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14話目 あーんしてもらってもいい?

新しい教会で俺たちは見張り番をしながら、中隊長たちの到着を待った。


日もだいぶ傾き、この教会の影もほぼ伸び切ったころ、中隊長たちが漸く到着した。

スピードアップが全員に使えないためだ。

第2小隊も一緒らしい。


もう一度魔族の別動隊がいないかを確認して、俺たちは中隊長たちに声をかけた。


「おーいっ。こっちだよーっ。」

「おにいちゃーん。」

すっかり俺の妹として、定着したソニア。

最強の妹だ。

年は俺の10倍ぐらい上らしいが。


漸く旅団の全員が合流できた時には日は完全に落ちていた。

特攻隊長が新しい教会の隅に落ちていた魔法ランプに火を入れた。

いくつか魔法ランプに火を入れて漸く、教会内が明るくなった。


死神中隊長たちを待つ間にこの社を探検してみた。


まあ人類が住むところと大きな違いはなかったが、軍が一時駐留したこともあって、余計な飾りや生活のにおいがするものはほとんどなかった。


調理器具や食料なども残されていなかったので、本当に一時的に駐留するキャンプ地のようだった。


人類の場合は最前線の教会でもかなり生活臭がするものだが、魔族は社を転移装置と防衛施設に絞った運用をしているのかもしれない。


明かりが灯るとほどなく中隊長より、全員に集合が掛かった。


「本日、第3小隊の活躍により、半世紀ぶりに新しい教会を奪取した。

おそらく、例の大防衛戦時に魔族に奪われた教会と思われるのだが、ここの教会よりもさらに第2軍団の最前線は押し上げており、ここに第2軍団が何ら手当をしないのはおかしいので、もしかすると魔族に新設された社かもしれない。

それは後で調査する。


いずれにせよ、ここが人類の生活圏に一番近い敵の社であり、ここを奪取したことは、人類の生存領域を広げたということで間違いないと思う。


これは人類の反撃の一歩と位置付けたい。

我々の旅団設立の命令書により、まあ、各軍団との合意書のことだが、我が第108独立旅団がここの教会と周辺地域を運営することになる。

まだ、人も物も何もない状態であるが、ここを人類繁栄の足掛かりにしたい。


実質的な運営は命令書に従って第2軍団に依頼し、我々は運営の方向性を示すことを予定している。


どうせ第2軍団の支配教会はベース基地と最前線基地の2つしかないくせに、軍組織は他の軍団と同じなのだから所属の文官などは暇を持て余しているに違いない。


既にここの施設を予備調査した第4軍団事務総長のリーナ様より第2軍団の我が愛しのリストランク8位のジュラ第2軍団事務総長に情報提供があり、至急、ここの教会の運営を援助するようにとの助言があったと第2軍団の最前線基地経由で連絡を受けている。


まもなく援助隊がここに転移してくるものと考える。

それまでは第1小隊は今後の行動計画の作成、第2小隊とリンカチームは警戒担当、第3小隊と生徒会チームは我々中隊の分だけで良いので、キャンプ地の設営と夕食の準備に当たれ。

