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笹井という男2

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

「…それで?」

「うん、退屈でねぇ~?ルカは本当に可愛くて退屈な子なんだよねぇ~!人殺しは嫌いなんだって!でもアタシが教えこんだ事ならどんな事も疑いもしないっ、前任のゴミがいかに極悪非道を尽くしたか吹き込んだらアタシの為にゴミを始末するって…ぷっ、うはははは!!もう術式の中には戻りたくないんだってぇえ~!!救い出したアタシを神と仰いで…ぷはっ!!飽きちゃったから、頑張ってるクロウに仇を討つチャンスをあげようと思ったのぉ~!」


「…アトスの事も、今回の笹井の事もお前の独断か?王に指示されたのか?」

「なーいーしょぉ~、どうせ真実の耳を使ってるんでしょお?今アタシを殺したらまた振り出し!それどころかぁ~、あの家には住めないねぇ~」

「それもそうだな…」

そう返すとトールは期待していた反応とは違ったのか、つまらなそうにしてからさらに続けた。


「今日は人を集めて賭けをしてたんだぁ~!クロウがルカを殺すかどうかねぇ~?おかげで一人勝ちさせてもらっちゃったよぉ~!ルカは馬鹿で可愛いでしょおおお?クロウは殺さないと思ったああはははははは!!」

──この世界の悪意と狂気はどこまで…


「笹井はどうなる?」

「どうして欲しいぃい~?クロウが望むなら仇をうたせてあげようか

~?それとも一生を術式の中で過ごさせようかなぁ~あ?クロウの好きにさせてあげるぅ~」

下卑た笑みはいつも通りに、人を心底不愉快にさせる。

「…ならば笹井に関する権利は全て俺が貰い受ける」

「…へぇ~え?かまわないよぉ~?あんなのが欲しいの、クロウは本当に面白いねえ~え?」


──…耐えろ、今は耐えて俺が行くまで動かないでくれ…。


「笹井の今までの環境と待遇はそのままにしておけ、利用する時が来るかもしれないからな」

「いいよぉ~?話はそれだけなのぉ?」

「ああ、邪魔したな」


──どちらも無茶はするな、せめて話ができるまで…。


「そうだ、クロウ~?もう一つだけ教えてあげようかぁ~?」

「…なんだ?」


「あの日のルカの"トリガー"はクロウ自身だよぉ~お」

トリガー?どういう意味だ?


