12話目 遂に出た真の魔王リーナの謀略 さすがに年季が違うぜ編
埒が明かないので、俺は背中の毛を逆立てているエリナにゃんこちゃんに祠を強引に持たせて、襟首をもって、外に出た。
ほんとは首を咥えて大事に運びたいけどちょっと無理。
ビオラさんは魔力溜施設長に襟首を押さえられて、俺たちを追いかけられないようにされていた。
あの勢いじゃ、芦高さんの待つ向こうの転移魔法陣まで付いてきそうな、いや、エリナとずっと言い争いをしていそうな気がした。
「エリナ、急がないと芦高さんがすねちゃうよ。」
「ごめん、どうしてもあの胸を見ると超イラっと来て、自分でも抑えが効かないの。なんでかな。」
「天敵だから? 」
「その通りよ。きっと。前世でも戦ったような気がするもの。大事なものをかけて。」
マジか。2人の前世で何があった。
「さぁ、急ごう。芦高さんが待っているし、何よりも早くあの転移魔法陣を人類側のものにしなゃね。」
「そうだわ、あんな胸だけあんぽんたんねぇちゃんにかまっている暇はなかったはずなのに。ごめんね、シュウ。」
「いいよ、それより、祠を持って行った後は祭壇に飾るだけでいいんだよね。」
「・・・・・・・」冷や汗のエリナ
「いいんだよね・・・・」ちと不安
「・・・・・・・」右斜め上45度視線のエリナが時々見せるポーズ、両手は腰だぞ
「まさか・・・・・・・」かなり不安
「ごめん、ここまでしか講義で教わってないわ。
最後に何か呪文があったはずなの。
ごめんね、勉強不足で。」
「気にしなくていいよ。まさかこんなに早く呪文が必要になるなんて想像できなかったし。」
「そうなのよ、こんなに早く将官級の魔族を倒せるなんてね。
再来年の暮れはきっと静かなド田舎の教会で二人きりで、芦高さんもペット枠で一緒に連れてってもいいけど、年を越すのね。」
「えっ、田舎の教会で年を越すの? 旅行に行くの一緒に? 」
「何を言っているのシュウ。
この調子で戦っていけば魔族の将官級残り3体の討伐なんて、あと半年もかからないと思うの。
そうすれば堂々と軍を引退し、悲願の年金生活に入れるわ。
何もしないのも暇だから、ド田舎の教会を守っていきましようね。
何ならちょっと危険な気もするけど今日手に入れた教会でも良いわ。
畑も作ろうね。
ヤギやヒツジ、ニワトリを飼うのも良いわね。」
「15歳で年金生活ですか。ちょっと暇すぎないかなぁ。」
「何を言っているの昼間はのんびりしていもいいけど、夜は馬車馬のように働くのよ。」
「えっ。夜? 」
「私一人っ子だから、いっぱい子供が欲しいの。芦高さんという子守もいるし。
当分寝ないで頑張りましようね。」
やべーぇ、魔族は倒すのはいいけど、佐官級までにしておかないと、魔族の前にエリナの野望にやられてしまいそうだ。
ここで話題を変えないと。近い将来は干からびそうだ。
「おほんっ。エリナ、呪文の方ははどうする。
誰が知っていそうな人に心当たりはない?
ちなみに俺はいないぞ。
知り合いのほとんどがこの旅団の人か新人聖戦士見習いだからな。」
「ちょっと待って。
うーん、ベテラン魔法術士ですぐ来てくれそうな人ねぇ。
あっ、いたわ。あまり深く説明しなくても飛んできてくれる人が。」
「そんな、便利屋さんに知り合いがいたのか。
エリナ。今度俺にも紹介してくれ。」
「もちろん、いいわよ。
何ならたまには泊りに来てもらってもいいぐらいよ。あなたさえよければ。」
「そんな気さくで、フレンドリーな人なのか。
是非、お友達になりたい。」
「友達なんてより、もっと親密な、えっと、親戚縁者としてお付き合いを望んでいるわ、きっと。」
そんなに親しい頼りになる友人というか、知り合いがいたのかエリナ。
それならもっと早く紹介してくれよ。
あっ、わかった。すごい美人でナイスバディーのため、俺がそっちになびくと思ったんだろ、エリナ。俺はそんな浮気者じゃないぞ。
でも、超かわいいよ、エリナ。
後から考えるとここで気付くべきだったのだ。
この時点で俺、乙だったのだ。
「それじゃ、ちょっと呼んでくるので、すぐ出発できるように転移魔法陣施設に先に行って魔力溜16基に充填しておいてくれないかなぁ。」
「了解。」
俺は先に転移魔法陣施設に行き、空の魔力溜16基に魔力を充填し、施設の待合室でエリナの帰りを待っていた。
どんな人を連れてくるのかな。
いつもエリナと一緒にいるけど、そんな知り合いがいたとは初めて聞いたな。
俺とも仲良くしてくれればいいけどな。
15分ぐらい待ったら、エリナがその知り合いを連れてやって来た。
連れてきた知り合いとは・・・・・、魔王様(エリナの母)でした。
エリナが魔王様を召喚してしまいました。
死神さんの芦高さん召喚なんて小さい小さい。
エリナは将来、完全に黒魔法協会の召喚魔法担当だな。
