るとアメリアをベッドに降ろし、横になるのを確認してから俺も反対側に回って布団に入る。

「そうだ!昼間な、思った通りに飛べたよ」

 一緒に練習してくれたアメリアに報告しておかねば。

「すごいです!」

 突然の言葉にも関わらず、すぐに理解をして素直に喜んでくれる少女の笑顔に俺も嬉しくなる。

「着地に失敗して足を捻ったけどね」

「とても難しい魔法なんですね」

厳密に言うと魔法ではないのだけど、飛べることに変わりはないか。


「また明日ルンナと練習に付き合ってくれないか?」

「はい!楽しみです」

「そういえばこの村の人は皆ペガルスをもっているの?」

「いえ、多くはないです」

「ルンナはアメリアのじゃないの?」

「あの子は特別で私の妹みたいな存在なんです。3年前、赤ちゃんペガルスが怪我をして村に迷い込んできたのを見つけて手当していたら懐いてしまったんです」

 ファンタジーだなあ、そしてアメリアにはそれが似合ってしまう。癒される。

「仲がいいんだね」

「はい!ルンナが来た頃はまだ魔物も少なかったので、村の周りの牧草を食べ尽くしておじさん達に怒られてからは、よく二人で牧草地を探しに行きました」

 にこにこしていたと思ったらアメリアはなにか深刻そうに一息ついて目を伏せる。

「ヤマト様、私にも魔法が使えるようになるでしょうか」

「へ?」

 どうなんだろう、俺は元の世界から魔法を使えていたらしいし、この世界に来てからも特に意識せずに視界に現れる文字の中からスキルを選んで念じるだけだ。

 今日の魔物を撃退する様子から、魔法らしきものを使っている人は見当たらなかった。


 いや、足を冷やしてもらったな。

 ますますわからない。


「アメリアは魔法が使えるようになったら何がしたいんだ?」

 やはり冒険者になって家族の仇を、とかそういうことか?村を守るとか…

「私は…治癒魔法を覚えてヤマト様を癒してあげたいです」

「俺を?」

「はい、ヤマト様は私もみんなも魔法で治してくれました、でもそんなヤマト様だけ自分を治せないなら私が治したいです」

「アメリア…」

 そんなことを考えてくれていたのか…

「治癒魔法は難しいって言われてるし使えてもほとんど効果がないらしいですけど、きっと覚えてみせます、もう好きな人が冷たくなっていくのを見ているだけなんて嫌です」

「ありがとう、頼りにしてるよ」

 アメリアの頭を優しく撫でてから肩のあたりをぽんぽんと叩く。


 アメリアも疲れていたんだろう。

 安心したのか目を閉じると小さい寝息を立てて眠りについた。


 青みがかった銀色の柔らかい髪が顔にかかっている。

髪を撫でて髪をどかしながら少女のあどけない寝顔を見ると、妹を思い出す。

でもなぜだか郷愁の念はあまり湧かなかった。

自分ではそれなりに幸せな家庭に育ち、勉強も友人関係も趣味もそこそこに充実していた気がする。


死んだと言われて踏ん切りがついているのか?

いや、まだどこかでこの世界で生活していくことに現実味が実感できないのか。


あれ、待てよ?

俺が最後にやろうとしてたゲーム、二つの内一つはエロゲーだった気がする…

やばくない!?


PCは!?

ログインのパスワードもなんも設定してない!

日本での俺の死体はどういう状態になってるんだ!?


そんな考えても仕方ないことで悶えながら夜は更けて行った。



 その頃、食堂では。

「しかし、異世界の勇者様は初めて見るけど、皆あんな髪の色なのかね?」

「ああ、髪に属性が現れていないなんて不思議なこともあったもんだ」

 と珍しい異世界人の話題でもちきりだった。

「強力な魔法を詠唱なく放っていましたね」

「ああ、ゴブリン達は魂でも吸い取られたみたいに死んでたぜ」

「ブレイドパンサーに至っちゃ骨も残っちゃいない」

 集まった者達は今は頼もしき勇者の驚異を実感していた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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