「さて、アタシも暇じゃないからねえ~ぇ、ぷふっ、ふひゃはははは!!もっともっとアタシを楽しませてくれよぉ~クロォーウ、またねぇ~?」


扉を強く閉めると同時に二つのスキルを切った。

家に戻る途中裏門の兵士達にある指示をして、部屋の扉を開けて部屋を見渡してから名前を呼んだ。

「ユキ」

「にゃあー」

気がつくと深夜になっていたが、ユキは部屋の中で起きていたのか嬉しそうに走りよってきて胸に飛びついた。

「よし!ミルクの時間だ」

「にゃあ?」


そしてミルクを飲み終えたユキは警戒するように扉の方向を見つめ、手からするりと降りるとフレームの中の林に逃げ込んだ。

森を抜けて家に近づく人間の気配。

「そうか、ユキにもわかるか…アイツが来たのが」

そうして乱暴に扉が開かれ、入ってきたのは鬼の形相の笹井ルカだった。


「クロウ…お前を許さない!!」

「俺もお前を許せない」

「オレに何をしたっ!!あの医者もグルか!?トール様が!あのトール様があんな事を仰るはずがない!!」

怒りに任せて叫ぶ笹井を横目に、俺は妙に冷めた頭でいつも通りにお茶を入れて飲み始めた。


「信じる信じないはお前の勝手だ、だがもう伝わっているだろう?トールからお前の身柄の権限は全て俺に移った」

「ああ!!伝令が病院に来たさ!!だけどあんなもの誰が信じるものかあぁ!!」


目には涙が滲み、わなわなと震える手で剣を構える様子に吐き気がする。


「アキトを殺したお前は弱者や被害者であってはならなかったんだ」

思わずそう言うと、笹井の怒りはさらに増すばかりだった。

「何を、訳の分からないことを言ってるんだよ!!」


こいつが剛田のような奴なら…トールの話が嘘だったのなら、どれだけ良かったことか。

「もう一人客が来る、お前のことは俺だけでは決められない…」

その言葉の通り、遅れてやってきたのは医者だった。

しかし医者も普段とは違い、静かに、だが確かに憎しみに満ちた目で笹井を見つめた。


「先生…来たか」

そう言うと、敵に挟み込まれたと思ったらしい笹井は悔しそうに医者を見てからこちらを睨んだ。

「やっぱり…お前らは俺をどうする気だ!何の目的で…」

その言葉を遮ったのは医者の怒声だった。

「大和くん!!僕たちはどうしたらいいのだね!!あんなものを見せられて…仇を…討てと?討てるというのかね!!あの男はどこまで…!!」

「…!?」


医者の様子に困惑した笹井は俺を見つめた。


俺は茶を飲みながら部屋の中の先ほどお茶の入ったグラスを置いたばかりのテーブルを指さした。

「笹井、この隣はアキトの席だ、二人で並んでアキトの作った料理を食べた」

「アキト…!?何の話だ!!」


状況が飲み込めない笹井と、膝から崩れ落ち床を何度も殴りつけ涙を零す医者と、ただぼんやりと思い出を語るように俺は至る所を指さした。

「その台所でアキトが料理を教えてくれて俺は折り紙を教えた、あっちに風呂場があってアキトはシャワーは直接湯が出るのが気味が悪いなんて言って、取り付けたら結局気に入ってたな」


「だから何の話だ…!ヤマト?それにアキトってのは誰のことだ!」

笹井が叫んでも、俺はそれを無視して医者に声をかけた。


「先生すまない…俺はまた間違えた。真意を知りたかったのは本当だが、ほんの少しトールの言葉を聞かせてそれで笹井がどう出るか見たかった」

俺が病院に運んでいる時から笹井の目が覚めているのはわかっていた。

しかし笹井もこちらの様子を見ていたのか、眠るふりを続けていた。

そしてトールの部屋に入った瞬間から【視覚投影】で会話の全てを笹井と医者に見せていた。


アキトを殺した奴がわかったというのに、トールに…この世界に利用されていた笹井とその過去。

バーチスたちには笹井が来るはずだと伝え、もしも来たならばどんな様子でも通すように言っておいた。

「あのクソじじいは本当に何がしたいんだ」

身体中の力が抜けていく。


「なあ、なんの話をしてるんだよ…アレは…俺の頭に流れてきたクロウとトール様の会話は何だったんだよ!?あんたも見たのか!?」

痺れを切らして笹井が医者に問い詰めた。

すると医者はやっと顔を上げて涙を流しながら俺に言った。


「大和くん…聞かれてはいないね…?」

「範囲は森全て、この三人だ」

それを聞いた医者は立ち上がり、力なく笹井の横っ面を殴った。

「な…」

まさかの展開に笹井は防御もせず、そのまま呆然と立ち尽くした。

「トールに何を聞かされたのかは知らんがね、君が殺した前執行人は僕の弟のアキトだっ!!」

「なん…て!?」

痛みも無い頬に熱だけが残り、笹井は次に俺を見てその場に剣を落とした。

「な、何で…それじゃあお前は一体なんなんだよ!クロウ!!」

「彼も、大和くんも異世界人なのだよ!アキトが唯一心を開き…彼もまたアキトの心を救おうとしてくれたっ…」

「でも助けられなかった、優しい奴から死んでいくんだ。なあ笹井、お前は悪くないのかもしれない…でも俺はアキトを殺したお前が許せない」


「クロウが異世界人!?トール様は…アトス…いや、アキトが罪のない者を次々と手にかけていると言った!!でも俺を閉じ込めてたように、王は異世界人のスキルだけが目的だから見て見ぬふりをすると…だから王や勇者の立場にあぐらをかいて横行する悪を…理不尽を一緒に無くそうと仰ったんだ…」

