10話目 死線を超えて
俺たちが戦いの跡を眺めながら、中隊長からの連絡を待った。
エリナの位置を中隊長は把握していないため、まずはエリナと通信ができる方角と距離を探索している途中ではないかとエリナは言っていた。
風魔法の通信は話す側の魔力が高いほど遠く、且つ、広範囲に話を伝えることが可能になる。
よって、俺という魔力タンクを持つエリナは広範囲での話を伝えることが可能であるが、死神中隊長はまずはエリナの大体の位置を把握してからかなりピンポイントに通信を送らないとエリナに届かないのである。
「あっ、中隊長の通信が来ました。会話が可能となりました。
ふむ。
全員ケガもなく無事です。
ふむ、ふむ。
魔力を大分消費しましたが、それこそまた1個師団との戦闘でもない限り、通常の小隊レベルの作戦行動に支障はありません。
ふむ。ふむ。ふむ。
了解しました。昼食の後に偵察に向かいます。」
「シュウ小隊長、中隊長からの伝言です。
まずはケガもなく、全員無事ということで安心した。
1個小隊で12魔将直属の1個師団の完全撃破について称賛する。
円満引退まで将官級があと3体だ、もっと頑張れ、エリナを抱きしめろ。
第1小隊はすぐキャンプ地に引き返す。
第2小隊にも戻るように連絡を試みているところだ。
第3小隊は昼食休憩後に敵師団の進軍経路を逆にたどれ。
何故12魔将が配置されるほど重要であるかを探れ。
ただし、17:00にはベースキャンプ地に戻れ。
以上です。」
一文、本当に中隊長の指示かあやしいところがあったぞ。
エリナ、混ぜたろ絶対。
「ぴゅき」
芦高さんもそう思うのか?
「さっ、中隊長の指示を早速実行しましょうね。さっ、早く。」
エリナが顔を赤くして、もじもじしている。
俺と芦高さんがジト目で、エリナを見る。
エリナは芦高さんの複眼ジト目攻撃に耐えきれなかったようだ。
斜め右45度を見上げながら、
「シュウ、とりあえず休憩にしましょう。
はい、携帯飯とお茶。
この面子だとお湯をすぐに沸かせないのが残念だわ。」
「とりあえず、そこに座って、食べよう。」
「芦高さんは見張り番をお願いね。」
「きゅぴ」
無事に中隊長の"真"の命令の一つを実行した。
自分たちのたどった死線を眺めての食事はあまり気持ちの良いものではなかった。
そそくさと携帯食である奇妙な味のビスケットをお茶で流し込むと俺たちは出発することにした。
広大な戦闘の跡地は半径1km以上にもなっていた。
これが俺の魔力の1/3を使って広げられる雷属性フィールドの範囲か。
魔力の枯渇するまで注げは半径2kmは行けそうかな。
敵が散開した場合を考えると、もう少し広い範囲が欲しいところだな。
実際は枯渇するまで魔力を属性フィールドだけに使うわけにもいかないし。
俺たちは周りを警戒しながらベースキャンプから見て左側をエリナの検知を使いながら進んだ。
魔族の進軍コースは大群が通った後ということで、下草が自然と踏みしめられていた。
敵はいないし、その跡をたどって行くだけなのでどんどん偵察行軍が進んだ。
1時間ほど移動しただろうか、エリナの検知魔法に何か引っかかったようだ。
「何かしら、魔物が20体、これは熊系の魔物ね。
それと魔法陣。
そうだわ。これは転移魔法陣ね、しかも魔族用だわ。
大発見よ。シュウ。
とりあえず、魔物を倒しましょうよ。」
そういって、俺のロングソードにスピードアップ、氷属性フィールドとアイスアローを転写してきた。
それではご指名により熊狩りに行ってきます。
近づいて、氷魔法フィールドを発動。
どんどんフィールドに魔力を注ぐ。
熊の氷柱が出来上がりました。
それと同時に近くにあった何かの建物のてっぺんに灯っていた炎も消し飛んだ。
一息入れているとエリナと芦高さんがやって来た。
「無事ね、シュウ。良かったわ。
じゃ、次はお社の屋根にある炎を消して、あっ、もう消えているわね。
さすが旦那様、やることが速くて無駄がないわね。」
「この炎を消さなきゃいけないの? 」
「あっ、シュウは知らなかったんだ。
それでもまず一番にやらなければならないことを無意識でやってしまうなんて。
さすがは私の旦那様です。
