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祝勝会

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

さて、魔物をどうにかすることが出来たのは良かった。死傷者も今になればゼロである。

 俺を除けば。

 喜ばしいことだとは思うけどおかしくない?


 クリフトの手を借りて立つと、その姿を見たアメリアが顔面蒼白で立ち尽くしていた。

「ヤマト様…酷いお怪我を…!?」

 捻挫です。

「いや、大丈夫だよ」

 急いでお湯に薬草、包帯を持って駆け寄ってくる。

「ヤマト様!死なないでください!」

 ごめんなさい捻挫です。

「軽くひねっただけだから…」

 うろたえて震える手から何度も包帯を落とすアメリアにはその声は聞こえていないのか。

「どこが痛みますか!?傷口がみあたりません!これではどうしたらいいか…」

 捻挫だからなあ。

 泣きそうになりながら俺の全身を触り、負傷箇所を探している。

「レモニアさん!どうしましょう!?」

 オロオロとしていたかと思うとパニックを起こし、とうとうレモニアに助けを求め始めた。

「椅子にでも座らせてあげたらいいんじゃないかねえ」

 笑いをこらえてレモニアが椅子を近くに置いてくれた。

「アメリア、こっちに来てみな」

 そう言うとクリフトは少女をひょいっと持ち上げて俺にパスする。

「ほら、ヤマトは大丈夫だろ?」

 クリフトも笑いながらアメリアの様子を見守っている。


「ヤマト様?本当にご無事ですか…?」

 俺の膝の上で顔や肩をぺたぺたと触って確認しながら俺の顔を見つめる。

「うん、捻挫だから」

「捻…挫?」

 やっと伝わったか?

「心配かけてごめんね?」

「よかったっ」

 アメリアは理解したのか飛びつき力強く抱きしめてくるが震えはまだおさまっていない。

そんな少女の頭をなでて、自分の情けなさが恥ずかしくなる。


ある程度の処理を済ませ、後を他の村人に任せてガイルが数人の男たちと共に宿屋に戻ってきたのは夜も更けた頃だった。

 俺はレモニアと、安心したのか離れようとせず膝の上で眠るアメリアと一緒にガイルの帰りを待っていた。

 手伝いに行こうとしていたが、不安そうなアメリアを置いていくことができずにいるとクリフトがこのくらいは俺たちに任せてくれよ、と言って出かけて行った。


「あんた、どうなったんだい?」

 レモニアは全員にお茶を差し出しながら眉をひそめて様子を伺う。


「残ってたゴブリンの死体は焼いてきた…」

 汗をぬぐいながら一息つくとガイルはお茶をすする。

「残ってた死体は?じゃあ逃げた魔物はまた来るかもしれないねえ、それでもアンタらが無事で良かったよ」

 ため息をつきながらレモニアがそう漏らす。

「逃げた、魔物?」

 そう聞いて一緒に来た男たちと顔を見合わせてガイルは大きく笑いだす。


「なんだい?気持ちの悪い」

「逃げた魔物も何も、全滅さ」

「クリフトの坊やもそんなことを言ってたけどねえ、追い払ったからって気を大きくしないで外壁の強化やなんかしなきゃいけないだろう?」

 呆れたようなレモニアに背中を叩かれて、さらにガイルたちは笑いだす。


「違うんですよ、レモニアさん!」

 その内の一人の若い男がガイルの頭上にトレーを振りかぶるレモニアを慌てて制止するように声をかける。


 こちらを見て目が合うと、

「勇者様が一人で全ての魔物を倒してしまったんですよ」

 そう言って立ち上がるとそれにつられた周りの男たちも席を立ち、口々にお礼を言ってくる。


「さっきのは本当にすごかったなあ!」

「ああ!あれだけの数の魔物を一瞬で!」

「それだけじゃない!傷まで治してくださったんだ!」

「オレもだ、パンサーにやられた傷でもう腕が使い物にならなくなるかと思ったのに、ほれ、この通りです!」

 腕を振って見せてくる者もいる。

「「勇者様、本当にありがとうございました!」」

「いえ、とんでもないです」

 勇者様ってのをやめてくれ…

 恐縮しながら返事をしていると人数分の酒を持ってきたガイルがさらに笑う。

「いやあ、やるじゃねえかヤマト様!」

「あら、まあ?」

 状況が呑み込めないレモニアは男たちのテンションについていけず、首を傾げるばかりだ。


「ん…」

 騒ぎにアメリアが目を覚ました。

「アメリア、起きた?ベッドで寝ないと」

 俺がレモニアから受け取った水を渡すとアメリアはグラスを両手で持って寝ぼけながら頷く。


「勇者様、自己紹介が遅くなり申し訳ありません。自分はグレンといいます」

「津田大和です。勇者様はやめてください…よかったらそこどうぞ」

 アメリアが離れると、カウンターの隣の席に若い男が座った。


「それでですね、村長がぜひヤマト様にお礼が言いたいと申しておりまして、明日ぜひ村長のところまでご足労願えないでしょうか」

 村長いるいのか、当たり前か。

「そんな、皆が体を張って頑張ったんじゃないですか、俺なんかむしろ出遅れたくらいで…」

「ハッハッハっ!違いないな!」

 笑い声がしたと同時に鉄のトレーが振り下ろされ、

 ガイルの頭から鈍い音が鳴り響いた。


「ぐあああああ!!」

 頭を押さえて転げ回るガイルをよそに、歪んだトレーを後ろ手に隠してレモニアが驚く。

「へえ、ヤマト様本当に大活躍だったんだねえ!」

 こええよ!