「それが、お前の信じるものならそれでもいい、でもアキトはあの日無実の人を殺せなかったからお前に、お前の言うところの理不尽に殺された」


それを医者は黙って聞き、笹井は認めたくない現実を突き放した。

「…っ!!違う、違う!!お前も異世界人だったんだな!?しかもアトスに肩入れする悪だ!!そうか、だからスキルで剛田を倒せたわけか!!」

言ってから笹井はふと自らの言葉に疑問をもった。

「違う…奴相手ならスキルは無効化される…、待て、ならトール様はどうしてお前に力を貸した…?」

この期に及んでまだ剛田の失墜はトールの助けだと思っているらしく、さらに混乱していく。


そこに医者はポツリと言った。

「英雄祭はトールやそれに連なる者による、邪魔になった異世界人の処刑の場なのだよ」

「そして俺が異世界人であることをトールは知らない、だからアキトへの嫌がらせに、いや、あの男の場合は暇つぶしか…、利用価値のない俺を剛田に殺させようとした。結果は逆になったがな」

「だけど!!アトスの態度は酷かった!!」

笹井がそう叫んだ。



そして、医者と俺と目が合い二人で苦笑いをした。

「そうだな、確かにアキトの態度は悪かったかもな」

「…否定できないのがなんとも困ったものだね」


笹井は子供のようについ口をついて出た中傷ともとれる言葉に、当然反論や綻びが出ると予想して身構えていた、にもかかわらず予想外にも始まった二人のやり取り。


「アキトは嘘がわかるスキルなんて似合わないモンを持ってたから、誰も信用できなかったんだ」

「僕もね、散々言い聞かせたのだがね…」

俺たちは今まではお互いに遠慮して話せなかったアキトの事を思い出し、何かが込み上げるとそれが止まらなくなった。


「潔癖で頑固にしてしまったのは僕と健吾の責任だと後悔しない日は無いよ…」

「じいさんに関しては本当に色々言いたいことがあるけどな、それでもあいつは見るべきだったんだ。人の汚い部分も…先生、初めてスキルを使わずにオセロをした日のあいつが何て言ったと思う?」

「なんと言ってたのかね?」

「スキルを使わないと駆け引きのできるゲームは楽しいって、普通のことを嬉しそうに言って、笑っちゃったよ」


医者は涙を溜めながら悔しそうに笑った。

「ふっ、はは、僕も健吾もアキトとそんな、本当にごく普通の時間を過ごせれば何かが変わったのかもしれなかったのだろうね…」

「どうかな、こんな世界だから…アキトはきっと誰も嫌いになりたくなかったんだ、本当は信じたくて嘘を聞きたくなかったんだ…だってあいつは誰より優しかったから」

「優しいのは間違いないのだがね、僕にだけ厳しくなかったかね?」

「いや、俺も母親かと思う時があるほど叱られた」

「アキトは確かにいつも母の後をついて回って、よく観察していたから…」


先程までの緊迫感が嘘のようにアキトという人物の話をし始めた二人の空気が変わったのを感じ、そんな奇妙なやり取りを聞いているうちに笹井はぼんやりと宙を仰いだ。


突然呼び出された異世界と待ち受けていたのは拷問のような日々、そこから救い出してくれたのはトールただ一人だった。

この人の為に力になりたいと思った。

忌むべき世界だとしても、恩人が人々を助けたいと望むのであれば手を汚すことだっていとわなかった。


この日もただトールの役に立ちたかった。

その一心で英雄祭に出たのに、今起きてる事はなんだ?

二人からは悪意など微塵も感じず、ただアキトという人物がいかに大切だったのか、それだけが伝わってくる。


もし、今まで信じてきた全てが嘘だったとしたら。

「待てよ、なんだよそれ…」


笹井が頭を押さえながら独り言のように呟いた。

「嘘だって言ってくれよ…あの映像が、トール様の言葉が本当なら…オレはなんの為に手を汚して…」

しばらくそんなことを繰り返していたはずの笹井は己の中で何かに行きついて、顔には絶望の色が浮かんだ。

「違うだろ…?俺はなぜいつも自分のことばっかり…そんなことよりも取り返しのつかないっ、なんて事をしてしまったんだ…!」

俺と医者はその様子と言葉に驚き、さらに頭を悩ませる事になった。



剛田は知らなかった自分も被害者だ、だから殺されるのはおかしいと言った。

しかし目の前のアキトの仇はまだ完全には信用できない話に、整理のつかない心と頭でありながら己の苦境や利用された事よりも、もしそれが真実ならばと手にかけた者を思い心を痛めている。


