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2話目 大防衛戦の傷跡

190311 誤字を修正しました。

「ねぇ、起きて。ねぇ、ちょっと起きてよ。」


エリナに起こされたようだ。もう交代の時間かな。


「もう見張りの交代? 」


「もう少し大丈夫なんだけど、何かざわざわするの。」


「探知魔法を使っても何もいないのよね。

遠くに獣の気配がするだけで特に異常があるわけじゃないのだけれど。

この近くでざわざわと、何か背中がぞーっとするような感覚があるの。

ちょっと寒気がするし。」


「そうなんだ。俺は特になにも感じないけど。

まぁ、見張りを代わるのでエリナは寝なよ。

何かあったら起こすから。


あっ、寝る前にできれば転写魔法をかけてくれるかな。

検知とエアカーテン、烈風、ウィンドカッターがあれば魔物が来ても楽に倒せるから。」


「ほんとはこの剣だけでも大丈夫だけども、エリナを確実に守りたいからね。」


「ありがとう。

じゃあ、転写魔法をかけるわね。それ転写ー。


見張りを交代ね。

でお休みなさい。」


「あっ、オオカミに変身してもいいけど、責任は取ってもらうからね。

あと、周りに魔物がいないか確認してからにしてね。

じゃ、おやすみ。」


「おおおおっ、やすみ。」


エリナはそう言って、軽くウィンクすると毛布にくるまって横になった。


寝る前に何ということをのたまわるのですか、美少女様は。

未熟な俺は責任が取れないので、今日のところは寝顔を堪能するだけで満足です。


焚火を維持するために小枝を火にくべながら、今日の出来事を振り返っていると。


「せっかくのチャンスなのにのう。

何をぐずぐずしておるのじゃろ。

オオカミになっても良いとエリナが言っておるのだから、ほれ、早くせんか。

わぉーんと言って理性を飛ばせばみな幸せじゃ。」


「お嬢様。何度も申し上げますが、シュウ殿はあのダンのご子息ですよ。

お嬢様の期待するような甲斐性があるわけないじゃないですか。」


「わからんぞ。こう開放的な場所で2人だけ。

何があっても不思議ではなかろうに。


妾はエリナの方が先に動くと読んで、先ほどまで、じっと観察しておったのじゃが。

あやつめシュウの寝顔を見つめて、にやけておっただけじゃった。つまらんのう。」


「お嬢様。通りで夜遊びにいらっしゃらないわけですな。

そのような展開をご期待されていらっしゃったのですね。

私はそこまでの読みがございませんでした。不徳の致すところでございます。」


こいつら何を俺たちに期待していたんだ。

さっき、エリナが感じたいやな気配はおばちゃんの期待に満ちた鼻息だったんだ。

寒気は期待のあまり漏れ出た冷気ということだろう。


俺は黙って、そばの木に立てかけてあったおばちゃんたちを烈風で山の向こうに思いっきり飛ばすのであった。

寝たから魔力全快だし。


翌朝、朝日が昇りだすと同時にエリナはもぞもぞして、起きてきた。

俺の方を見て、一言。


「この甲斐性なし。

まっ、そう言う素朴さが大好き。」


と言って、向こうを向いてしまった。


告白されてしまったのか。美少女様から。

俺、必ず甲斐性スキルを取得します。すぐ、取得します。

後で鞘氏を呼び戻して、どうしたら甲斐性のスキルを習得できるかおばちゃんに相談しようと考えた。


後から思えばなぜこの時、相談相手をおばちゃんにしようと思ったのか。

よっぽど冷静さを欠いていたんだと思う。反省している。


昨日のスープを温めなおし、固焼きパンを浸して、朝食を済ます。

おばちゃんたちはエリナが小枝を拾いに行ったスキに戻ってきた。

俺に飛ばされた後、山向こうの里で朝まで飛び回って、自由を堪能していたらしい。


ただ、里の人たちは誰も起きておらず、つまらなかったとのこと。


「これシュウよ。妾達にも朝食を頼む。」


しょうがないので、おばちゃんたちに魔力を注ぐ。

お腹がいっぱいになったおばちゃんはまた寝てしまった。

若くないんだから徹夜なんて無理するなよ。


今日も魔物を探しながら、南の町まで移動だ。


やっぱり、魔物いませんね。おばちゃんも寝てるし。

昼前に次の町に着いちゃいました。

門のところで、兵士にこの町での滞在理由を尋ねられます。


「俺はもっと南の町に武道の修行に行くつもりです。

エリナ、彼女は見習い魔法術士で職校の課題のために魔物を探しています。

行く方向が同じなので、一緒に旅しています。」


「そうか、今日はここに泊まりか? それとも、昼食後にすぐ出発するのか? 」


「エリナどうしよう。出発すると確実にまた野宿だ。」


「2日連続の野宿は避けたいわね。

この町の周辺で魔物を探して、夕方に戻ってこようか。」


「俺はそれでいいよ。

ということで兵士さん、この町に滞在します。」


「了解した。では入っていいぞ。

そうだ、魔物はこの辺にはほとんどいないが、あの丘の向こうの方が出やすいぞ。

見習い魔法術士であれば大丈夫かとは思うが気を付けてな。」


「ありがとう」「ありがとう」


俺たちは門を通って町中に入った。


「宿は教会かな。見習い魔法術士はタダだし、おれも聖戦士職校の受験生だから、500バートで泊まれるし。」

( * 1バート=1円だって)


