11話目 とあるルーティーン
俺たちは教会本山に戻ってきた。
本来であれば中隊長の許可が必要と考えられるが、緊急の場合ですぐに中隊長の指示を得れない場合は小隊長が判断することは当然ことと俺は考えた。
新しく人類のものとなった、たぶん前の大防衛戦前は人類のものであった教会の転移魔方陣は魔力溜16基の中型であった。
俺とエリナは転移魔方陣施設の職員への挨拶もそこそこに魔力溜施設に急ぎ駆けつけた。
魔力溜施設の受付に行くと例にお姉さんが受付に居た。
エリナが背中の毛を逆立てて威嚇するにゃんこのようになっている。
「あら、シュウ君いらっしゃい。どうしたの第2軍団の戦闘地域に演習に行っていると聞いたけど。
わかった、そこの胸ペタに飽きて私に会いに来てくれたのよね。
固い土の上で寝る野営はきついものね。
私の弾力のある胸の中で眠りたかったのね。
どうぞ、どうぞ、そこの会議室で私の胸の感触を確かめながらお昼寝していいわよ。
胸ペタじゃ、固くて休まらなかったんでしょ。ふふん。べぇーだ。」
「ふーっ、ふーっ。何でこいつがここにいるのよ、まったく。
無駄に胸が大きいだけに血液が頭に行かずに胸だけが成長したアホのねぇちゃんが何を言ってもシュウはなびきませんからねぇーっ。べっべっべぇーだ。」
「ふんっ、胸自慢で結構。
胸でシュウ君を癒せないつるぺたにゃんこよりもましですよーん。ぷぷぷっ。」
「悔しーぃ。ふーっ、ふーっ。」
「あのう。芦高さんが待っているんで早く用事を済ませて戻らないとね、ね。
今度の休みに二人で心行くまで、適正な胸の大きさについて論じてもらってもいいので。
俺はもちろんその横で一日中大剣を振って、その上、何であっても話の全てに自動人形のように首を縦に振るからさぁ。
今日のところは丸く収めましょうよ。」
「「シュウ、バカなの。私だけの言い分にすべて首を縦に振りなさい。返事は? 」」
「ひぇぇぇぇぇっ。イエス、マム。
じゃなくて、まじで時間がないよ。
お姉さん、きりっ、聞いてほしい。
俺の願いを君に。」
「いやーん。シュウ君。大人の私をこんな大勢の前で口説こうなんて。お・ま・せ・さん。
でも、いつでも式を挙げる準備はできているわよ。
何なら、これから礼拝堂に行こうか。」
「ふーっ、ふーっ。脳がおっぱいさん。あっちで雄牛とでも戯れていな。
胸だけで雄牛を誘惑出来て良かったですねぇ。
アホねえちゃんの結婚相手は牛でももったいないと思いまーすぅ。」
「くくーっ。言わせておけばつるぺため。
あんたのお相手なんかペンギンで十分ですぅぅぅぅ。
胸に何の突起もないところがお似合いですぅぅぅぅ。
つるぺたが標準で良かったですねぇぇぇぇ。」
その時、救世主現る。魔力溜施設長だ。
「この二人はほっといて、何かあったんですか。
演習といえども戦闘地帯から急遽帰還して、この施設に来るなんて。
ちょっと変ですよ、気になります。」
「実は今日魔族の一個師団に襲われて、逆に壊滅させたんです。
その後にその魔族の師団の駐屯地を偵察に行ったら社があったので、魔族の炎を消して、ここに転移できるようにしたんです。
その社を人類の転移魔方陣にするために祠をここに受け取りに転移してきたわけなんです。
そして今、胸の大きさの話で止まっちゃったわけですね。
これがまったく。ぽよーんだ。」
そして俺は魔力溜施設長の本気で怒鳴る声を聴いた。
人が心底怒ると髪が逆立つのを初めて目撃した。
「ビオラ、すぐやめろ、もう一切話をするな。
黙って、裏の倉庫の祠を持って来い。
今すぐにだ。
この意味が分かるな。
この日をお前はどれだけ待ちわびたんだ。
早くしろ。」
この施設長の突然の怒鳴り声に当事者の俺たちだけでなく、その場にいたすべて者が目を白黒させていたのを覚えている。
「ビオラ、グズグスするな。
お前の血液は脳に行っていないのか。早く祠を持って来い。
お前の一族の悲願が今達成されるところなんだぞ。
早くしろ。
ぼけ、早く倉庫に行け。」
余りの施設長の剣幕に,お姉さんはびっくりして出た涙を拭きもせずに無言で裏の方に走って行った。
言い争っていた、エリナも目を白黒させ、口をアワアワさせて、その場に立ちすくんでいる。
「ありがとうございます。施設長。
しかし、あそこまでお姉さんに罵声を浴びせた理由を聞いても良いでしょうか。」
「シュウ君、エリナさん、驚かせて申し訳ない。
今日がビオラの、その一族の悲願が達成されようというのに、一番達成を望んでいたはずのビオラがその邪魔をするのが許せなかったんですよ。」
涙の痕で目を少し腫らしながらお姉さんは石の祠を持って戻って来た。
