3話目 遭遇
休憩ももうすぐ終わりそうだ。
俺とエリナ(復活済み)、芦高さんはのんびり出立の合図を待っていた。
死神さんと特攻隊長、案内役チームのリーダは何か額を寄せて話っていた。
これからの進路を検討中なのであろう。
3人の話し合いが終わり、休憩している中隊メンバーの方に帰って来た。
「休憩を終了します。全員集合して。」
皆、荷物を持って死神さんのところに集合した。
「ここからは3時間ほど前進すると最前線地帯に着きます。我々はここから2時間ほど移動して、そこにベースキャンプを設置します。
そして、現在最も激しい戦闘中の地域を避けて、その脇で演習を行いたいと思います。
それでは移動を開始します。」
俺たち中隊は午前中と同じ隊形で移動を開始した。
俺たちを含め職校チームの全員が戦闘地帯の最前線を移動するのは初めてで、また緊張感が高まって来た。
ここではこのくらいの緊張感がないとまずいとは思う。
探索の頻度を上げているため、移動速度は午前中の3/4ぐらいに落ちてしまった。
回りの風景はさほど変わらないが、魔法を発動し、周りに影響を与えた跡が比較的新しいものになってきた。
他の生き物、例えば鳥などはほとんど確認できず、ただ風で揺れる木や下草同士のぶつかる音だけが行軍の友となっていた。
午後の移動も特に魔族や魔物には遭遇せず、予定通り2時間でベースキャンプ候補地に到着した。
「それでは、ここを我々のベースキャンプとします。
第3小隊が警戒をはじめに担当してね。
芦高ちゃんは私とベースキャンプの壁を土魔法で作りましょう。
他の隊員は荷物整理、土魔法術士は協力して男女の簡易住居を作ってくださいね。」
俺とエリナは警戒に、他の隊員はあらかじめ決めていたベースキャンプでの雑務をこなし始めた。
死神さんは芦高さんに土魔法を転写し、芦高さんの高魔力を利用して一気に防御壁を作ってしまった。
芦高さん今日は荷物運びといい、大活躍ですね。
「静かね、ここって。
生きるものを拒絶するような静けさだわ。
死に一番近い場所。」
エリナが、検知魔法を発動させながら俺に語り掛けた。
「そういうことは口にしない方がいいよ。
不吉なことを呼び寄せてしまうかもしれないよ。」
「ごめんね。
でも、ここはなんか私には耐え難い重苦しさで一杯だわ。」
「気のせいだよ。この静けさが心を冷やしてそんな風に感じるのかもしれないね。
でも、俺と一緒だから。俺はちゃんと生きているから大丈夫。」
「ふふふっ、そうだわね。
あなたは生きている。私も生きている。中隊の仲間も生きている。
ここのベースキャンプは生で満たされている。
さぁっ、私たちの生の楽園を守りましょうね。」
「よし、一緒に警戒を続けよう。
俺たちの生の楽園を守るために.」
それから、警戒を続けてしばらくするとおばちゃんが冷たくなり、俺を引っ張った。
「シュウよ、向こうからなんか来るようじゃのう。
それも大勢だ。魔族もおるのう。」
いよいよ来たか。
「エリナ、あっちの方向を指向性探索魔法で見てくれないか。
なんか嫌な予感がする.」
俺はおばちゃんが指示した方向を指さし、エリナに確認をお願いした。
「わかったわ。シュウの感は良く当たるものね。
危険じゃないと良いけど.」
すまん、エリナ。
俺の感の力じゃなく、おばちゃんパワーなんだ。
「あっ、俺も感じるぜ、シュウ。
準備しな。今、芦高も呼ぶぜ。」
「かなりの数ですわ。
ご主人様、奥様を守ってくださいまし。」
「あっ、魔物と魔族を多数発見
私の探索に気が付き、こちらに向かい始めました。
シュウ、皆に知らせなきゃ。」
「俺が叫ぶよ。
エリナは敵の正確な情報の収集を頼む。」
「了解。」
俺は後方の作業をしている中隊に向かって叫んだ。
「こちらの方向から、敵多数接近中。
エリナが情報を収集中。」
もう一度、同じ叫びを繰り返したところで、エリナからの追加情報が伝えられた。
「敵、魔族約20体で2個大隊と思われます。
付随する魔物は多数で100以上はいます。
おそらく、後10分でここに到達します。」
俺がこの追加情報を叫んだと同時に死神さんが現れた。
「どっちの方角から来る? 」
「向こうです。」と魔族が接近する方を指さす。
「戦闘準備。
準備が整ったらここにチーム毎に集合。」と死神さんも後方に叫ぶ.
俺とエリナは警戒任務に当たって、戦闘準備は既に整えてある。
「隊形はわかるか、横長とかおおざっぱでいい。」
「はい。大体、三角形が2個並んでこちらの方に底辺を向けた格好です。」
「こちらの方に角を向けていないんだな。」
「はい,こちらの方に人数を割いて、遠い方が人数が少ないです。」
「わかった。
ということは、無理にこちらの陣を侵襲するつもりがなく、まずは遠距離魔法で様子見か。
或いは単なる偵察か。」
「よし、作戦を伝える。
時間がないので繰り返さない。
我が旅団は、敵の殲滅を目標とする。」
「第3小隊は敵右1個大隊を殲滅させろ。できるだけ一気にだ。
殲滅後は左の大隊に向けて、雷属性フィールドを展開し、闇属性フィールドを封印しろ。
この後は無理に戦闘をせずに、他のチームの援助と芦高ちゃんのオーク4体の確保を目指せ.」
一呼吸おいて。
「第1小隊は左に出て、水及び風の属性フィールドを展開し、敵の闇属性フィールドの規模を確認。
これを優先的に排除する。」
「第2小隊はまずはここで職校2チームと待機。
敵左大隊の闇属性フィールドの消滅を確認後、前進。
職校チームは一番近い魔族に向かって、ファイヤーボールを発射し、即時撤退。
第2小隊は職校チームの補助と保護を今回の任務とする。」
「案内役は申し訳ないがここで待機。
もし戦況が不利なら最前線基地への帰還を優先してくれ。
情報を持ち帰ってくれ。」
「さぁ、狩の始まりだ。」
「シュウ隊長、戦闘プランの指示を。」
あっ、俺が小隊長だった。
「まずは芦高と俺に雷属性フィールドを転写。
俺が攻撃。
エリナと芦高さんが支援と打ち漏らした敵の殲滅を頼む。
敵が目視できるところまでは全員でそろって移動。
見えた時点で一旦停止し、そこから俺が打って出る。
2人はその場から支援だ。」
「攻撃はサンダーランスとサンダーアローを、防御はウォターシールドとエアシールドで行く。
補助として、スピードアップを頼む。」
「足りない場合はいったん引き返す。
支援班が攻撃に出るときは同じようなプランで、支援方法はエリナに任す。
芦高さんは右の大隊を殲滅するまではエリナの命令で動いてくれ。」
「では、転写魔法をもらったから、打って出る。
よし、第3小隊前進。」
俺はに入隊祝いにもらったロングソードと盾を装備し、おばちゃんを背負った。
エリナはいつもの弓を装備。
芦高さんはエリナに作ってもらった小さな宝石をはめ込んだリストバンドをその8本の足に着けていた。
俺たち第3小隊はスピードアップの補助で使って魔族が目視できるところまで近づいた。
丁度、ベースキャンプと魔族の中間地点になる。
「さっ、行くぞ。」