魔王を召喚できるなんてエリナしかいないよ。うん。エリナだけだよ。
まぁねぇ。確かにエリナの言う通りの人でした。
・ ベテラン魔法術士ですぐ来てくれそうな魔王様。
・ あまり深く説明しなくても飛んできてくれる魔王様
・ たまには泊りに来てもらってもいい魔王様
・ 友達なんてよりもっと親密な、義母としてお付き合いを望む魔王様
「シュウ君、お久しぶりねぇ。入隊式以来かしら。エリナと仲良くしてる。
孫はいつ生まれるの。もう、おばあちゃんと呼ばれる覚悟はできたわ。
おじいちゃんはまだのようだけど。うふふっ。食べてもいい? 」
「お母様ダメーっ。私が食べるの。
もう、油断も隙も無いんだから。」
俺、魔王に食べられるの。やばいぞ。
「まぁ、改めてゆっくり話をするとして、今はその祠をちゃんとしないとね。
まずは現地に跳びましょうか。」
俺たち3人は例の社に戻った。
「芦高さん、遅くなってごめんねぇー。
シュウがおっぱいに襲われて、窒息死そうになったのを助けるので時間が掛かっちゃった。
敵は来なかったようね。安心したわ。」
芦高さん、エリナの言い訳は微妙に31%ほど説明がずれているけど、概ね合っているからね。
「きゅび、きゅぴ、きゅぴ」
「ふふふっ、ごめんごめん。寂しかったのね。
ちゃんと帰って来たから怒んないでね。」
「これが例の芦高さんかぁ。立派なクモね、頭もよさそうだし。
エリナとシュウ君をよろしくね。」
「こらーっ、芦高、ちゃんと挨拶しろ。こいつがほんとの魔王だぞ。
あの特攻隊長のカロラなんてこの真の魔王様と比べたら、ゴブリンみたいなもんだぞ。」通訳兼うるさいさん
「きゅびび、きゃびび。」
「ごめんなさい、たべないで、魔王の王様だって。」通訳さん
「なんかビビっているようね。怖くないからね、
私はエリナの母よ。これからもよろしくね。」
「ぴ、びびびゅぴ、きゅぴ、びゅき。」
「えっ、エリナさんが魔王の王様の子供だって言うことは、エリナ様は魔王の王女様じゃないか。
これまでのご無礼をごめんなさい。
二度となれなれしくしないので、食べないでだったて。」通訳さん
なんか話がややこしくなって来たので、話をぶった切ろう。
「そろそろ、呪文をお願いします。」
と言って俺は持ってきた祠を祭壇に設置した。
「これが新しい祠ね。」
そう言った魔王様はその後にぶつぶつつぶやいていた。
そしてわずかに祠が光ったように見えた。
後から考えるとここで本気で気付くべきだった。
祠が光った意味を。
俺、乙に導く光の意味を。
「今、準備が整ったわ。この社を魔族から開放したのはエリナとシュウ君だから、2人で呪文を唱えなさい。
私の言うことを復唱してね。間違えちゃ駄目よ。
正確にね。
呪文とともに祠に向かって魔力を込めるようにするのよ。
いいわね。
2人とも覚悟は良い。後戻りはできないわよ。
特にシュウ君、覚悟は良いわね?」
「「はい、もとよりそのつもりで、お互いに今まで努力してきました。」」
「それでは行くわよ。」
「病める時も健やかなる時も、はい、」
「「病める時も健やかなる時も。」」
「富める時も貧しき時も、はい。」
「「富める時も貧しき時も。」」
「お互いを信じ、支え合い、永遠の愛をこの祠に誓います。はい、」
「「お互いを信じ、支え合い、永遠の愛をこの祠に誓います。」」
なぜか俺の背中にひや汗が
「新郎、第108独立旅団第3小隊隊長、シュウ、ここはシュウ君だけね。」
「新郎、第108独立旅団第3小隊隊長、シュウ」
何か額からも大量の冷や汗が。
「新婦、第108独立旅団第3小隊隊員、エリナ、ここはエリナだけね。」
「新婦、第108独立旅団第3小隊隊員、エリナ。」
なぜかエリナは満面の笑顔。
「これで二人は正式な教会の祠の前で永遠の愛を誓い合った夫婦になりました。
おめでとう、エリナ。
食べてしまいたいほど大好きなシュウ君とついに夫婦になれたね。良かったわ。
シュウ君、エリナのことを末永くよろしくね。
エリナもだよ。」
「もちろん。お母様、お母様に頼んで良かったわ。」
あのー。何をお願いしにさっきは出掛けておられたんでしょうか、魔王の王女様。
「祠の呪文はどうすればいいんですか? 」
「ああっ、あれね。
この結婚式が始まる前に私が祠を開放しておいたわ。ちょっと光ったでしょ。
結婚の誓いを述べるのに祠が閉じたままじゃ、正式な結婚式にならないからね。
というわけで、2人は神様の祝福を受けた正式な婚姻を結んだとことになります。
まぁ、一人前になるまでは職校寮で別居の約束だけどね。
まぁ、よかった、よかった。
新しい教会の最初の行事が半世紀ぶりに社を魔族から解放した若き英雄とそれを支える美少女の婚姻だなんて。
あまりにもドラスティックでロマンチックね。
門前町の劇場で今年一番の出し物になるわね。」