風魔法が掛かっているのか、お姉さんでも軽々と持ち上げていた。
しかし、その顔は満面の笑顔だった。
先ほどのエリナとの食えない諍いを知らなければその笑顔を見た男は全員瞬時にお姉さんに落とされてしまいそうなほどの笑顔だった。
お姉さんは、いやビオラさんは祠を大事そうに置いた。
そして、思いがけないお姉さんの行動。
俺とエリナのところに跳んできて、2人まとめて抱きしめたのだ。
「シュウ君、エリナさん、ありがとう。ありがとう。あり・・・・」
笑顔から大粒の涙があふれていた。
意外と力が強いビオラさんの全力の抱擁は胸でさらに締め付けを増し、噂の通り窒息死しそうでした。
ギブ、ギブ
まあ、一番驚いたのはエリナだろうけど。
天敵胸でかお姉さんからお礼と熱い抱擁 + 胸の大きさの違いを思い知らされたのだから。
「あのう、苦しいです。胸の締め付けで死にそうです。」
「あっ、ごめんなさいね。ついうれしくって・・・・・。
ちなみにどう? 私の胸の感触。」
「おっきいし、弾力が違うわ。悔しい。」
「この胸がいつでもシュウ君を待っていますって言っているわ。」
ビオラさんの胸は別の生き物だったのか。
道理で、異様におっきいはずだ。きっと、脂肪を蓄える魔物が住んでいるに違いない。
「ところで、急にどうたんですか、ビオラさん。
俺にならまだしも、エリナにまで抱き付いてお礼を言うなんて。
混乱してますよ。エリナが。」
「あら、初めてシュウ君が私の名前を呼んでくれたの、さん付けはいらないわ、ビオラって呼んでね、あ・な・た。」
隣で般若様生成中。
また、この施設に入った場面に戻るルーティーンだなこりゃ。
「なんてね。今日だけはシュウ君をエリナさんに譲るわ。
私がシュウ君のついでに、あくまでもついでよ、エリナさんにも感謝していることは事実だし。
大事なことだからもう一回言うわね。今日だけからね、シュウ君を貸してあげるのは。」
ビオラさんの俺の扱いがどこかで変更されている気がすんですが・・・・・。
「私の祖父は建築家でね、あの戦勝記念会館の建立を計画し、設計し、実際に工事の指揮も行ったの。
立派な建物なんだけど、あれが建ってから今日まで魔族との戦いで1回も領土の奪回ができていないの。
それを戦勝記念だなんて・・・・。
皆に影で笑われたわ。」
「その上、例の大防衛戦の大敗北。
人類の存在そのものが危ういところまで追い込まれてきているわ。
なんで、現状引き分けですら難しいのに戦に勝つなんて言っているんだと、将来を悲観した心のすさんだ人々が言い始めたの。
あれがあるから勝てないんだ。
勝ってもいないのに戦勝記念なんて先走って作るからだという人がいたわ。
口には出さないけどそう思っている人はかなりいるはずよ。」
「祖父はそんな人々の蔑みの中で、絶望のうちに亡くなったわ。
人類の明るい未来を期待して建てたあれに絶望して。
それからなの、私たち一族が建物を本当の意味で使われる日を待ち望むようになったのは。」
「あるものは軍に入り、あるものは教会の運営スタッフとして、そして私はここで働きながら将来魔族を蹴散らすほどの魔力を持つ方を待つことにしたわ。
その人が魔族と戦うときに少しでも力になれるように。
そうしてようやく見つかった。シュウ君、あなたを見つけたの。
いつか魔族との戦いで力が出せるように、力が付くようなお弁当も作ったわ。
まだ、食べてもらえてないけどね。」
「それが私が知らないうちに、私の、私の一族の悲願を達成してくれていたなんて。
ありがとう、シュウ君、ついでのエリナさんも。」
なんかすごい感謝しているのか、エリナをけん制しているだけなのか、わからなくなったぞ。
「じゃぁ、ビオラさんの願いもかなったし、もう私だけのシュウに、一切、絶対、二度とちょっかいをださないでね。わかった? 」
「いいわよ。」
えっ、あっさりしているなぁ。
まぁ、あの胸はちょっと惜しい気もするがエリナが落ち着いてくれるであれば問題なし。
「今日は貸してあげるわ。ちゃんと傷物にしないで返してね。
借りたものは元の状態に戻して返すのが賃貸アパートの常識よ。」
「ビオラさん、シュウのこと諦めたんじゃないの。戦勝記念会館の名誉も守られたし。」
「次の私と私の一族の願いは常勝記念会館と改名することよ。
シュウ君、よろしくお願いね。一族上げて応援するからね。
婿に来るときは何にもいらないからね。
着替えもいらないからね。
何なら裸で来てね。そのまま、夜の・・・・、キャーッ恥ずかしい。」
俺たちがこの施設に入ってから全く事態が進んていないのは何故なんだ。