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プロウド講座

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。



サブタイトルが思いつかずいつも15分ほど悩みます。

すると。

「あのっ、他には特に何もありませんでした!」

サキはそう報告し、トールは一瞬眉をピクリと上げてサキを凝視した。

しかししばらくするとトールは不満そうにため息をついた。

「この娘にはねぇ~、魔法術式で嘘が付けないようにしてあるんだよねぇ~」

「なんという事を!?」

それを聞いた医者は声を荒らげたが、トールは気に止める様子もなく手を挙げて制止すると、今度はにんまりと満面の笑みを浮かべた。


「スキルより実力が勝つなんて、スキルにはまだまだ研究の余地があるねぇ~、クロウ、これからも期待してるよぉ~!これお小遣いねぇ」

それだけ言って俺の目の前に金貨が詰まったずしりと重い袋を置き、医者に軽い会釈をすると笑いながら部屋を出て行った。


すると医者はサキの肩を掴み、心配そうに様子を伺った。

「サキさん、大丈夫かね!?術式を施されたのはいつだね!?」

「は、はい、今朝突然トール様に呼ばれまして、その時に数人の魔術師と名乗る方々が…」

「なんて酷いことを…他には何もされなかったかね!?」


サキは悲しそうに笑った。

「酷いことならこんな世界に勝手に連れてこられたことよ!!こんなの誘拐でしょう!?…こんな所で私何をしてるんでしょうね、けいちゃんはどうしてるかな…会いたい…」

「けいちゃん?」


俺が聞くと、サキはこちらを見て言った。

「息子です…まだ一歳なの…私、帰りたい、ダメよ!そんなこと言ったらどんな恐ろしい事をされるか…でももうこんな所イヤ!!帰りたいいぃーーー!!」

嘘がつけない状態の彼女は苦悩し、取り乱して泣き叫んだ。

「なんとか術式だけでも解こう…なんとか…」

医者はサキを宥めながら方法を模索するように頭を抱えた。

この世界で術式は必要な魔力の高さと知識、長年の経験が揃わないと扱えない高度なものらしい、それを解くためには王に仕える魔術師の力が必要だと医者は言った。


まあ、俺は独学で術式を組むことも解くことも出来るのだが、サキがいるこの場でそれを知られるのはためらわれた。

どうしたものかと俺はかける言葉もなくその様子を見ていたが、ポケットに違和感を感じて手を入れると、入っていたのはベルの置いていった小瓶だった。

「んー…」

そしてベルの言葉を、森への侵入方法思い出す。


「サキさん」

声をかけるとサキはびくっと肩をすくませ、こちらに向かって叫んだ。

「やめて!今のことは誰にも言わないでください!」

「言わないから落ちついてくれ、その魔法術式とやら俺がなんとか出来るかもしれない」

「え…?」

「クロウくん?」

医者とサキは困惑した顔で俺を見つめた。

医者に離れるように言って、小瓶のフタを開けると中の粉をサキに振りかけた。

すると粉は眩い虹色に光り消えていった。


「終わった」

「はい?」

サキはその一瞬の出来事に目をぱちくりさせて、医者と顔を見合わせた。

「…えっと、何か大きい嘘をついてみてくれ」

念の為【真偽感知】を発動し、サキの言葉を待つ。


するとサキは恐る恐る、小声で呟いた。

「元の世界になんて、帰りたくない…」

警報がガンガンと頭に鳴り響く、成功のようだ。


「え?私、普通に話せるんですか…?」

「ああ。俺のことが原因で利用されたなんてのも気分が悪いしな」

サキは口を覆い、涙を流した。

「本当に、トールのお抱えの魔術師の術式をあんな事で破ったのかね!?」

医者は興奮しながら小瓶を凝視した。


「これははた迷惑な森人様が置いていった謎の粉だ、これで森の結界術式を突破していたと言ってたから試してみた」

「すっ、すごいじゃないか!!それは何なのだね!?」

「中身?ライ…なんだったかな」

「クロウくん!?そこはとても大事なことなのだよ!?」

医者は涙目で訴えるが変質していると言われたままなのだ、知らないものは答えようがない。

少しすると諦めたらしく、サキに手を貸して助け起こしたがサキ本人は不安そうに呟いた。

「私は、どうなるのでしょうか…」


すると医者は頭を掻きながら言った。

「君を預からせてもらうように国に交渉してみるよ、…またハナエさんに助けてもらうことになりそうだ」

「先生、サキさんに売春宿は無理だろう」

思わずそのまま口をついて出た言葉にサキは医者から素早く離れ、汚いものを見るような目で見た。


「違うのだよ!?希望があれば別だがね!?サキさんには十分な休息をとってもらってだね、調理場や他の手伝いをしてもらえたらと考えたのだよ!?誤解しないでくれたまえ!?」

