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プロウドとベルと茶葉

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「プロウド魔晶石は精霊の国、プレーシアでしか作られない、何故かわかるかね?」

「確か特殊な魔力か、濃い魔力を長年注がないといけないとか聞いたが」

「その通りだね、それは人間では不可能なのだよ」

「え」

「何故なら人間とそれ以外…エルフや魔物では体内の魔力を構築し操作する、魔力回路と呼ばれる器官の造りが違いすぎるという話なのだよ」

「話?」

「魔物は捕らえて調べることが出来るが、エルフや精霊には謎が多く、人間でそれを知ることは今のところ叶っていない」

「ああ、エルフのステータス一つで大儲けできると聞いたことがあるな」

「そんな単純なものではないのだがね…」


いや?俺はそうとしか聞いていないぞ?

認識に誤解があれば文句はクリフトに言って欲しいものだ。

しかし国の話にプロウド、そしてステータスの基本知識とは、また懐かしいことを思い出させる…


医者は新しい酒を飲みながら、さらに懇々と語った。

「プレーシア国は中立だ、だからエルフはこちらの国によく訪れる、が、人間は妖精の国には入ることは出来ないのだよ」

「おかしくないか?」

「禁止されている訳では無い、ただ魔力の濃さに当てられ、魔力回路がパンクして半日と持たず死に至る。陸の生物が深海に行くようなものなのだ」

「そんなに違うのか」

先生の例えでようやく理解してきたところで話はプロウドに戻った。


「それほどの魔力がないと作れない魔晶石は、言わば魔力の塊そのものなのだよ」

所々聞いたことがある気がするが、知識のすり合わせ、そんな事を言っていたのはセリだったか。

この際だ、講義を黙って最後まで聞くことにする。


「魔力はこの世界で絶対的な力だ、攻撃に特化した魔法の使い手がプロウドを持てば、小さい国一つを滅ぼす事も可能だと言われている」

「え」

「もちろんプロウドにも種類、というより質のランクがある、上からソウルプロウド」

「え」

「さらにレイムプロウド、ガイストプロウド、他にも強い魔力の魔物が住み着いた場所で普通の石や岩に魔力が混ざり変質したものをプロウド魔晶石と呼ぶ、プロウドが含まれる物自体がかなりの希少品でこの国ではまず自然では滅多にお目にかかる事はないがね」

「え」

「レイムプロウドは拳大ですでに値がつかないほどの価値がある」

「え」

「先程からどうしたね?」

「あ、いや、気にしないでくれ…」


俺が服の中の胸元辺りの結晶を握りながら目をそらすと、医者は首を傾げたが話を続けた。

「王宮にとても大きなハイリヒプロウドという国宝がある、それは数年前から徐々に黒く染まってきている、それが魔王の復活の兆しと言われている」

「そ、そうだ、そういや何故その石が黒くなると魔王の復活なんだ?」


医者は女将と顔を見合わせると、今度は女将が説明してくれる。

「私たちも所詮異邦人、詳しくはわからないのですが、ハイリヒプロウドはエルフの王だけが創ることが出来たらしいのですよ」

「それと魔王になんの関係があるんだ?」

「なんでもエルフの王は魔王と同等の力があったらしいのです、一説では魔王は復活のために世界中のプロウド魔晶石から魔力を集めているのではと言われておりますの、魔力が無くなったプロウド晶石は黒く染まるらしいのです」

「そう、なのか…?」

「そこでソウルプロウドなのですが」

「え」

「人間は自らの魔力の少なさを補い、魔王の復活に備えるためにソウルプロウドを集めようと妖精の国と交渉しているそうなのですが、芳しくは無いようです」

「え」

そこで医者も話に加わる。


「エルフにとってはプロウドは貴重ではないが、人間に持たせると災厄の元になると思われているそうなのだよ、まあ否定は出来ないがね」

「え」

「本当に先程からどうしたね?プロウドの話は難しいかね?」

「え…ああ少し頭が痛くなってきた」

「まあ、我々が話していても手の届かないものだ、話を戻そう、この粉が混ざりものの無いプロウド晶石の粉末だとしてそれに魔法術式を解く力がある事は知らなかった、大発見なのだよ!」