《──この世界は優しい者が救われない》

ああ、それは散々身にしみていた事だったはずだ。

こいつ、笹井もそうなのか。

知りたくなかった、でも知らなければいけなかったんだろうな。


医者は俺を見て苦しそうに首を振り、俺にもその気持ちが痛いほどに伝わった。

「クロウ、国医殿…オレはどうしたらいい…」

「最初に言ったが、お前の全権は俺にある」

そう言うと、笹井はあきらめにも似た表情で笑みを浮かべた。

「そう、だった。君は真実の断罪者だったね、俺がこの世界を許せないように俺の罪もまた許されるものじゃない」

「笹井くん…」

「あの日、トールはオレにやっとアトスの悪事を明るみにできる日が来たと言ったんです」

医者は辛そうに笹井の話を黙って聞いていた。


「処罰するべき者から命と罪を見逃してやる代わりに賄賂を受け取ったようだと…、それまでためらわず処刑をしていたアトスがもしも躊躇することがあれば、その時こそこれ以上被害者を出さない為殺してほしい、そうすればやっと証拠を掴むことができるのだと言われました」

ルカはその時の事を思い出しながら…いや、人を殺したくないはずだったのだから忘れたことなどなかったのだろう。


「客席と建物内の通路にはトールの部下を配置してある、騒ぎをおこそうとする者がいれば犯罪に加担する者だから、こちらで捕まえて他に関わった者がいないか話を聞くこともできるので心配するなと…言われていた通り席の方の様子がおかしかったようだったけど、オレはそれこそトールの言葉の裏付けだと思った」



