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ルカとユキ2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「とか言って全て躱されるとヘコむな。大和からは攻撃してこないのか?退屈だろ?」

挑発するように放たれた言葉に不快感はない。

むしろアキトに稽古をつけてもらっていた時を思い出し、どこか楽しくなってきている自分がいた。

「なら少しだけ」

いつかアキトがしていたように日本刀に炎を纏わせ、ルカの変幻自在(物理的な意味なのだが)の剣を目掛けて炎渦巻く一撃をお見舞した。


しかしそれを簡単に防ぐと、辺りを取り巻く熱を払い、ルカは地をつま先でコツンと鳴らして再び詠唱をした。

「アセンブル」

瞬く間に砂鉄が宙に集まり、ルカの周りにいくつかの鉄製の盾が出現した。

「それかっこいいな」

盾そのものに意思が宿っているのかと錯覚するほど正確にこちらの攻撃を防ぎ、その隙間からルカの攻撃がくる。


何度か攻防を続け、種も仕掛けもない日本刀で俺が切りかかると盾は霧散した。

「あれ?何をしたんだ?」

「スキルだ」

「これは砂鉄の集合体だから、崩されてもすぐに再生するはずなんだけど…」

「【分解】と【沈黙】は普段刈った草や術式の解除にも使ってるが…放たれた後の魔法にも効果があるらしい、参考になった」


「草の分解…?せっかく編み出した使い方を試しで封じられたのか、少し悔しいな」

「【沈黙】が詠唱自体を封じることが出来たら、もっと効率がいいんだがな」

「怖いこと言うね」

ルカは苦笑いをして、それから距離を取りながらどうしても気になっていたらしい事を聞いた。


「どうやって【剣神】と【スキル無効】に勝ったの?って聞いたら教えてくれるかな」

ガチッと音を立て、剣での単的な競り合いが始まった。

「俺にスキルは効かないんだ」

押すことも引くことも無くただ真実を告げる。

こいつには成約がある。

ある程度教えても問題ない。

しかしその答えにルカは最初はまさかと笑って、顔色が変わった。

「正確には自らに使う【剣神】のようなものはそのまま効果がある。でも俺に何かを仕掛けるにはレジストスキルが揃いすぎていてほとんどが無効化されるんだ」

するとルカの頬には一筋の汗が流れて、口の端をあげた。

「道理で、今もスキルが効かないわけだ」

「知ってる。レジストスキルが発動すると何をされたのか確認すればわかるんだ、悪いな」

「…はあ、なんでもアリすぎるでしょ」

そこでルカは剣を引いて両手を挙げた。


「もう終わりか?」

「君が驚くような技を考えておくよ、そうだ、フェアじゃないから言っておくとオレのスキルは三つあって…」

「やめとけ、俺はお前の秘密を守る成約を持たない、俺を信用してくれるな」

真っ直ぐに見つめると、意外そうにルカも見つめ返した。


「誤解するなよ、先生とも…こんな世界でいつ敵対する事になってもいいように、お互い話せる事しか話さないと協定を結んでるんだ」

そう付け足すとルカは少し悲しげに了承した。



──俺に期待を向けるのはやめてくれ。

この世界に心から信用できるものなどないんだ。



あまり時間もとれず、練習らしい練習にならなかったが、いい気分転換になったことは確かだった。

「ルカ、お前も俺の敵にならなくてはいけない時がきたら、躊躇わずに自分の身を守ることだけを考えろ」

「なぜそんな事をオレにまで…?本当に君ってわからないね」

「お前に言われたくないな」

コイツがもっと嫌なやつだったら、トールや剛田のように汚い人間だったのなら良かった。


解散するかと部屋に戻った時。

ルカはユキに抱きついて離れようとしない。


「そんなにユキが気に入ったのか?」

お茶を入れて、テーブルに置いておくがマナー程度に口をつけてからはずっとユキと遊んでいる。

「ユッキーは賢いし可愛いし最高だよ、ねっユッキー」

「にゃー!」

ユキもルカには相当懐いている様子だ。


うーーーーん、仕方ない。

「ルカ、これはスペアだがお前にも渡しておく」

取り出したのは自分がピアスとして着けているリングと同じものだ。

「…ちょっと合う指がないかなっ」

誰が男に指輪を送るか。



仕方なく自分の耳を見せ、説明をする。

「これもまた人には言いたくないんだけどな、このリングには術式を施してある」


頭にはてなマークを浮かべたルカはユキを見た。

「念じたらコレを媒体にしてユキが出てくるぞ」

「え?だって、どう見てもそのリングは小さすぎないか?」

最もな意見だが、空間術式の家に住みながら何を寝ぼけた事を…百聞は一見にしかず。


するとリングの正面に魔法陣が出現し、ルカの隣に居たはずのユキが反応して立ち上がり、歩を進めると途中からその身体が消え、代わりに魔法陣から出現した。


「召喚術式!?そんな高度なものまで組み込んだ術式を…さっきの空間といい、君は魔術師に師事でもしているのか?」

「そんなわけないだろう、関わりたくもない。図書館の本を読んで術式は独学だ。そもそも術式の事は誰かに知られてこれ以上面倒事が増えるのはごめんなんだ」