「…そうか」

「これが知れたらさらにプロウドの価値が上がるだろうね」

「…そうか」

「聡一さん、大和さん、この事は他には漏らさない方が宜しいのではないでしょうか…」

「そうだねハナエさん、魔法術式が破られることが知れたら戦争の火種になりかねない」

「…そうか」

「大和くんもこの事は内密に、出来たら森人のアーツベルさんに広めないように話してみてくれないかね」

「…会うことが…あれば…」


俺はその後、余計な事を言わないように息を潜めて気配を殺し、置物になりきっていた。


知られるわけにはいかない、言えるわけがない。

そんなヤバい代物…ソウルプロウドを暇つぶしに庭で量産して物置に押し込んであるなんて…。

価値はなんとなくわかっていたつもりだったが、スクレイドからは貴重だとされる結晶をポンポン渡され、アーツベルがプロウドを見て騒いでもイマイチ信用が出来なかった。


問題は家の物置に雑に置かれた大量の高価な結晶たち。

どう処分したものか…

俺はその件に関して口を硬く閉ざすことにした。

医者と女将は俺が疲れたのか興味がないのだと思い、そっとしておいてくれた。



「…そういえば二人は異世界とはいえ、結婚はしないのか?」

「「え?」」


話を変えようと手頃な話題を振った俺の言葉に、ぽかんとすると二人で笑い始めた。

「大和くん!やだなあ~!ハナエさん、聞いたかね?」

「そんな風に見えてしまうのでしょうか、ふふ、大和さんは本当に可愛らしい方ですこと」

「違うのか?」

「ハナエさんは健吾のいい人なのだよ」

「アキトの育ての祖父の?」

「聡一さんたら…」

女将は頬を染めて、艶っぽく微笑んだ。

知らなかった、あまりに二人の醸し出す雰囲気がピンクだから、出来てるのかと思っていたが違ったのか。


「てことは…二人は?」

そう言いかけると、女将は眼に鋭さを宿らせて、神妙な面持ちで言った。

「大和さんと聡一さんと同じですよ」

「俺と先生と…?」

「この世界を憎み…大切な方を無くして、いつか一矢報いる為の協力者ですわ」

「女将さん…」


なるほど、女将はただ先生の庇護下にある異世界人、という訳ではなかったということか。

どこまで何を知っているのか、しかしそれならば女将には治癒魔法が使えることを話しておいてもいいだろう。

《もし俺の邪魔になったら始末すればいいだけの話だ》

そんな事を考えてハッとする。


…今俺は何を考えた?

始末、それじゃまるでトールやこの国の者たちと同じじゃないか。

やはり俺は。

「大和さん?どうかしまして?」

「なんでもない…先生、話はこれで終わりか?」

「え?うむ、スキルがバレなかった事と術式を解く正体がわかって良かったよ」

「じゃあ悪いが俺はこれで帰らせてもらう」

「大和さん?」

「女将さんも…あまり無茶はしないでくれ」


「ふふ、大和さんこそ。いつでもいらして下さいましね!サキさんのこと、ありがとうございました」


なんとなく、女将の顔を見れずに店を後にし、夜だというのに看板で眩しく照らされた通りを一人で歩いた。

「魔法術式を解く粉、ね…」

あの時俺の力で術式を解いてサキを助けなかったのは保身の為だ。

女将に礼を言われるのは筋違いだろう。


魔法術式は今の俺にとってほぼ意味を成さない。

強い魔力のせいか、今まで灯りや何かの模様だと思っていたものに術式が混ざっていたことを知った頃に本で存在を理解し、今では一から作るのはもちろん書き換えも解除も一通り出来るのだから。


髪の色を変えれば属性も変わり魔法は使い放題、そこに様々なスキルや知識を持っている。

しかも俺には無用だが、力を増幅することのできる魔晶石を二時間程度で作り出すことも可能なんて。

おかしすぎるだろう。


それを知られるわけにはいかない、俺の中の何かがそう警告しているのだ。


「はあ、どんどんチートがひどくなっていくな」


自分に起こるインフレに、もうこの国ごと潰してしまおうかと思う心を抑え、日々情報を集めるが特に成果も上がらない。


ルカは誤算だったが、トールはもちろんアキトの死に協力した者、知っていたのに見殺しにした奴ら、そしてその全てを掌握するまだ見ることさえ叶わない英雄王。

全てをこの手で潰すまではまだ派手には動けないのだから。


裏門まで行くと森の中にベルの気配を察知し、バーチスがいない代わりにベナンを見つけ、森人がいるが気にしないよう念を押した。


家に着くとベルが切り株に座って、俺を見つけると嬉しそうに立ち上がった。

「クロウちゃん!来ちゃったわよー!」

「ベル、昨日は悪かったな」

「いいのよ、お加減はどうかしら?」

「もう大丈夫だ」


そこで粉を使ったことを思い出し謝ると、ベルはニコニコと笑顔で両手を胸の前で振った。

「いいのよ、あれはクロウちゃんにあげたものだったんだからー」

「お前、実はいい奴だな」

「実はっていうのは気になるけど、私の魅力に気づいちゃったかしら?」

「帰れ」

「クロウちゃん冗談って知ってるかしら?」


そんなやり取りをして、部屋に入るとベルは前回来た時と同じようにテーブルの椅子に座った。


「クロウちゃん、クロウちゃん」

「なんだ?」

ソファに寝転ぶ俺にしつこく声をかけるベルに視線を移した。

「あのね、この森すごく居心地がいいのよー」

「そりゃよかったな」

「ところでソウルプロウドはどうしたの?」

「え」


口をつぐむと決めた途端にその話題とは、狙っているとしか思えない。

「ねえ、少しだけ貸してほしいの」

「持って行っていいと言わなかったか?」

なんならこの際、全て引き取ってもらいたいくらいだ。


ベルは少し悩み、困ったように俯いた。

「それは出来ないのよ、誰が作ったのかわからないんですもの」

「…俺が作ったと言えば問題はなくなるな?」

反応を見ようとそう聞いてみるが、くすくすと笑うだけで全く相手にされない。


「ありがとう、でもプロウドを育てることが出来るのはエルフの中でも魔力の強い限られた者か、数人がかりなのよ?」


重い、その話は今の俺にとって重すぎる。

「ところでソウルプロウドを何に使いたかったんだ?」

「んー…」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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