「私も教会でいいわ。」


各町の教会は付属施設とて宿坊を持ち、教会関係者やお金のあまりない旅人のために宿を提供していた。

ただし、教会宿坊への宿泊は宿賃が安い代わりに奉仕をする必要があった。


奉仕は朝晩2度の礼拝と魔力の提供である。

魔力溜の容器に自分の魔力を注いで提供することになる。

寝る直前に魔力提供を行うが、これは魔力をすべて提供しても一晩寝れば再び全快するためである。

魔力を空にしても後は寝るだけということだ。


教会の宿坊に宿泊となればおばちゃんたちに教会内でおとなしくするように、後で釘を刺しておかなきゃ。


この町の教会も他と同じように町はずれに立っていた。

エリナは先日にここに泊まったようで、勝手は知っているようだ。

この教会の司祭さんに事情を話して、宿泊の許可をもらった。


司祭さんは俺のことも知っていたようである。


「モニカ様のご子息ですね。久しぶりです。

モニカ様とダン様はお健やかにお過ごしでしょうか。」


「はい。元気過ぎでしょうか。毎日、笑いが絶えません。」


「それは上々。シュウ君は聖戦士見習いの試験に行くのでしょうか。」


「はい。少し武者修行したから試験を受けます。」


「そうですか。お父様の後を継ぎますか。」


「父さんは初めは反対してました。

でも、自分にできることを精いっぱいやることがお前が生まれてきた意味だといつも言ってましたので、俺に今やれることは聖戦士になることだと話をしました。


そうしたら、仕方ない奴、とにかくがんばれと言われました。

かなり寂しそうにはしてましたが。」


「そうですね。ご両親はあの大防御戦を生き抜かれました。

その中でいろいろな事があったのでしょう。

私も魔法道士の末席ではありましたが、あの戦いを経験しました。

ご両親ほどではありませんが、地獄の一端を見ました。」


「司祭様もあの戦いに参加したのですか。」


「はい。あの後、もうこれ以上は戦えないと思いまして、軍を引退し、こうして田舎の教会を守っています。

ご両親もあの後に軍を引退され、私と同じように教会を維持するお仕事をされております。」


「親も今は穏やかに過ごしているように思います。

俺は詳しくはわかりませんが、時々2人で真剣に何か話し合っています。」


「いろいろ思うことがおありなのでしょう。

モニカ様は若くして参議まで上り詰め、3精霊に愛された白色魔法尊師でありました。


人民が待ち焦がれた<光の公女>かと当時の教会内でもささやかれたものです。」


「母があの光の公女かもとの噂があったんですか。知りませんでした。」


「お父様も若くして、聖戦士の尊師位でございました。

その後お2人はご婚姻され、幸せな門出をというところであの大戦が起こりました。」


「そうですか。」


「お隣の教会なので、教会の地域協議会でモニカ様とは度々お話をさせていただきますが、大戦でお亡くなりになりましたお知り合いの悔しさを思うと眠れないことが時々あるとおっしゃっておりました。」


「今でも母はあの大戦に心を捕らわれているのですね。」


「それでも、ご両親はあなた方を懸命に育てられています。

次の世代にはもっと明るく安心して暮していけることを願いながら。私もそうであってほしいと願っています。」


「はい。家の中は笑いでいっぱいでした。感謝しています。」


「エリナ様のご両親も同様です。

ご両親とも大戦の最前線で戦われておりました。


やはりご両親がご成婚された直後に大戦が起こりました。

当時は言葉にできないぐらいのご苦労をされたと思います。

今は教会軍のご要職を務められております。」


「はい。私はそのような両親の志を引き継ぎ、人々の平穏を築きたいと思い、見習い魔法術士をしております。」


「人々の平穏ですか。

決して容易に手に入るものではありません。

先の大戦であれだけ犠牲を払いながら、ますます人類の生活領域は狭まっております。

私の力不足も其の一因となっております。」


「当時の詳しいことは俺にはわからないが、当時の皆さんがあらゆるものを犠牲にして、戦い、魔族の浸食を食い止めたおかげで俺たちが今生きていけると思っています。

次は俺たちの番です。人々の平穏を守りたいと思っています。」


「私も両親や大戦で戦われた皆様の築いたものや守ったものを失わないように戦いたいと思っています。」


「ふふっ。苦労したかいがありましたね。

若い志が芽吹いてきましたね。

それでも、命の安売りは厳禁です。

最後の最後まで、生き抜くことを心掛けてください。

それが過去の大戦で死にきれなかった私の若者へのお願いです。」


「はい、心に刻みます。」

「ありがとうございます。

強く生きていきます。ダーリンと。」


「おやおや、うらやましいですね。私はこの年で独身なんですよ。

いくら仲が良くても、今夜は男女別々の宿坊で寝ていただきますね。」


俺は大胆なエリナの宣言に言葉を失った。

エリナは俺の方を見つめ、にこっと微笑むのであった。

俺の将来が決まった。いやじゃないけど。


「お2人は本日はこれからどうされますか。

まだ、お昼前ですね。当教会にてのご奉仕にもまだお早いと思いますが。」


「これから魔物を探しに向こうの丘まで行くつもりです。」


「そうですか、魔物討伐頑張ってください。

無理だと思ったら引くことも戦い方の一つです。

名誉より、生きることを最優先にしてください.」


「わかりました。」

「ありがとうございます。夕飯までには戻ります。」


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