10話目 本名と輪廻の会合
「さぁ、次は社ね。」
魔石の発見で顔が紅潮した書記長がこちらを振り返って言った。
「エリナさん、社はどこにありそうなの。」
「あっちの方向に、ここから2kmぐらいのところ。」
「意外と近い所にあるなぁ。」
「さぁ、社を目指して進みましょうか。エリナさんは道案内をお願いね。
副会長は社があるという2kmを中心に探策で敵の別動隊がいないか探って。」
「「わかりました。」」
「今のところ、芦高さんらしきもの以外は引っかかりませんね。
芦高さんは何しているんだろ。
いろいろなところに行って、ある特定の場所に戻ってくるような動きなんだけど。」
「オークを探していると思うけど。黒焦げじゃないやつを集めているのかなぁ。まぁ、なかなか見つからないと思うけど。」
「それにしても妙な動きなんだな。」
「俺たちは芦高さんの食事についてはあまり知らないというか、知りたくないというか。」
「そっ、そっ、そうだね。黒焦げでないオークが集まって、ちゃんと食事ができることを祈るしかできないね。
それ以上の手伝いは難しいというか、見たくないというか。」
何とか副会長の探索をかわしたぞ。
芦高さんが頑張って魔族の生存者をさがして、集めているな。
生きている魔族がわずかでもいればいいだけど。
「シュウは何か矛盾しているよな。魔族を積極的に瞬殺したと思ったら、生き残りは助けようとするなんてな。」うるさいさん
確かに、傍から見ているとそうかもしれないけど。
俺の中では明確に区別できているし、自分では矛盾していると思うことはない。
軍として、種族として、そして個人的にでも俺やエリナ、俺の仲間たちに刃を向ける奴らは全力で倒す。一切、手を抜いたり、情けを掛けるつもりはゴマ粒ほどもない。
だけど、魔族だからという理由だけで抵抗する意思のない者までを殲滅するつもりはないということだ。
これまでの人間と魔族の戦闘の歴史から考えると見逃したことで後から反撃されることもあるかもしれない。
その時は俺の甘さに苦笑しつつ、今度は全力でそいつを葬るだけだ。
「シュウが納得できているなら、別にいいけどな。
まぁ、俺も鬼じゃねぇからシュウが危なくなったら力を貸すぜ。」
えっ、うるさいさん、芦高さんの通訳以外で何か役に立つ自信があるの?
「えっ、俺いつも役に立ってるだろ。
夜、トイレに行くとき寂しくないように話しかけるとか。」
やめて、あれはマジやめて、逆にトイレに行けなくなるから。
「えっ、そうなのか。
全くシュウはビビリだなぁ。」
他に何か役に立つことができなの?
「急にそんなこと言われても、ねぇな。
あっ、暗い夜道で寂しくないように話掛けるのも得意だぞ。
特に怪談話なんて環境的にリアリティーがあって自分でも惚れ惚れするぐらいの出来だぜ。」
それもやめて、夜中のトイレでの話しかけは我慢できるけど、それめて。
「全く、シュウはビビリだなぁ。
しゃぁねぇ、エリナにでもしてやるか。
夜道での怪談話。」
熔かす。もう熔かす。
「わかった。おれが悪かった。ものすごく反省しています。
俺はシュウの通訳としてしばらく頑張るかね。
それが俺の天職だなぁーっ。
シュウ、他にない?。俺が役に立つこと。」
ドツキ漫才ではたかれること?
「どっもーっ、失礼しましたぁ、・・・・違うわい。」
ところでうるさいさんの本名は何なの。
「煩いさん。」
えっ、うるさいさんの本名って、煩いさん。
そのままじゃないか。
「もう、煩いさんにしといてください。
今、本名を知られるとあのお方とかのお方、そのお方にめっちゃ叱られるので。
うるさいさんでいいです。
どうせ通訳ぐらいしか役に立たないし。後は普通のペアの魔道具扱いだし。
どうせこのままでも、すぐ本名ばれそうだしな。
シュウ、俺の本名が知りたければここの周辺の社をすべて教会に書き換えろ。
そうすれば俺の本名を含めて、ほしい情報が手に入ると思うぞ。
解放を急げシュウ。」
本名がわかるとどうなるの。メイドさんとコンビで漫才ができるとか。
「どっもーっ。・・・・・もういい加減にしろ。
じゃなくて、いい加減にしろ。
吹雪婆ちゃんは本名だ。
俺たちの本名を知るということはそう言うことだ。
シュウも体験したろ。あの、極魔法。」
「かび臭い指輪よ。その辺でやめておくのじゃ。妾達の名を知ることもまたこ奴らの試練じゃ。
・・・・・・試練をこ奴らから奪うことは輪廻の会合を狂わすのじゃ。
2000年ぶりに起こるかもしれん輪廻の会合をのう。
会合の接点が狂ったらを戻すことはできん。
妾らの存在が輪廻の会合の接点回数を増やすとは言え。
それでも次までは数百年はかかろうかのう。
別に妾らは良いが。かの方たちに迷惑はかけたくないからのう・・・・・・」
おばちゃん、輪廻の会合と接点て何?
「えっ、なぜ貴様がそれを知っておるのじゃ。
さては、かび臭い指輪が妾が思考の渦に沈んている間にぺらぺら喋ったな。」
「・・・・・・」メイドさん
「・・・・・・」鞘氏
「おばばがブツブツ全部はっきりとシュウに聞こえる声で今話をしていたぞ。
俺じゃないからな。ボケたおばばだからな。輪廻の会合をシュウに話したのは。
もう、俺は知らねぇぞ。」うるさいさん
「はーっ、ボケたボケたと思っていましたが、ここまでとは。
鞘氏さん、吹雪様は老人介護保険にはご加入ですか。
それとも責任もってご家族がご介護をなされますか。」メイドさん
「これまでの経緯から、シュウ殿とエリナ様のご夫婦にご厄介になると思います。」
まじで。おばちゃんの介護? 魔力を注いで、日向に乾しておくってこと?
ペット魔族さんたちはどうなるの? 家賃が払えないから追い出し?
「ああっ、あの空間はメイドのもんだぞ。もともと。
おばばは入り口を繋いでいるだけだ。」
「あっ、それも言ってはいけないことです。
もう、ここまでに致しましょう。
これ以上、ここでご主人様に知られるとどうなるかわかりません。
ここでこうしてこのメンバーで話をしていることさえ、奇跡の積み重ねなんですからね。」
うるさいさんが言いかけたことをすべて自分で答えを探せということですか。
それが試練だと。
2000年ぶりの輪廻の会合のために必要だと?
「そういうことでございます。
私たちからはこれ以上申し上げることはできません。
ただ、ご主人様と奥様が歩んでいる道は、奇跡的にですが、輪廻の会合に向けて進んでおります。
そのまま、自分たちの信じる道を進まれるのがよろしいでしょう。
それで狂うようならば今回の輪廻の会合自体が初めから無理だったということでございます。
かび臭い奴とぼけたおばばのたわごとに惑わされることなく、ご自分たちで考え、信じる道をお進みください。」
もうひとつだけ、教えて。輪廻の会合が起きた場合はどうなるの?
「それも今のところお二人でお探しください。
ただし、輪廻の会合が起きなかった場合は、もうここまで知られてしまった以上は、お話ししてもかまわないでしょう。」
輪廻の会合が起こらなかったらどうなるの?