「そ、そこまでのことはしてませんよ、それに村長に会うなんてかたっくるし…緊張しますし」

「大丈夫よぉ、ただのおじいちゃんなんだから」

 レモニア、村長をおじいちゃんて。

「レモニアさんは村長の娘さんですからね」

 苦笑いしつつグレンが補足する。

「そうなんですか?じゃあレモニアさんから断ってくださいよ」

「いいわよ。話したいなら自分が来ればいいのよ」

 ダメ元で言ってみたけど、いいのかよ。


「えっ、こ、困ります!」

 グレンが慌てているが、レモニアに引っ張られてテーブル席に戻って行った。


「しかしな、本当言うとヤマト様がこんなに強いと思わなかったぜ」

 復活したガイルが頭を押さえながら腰掛け直して何か言ってる。

「言っちゃなんだが見た目もヒョロくてよ、こんな子供が勇者様だってんだから世も末だと思ったもんだ」


 ガッハッハと笑うガイルの頭から二度目の鈍い音が響く。

 ヒョロくて悪かったな。

 それに勇者を自称したことはない。

「子供って…間違っちゃいないけどな」

「勇者様はおいくつなんですか?」

「17歳で、今年18になります」


「「「ええ!?」」」


 その反応もさっき見たよ…

 洋風の異世界人から見たら俺は子供っぽいんだうか。


「勇者様、私はセリといいます。ぜひお礼を言わせて頂きたい」

 そんな中、一人の女が前に出てきて深くお辞儀をした。

 男ばかりだと思っていたが若い女もいたらしい。


 年はクリフトと同じくらいに見える。

 美形、という言葉がしっくりくるようなキリッとした顔立ちと、肩まで伸びたウェーブがかった金髪。

 少し筋肉質で締まった健康的で魅力的なお姉さんだ。


「セリ!?」

 レモニアが驚いてセリの顔を触る。

「はい、この通りなんです」

 何がなにやら。

 置いてけぼりの俺に向き直ったセリは姿勢を正した。

「私の顔には幼い頃負った大きな傷がありました。それが今日の撃退戦に出ていたら勇者様の魔法で消えたのです」

「え!?古傷にも効くんですか!?」

 びっくりだ、治癒魔法の効果は想像より遥かに強いのかもしれない。

「左目にかかる傷が治ったことで視界が変わり、まだこの感覚には慣れませんが、必ず活かしてみせます。本当に助かりました。村を守って下さっただけでなくこんな祝福まで…ありがとうございます」

「よかった、傷があっても魅力的でしょうけど、せっかくの美人ですもんね」

「えっ」

 え?

 セリの顔が一気にカーッと赤くなり、ダラダラと汗が流れる。

「あれ?なんか変なこと言ってすみません」

 女性を褒めるのは女性優位の家で染みついた癖だったが、さすがに初対面の男に言われたら気持ち悪いだろうか。

「あのっ、違うのです!これまで顔の傷のせいで、いや、傷がなかったとしてもそうだったと思うが…男性にそんなことを言われたのは初めてで、勇者様がからかっているご様子ではないことはわかっているのですが、面と向かってそう言われるとなんとも…」

 焦ってまくし立てる姿は美人というより可愛い。

 周りの男達もその様子に釘付けになっている。


「セリ!?かっ、顔が!!」

 いつから居たのかそこにはクリフトの姿がある。

 持っていた麻袋をどさっと落とし、セリを見つめて惚けている。

「クリフトじゃないか、あちらはもう終わったのか?」

 仲良さそうにセリが声をかけるとクリフトは挙動不審になりながら、なんとか返事をしている。

「そっ、えっ?ああ!それより君の顔の…」

「ああ、勇者様が治して下さったのだ」


「ヤマトが…!?」

「俺もここまで効果があるとは思わなったんだけど、そうらしい」


「両目になったら感覚が掴めなくてな、きっと技の幅は広がると思うんだが…また剣の相手をしてくれないか?」

 セリに言われて頭をものすごい勢いで縦に振るクリフト。

「いくらでも付き合うけどよ、その…」

クリフトがセリの顔をまじまじと見つめて口ごもる。

「傷がないと女に見えて剣を交えるのは躊躇われるか?」

 ずいっと顔を近づけて、いたずらっぽく笑いながら尋ねるとクリフトの顔が真っ赤になる。

「傷があってもなくても!セリはかっ、かっ、かっ…カッコイイと思うぞ!」

 ニヤニヤと見ていた周りの男達が一斉に崩れる。

「そうか、ありがとう!クリフトは良い奴だな!」

 レモニアはやれやれと言いながらカウンターに入っていく。

 いくら彼女いない歴=年齢の俺から見てもわかりやすいぞ、気づいてないのはセリだけか…可哀想に。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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