その言葉に医者は青ざめ慌ててこちらを見た。

「それは俺だ…」

「大和くん!!」

「君がどうしたって…?」

笹井も俺を見て眉をひそめた。



"トリガー"、奴の言っていたのはこの事だったのか…。


「あの日…初めてアキトの仕事を教えてくれると聞いて居合わせた」

「じゃあ席で騒ぎを起こしていたのは…」

「アキトは無実の者をどうしたらいいかわからず、俺に助けを求めてくれた…」

ルカは余計に混乱して目を見開いたが、医者は俺の言葉を遮った。

「やめるのだ!君に責任はない!もうこれ以上何も考えてはいけない…!!」


俺は冷めた目で医者を見た。

「先生、笹井はあの日の事をありのまま話している、そんな奴にこちらは話を聞くだけで真実を隠せと?」

「そういう事ではないだろうに!」

「アトスは君に助けを…求めて、いた?」

「二人も見ただろう?トールがトリガーは俺だと言ったのを、俺が騒ぎを起こしたことで笹井…お前に決断させた」


どこまでもトールの思惑通り…

「やめたまえ!!君はアキトの死に一切…」

「先生、知らなかったから仕方がないなんて、都合のいい話はないんだ」

医者は押し黙った。


俺がこんなことを言えば先生まで苦しむことになる、どれほど俺を気遣ってなんとか責任を感じないように助けてくれようとしているかわかってる。

だけど事実を見ずに感情だけで捉えたら、今度こそ現実が見えなくなってしまう。

そうしたら、俺はまた間違える。


「悲劇ぶるつもりなんかさらさらない、今の俺にできるのはただ現実を受け入れることだけだ」

過ちを繰り返さない為に。



「やめてくれクロウ、もういい…国医の勇者、貴方の弟だというアトスを手にかけたのはオレです」

「さあ、先生どうしようか、どう転んでもトールを楽しませるだけだろうがな」

「…僕は、こんな話は聞きたくなかった…知らなくていいことだってあったのではないかね!?」

「知らなかったから結果としてアキトを死に至らしめた」


そんな中、医者の前に出たのは笹井だった。

「国医殿は何も悩むことなんてない、敵であるオレを殺せば済む話です」

笹井は医者に頭を下げてから、まるでその時を待つように俺の方を向いてから目を瞑って姿勢を正した。

しかし医者の不安感が伝わってくる。


「笹井、とりあえず明日からも今まで通りに過ごして、自分でどうしたいのか考えみてくれ」

「ああ…え?」


俺の言葉に一度穏やかに頷いて、そして間の抜けた声で聞き返した。

「オレを、殺さないのか!?」

「先生が何もしないのに、俺には何も出来ない…それで先生今日は解散でいいか?」

「そうだね、さすがに…疲れたよ」

「なんで…」

「今のお前に何かしたらアキトに軽蔑されかねないんだ」

そう言うと医者も複雑そうにしてから頷いた。

「アキトはね、厳しいのだよ」


全く訳が分からないという状態の笹井は、唖然とした様子で俺たちを交互にみたが、大きく首を振った。

「でもそれじゃあオレの気がすまないっ!」

「悪いが、危害を加える気もないが、楽にしてやるほど善人でもないんだ」

それを聞いても笹井は食い下がる。

「…っ、楽になろうとは思ってない…!」

「ならば一つだけ。俺のスキルを受けてもらう」

「何をするつもりだね!?」


笹井は慌てる医者を制止すると、覚悟を決めて真っ直ぐに俺を見つめた。

「一応説明しておく、【魂命誓約】というスキルだ、俺の出した条件を相手が了承して初めて成立する。その代わりそれを破ろうとすれば地獄の苦しみが待っている、それでもよければ今から俺の言う事に誓え」

「…わかった」

「勝手な行動は許さない、自暴自棄にならず何かあれば相談しろ、誓えるか?」

「…え、えぇ?あ、ハイ」


なんとも締まらない軽い返事で重い誓約が完了してしまった。

「そんな事を…オレに言ってくれるのか?」

驚く笹井をよそに俺はカップにお茶を注ぎ足した。


「病院で言ったはずだ、トールに踊らされてたまるかと」

あの時の声も起きていて聞こえていたはずだ、そして。

「し、心配などしていなかったとも!大和くんが優しいのは知っているからね!!」

医者は冷や汗を拭ってからフォローをして、俺はまたお茶をすすってから手を叩いた。


「さて、ここからは聞かれたらヤバい話は無しだ」

「何の話を?」

俺がそう言うと笹井は首を傾げた。

「魔法や術式でも探ることの出来ない隠密系スキルだ、対象を俺たち三人にしてあるが長く使うと逆に怪しまれる」

「そんなものまで持っているのか!?」


驚く笹井を他所に俺はカウントダウンを始めた。

「3.2.1、ハイ!じゃあお疲れ様だな、二人とも」

そう言うと二人を見送った。


トールはどこまでも俺たちを玩具にしたいらしいな…。

焦点の合わないまま二人の姿が遠くなっていく森を見つめていた。

「やっぱり、アキトを殺したのは俺だったじゃないか…」

「にゃあ」

そこに顔を出したのはユキだった。

「ああ…放っておいて悪かったな、また練習だ」

「にゃー!」

ユキが元気よく飛びながらフレームに入っていき、俺もその後を追いかけた。



翌日、昼過ぎにユキを連れて向かったのは異世界人の居住区空間前のエレベーター。

そして持っているカードキーは二枚。


一枚は先生の部屋へ行くことの出来る術式、もう一枚は去り際に渡された笹井の部屋へと通じる術式が施されたものだった。


エレベーター横の黒いガラスにカードをかざすと扉が開き、乗り込んで到着したのは医者の部屋より幾分か豪勢な造りに、広いエントランスのような場所には観葉植物が置かれ、清潔感と生活感のバランスが良いセンスある空間でドアのインターホンを鳴らした。


「お待ちしていました」

すると、クリーム色のシンプルなタートルネックの半袖に、ロング丈のベージュのカーディガン、そしてラフな黒いジーンズ姿に黒縁メガネをかけた笹井が真剣な面持ちで扉を開いた。

「ユキ、帰るぞ」

「にゃ」

「なぜです!?どうしたのですか!?」

イケメンのアンニュイオフな姿に何となく舌打ちをして、帰ろうとするが引き止められて室内に通された。

毛足の長い白いラグマットの上にはグランドピアノ、質の良さそうなどデカいL字型のソファにガラスの机。

部屋の一角には運動器具のスペース。


家具やカーテンは淡い色で統一されており、いつの時代の芸能人お宅訪問かと思うようなセンスに居心地が悪い。



「勝手に連れてきてしまったが、動物にアレルギーや苦手なものはあるか?」

「大丈夫です、散らかっていて申し訳ありませんクロウ様」

トレーに小さいティーカップを乗せてキッチンから爽やかな笑顔の笹井が出てきたことで、俺のストレスが高まった。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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