13話目 休暇ほしす
また、一つの社を解放し、教会本山の転移魔方陣と繋げることができた。
まぁ、ここで少し浮かれるのは仕方がないと思う。皆学生だし。
そこに、新しい転移魔方陣から登場したのは元特攻隊長と死神さん。
さすがは俺たちの師匠。俺たちを心配して、急ぎやって来たに違いない。
「こりゃ、お前たち危ないまねはしちゃだめじゃないか。
パトロールの指揮官の中隊長と話をしたが、撤退命令が出ていたとの話だぞ。
生徒会チームは即時撤退。
第3小隊は殿を務めながら、徐々に撤退と聞いたぞ。
命令通り、動かなかった理由を説明しろ。」
怒っていらっしゃいますね特攻隊長殿。
「私から説明します。」
「いや、生徒会長はいい。まだ職校生だ。」死神中隊長
「いえ、あそこは第3小隊長から私が指揮を引き継ぎました。
例え職校生でも指揮を引き継いだ限りは、指揮下にある部隊の指揮責任は私にあります。
指揮官としての正式な任命は受けておりませんが、緊急の場合、部隊のメンバーの同意が得られれば指揮が可能です。」
「シュウ隊長、今の話は本当か? 」
「はい、中隊長。あの場で私を含め、全員が彼女の指揮下に入ることを了承しました。また、あの場では私よりも上位の指揮官はいませんでした。」
「わかった、それでは当時の状況を説明しろ。生徒会長。」
生徒会長は同時の当時の状況を説明した。
「そうか、もう逃げ場はなかったか。
むりして後退し背後を狙われるリスクよりも第3小隊の火力で敵と対決することを選んだか。」
「はい。」
「シュウは戦闘開始前にどう判断した? 」
「私は同様に後退するより攻めた方が良いと判断しました。
ただ、あの段階では生徒会チームが後退することも可能であったと考えます。
しかし、あえて残って指揮を執ってもらいました。
第3小隊の指揮を執りつつ、生徒会チームを後退させるというのは、私の指揮能力を超えているというのが正直な判断でした。
生徒会チームに情報収集、そして全体の指揮を執ってもらい、その指揮に従って我々第3小隊が攻撃する方が余計なことを考えずに魔力、魔法の制御がしやすいと考えたためです。」
「わかった。取り合えず、今回の戦闘への対応については的確な判断をしたと承認する。
まぁ、結果には何の問題もないんだけどね。
魔族1個師団を殲滅、緑の魔石の回収、社の探索と解放。祠の設置か。また、人類の悲願を進めたことになるのだけれど。
何か第3小隊の個人的な成果で解放されている気がするのよね。
ちょっと考えちゃうのは、このまま軍がシュウたち依存しなきゃいいなぁと思って。」死神中隊長
「それよりも、個人的な戦果ととらえられた場合には、嫉妬の嵐だわね。
足を引っ張る人がでなきゃいいのだけれど。」特攻隊長
「それを防ぐために既成の軍からの独立と権限の不可侵を認めさせたんだけどね。
たかが、紙切れ一枚と思う輩が必ず出るしね。」
「ここはリストランク8位に頑張ってもらいますか。」
「そうね、彼にとっても悪い話ではないし。」
「彼がうまく隠してくれるでしょう。我々を。」
「そのために、シュウたちにはもうひと働きしてもらわなきゃね。にこっ。」
「まぁ、それがシュウ、そして、我々旅団のためなんだから。にこっ。」
「だねぇー。にこっ。」
死神と特攻隊長が阿吽の呼吸で悪だくみを紡いでいく。
何をどうするのか未熟な俺にはさっぱりわからなかったが、巻き込まれるのが確定です。
ターゲットにされた者がこの陰謀から抜けられるはずかないことだけはわかった。
そして、巻き込まれた限りは傍観者やどっち就かずという中途半端な立場をとるこは許さないという笑顔を向けられてしまった。
陰謀の結果、何とか勝ち組の方に入れるだろうか。
敗者側はパンツ一丁で敵のど真ん中に放り出されたり、死神リストに載って本気の解剖後に黒魔法協会の地下19階にあるという死神さんの自室で裸標本にされるのは良い方で、下手を打つと熱した鉄板の上で裸踊りを全軍の前で披露などということになるぞきっと。
そのくらい、今の彼女たちの笑顔には不気味さと破壊力があった。
俺は素直に言われたことをしようと心に誓った。
「ところで、芦高ちゃんはどこに行ったの。まさかついに放し飼い。
そうよねぇ、やっぱり放し飼いが良いわよね。
ここなら一般人に迷惑も掛からないし、オークも食べ放題だし。
私もそれを見込んで芦高さちゃんを召喚したのよ。
漸く私の崇高さが分かったようね。シュウ。」
死神さんの言動は、やっぱり、どこかエリナに似ているなぁ。
思い込みの強さとか。
その思い込みが右斜め45度なので聞いていると楽しいけど。