「と、いうことらしい。サキさん、先生のところなら安心だ」

「ほ、本当ですか?」

サキはほっとしたように表情が明るくなり、慌てる医者を見て少し笑った。


そして三人で部屋を出ると、医者は別れ際に俺に指で合図をして、サキを王宮の奥へと連れていった。

「…俺は意地が悪いな」

俺も王宮を出ると、夜まで時間を潰すために図書館に向かった。


医者の合図は夜に店で、というものだった。

図書館では相変わらずすでに読んだ本を繰り返し取り寄せては何度も読み込んだ。


──そして日が暮れて。


「あの男の息の根を止めて差し上げたいものだわ」

俺と医者は出された酒に手をつけることも出来ず、女将の前に黙って正座をしていた。


女将はいつも通りの美しい笑顔で、怒りのオーラをまとい拳を鳴らした。

「ハ、ハナエさん、サキさんはどうしてるかね?」

「泣いておりますよ、それはもう声を押し殺して…心が壊れてしまいそうな程に」

「…そう、デスよね」


どうやらサキを一時預かることに成功し、女将に頼んでからずっとこの調子らしい。

しばらくの沈黙の後、女将はため息をついてから気を取り直し改めて酒を奨めた。

医者と俺は顔を見合わせ、酒を一気にあおると三人で向かい合った。


すると、医者が思い出したように叫んだ。

「そうだ大和くん!!あれはどういうことだね!?」

「突然どうした先生」

「どうしたじゃないよ!?スキルの事だよ!サキさんのスキルを使うと聞いて、ボクがどれだけ吐きそうになったか伝わるかね!」


それを聞き女将はさっと席を外そうとしたが、それを引き止めた。

「二人共、前に話したと思うが俺は二人と違うルートでこちらの世界に来た」

そう言うと女将は首を傾げた。

「ええ、それは伺いましたけど、違うルートというのが私にはわからないのです」

「ボクもなのだよ、召喚以外でということなのだよね?」

「転生だ」

「転生…それは確か聞いたが、大和くんは元の世界で亡くなったという事かね?」

「ああ、まあその辺は省くけどな、そのせいかわからないが俺には大量のスキルがある」

「うむ!だからこそそれがバレるんじゃないかとヒヤヒヤしたのだよ!?」

医者は興奮しながら立ち膝で顔を近づけたが、俺はその顔を押しやり話を続けた。


「それから、スキルは増え続けている」

「何だって!?」

「言わなかったのは悪いが、俺も先生もお互いに裏切らざる時が来た時に備えて、言えることだけという約束だったからな」

すると医者と女将は真剣な表情で頷いた。


「秘密にしてるわけじゃなくても、俺自身確かじゃないことも伝えずにはいる、そこは理解してくれ」

「わかっているよ、それで今日の事は?」

「今一つだけ言えるのは【秘匿】というスキルを得たという事だ」


まあこれはルカが出場した次の英雄祭で始末した異世界人のものだが。

「【秘匿】?以前からあった【認識阻害】とは違うのかね?」

「どうやらこれは相当な使い道があるらしい、【認識阻害】は対象の存在を限りなく薄めるものだが、【秘匿】は細かく絞って俺の情報を操作、書き換えをする事ができる」

「スキルを使われてもかね!?」

「それは今日サキさんが証明してくれただろう」

「…なるほど」

「実を言うと俺も少し不安だったけどな」

そう言って笑うと医者は閉口して肩を落とした。

「そんな、賭けのような真似を君は…」

「まあ成功したんだ、喜んでくれよ」


女将は額に手を当て渋い顔をした。

「さらに言うと、俺は保有スキルを全て同時に発動できる、まあ重複しそうなものは無駄だからやらないけどな」

「なんだって!?全てを同時発動!?」

「そう、最高三つのスキル保有者も同時に発動出来るのは二つまでと秘書庫の本に載っていたな、ルカもそうだと言っていた。でも実際に俺はそれには当てはまらない」

「本当に、君は何でもアリなのだね…」

医者が呆れ気味にそう言うと、女将が口元に手を当て呟いた。

「それが…転生者と転移者の違いですの…?」

「わからない、だが俺が特殊なことには間違いはなさそうだ」

「うむ…」


三人で考え込んでいると、医者が気の抜けた声を出した。

「はあ~、大和くんを知れば知るほど底が知れないね、敵ではなくて本当に良かったよ」

「俺も今日の先生には驚いた」

「何がかね?」

「トールが敬意を払うなんて、ますます先生の立場が謎だな」

「すまないね、それは言えないのだよ…」

それは以前も一度だけ聞いたが、答えは同じだった。


「まあいいさ、先生に必要があるかはわからないがこれも預けておく」

取り出したのは虹色の粉が少しだけ入った小瓶だ。

「これはサキさんの術式を解いた…」

「ベル…森人のエルフが言うには、プロウド系の粉だとか…」

「「プロウド!?」」

説明しかけて、医者と女将が声をそろえて聞き返してきた。


「えーっと、なんでも高価なものらしいな」

「こっ、高価なんてものではないのだよ!?」

「大和さん!?プロウドをご存知ないのですか!?」


この反応は予想外だった。

プロウドに価値があるのは知っていたが、二人のあまりの勢いに思わず後ずさった。

すると医者が説明を始めた。


「いいかい?プロウドというのは精霊という意味だ」

「ふぇありー?」

「それは妖精だ、真顔で茶化さず真面目に聞きたまえ」

「はい」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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