キャンプ用具はすべて回収し、もって来た。


以上、解散。任務に当たれ。


特に夕飯の用意は素早くな。2食続けての携帯飯は勘弁してくれ。

せっかく人類の記念すべき半世紀ぶりの戦勝の日だというのにな。」


俺たちは互いに言葉を交わす暇もなく、キャンプの準備に入った。


キャンプ設営には土魔法術士が必要なので、第2小隊からソニアと卒業したいチームからリンカ入り、代わりに見張り番が得意な風魔法術士である副会長が第2小隊と合流した。


そして俺とエリナ、生徒会長が料理当番となった。

メニューは保存食の固焼きパン、干し肉と野菜のシチューができる料理の精一杯とのエリナの意見から、エリナの指示で料理をすることになった。


さぁ、ニンジン切るぞと包丁を握った瞬間に、後ろの転移魔法陣が光り、1個中隊ほどの軍人が転移魔法陣にぎゅうぎゅう詰めになって転移してきた。


転移してきた中隊長らしき人が転移魔法陣の反対側にいた死神さんに向かって挨拶を始めた。


「第122連隊第1大隊第2中隊長です。ただいま到着しました。


本日から第122連隊が第108独立旅団の運営のお手伝いします。

明日からもう1個連隊がこの地域の防衛要員として配属される予定です。

今のところ、ここの運営補助は第12師団が交代で行うことを第2軍団本部は考えているようです。


これより我々の連隊が中隊単位で転移してきますのでよろしくお願いします。

それとですね、我々も仮のキャンプ地を設営したいのですが、場所の指示をお願いします。


また、警戒も我々が行いますので、第108独立旅団の方は休憩に入ってください。」


「ありがとうございます。キャンプ地の設営は第3小隊から我々の仮のキャンプ地の場所を聞いて、それ以外の場所を使い勝手のいいように整備してください。そこはお任せします。

また、見張り番は第2小隊から引き継ぎをお願いします。」


「了解です。


本日は本当にありがとうございます。

貴旅団には半世紀ぶりに人類の生存地を奪回していただきました。

その地をはじめに警備できるとは嬉しい限りです。

よろしくお願い致します。


あと、第3小隊はどちらにおいてでしょうか。

職校長よりの伝言と職校寮の食堂より夕飯を貴旅団と我々連隊の分を預かっています。

スープは温めて食べるようにとのことです。」


「第3小隊はあちらです。」死神さんが俺たちを指さして言った。


このやり取りの間にも転移魔法陣は断続的に光り、別の中隊が現れた。

現れた中隊は先に出てきた中隊の隊員に引き連れられて、外に整然と移動していった。


誰もが誇り高い表情をしており、我々旅団への敬意の念をもってこちらの方に目礼を行っていた。


先の中隊長がこちらによってきた。


「職校長より伝言です。


"無理をするな。馬鹿者。生き残ることを最優先としろ。

しかし、今日の君たちの働きには本当に感謝する。生きているうちに新しい教会がみられるとは思ってもいなかった。

大福をたくさん用意して、待っている。貴官らの帰還を心より待つ。"


とのことです。」


職校長ってそんなに年だっけか、もうすぐ見えない川を渡るほど。

と思い隣のエリナを見たら、大福になっていた。


「ど、ど、どうしたその大福顔は。何か気に入らないことがあったの? 」

「だって新婚の初めての夕食よ。私の手料理を食べてほしかったの。

全く、気が利かないわね職校長も。もう先が長くないかもね。」


か、かなりお怒りの様です。このままでは職校長を呪い殺す勢いです。なんとかフォローせねば。


「せっかくの気遣いだからね。エリナの手料理は時々ごちそうになっているし。

今日は急なキャンプ地の変更で碌な材料もないので、エリナの腕が存分に振るえないよ。」


「そんなことないもん。どんな材料でもシュウにおいしく食べてもらえるように料理できるもん。」

しまったーっ。幼児化だ。これが一番厄介だ。どうフォローしようか。


「でも料理をすると皆に配膳もしなくちゃいけなくなるから、エリナにあーんして食べさせてもらえなくなるなぁ」ちら。

「そ、そっ、そうね。新婚さんだものあーんは大事よね。

シュウ、わかったわ。食堂の食事をいただきましょう。」


「ほんとに皆の前であーんしてもらうのですか。私は構いませんが。第1小隊のお姉さん方がどうおっしゃるか心配ですわ。」


生徒会長は憂い顔をしつつ、もらったスープを鍋ごと炎属性魔法で温め始めた。


その日、どこから出してきたか不明だが、やけ酒をあおるアラサー二人組とその酒のご相伴にちゃっかり預かる熊さんが夜遅くまで騒ぐのを月だけが見ていた。


特攻隊長と死神さん、熊さんの組み合わせに、特に夜は怖くて誰も近づけないもんね。


次から新章が始まります。


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