「さっき、芦高が生きている魔族を10体集めて、ぐるぐる巻きにして、大きな樹の下に吊るしているって言ってたぞ。
どうするシュウ。
芦高が途方に暮れているぞ。」
ああっ、忘れてた。芦高さんへ隠密の仕事を依頼しっぱなしだ。
今行くって伝えてくれる。
「良いけどよう、それより周りのやつらをどうやってまくつもりだ。
エリナなんか絶対に付いてくるぞ。
シュウの金魚の○○だし。
まだ、ペット化した魔族のことを誰にも知られたくないんだろ。」
もうお腹痛くなるしかないか。
「お腹痛いトイレ行くは通用しないぞ。
ヒールされるぞ。
効かなければそれはそれで面倒そうだし。
それの手は止めとけ。」
「ばあちゃんが危篤というのはどうじゃ。
大抵これで休暇が取れると、昔、ダンのやつがいっとったのう。
最後はお前の婆ちゃん何人いるんだとリーナ隊長に蹴飛ばされていたのが懐かしいのう。」
「それでもいいが、逆にすぐにはここに戻ってこれねぇぞ。
それこそエリナが身内の看病は嫁の務めとか言って嬉々としてシュウの実家に乗り込んでくるぞ。
私は長男の嫁よとかって。」
うるさいさん。その通りです。たまには良いこと言うじゃないか。
「それほどでもあるぜ。俺に任せとけ。」
駄指輪スキル其の1、褒めるとすぐその気になり、後で墓穴を掘る発動。
で、どうするうるさいさん。
「シュウの婆ちゃんと同時にエリナの婆ちゃんも危篤にする、いや危篤という誤報を流す。
これならエリナは付いてこれまい。
どうだ、シュウ、俺様のずば抜けた頭脳が考えた両方危篤にしてしまえばついてこれまい作戦は。
完璧だろ。えへん。」
でだれがその誤報を流すの。
「それはシュウに決まっているだろ。さっきもシュウが休暇を取る話の流れだったし。」
エリナに誤報がばれたらどうする?
「シュウが「うっそでーす。エリナ引っかかった、ばっかだなぁ」と言えば、問題なすだ。」
うるさいさんはウソがばれた時点で熔解決定ですな。
「ははん、できるならやってみぃー。結婚指輪だぞ。」
わかっていないな、この間、真の魔王リーナ様がこんなカビくさい指輪なんて新婚さんには似合わないから、新しい結婚指輪兼魔道具を買ってくれたと言ってたぞ。
その時丁度うるさいさんを外してトイレに行った帰りだったので聞いていなかったかもしれないけどな。(うっそうーっ)
「うわーん、シュウ様、二度と誤報を言わせるようなことは言い出しませんので、熔解だけではご勘弁を。お代官様~ぁ。」
ふっ、致し方ない奴。許してやるかわりに年貢は倍じゃからな。
「そんな、家には腹をすかせた図体だけはでかいおばちゃんと、役に立たない鞘、双子の妹がおりますのじゃ。
これ以上、年貢を取られたら。一家全員で首をくくるしかないですのじゃ。
おゆるしくだせぇー。」
えーぃ、首などどこにある。ない首はくくれないだろうが。
「それを言ったら、話が続かなくぞ、シュウ。もう少し先を見通して話を作るスキルを身につけろ。」
駄指輪スキル其の2、お前だけには言われたくないは。
いい加減にしろ。
「で、シュウよ。遊んでいるのはいいが、芦高が待っておるぞ。
かわいそうに泣いておるやもしれんぞ。」
おおそうだった。遊んでいる場合ではなかった。
「ここの開放記念に奥様の手料理を食べたいとおっしゃるのはどうでしょうか。
いつものキャンプ飯では嫌だとわがままを言えば、奥様はすぐに教会本山に行って、門前町にお買い物に行くと存じます。
それ以外の方には芦高さんを迎えにってくるで済む話なのでは。」
おおっ、その手が良い。キャンプ飯に飽きていたし、嘘はないぞ。
さすがメイドさん、俺とエリナのことを良く分かっている。
どこかのくだらない漫才師しかできない駄指輪とは違うなぁ。
よし。
「エリナちゃーん、今日の夕飯にここの開放記念としてエリナちゃんの手料理を食べたいなぁ。」
「あら、どうしたの急に甘えて来て。
うふふふっ。もちろん、いいわよ。
今日の任務はこれで終わりでいいでしょうし。
ここの防衛は第112連隊が引き受けてくれるそうよ。
まぁ、私たちも今日はここに駐留する必要はあるでしようが。
買い物とおいしいものを作るぐらいはかまわないでしょ。
死神中隊長たちがここにベースキャンを急遽作ってくれるみたいだし、調理道具は第112連隊に借りればいいし。
で、何が食べたいの、私の旦那様は。」
「チーズたっぷりの熱々ピッザァ。」
「うふふふ。わかったわ。
買い物に行ってくるね。
魔力溜に魔力を注いで。
ありがと。ではいってきまぁーす。」
「行ってらっしゃい。」
さて、エリナが買い物に行ってる間に芦高さんを回収に行きますか。