14話目 輪廻の会合の意味と笑顔
うるさいさんの誘導で、俺は芦高さんのもとに向かう。
20分ぐらいは歩いただろうか。
この辺は先ほどの魔族との戦闘の傷跡はそれほど激しくはなかった。
しかし、これから進むにしたがって、俺と芦高さんが魔法により傷つけた大地の爪痕が徐々に大きくなっていくだろう。
この後もこの辺が人類の領域と完全に掌握されたのちは、土魔法術士の土木工事などの魔法で平らに整備され、さらに将来はここで農業や牛や馬、ヒツジなどの放牧が可能となるかもしれない。
そうなれば平和な世界だ。
俺が聖戦士になったのはこういう安心して暮らせる場所を広げたかったからだ。
教会本山に来る前は人類の平和の場所の拡大を考えていた。
しかし、多くの人との触れ合い、魔族との接触と触れ合いから、俺の中で少しづつその思いは変わりつつあった。
人や魔族に関わらず、平和に、精一杯生きる者のための場所を作りたい、広げていきたい。
今は確かに、この思いは俺とおばちゃん、鞘氏、双子の指輪の間の秘密だ。
でも、この考えは間違っていないと信じた道を進んでよいとメイドさんには後を押してもらった。
間違っていないのなら、やってみよう。そして、この考えを広げていこう。
まずはかのお方にあって、この世の大きな秘密を聞いてみよう。
その上で俺の考えが間違っていない、俺の考えが変わらなかったら、エリナに打ち明けよう。
エリナが賛成してくれたら、この地の教会に赴任しよう。
農業をしながら、魔族も含めたみんなが幸せになれるような土地にしよう。
俺は自分の夢が広がってくるのを感じた。
しかし、皆が手を繋げる世界など存在するのだろか。
これまで、少なくとも俺が知っている歴史の中ではそんな歴史はなかった。
前回の輪廻の会合があったという2000年前から魔族がこの地に現れる1000年前まではこの地では人類だけで生活していた。
小学校、中学校で習った歴史ではその時代には、今の魔族と人類の戦いのように、人類同士が争っていたということだ。
しかし、1000年前に魔族が突如この地に現れ元々生息していた魔物を従えて、人類の生存地域を掛けて争ってきた。それに対応するため、人類は互いに争うことやめ、打倒魔族で一致団結したと教えられた。
人類は2000年もの間争ってきたのだ。前回の輪廻の会合の意味はなんだったんだろうか。
今回、輪廻の会合が起こった場合、また、2000年も人類は戦い続けるのであろうか。
それならば、輪廻の会合など起らない方が良いのではないか。
俺はもう争いたくない。
争いのない世界を作りたいのだ。
輪廻の会合をこのまま起こすために進んでいいのだろうか。
「シュウよ。輪廻の会合、そして運命の会合もまたそれに関わる人たちがどう考えるかによるのではではないかのう。
シュウは魔族をあの空間で隔離して生きていくことを許したことはシュウの考えじゃ。
前回の輪廻の会合で例えシュウが会合に関係していたとしても、その時は魔族との共存を考えていたとは思えないのだがのう。
まぁ、妾もまだ数百年しか存在していないので、2000年前の当時の状況など詳しくは知らぬが。
要するに、当時の輪廻の会合に関わった者たちのどうしたいかと考え、そしてそのようになるように努力した結果が起こったということじゃろ。
それが各種族の分離独立、あ痛い、いたたたたた・・・・・・・・・・、
ごめんなさい。余計なことは言いません。
死かと思った。
もう昼寝する。」
おばちゃんどうした。
「かのお方の情報解放制限に引っかかって、罰を受けたのでしょう。
吹雪様にはこれ以上は輪廻の会合について聞かないでやってくださいまし。」メイドさん
ということは、おばちゃんの今の言葉の中に重要な言葉が含まれているということか。
そうか、2000年前の輪廻の会合の結果は種族の独立分離、つまり、人類と魔族が別々にお互いに干渉せずに生きて行こうと、それが前回の輪廻の会合に関わった者たちが望んだことか。
それでは1000年前の魔族の人類領域への進行は、当時の輪廻の会合の思いとは違ったものになる。
そして、現在輪廻の会合が起ころうとしているということは、また、種族の分離独立をしようということなのか。
それはおかしい。少なくとも俺は分離独立ではなく、共存を考え始めている。
魔物である芦高さんと一緒に暮らしている意味合いは何だ。
そして、メイドさんによれば俺の進んでいく道に問題はないと言っていた。
それは今回の輪廻の会合の結末は前回と違っても良いということだろうか。
その場合、輪廻の会合の目的は手段は問わないが、人類と魔族が平和に暮らすシステムを作り上げるということになる。この考えであれば矛盾がなくなる。
次の疑問としてはなぜ1000前に突然魔族が人類領域に進行してきたかだな。
これを解かないと輪廻の会合の結末を描くことができない。
魔族はこの人類領域に何を求めている。
それは何だ、魔族になくて、人類にあること。
何だ。
「うふふふっ、もっと、もっと、もっと悩み考えなさい。シュウ。
輪廻の会合に関わる者として、何を知り、何をすべきか。
そんなに簡単に答えは見つりませんわよ。」
俺が思考の深層に入り込んだいたとき、目の前に大きな樹がらわれた。
芦高さんは大きな樹の下で、ぶら下がった大きなミノムシのようなぐるぐる巻きの物体と一緒に居た。
まるで、ぐるぐる巻きのミノムシの親のように甲斐甲斐しくお世話をするように。
「きゅいーん。きゅいーん。ぷりぷり。きゅきゅいんいん。」
「早く迎えに来てよ。ご主人様ぁ。寂しかったよ。うえーん。ちゃんと仕事したよ。ほめて。魔族を10体も救っただって。」通訳さん。
ごめんよ。芦高さん。遅くなって。ありがとう。芦高さんのおかげで、命を救えたよ。
「きゅび。きゃぴぴ。」
「どういたしまして、これでペット魔族さんもほっとしたかなだって。」
前回の戦いでは1個師団のうちだれも救えなかったもんね。救うことすら忘れていたよ。
今回は前回のように暴走せずにすんだよ。
魔族を救えたよ。
自分で多くの魔族の消滅を望んでおきながら、わずかな魔族を救えたことに満足してしまったよ。
うるさいさんが言うようになんか変だよね。
でもね、やっぱりこれでいいと思うんだ。
救える命を無駄にしない。
それで俺は良いんだと思う。
さっ、芦高さん、新しい教会に帰ろう。
エリナと旅団のみんなが待っているよ。
待っていてくれる人に笑顔を見せられるのはうれしいね。
もっと、笑顔になるね。
芦高さんは魔族で本来は人類の敵なのに、旅団のみんなと新しく手に入れた教会に関わっている人はみんな頼もしい仲間だと思っているよ。
なんかうれしいね。
「きゅぴ。きゃぴぴ」
「そうだね。
ご主人様の役に立って、ご主人様の笑顔を見られて僕もうれしいよだって。」
ありがとう、芦高さん。さっ、皆の元に帰ろ。
俺はぐるぐる巻きを芦高さんに取ってもらって、ペット魔族さんに救えた魔族を預けた。