3話目 正解はどれ?
どうしたんだ。こんなになってしまって。
あの気丈な生徒会長までがやつれて膝をついているじゃないか。
とりあえず、皆を旅団ベースキャンプのリビングに連れて行き、漸く形が整いつつあるリビングの椅子に生徒会チームの3人を座らせた。
俺とエリナ、そして教会本山に帰る直前だったソニアが互いの顔を見合わせて、訳が分からないというように首を振っている。
「リンカさん、生徒会チームは全員どうしてこんな状態になったんですか。」
「その、昨日の生徒会の新歓が大もめで、それを静めようとした生徒会幹部のこの3人が朝まで奔走していの。
大騒ぎのまま朝になり、さすがに騒ぐのに疲れたのと職校職員の生徒たちへの叱咤、騒ぎを起こした中心人物たちの拘束により、漸く騒ぎが収まった形なの。
片付け等は騒ぎに加わらず寮に帰宅して、朝、登校してきた生徒がやってくれることになって、こうして3人を落ち着いて休めるここに連れてきたの。
職校は今日は臨時休校になったの。」
「状況はわかりました。
とりあえず、皆さん休んでください。
部屋で少し睡眠をとった方が良いと思います。」
「私たちは大丈夫よね、リンダ、シュリ。」
「なんかもめ始めて、騒ぎが大きくなっる前に寮に帰ったからな。」
「・・・・・私も、疲れてないよ。でも生徒会長たちがかわいそう。」
「わかりました、皆は生徒会長と書記長を部屋に運んもらえますか。
俺は副会長をたこ部屋に放り込んできます。」
ちなみに社を解放した日に与えられた3段ベッドと言うか本棚と言うかは、様子を見に来た第122連隊長があまりのむごさに同情し、部隊の土魔法術士を派遣してくれて男倉庫を外側に拡張し、何とか3畳ほどの個室を3部屋確保することが出来た。
今度は逆に俺たちの方が連隊のキャンプ施設よりも狭くても個室持ちと言うことで贅沢になってしまった。
まぁ、半世紀ぶりの社の解放者だ、それぐらい許されるだろうとのありがたいお言葉を連隊長よりいただいた。
もう精も根も使い果たしてぐったりしている副会長をまだ一度も使っていない自室のベッドに放り込み、俺は今回の顛末を聞くためにリビングに急ぎ戻った。
そこには、シュリさんが一人取り残されていた。
リンダさんとリンカさんのWリンのコンビは生徒会長と書記長をベッドに放り込みに行ったようだ。
エリナは軽食とお茶の準備のため食堂に行っているようだ。
この部屋には俺とシュリさん。
俺とシュリさんはリビングの椅子に座って、
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
にらめっこをしていた。
「シュウ、ここは男のお前が何か話しかけるべきとゃないのか。見つめ合っていたも何も解決せんぞ。」
「いえ、ここは旦那様の威厳を示すところです。
相手がお話になるまで凛として構えておくべきかと存じます。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・シュウ君、おはよう。どう?・・・・・・・・・・」
「おはようです。シュリさん。・・・・・・・・・・」
んっ。おはようはいいよ、わかるよ。朝だし。
今日は、いや、数日ぶりに会うし。挨拶は同じ中隊の仲間として大事だ。
しかし、その「どう」とは何がどうなんだ。
俺に対しての「どう」だから、ここでの日常の生活についてのどうなのか。
或いはまだここの社を攻略して間もないので魔族が攻めて来ていないかどうなのか。
いやいや、ここのキャンプ飯についてのどうなのかもしれない。
いや待てよ、まさか俺とエリナが結果的にではあるがここで同居していることへのどうなのかを聞きたいのか。
いや違うだろう、まさか、エリナとの夜の生活について、いやいやシュリ先輩がそんなことに興味があるわけない。
きっと俺が退屈で夜はどうしているのか聞きたいに違いない。
ちょっとまったー、先輩もお年頃だ。男女のそういう睦事が気になるのも当然だ。
やっぱり俺とエリナの夜の過ごし方、特に一緒に居てどう過ごしているのか聞きたいのか。
そこは前提として、これはありえんかもしれんが、シュリ先輩がむっつりさんの場合、自分も混ぜてほしいがどうかと聞いているのかもしれない。
そこまで来るとまさか、一緒じゃなく別の部屋に俺に囲われてもいいかどうだろうかという、俺にとっては危険だがスリリングな展開をもたらそうとしているのかもしれんな。
一人で妄想していて表情が白黒代わるものだからシュリさんがドン引きしていた。
ただ、座っているだけで相手をドン引きさせる俺ってG様級?