「独学だなんてありえない…」

「いらないのか?これでユキにいつでも会えるというのに?」

「欲しいに決まってるだろ!?いいのか!?」

ルカはユキ可愛さに思考を放棄した。


「俺がユキに用がある時はこちらが優先になるので発動しないが、それでも良ければ持ってればいい」

「わかった、ありがとう!」

正直、仕事でユキを一人にさせる時間が長いのが気になり、苦労して召喚術式のリングを作ったのはいいが外でユキを呼び出す機会がなく無駄になるところだった。


「助かる。じゃあミルクと、他に必要な物があればペットシッターとしての経費という事でこの汚い金を渡しておくから使ってくれ」

「汚い金って…、ユッキー、大和が忙しい時はオレのとこに来てくれる?」

「にゃー!」

ルカは金の件では苦笑いしたが、ここまでの可愛がりよう、なによりユキも懐いていている。

その上この体格のタックルを受けても無事で今後成長しても心配がないとなると、これ以上の適任はいないだろう。


最後にスペアの使用者をルカに限定するよう術式を一部書き換えた。

「ネックレスにしてもいいかな」

「問題ない」

俺はユキの耳を見てなんとなくピアスにしたが、持ってさえいれば使えるのは試し済みだ。


そしてルカと噴水の広場で別れ市場に行こうとすると、少し前に飲食店で知り合った男に声をかけられた。

「クロウ!また図書館か?」

「いや、市場にいくんだ、お前はこれから仕事か?」

「そうなんだ、平和すぎて退屈だけどな、っと、こんなこと言っちゃダメか」


王都の市場や異世界人の出す店、それ以外にどんな店があるのかと情報収集の為に入った店で知り合ったセグシオという男だ。

「無駄口はいいから早く行け」

「へいへい、またなクロウ!」


しかし驚いたのは王都に暮らす一般人があまりに平和ボケしているということ、王政に興味を持つ者など無いに等しいのが現状だ。

また、王都には無数の異世界人が居るというのに、“ 勇者様”はそれ以上でも以下でもなく、自分たちには縁のない雲の上の存在なのだ。


それもそのはずで、あまりに住み分けのできた王都では両者の接点はなく、自ら名乗りでもしない限り一般人との見分けすらつかない。

そんな奴らが勇者に期待するのはただの戦力。


飯屋には長くはいられないが、そんな中に紛れると暇を持て余し酒に酔ったものから、昔の剛田のように目立つ勇者の噂話や情報を収集するのにもってこいだった。


最近は不本意にも、噂の多くは英雄祭でこの世界出身者の一般人である黒の剣士こと〝シス〟が活躍していることや、処刑人〝真実の断罪者〟の話題が多く、いたたまれない気持ちになる時がある。


そんな事をぼんやり考えていると市場についていた。

「いらっしゃーい!見ていってくださいよー!」

「お兄さん、うちの商品は上等だよ!」

出店の商人たちの声、人がひしめく大通り。


その中の一店、"ボルダイン商店"と書かれたテントの店主が俺に気づいて大声で呼び止める。

「クロウ様!クロウ様ー!」

「せいが出るな」

「クロウ様こそ、お疲れのようで」

呼ばれるまま店先に立ち寄り、店主と声をかけ合う。

ここは以前先生と防具を揃えた帰りに、アキトへの土産を買うために医者が札束ビンタをして利用した店だ。


一人で市場に来てはこの店に寄り果物を買うことが多くなり、いつの間にか店主のボルダインに顔を隠していても見分けられる程に覚えられ、どこで情報を仕入れたのか俺の名前や二つの仕事を知っていた。

「またおすすめの物でよろしいので?」

「頼む」


ボルダインは手際よく果物を見繕って袋に入れ、それとは別に一つの果物を手渡した。

「こちらはよく熟れていますよ」

「いつも悪いな、支払いは足りてるか?」

「それはもう!お支払い頂いたのが多すぎるほどですよォ」

「無くなったらちゃんと教えてくれ」

「このペースですとお返しした方が…」

「いい、お前は余計なこともせず仕事もできる」

店を選ぶのが面倒だったので、最初の頃に金貨を数枚渡してからはずっとこの調子だ。


医者と来た時には金にがめついという印象だったが、通ううちに商売に関して信頼できる人物であることがわかり始めた。

俺の仕事を知りながら余計な話はせず、何も言わなくても美味い果実を選び寄越してくるのも足を運ぶ理由の一つだ。


そして、去り際にボルダインは店から出てきて耳打ちをした。

「南の方では魔物の被害が激化しています、地方では数えきれない集落が無くなりました。西では亡命に失敗した勇者様が二名…国境付近がピリピリしてますよ」

いつだったか王都から出れず、世情を知りたいとボヤいた時からボルダインは必要最低限の情報を伝えてくるようになった。

「ああ、お前の無事と商いに支障が出ないことを祈ってる」


そう言うとボルダインの店を後にし、騒がしい通りを抜け、人気がなくなると袖で果物を磨き、齧りながら歩いた。

「確かにこれは美味い」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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