あらゆる行いがすべて良い方向に向かうなんて、伝説のヒーロー体質です。
こんなかっこいい殿方が私の旦那様なんて、ポッ。
もう、かっこ良すぎ。」
「シュウ、わかったからこの壊れた自動人形を止めてやれよ。明日の朝までやっているぞ。こいつ。」
「もううるさいわね。いいじゃないですか。
奥様が旦那様のすばらしさを皆にお伝えしようとしているところです。素敵です。」
「皆って、芦高と熊の氷柱か? 」
「それと、あなたと私と吹雪様と鞘氏です。」
「俺も聞かなきゃいけないのか。」
「そうですよ。」
「もう、泣いていいか。」
「エリナ、お取込み中に悪いんだが、この建物は何なんだ? 」
「はっ、何かに取り付かれていたみたいだわ。
きっとシュウの魅力に浸っていたんだわ。
ずっとこのままでもよかったけど。ちっ。」
エリナやばい。変な病気に罹ったよ。
「このお社はね、魔族の転移魔法陣を守っているところなの。
ここと魔界を繋ぐのね。
魔族転移魔法陣を作動させるにはお社の上に魔族の炎と言わるものを燃やしておく必要があると言われているわ。
人類がこのお社を発見したら、魔族が転移してこないようにまずあの炎を水属性の魔法で消す必要があるわ。
シュウは熊を倒すために氷属性フィールドを発動したわよね。
そのフィールド内にあの炎が入ったので消えちゃったのね。
これで一安心だわ。
次はさっき魔将を倒して手に入れた緑色の魔石をあの炎が灯っていた場所に置いてくれるかな。」
俺は手に入れた緑色の魔石を屋根の炎が燃えていた場所に置いた。
そうするとばっと魔石が消えて、社全体が淡く一瞬光って消えた。
「これで、この転移魔法陣は魔界と教会本山どっらにも行ける状態になったわ。」
「えっ、そうなの。」
「シュウはこのことを職校の講義でまだ教えられていないのかしら。」
「聞いてないよ。でっ、次はどうするの? 」
「えっと、確か教会本山の転移魔法陣施設にもどり、魔力溜施設に保管してある祠をこの社の中にある祭壇に飾るはず。」
「飾るとどうなるの?」
「ここの魔法陣が教会本山とだけつながるようになるわけ。
つまり、これで各教会にある転移魔法陣と同じ機能になるわけね。
そして、転移魔法陣を持つ教会を設立したということは、ここが人類の領土になったということなの。
魔族より領土を奪還したのは、シュウ、なんと半世紀ぶりのはずだわ。
やったわね。シュウ、
さすが私の旦那様。
凄くかっこいい。」
" 以下、さっきのループを3回 "
「ちなみに魔族専用の転移魔法陣に戻すにはどうするの。」
" ループをぶった切る "
「人類の領土が狭くなることなのであまり口にしたくないけど、まぁいいわ。
教会本山から持ってきた祭壇にある祠を粉々にすることで、この転移魔法陣が魔界と教会本山のどっらにも行ける状態にするの。
そして、炎属性の魔族の幹部がきっきみたいにこの社の屋根の天辺に魔族の炎を灯すの。
そうすることでこの魔法陣は魔界専用の転移魔法陣となるわ。」
「もう一つ教えて、この社の天辺にある魔族の炎を消した後、緑色の魔石を置いたよね。
その緑色の魔石はどんな魔族を倒したら手に入るのかな。」
「将官級或いは炎属性の佐官級の魔族を倒すと手に入るそうよ。あまりいないみたいだけど。」
「なるほど、さっき倒した12魔将の魔族は将官級だから緑の魔石だったんだ。」
「まずは、ここの祭壇に祠おかなきゃね。転移魔法陣で教会本山に転移して、あれ、魔力溜あるのかな。」
「向こうにいっぱい転がっているわよ。魔族も魔力溜に魔力をためて転移するのかしら。」
「それじゃ、魔力溜に魔力を注いで急いで教会本山に行こう。」
「でもここは今はどちらの領土でもないわ。一瞬でも祠を空するのは不安があるわ。」
「しょうがない、芦高さん、留守番してくれないかな。
エリナに雷属性と氷属性魔法を転写してもらって。どうかなあ? 」
「きゅぴぴぴ。ぴぴぴきゅ。」
「任せろだってさ。でも急いで帰って来てね。だって。」通訳さん
「芦高さんが大丈夫だって言っているような気がするわ。
すぐ帰ってくるので、待っててね。
危なくなったら逃げてもいいからね。」
芦高さんに留守を任せて、俺とエリナは教会本山の転移魔法陣施設に急いで転移した。