「すいません。どの「どう? 」か思い悩んでいました。
聞きたい「どう? 」を具体的に言うと何についてでしょうか。」
「・・・・・それを女の私の口から言わせるつもりなの、シュウ君・・・・・」
ええっ、なんだ、なんだ。ますますわからん。
女と言うからには先ほどの妄想の女がらみのやつは一緒に混ぜてほしいと、愛〇を囲うだが。
混ぜてほしいとすればエリナがいないと聞けない訳だし。
エリナがいないときにこっそり聞いてきて、女性の口からはっきりと言えないとすればやはり、あれだよな。あれしかないじゃないか。
どうする、俺。
シュリさんの様なおとなしめのメガネっ子も嫌いじゃない。
エリナのようにぐいぐい来るタイプとはまた違った良さがあるのも確かだ。
でもまだ、結婚式を挙げて一週間もたたないのに〇人を囲ってますで、良いのか。
特に真の魔王様にでもばれた暁には俺とシュリさんは磔、火あぶりコースだな。
ここは相手を傷つけないように丁寧にお断りするのが正解だろう。ちょっと惜しい気もするが。
「シュリさん、せっかくのあなたの思いは諸事情を勘案して、誠に残念ではございますが今回はお断りさせていただきます。
きっとあなたには俺よりももっとふさわしい素晴らしい男性が現れますよ。」
「・・・・・、・・・・・、??????、何のこと。」
違ったのか、じゃ、あっちか。
混ぜろの方か? それもなんだ。
夜はまだ別々だよ、一人前になるまでは。
これも丁寧に断った方が良いだろう。
「先ほどは失礼しました。今度はわかりました。
せっかくですが、俺もエリナも恥ずかしいので、その前に俺とエリナは式は強制的にあげさせられた格好ですが、まぁ、そこは後悔はないんですが、まだ一人前にもなっていないので夜は今まで通り別々なんですよ。
だからね、ほら、無理なんです。
ご理解ください。」
「・・・・・、・・・・・、??????、何のこと。」
これも違うのかぁ。では、一体。
「・・・・・、・・・・・、最近、新人聖戦士職校生と話した? エリナさんも一緒に。」
「えっ、はいい? いえ、全然、近寄ることすらできていません。
寮ですらペーテルとボネガは見習い魔法術士に襲撃されていますから。
俺は隣の部屋なんですが、 鍵を厳重にかけて間違って侵入されないようにしています。
夜中に男に襲われるなんて想像するだけで恐ろしい。
魔族との戦闘の方がよっぽど恐怖を感じませんよ。
その上、ここ数日はここに詰めていますしね。
俺の重要な仕事兼アルバイトの魔力溜の補充は魔力溜の容器が21時に転移魔法陣で送られてくるので、それをエリナに手伝ってもらって充填しています。
食料や日用品などはソニアが毎日持ってきてくれます。
午前中の講義や訓練は旅団の師匠たちが朝、毎日交代でやって来て、半日指導してくれます。
今のところここから教会本山に戻る理由がないんですよね。」
「・・・・・戻れない本当の理由は?・・・・・」
「真の魔王にはめられた結婚式話が広まっているようで、恥ずかしくて職校や寮に帰れない。しくしく。」
「・・・・・シュウがここに居るということは、エリナさんもここにいるんですよね。
また、あのオオカミさんたちの騒動でしばらく二人とも新人聖戦士職校生と会っていないと。」
「その通りです。以前、紹介してほしいと言ってましたけど、あの調子じゃ近寄ることすらできなくて申し訳ないです。」
「・・・ボルガ君はなんで告白タイムであんなこと言ったんだろ? ・・・」
「えっ、ポルカがなんかやらかしたの? 」